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第二話「目覚める男、始まりの刻」

すいません。執筆が全然進んでません。


 暗い。

 何が見えているのかわからない。

 いや、何も見えていないのか。

 そうかもしれない。

 暗い。

 暗い。

 暗い。

「――問う。生きたいか?」

 生きたいか? あぁそうか。俺はあの時体を切り裂かれて……。

「――問う。生きたいか?」

 逆に生きたいかって聞かれて生きたくないって答える奴の方が少ないと思うけどな。

 あぁ、生きたいよ。

「――そのせいで、自分が普通とは違う存在になってしまってもか?」

 普通とは違う存在。そう言われて頭に浮かぶのは、俺を殺したあの女の姿。

 正直あの女は、狂気に落ちたような表情をしていた。

 普通って結局どう言う定義なわけ? 周りがそう言っているからそれが普通。周りがそうだから普通って言うけど、そいつにとって関係ない奴らが沢山いれば、ある意味そいつが普通じゃない判定受けるじゃん。だから俺は普通とか普通じゃないとか気にしないよ。

「――なら、力は欲しいか?」

 力。まぁ守る為に欲しいかな。俺ってさ、身体能力高いとかって言われてるけど、元々はそうでもなかったんだよ。ただ必死にお父さんの言っていた、誰かを救える様な人になりたいから、無我夢中で頑張ってたら上がっただし。

 だから、守る為に使える力ならいくつでも来て欲しいくらいかな。

「――不思議な男だな。自分の為に使う欲はないのか?」

 俺は夜空に対してセクハラしてるし、寝れば全然起きないし、食べる量も普通の人よりは多いよ。そう言う三大欲求に忠実だからこそ、俺は自分が他人の為に尽くすことができると思ってる。

「――ますます不思議な男だな。どうしてそこまで誰かを守ろうとする?」

 約束したからだろうな。俺が、お父さんと。お父さんと約束したそのたった一つの思いが、俺をここまで守ることに忠実にさせてくれてるんじゃねぇの?

「――約束か。それだけでここまで強くなれる人物を見たのは久しぶりだ。ならば力を手に入れるがいい。我が名は雷神帝アルク。貴様に力を与える者の名前だ」

 雷神帝? ってことは神様だったのあんた!?

「――そこにすら気づいていないとは、これが噂に聞く馬鹿と言う生物か」

 馬鹿って言う方が馬鹿なんですー。

「――ふ、ふははははは! 初めてだ、貴様の様な人物は。神に対して馬鹿……笑いが止まらんわ!」

 大爆笑し始めちゃったよこの神様。老人っぽいんだから死ぬなよ?

「――死なぬよ。お前が死なない限りは完全に無敵だ」

 その言葉と共に、俺の意識は白く染まっていた。




 私が気づいた時、時は既に遅かった。

 双也と部長会に出てから、私は途中で抜け出してきた。

 気づいた敵の匂い。私達の敵である、奴らの匂い。

 それを追いかけていって目にしたものは、切り裂かれる巡とそれを愉悦の瞳で見つめる女の姿だった。

「巡ッ!」

「あら、遅かったわね」

 女が言ったことに対して、私は怒りで何も見えなくなりそうになる。

 この女が巡を殺した――ッ!

「初めまして、暁美夜空さん。私は……まぁ名乗らなくてもいいかしら?」

 私はその声を聞きながらも、自分の両腕に力が篭るのを感じた。

「ディビク……」

「ご名答。この子は貴方の知り合い? 中々才能があった子ね。まさか私もここまで逃げられるとは思ってなかったし。それに私が学校を襲う可能性があると考えたのね。学校とは反対の方向に逃げて、更に貴方を死の危険があっても売らなかった。こうなる前だったら惚れていたわね」

「あんたぁ……!」

 私は両腕が炎に纏われるのを感じた。

 最早我慢することはできない。本気で目の前にいるこの女を、殺す。

 相手を見据えて一気に、加速する。その速さは人の目に追えるものじゃないけど、あいにく相手も人じゃない。それを悠々と回避した女は、鉤爪となっているその腕を振り上げた。

「ちっ」

 炎を集めて盾を作ると、その一撃を防ぐ。そしてそのまま後ろに下がり、再び炎を両腕に纏う。ここまで実力が高い相手は、初めてだ。

「右腕だけじゃないわよ?」

 左腕まで変形し、私に襲いかかってくる。

 右、左、また右。

 連撃を炎の拳で弾きながらも、次第に私は押されていく。

 私の攻撃は広範囲にわたるものが多い。今ここで使ってしまえば、巡の体を焼いてしまう。

 もう死んでしまっていると、手遅れだと知っているけれどそれでも焼きたくない。

「もしかして貴方、この死体を傷つけたくないって思っているのかしら?」

「だったらなんだって言うの? 私の勝手でしょ」

「えぇ勝手。勝手以外の何者でもないわ、だからあえて言わせてもらうけれど、貴方筋金入りの馬鹿ね。こんな状況でそれが可能だと思っているの?」

 私は領域を使えない。領域と言うのは、私達の様な存在が戦える様にする為に自分達が持っている場所なのだけど、それを使えるのは一部の奴だけ。そこに私は含まれていない。

「貴方は領域も使えないようだし、もう十分でしょうね」

 来る。そう思った時、女の背中から翼が生え始めた。

 ゴキゴキと骨格が変化する音が響き渡り、女の姿が気持ち悪い様に変化していく。

 これが力に溺れた者の末路。力を求めすぎて、自らの魂まで売ってしまった人物の結末。

「はぁ……。あまりこの姿。好きじゃないのよ。だって醜いじゃない?」

 目の前で呟かれた声を聞いて、私は驚きながらも後ろに下がった。

 いつの間に私の目の前まで移動したの? 

 どうやって移動したの?

 疑問は尽きないが、今はそれを考えている暇はない。何故なら移動したと言うことは、攻撃すると言うことなのだから。

「貴方はどんな肉塊になるのかしら?」

 炎で強化されている腕に爪が直撃する。

 いくら強化されていると言っても、それは身体能力の延長線上に過ぎない。

 あの爪の威力ならば、腕は容易く切断されてしまうだろう。ううん。

 そのはずだった。

「何で、切れないの!?」

「炎の盾を小さく展開したの。爪が直撃する箇所に合わせてね」

 もし巡の特徴があの優れたバランス感覚だとすれば、私の特徴はその動体視力にある。

 単純な動きなら、どこら辺に当たりそうなのかくらい理解できる。

「まさかそんな芸当を行えるなんて、暁美夜空は本当によくわからないわ。だけど、その程度で私が敗北を認めるとでも思っていたの?」

 直後、爆発的な加速力で女が近づいてくる。流石にまずいかも知れない。

 私の攻撃で使えるのは強化とかそこら辺だけ。

 だから相手はその外見上最も得意だと思われる接近戦を行うことが出来る。

「死になさい」

 再び放たれた一撃をまた炎の盾で防ぐ。だけど切れ味は消せても、威力を消すことはできない。

「くぅ……!」

 大きく吹き飛ばされた体が、近くの茂みに倒れこむ。

「そろそろ諦めなさい。貴方では私には勝てない。それは簡単に分かることでしょう? 貴方は自分の思い通りに戦うことができない。それに比べて私は最も得意とする近接戦闘を行うことができる。力の差があったとしても、それを埋める程のメリットが私に、デメリットが貴方にあるわ」

 あの女の言う通り。私はこのままだと永遠に不利な状況で戦わないといけない。それで勝てるほど、相手も甘くはないはずだ。それに頭もいい。

 巡の遺体を攻撃できないことを、上手く利用している。それに触れないことで私がその思いを持ち続けなければならないことも、遺体がある限り逃げられないことも多分わかってやってる。

「さぁ、どうするのかしら?」

 再びの接近。それに対して私は、防御の構えを取る。

 激突と同時に炎の盾で防ぐことに成功するが、ダメージは増えるばかりだ。

 双也が来るのを期待したいけど、今すぐ終わるくらい短い会議なわけがない。

「結構、やばい状態かも……」

「今頃気づいたの? 貴方相当馬鹿ね」

 あからさまな挑発に対して、私は清々しい顔をしてスルーする。本物の馬鹿は巡の様な奴のことを言うんだから。でもその巡を殺したのは、目の前のこいつだ。

「炎の強化、その真骨頂を見れないのは残念だけれど、そろそろ死になさい」

 女が後ろに下がる。そして両腕を振りかぶると、地面に下ろした。

「ヴェノム・ルピター」

 爪の先が鞭の様に伸び、私に向かってくる。それを見て私はまずいと、今までの自分の愚かさを自覚した。

 いつからあの爪が女の能力だと言ったのか。

「本来の能力は伸びる爪――」

「気づくのが遅いわね。捕まえた」

 近接が得意だというのはフェイク。確かに得意かもしれないけれど、それ以上に近接戦闘と言う状況に持ち込んで来ると私に錯覚させる為の罠。

 今まで爪で近接戦闘しかしてこなかったのは、近接戦闘に私を繋ぎ止める為。同時に私がその爪での攻撃手段が、近接戦闘のみだと思わせる為。

 この女、今まで戦ってきた奴等の中で一番強い……!

 三本の爪で体を拘束された私は、女を睨みつける。それに対し、女は笑うだけだった。

「いい顔ね。いつもはここで周りの男に犯させるのが趣味なのだけど、それをしていられる程長く拘束するのは難しそうだから。すぐに殺させてもらうわよ」

「悪趣味な女。そんなことをしてるから、力に溺れて落ちるのよ」

「ほざきなさい。そんな力に溺れて落ちた私に、貴方は敗北したのだから」

 力を込めるが拘束が破壊できる感覚はまるでない。これは本当にまずいかも知れない。

 更に炎を発動させようとしたけど、炎はまるで発動できない。能力まで封じられるみたい。

 ただあいつの言うとおりなら、長く拘束するのは難しいらしい。なら勝機はそこにしかない。

「勝機は拘束が長く続かない今だと思っているだろうけど、私もそこまで甘くないわよ?」

 読まれていた。そう思った時、私に向けて二本の爪が構えられていた。

 ぞっと、背中に冷や汗が流れるのを感じた。

「死になさい。ヴェノム・サーペント」

 爪が真っ直ぐと伸びていき、私の心臓へと一直線に飛んでくる。

 死ぬ――。

 あんな思いはもう嫌だ。そう思った時、私の目に閃光が映った。




 危なかった。

 目が覚めたら夜空があの女とハードなプレイを行っていて、その爪の先が夜空に向けられていたのだから驚きだ。だったら俺はさっさとそれを助けないといけない。

 そう思って動き出したのは良かったけれど、間に合うかわからなかった。

 いつも以上に動けたことによって、それは簡単に出来たけれど。

「とは言ったものの、この爪なんか気持ちわるいな」

 掴んでいた爪を折ると、そこら辺に捨てる。そして俺はにやりと笑った。

「お久しぶりだな、ババァ」

「……まさか、代理天魔戦争に参加してくるとはね。侮っていたわ」

 女が言ってきた。てか、代理天魔戦争って何? 厨二病の集まり……って聞きたいんだけど、あの右腕とか見る限りに本当にそんな天魔って言うのがいるんだろうな。

「巡、なの?」

「おう! 夜空の家に住んでいる天丘巡こと、巡だぜ?」

 ニヒヒと笑うと、夜空はポロポロと涙を流し始めた。

「よかった……、よかったよぉ……」

 泣き出した夜空の頭を撫でてから、俺はあの女を睨みつける。

「良くも夜空を泣かしてくれたな?」

「貴方のせいでしょ? 蘇ったりするから」

「蘇った原因をつくったのはお前じゃん! 俺にも何がなんだかよくわからないんだ。でもまずは、お前をぶっ飛ばす」

 俺は拳を構えると、女を睨みつける。こいつは許さねぇ。

「可愛くない子ね。なら私はもう一度、貴方を殺させてもらうわ!」

 近づいてきた女の攻撃を、俺はバックステップで躱しながら顔面を右足で蹴り上げる。

「ごふっ!?」

「あー、流石に女の顔を蹴るのは抵抗があるわー」

 そんな棒読みをしながら、回し蹴りで女の体を横に蹴り飛ばす。

 なんかいつも以上に体が軽いし、五感も冴えてる気がする。

 これなら行ける!

 女が爪を伸ばして攻撃してくる。それを見切ることはできないけれど、全部避ければいいだけ。

「よいしょっ!」

 近くの木に向けて走ると、木を蹴って斜め上に跳ぶ。そして踵落としを飛んで来た爪に決め、更に二本の爪を折ることに成功した。これで残りは六本だ。

「……まさか爪をここまで破壊されるとは思わなかったわ。だけどここまで」

 うわ、爪がまた生えてきたよ。正直ここまで来るとキモイ以外の何者でもないな。

「巡、能力を使って!」

「え? 能力って何? 厨二病でも再発したの?」

 とは言うものの、生き返っている時点で俺が普通じゃないことは十二分にわかっている。

 それにあのアルクっておっさんとの話もある。能力って言うのがあっても不思議じゃない。

「まぁやってみますか」

 走り出すと、俺は女に向けてジャンプする。確かあのおっさんの名前は雷神帝だったはず。

 能力は雷系の能力ってことで間違っていないはずだ。

「行くぜ、俺の能力って奴!」

 右腕に力を込めると、右腕に輝く電気が現れた。予想通りだったな。

「喰らえババァ!」

 しかしババァは爪を伸ばして俺の攻撃の前に殺そうとする。だから俺はその一撃を、振るった。

雷撃(らいげき)

 ズドンと言う音と共に、殴った爪が一気に地面に叩きつけられて折れる。これは予想外の威力。

「嘘……。あの女を圧倒してるなんて……」

「俺の強さが証明されてる感じ? まぁそんなことには興味ねぇなッ!」

 左腕にも電気を纏い、次に飛んで来た爪を上に向けて殴り上げる。

 それだけで爪は粉々に砕け散り、たった二発で総ての爪を破壊した。

「なんなの!? どうしてこんな今生き返ったばかりの子供に、こんな強い力が宿っているの!?」

「そんなの知るかよ。俺はただ単に、お前を倒すだけだ!」

 女はそれを聞くと、忌々しそうに顔を歪める。だがすぐに顔を元に戻すと、爪を生え変えて地面に刺した。

「油断大敵って知ってる?」

 その言葉で俺は全てを理解した。夜空の方を振り向くと、未だに夜空は泣いている。

 このままだと夜空が殺される――。

「夜空ぁぁぁあああああ!」

「それが、甘いって言われる理由なのよ」

 俺が夜空に向けて走り出すと、女がそう言った。それと同時に、地面の下から爪が飛び出してきて、俺の頭を貫かんばかりの速さで近づいてくる。

炎舞(えんぶ)

 そんな俺を貫こうとしていた爪が、根こそぎ吹き飛ばされる。

 それは地面を抉る様になって傷跡となり、それが誰から放たれたかを明確にする。

「もう巡は殺させない。絶対に、殺させたりしない!」

「だ、そうだよ?」

 俺は振り返ると、両腕に電気を纏う。そして覚悟を決めてから、構えた。

「俺は誰かを守りたかった。守れる強さが欲しかった。それを手に入れた今、怖がることは何もない。一撃必殺ッ!」

 そのまま走り出すと、女に向かっていく。女は爪を俺に対して放ち続けるが、それを夜空が全て炎を飛ばして破壊する。そして遂に、俺は女の目の前に立った。

「歯を食いしばれよ。雷撃らいげき!」

 腹を左腕で殴って浮かせると、くの字の曲がるところへと変わった背中に対して全力で右ストレートを放つ。その威力はやった俺でも驚く程の威力であり、完全に女の背骨を破壊した。

 もう一生、立つことも動くことも出来ない程、粉々に破壊した。粉砕って言うのかな?

「あ、が」

 そう呻いてから女は動かなくなる。暫くすると、女の体は灰になり消えていった。

 え? 嘘。これって死んだってこと?

 でも俺はそんなに強く殴ったつもりは……あるけど、そんな人を殺せる程のちからだとは思わなかった。

 女が消えたのを見てから、もう一度自分の拳を見る。

 無我夢中だったとは言え、この拳は人を殴り殺した。それが正しいことだったとは、思わない。

「お疲れ巡。すごかったね」

「でも俺は人を……」

 その言葉に対して、夜空は少し俯く。

「人じゃ、ないよ。あの女も、私も。それに……」

 そしてその言葉に続くかのように、俺の方を見た。

「巡も」




 俺は制服からジャージに着替えると、家に帰ってきた。夜空は先に帰ったけど。

「ただいま……」

「おう、帰ってきたか。話は聴いてるぜ」

 おっさんがそう言ってきて驚いた。おっさんは元からあれを知っていたんだろうか。

「ちょっと来い。まぁ色々と話すことはあるから、荷物とかはおいてきていいぞ。切り裂かれた制服は、木沙耶に渡せばすぐに直してもらえるはずだ。料理以外は完璧だからな」

 今はネタに走っている状況なのだろうか? それともただ事実を述べただけなのだろうか?

「わかった」

 一応返事だけはしておくと、すぐに自分の部屋に戻って荷物を置いてきた。勿論通りすがりに木沙耶さんに制服は渡したけど。今見てもすごい傷だった。

 その後すぐにおっさんがいるリビングに向かうと、そこには夜空の姿もあった。

「まぁ何から話すべきか……。こうなった理由からだな」

 こうなったとは、つまり俺が死んで蘇ったことを指しているのだろうか?

「お前が生き返った理由だが、代理天魔大戦に巻き込まれたからだ。代理天魔大戦っつーのは、天使と悪魔。それに天神と魔神が引き起こした戦いが元だな。あいつらは互いに憎みあって、戦い続けていたらしい。だけどそのせいで天界と魔界の両世界が修復が難しくなる程の傷を負ってしまったらしい。だが相手は倒したい。そんな時に中立を保っていた神達が提案をした。それが代理天魔大戦だ」

「で、その代理天魔大戦って言うのはどんな仕組みなんだ?」

「簡単だ。二十歳以下十三歳以上の人生の半ばで死んでしまった子供に能力を与えて、そいつらを殺し合わせることで天使と悪魔どちらが強いか証明するってものだ。選ばれる子供達にもまぁ様々な状況はあるんだが、大体の理由は一番言うことを聞いてもらえそうな年齢だからだ」

 殺し合わせる……!? 頭が狂ってるんじゃないか、そいつらは。自分達が戦えないから、自分の力を与えた奴等同士を戦わせて殺し合わせる。そんなことをして、一体何になるって言うんだ。

「天神の力を与えられた者をディウス、天使の力を与えられた者をアルヴィ、魔神の力を与えられた者をガヴィア、悪魔の力を与えられた者をディビクと呼ぶ。前提として、悪魔と魔神は組み、天神と天使は組むって言う考えが一般的に存在しているんだがな。仲間を組むもよし、裏切るもよし。何でもアリの戦争ゲームだ。それに力を求めすぎれば、その力を与えた者に近づく。そうやって力に溺れると、姿も異形へと変わっていくんだ」

 あの女。あれも力に溺れた奴だったんだろう。哀れすぎて反吐が出てくる。

「勝敗条件は?」

「片方の殲滅。もしくは参加者の人数が十分の一になるまでだ」

「そんなにたくさんの人を殺して、何になるって言うんだよ!」

 俺の叫びに対して、おっさんも頷いた。それはまるで、自分も思っていた様な……。

「まさかおっさん、それに出たことがあるのか?」

「まぁな。これでもディウスの中でも最強のタッグとして名を馳せたくらいだ」

「もう一人は……お父さんか」

 これはなんとなく察した。お父さんはおっさんと学生時代に仲良くなったと言っていた。だとすればいつまでも仲が良かったのも、共に命をかけて戦ってきたからという意味でわかる。

「そしてお前の持っている能力。それはお前の父親の能力と同じだ。いや、劣化版って言ったほうがいいか。あいつは雷。そして俺は炎だった。夜空の能力は、俺と全く同じだけどな」

 ……待って。さっきおっさんは、二十歳以下十三歳以上の人生半ばで死んでしまった子供と言っていた。だとすれば夜空は、一回死んでいる? でも俺と会った時から夜空は事故にもあってないはずだ。だったら何で夜空は能力を使えているんだ? どうして死んでないのに……。

「夜空は、どうして能力を持ってるんだ?」

「お前ならそこに食いつくと思ったよ。夜空は確かに一回死んでいる。ただしそれは、お前が俺のところに来る前だ。夜空が死んだのは、三歳の頃だ」

 待った。だとすればここで完全に矛盾が発生している。どうして、夜空は生き返ったの?

「どうして私が生き返ったのか。それは私が話すよ。私昔すごい高熱が出て、熱が下がらなくて、発熱してから一週間後に死んだの。その感覚は今でも覚えてる。段々と苦しくなってきて、息ができなくなって、それでも苦しくて命を枯らしていることが実感できた。そして意識が失っていくのも覚えてる。その後は真っ黒になって、死んだんだってわかった。

 だけどその後、お父さんが自分の力を殆どを犠牲にしてお父さんに力を与えていた神様に頼んだの。娘を救ってくれって。お父さんにとっても苦渋の決断だった。私を生き返らせる代わりに、代理天魔大戦に私がでなければならなくなってしまうから。だから私はそこで神様にすべて説明されて、それを受け入れた。だって受け入れれば、お父さんが力を失ったのも無駄にならない。それに誰かを救うことが出来るかも知れない。人を殺すこの手で、誰かを助けられるかもしれない。たかだか三歳児の癖に、ちょっと思ったんだ。だから私は命を手に入れる為に他人の命を売った」

 これが色々ある内の一例なんだろう。親から受け継がれる力。だから特殊。

「私を狙ってくるガヴィアとかディビクは、私が特別な存在だから殺そうとするの。特別な存在っていうのは、相手にとってなんであろうと恐怖の対象以外の何者でもないから」

 夜空の話を聞いていて、なんだか寂しくなってきた。夜空が求めているものが、悲しすぎて。

 命を救う為に命を奪う。自分が生きる為に、命を無駄に散らす戦場に赴く。凄く酷い話だ。

「まぁそう言うことだ。夜空の事情はわかったか?」

「ま、まぁ。大体は」

 理解してはいるんだけど、認められるかどうかは別だ。

「なら次の説明をすっぞ。この力を持った奴等は、身体能力も常人より上がる。通常はリミッターがついているからいいんだが、リミッターを解けば半端ない。ディウスとガヴィアはリミッター付きで常人の1.3倍、リミッターを解けば2倍まで上がる。アルヴィとディビクもリミッター付きで常人の1.1倍、リミッターを解けば1.5倍まで上がる。だがアルヴィとディビクがディウスとガヴィアにかつ可能性も存在する。今回の夜空とお前を殺した女がいい例だな。だけど基本的に勝つことはできない。それは身体能力とかそういう問題じゃなく、能力に問題があるからだ」

 能力。そういえばそこら辺についての説明を聞いていなかった気がする。

「まず能力の説明からだが、能力っていうのは単純だ。悪魔、天使、天神、魔神から与えられた能力の通称。殆どの場合は自然的な能力となるが、中には精神的な能力も存在する。その幅は神の数だけ存在するんだから、まぁ難しく考えるな。能力にも種類があるってことだけを覚えておけばいい。お前は馬鹿なんだから、難しく考えてもわからなくなるだけだろ?」

 そう言われるとイラつくけど、実際そうだからしょうがない。むしろその通りだ。

「で、能力には種類があるだけじゃねぇ。アルヴィとディビク、ディウスとガヴィアについて決定的な差が存在する。それが能力に対する制限だ」

「能力に対する制限……? それは例えば、時間制限的な?」

「まぁそんなもんだな。要するに能力の発動に対価が必要ってことだ。それがあるから、アルヴィとディビクはそこまで満足に能力を使用することができない。お前にわかりやすく説明すれば、常に四ファール状態だ」

「それはわかりやすい」

 バスケで表してもらえれば、俺としてもわかりやすくて助かる。理解できる範囲なら。

「お前の場合はディウスだろうな。能力に制限が存在していない。お前の父親の下位互換。だが能力には成長するという場合が存在する。能力の扱いに長けていけば、いつかお前の父親と同じ能力に成長するかもしれないな。っと。これを言ったならもう一つ言っておくか」

 おっさんはそういうと、夜空も首を傾げた。夜空も知らないことなのだろうか?

「夜空も初めてだから聞いとけよ? 能力には第二能力っていうのが存在する。これを発動できる可能性があるのは、とてつもなく限られた一部の存在だけだ。それも限定的でかなりの心境的変化、もしくは可能性を掴むと言ったところか。まぁすげー低い確率で手に入れることができる能力って覚えておけばいい。この能力は、自分で作られる」

「自分で作られるってどういうことだ? もしかして、俺がこれがいいって能力が力になるのか?」

「そんな甘いもんじゃねぇよ。その時絶対的に必要だと感じた心の奥深く、自分でも気づくことができるかできないかの狭間にある様な思いに反応して、その能力は生成される。その能力が強いか弱いかはそいつ次第だが、まぁ十中八九強い能力になるだろうな。なにせ、その人物が心の奥深くで欲していた能力が手に入るんだから、それが弱いわけがない」

 それもそうか。そんな本心から願っていた力が、自分に無駄なわけがない。むしろ本心からそれを願ってたんだから、自分以上に使える奴は存在しないってことか。わかりやすいな。

「お前らが目覚めるかどうかはわからないが、一応覚えとけ。……まぁ巡は十中八九覚醒するだろうがな……」

「ん? なんか言ったか? おっさん」

「何でもねぇよ。それよりお前、夜空の他に誰が味方か知ってんのか? 知らねぇだろうな」

 むしろ知ってたら怖いわ。エスパーかよ俺。相手の種族を見分けることができる力とか。

「まぁ知ってるのは俺も後一人なんだが、二葉双也。奴はアルヴィだ」

 双也……。多分心の奥底でわかってた。夜空と二人で秘密の話をしていることもあったし、決定的だったのは朝の双也だ。夜空と二人で白姫を……。って!

「夜空、じゃあもしかして白姫も?」

「うん。よくわからないけど、代理天魔大戦参加者って何か雰囲気が違うの。それが白姫からもしてきたから、私は白姫がそうだってわかった。それに白姫が私達にそれを言わなかったことを考えると、多分白姫はガヴィアかディビクのどちらかの可能性が高い」

 白姫が敵……。転校生が実は特殊な存在だったって物語はよくあるけど、まさか転校してきたのが敵でしたなんて最悪だな。いきなり殺し合いから始めましょうってか?

「ありえねぇ……」

 俺がそう呟くと、夜空も頷いた。でもまだ完全に敵と決まったわけじゃない。まだ話す余地はあるはずだ。そこに漬け込めば……。

「もしかして、話し合えばなんとかなるとか思ってるの?」

 夜空にその点を突かれて、俺は押し黙った。

「巡が優しいのは知ってるよ? でもそれは無理だよ。だって私達は敵対することしかできないの」

 敵対することしかできない。それは俺でも十分にわかっている。だってそれがルールなんだから。俺達が知っている、ルールなのだから。

 でも、だからこそ俺はそれを打ち破る。

「俺は馬鹿だ」

 ゆっくりとそれを告げる。

「だからどれが本当にあっていて、どれが間違っているかなんて全くわからない」

 馬鹿だからこそ、学年でも有数のアホだからこそ知っていること。

「本当に片方の殲滅か、十分の一になるまで争い続けなきゃならないのかもしれない」

 いつもの様なテンションで、その場を変える様に。

「だけどそれ以外にも方法があるかもしれない。甘過ぎる考えだけど、方法を見つけることができるかもしれない。だったら信じてみたいんだ」

 全員を救いたいなんて言わない。ただ救える人がいるなら、俺は救いたい。誰かを守れる、人になりたい。それが俺の本心からの、願いだから。

「話し合えばなんとかなる。それは確かに馬鹿な考えだ。巡、お前がいくら馬鹿だからって本当にそれを信じているとは思ってなかった。……が、お前は俺が思っている以上に馬鹿だ」

 おっさんはそういうと、俺の頭の上に手のひらを乗せてきた。それはいつも、お父さんがしていたこと。暖かくて優しい、日だまりの様な俺の居場所。

「確かに甘っちょろい。だけどそれでいいじゃねぇか。お前はお前らしく、馬鹿を貫き通せ」

 おっさんにそう言われた瞬間、俺の瞳から涙が溢れた。認められた気がした。

「やっぱ、おっさんには叶わねぇな……」

 俺はそのままいつもどおり、馬鹿らしい笑みを浮かべた。




 その後俺は部屋に戻り、寝始める。

 今日は色々なことがありすぎた。頭を整理するので一杯だ。

 幸いにも俺達の学校は入学式の後に土日を挟む。これは始業式の用意から入学式の容易に変える為だ。だから俺達にとって、明日と明後日は休みになる。

「巡、起きてる?」

 入ってきたのはパジャマ姿の夜空だった。ちょっとドキッとした俺がいるが、不安そうな夜空の顔を見てセクハラしようとするのをするのをやめた。

「ちょっと話を聞きたくて……」

「まぁ色々あったからね。いいよ」

 電気をつけると、俺と夜空は机を間にして向かい合って座った。

「えーっと……、うん。何から話そうか?」

 無言で向かい合っていると恥ずかしいから、できるだけ早く話してもらうと助かるんだけど。

「巡って馬鹿だよね」

「唐突にそれかよッ!」

 思わず大声でツッコミを入れてしまった。夜空にうるさいと怒られたので、仕方なく黙る。と言うか夜空のせいでツッコミする羽目になったんだから、俺のせいにするなよ。

「まぁ落ち着いてよ。馬鹿っていうのは褒め言葉での意味で、決して巡に対して思ってるわけじゃないから。うん。本当だよ? 別にいつも数学10点とってやがってこの馬鹿野郎とか、話を理解したフリをしてその後にわからないって聞きに来てんじゃねぇよとか思ってないから」

「お前が俺のことをどう思ってるかはよーくわかった」

 何が悲しくて、いきなりこんなに文句を言われないといけないんだ。拷問かよ。

「今回は褒め言葉」

「今回って断言しやがった」

「あの話を聞いてもまだ前向きに考えられる人なんて、巡並みの馬鹿か頭が狂ってる人しかいないよ。もしくは超ド級の変態野郎」

「ねぇ、さっきからなんでこんなにさりげなくディスられてるの? いじめ? 新手のいじめ?」

 更に無視まで入ってきて、本格的に俺泣くよ? 俺そこまでメンタル強いわけじゃないよ?

「いつも通りの馬鹿で、話を聞いてわかったようなフリして、それでいて誰かの為になりそうなことになるときちんと考え始める。いつも通り過ぎて、逆に聞きたくなっちゃった」

 ここからが夜空の本題だ。多分今まではふざけていただけ……だと思いたい。

「どうして巡は、そんなに他人のことを考えられるの? ううん。それだけじゃない。どうしてそこまで自分の損害を無視して、行動できるの?」

「あー、やっぱりバレてた?」

「うん。多分お父さんもね」

 あの白姫と話し合いたいと言うのは、俺にとって百害あって一利もない。

 だってそうだろ? 白姫は俺が敵だと認識した瞬間、俺を攻撃することができる。対して俺は話し合いに行ってるのだから、攻撃するわけにはいかない。それでは話し合う意味がない。

「気づいてる人も何人かいるかもしれないけど、巡の行動理由は矛盾してるよ。誰かを助けたい。守りたい。だからその為に自分を傷つけ、時に犠牲にする。そんなの、誰も喜ばない。自分に利益がない時にこそ真価を出すなんて、本当に巡はおかしいよ」

 おかしい。そう真正面から言われると少し傷つく。だけど間違っているかと言われれば、夜空の言葉は全く間違っていない真実だ。

「だから私は巡を信じる」

 その言葉に、俺は自傷気味に笑った。

「どこを? どうやって? 確かに俺はおかしいかも知れない。もう人間じゃないからな。信じるって何を信じるって言うんだよ」

「勿論全部だよ。巡が自らムードメーカーに徹して、周りの空気を和らげるようになった。その理由はわからないけれど、巡が周りのことを信じているってことは知ってる。だから私はみんなを信じる巡を信じる。……自分でも何言ってるかわからなくなってきちゃった」

 夜空の照れ笑いを見て、俺は自分の心臓が鼓動を早めるのを感じた。

 可愛い。素直にそう思った。

「はぁ。夜空も大概に馬鹿だよな」

 ため息を吐いて言った俺に、夜空は口を膨らませる。その姿が可愛くて、しょうがなくて。

 俺は夜空の頭に手を置いていた。

「信じてくれよ。俺もお前を信じてるから」

 それに対して夜空は、そっと微笑んだ。


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