#32『孤独に生きた者と無垢なる死者』
喜びは不幸の前兆
怒りに飲まれ、無我夢中に走り、負の連鎖を起こす
悲しみに慣れ、その感情が偽りだと錯覚し、やがては道化に陥る
楽園にて平穏を望む、道はずっと遠ざかる
世界樹の根は硬く、私の命をここへ縛る。
まるで苗床の様に
『—――!?』
オブシディアンの意識がはっきりすると見知らぬ空間が広がっていた。真っ暗で、ノイズまみれの空間ではない。
そこは雲の中の様で、オブシディアンの目の前には黒い影が立っていた。
「へっへっへ。1ヶ月ぶりってとこか?「オブシディアン」」
『......』
オブシディアンは目の前の人物を睨みつけ、刃を形成しようとした。
『なっ!?』
「ハッハッハ!!滑稽だな!!!!私の身体で好き勝手やってたくせによ!!」
『......?お前、誰だ!!』
オブシディアンが叫ぶと、雲が少しだけ晴れる。そこに立っていたのは、全身を拘束された真っ黒で浮いている身体、その頭上にはヘイローがあり、それは実態を持っているようで、ヘイローからは6本鎖が伸び、その先には剣がぶら下がっていた。
「何も知らねぇみたいだから殺す前に教えてやるよ。そうしないとお前が罪を自覚せずに安らかな死を遂げちまうからな!!!!!!」
『何の話だ』
「黙って聞けクソ野郎。」
「私は、純粋無垢な人造人間として、他の2人と共に生まれて来るはずだった。なのに誰だか知らんが主を殺して!!私のカプセルに入れやがった!!どうして私なんだ!!!!しかもそれだけじゃない。そのせいで私はこんな姿になったし、その上あの忌々しいヤグルマの呪いまであの体に付けて。幸いヤグルマは私達がバケモンになったタイミングでお前を切り離して私を純粋無垢な人造人間に戻してくれるはずだった。その前にもお前が出て行かないかと罵詈雑言ぶつけたさ!!!!なのに!!!!!!お前とグラスの野郎が!!!!全部ぶち壊した!!!!!!!だから殺すんだ!!!!!!」
目の前の影は叫ぶと同時に剣を飛ばす。オブシディアンは走りながらそれを躱す。その空間は地面があるらしく、影の剣は地面に刺さると鎖が巻かれるように影の方へと戻って行った。
「お前のせいだ!!!!全部!!!!!」
影はヘイローを回し、剣を回転させながらオブシディアンに近付く。力が使えない今、オブシディアンは走り回る事しか出来なかった。影は回転させながら鎖を伸ばし、オブシディアンへと再び剣が襲い掛かる。オブシディアンは身を低くし避けようとしたが、肩にかすり、そこから痛みが走った。
『ぃっ!!!!......は?血......?』
「ギャハハハハハ!!!当たり前だろ!!!お前はこの空間においては無力なんだから!!!!私に無様に刻まれて死ね!!!!」
影は何度もオブシディアンに斬りかかる。オブシディアンは避ける度に体力が尽き始め、あっさり追い詰められてしまった。
『はぁ......はぁ......』
「ハハハハハ.....ハ......はぁ。アハハっ、なぁ、お前はこの場所どう思う?」
影は突然攻撃をやめると、オブシディアンに問いかけた。
『......はぁ?』
「へッ、ヒントやるよバーカ。お前は今この空間で精神だけで存在してる。」
『......!?』
「精神だけなら、肉体は今どうしてるんだろうなぁ!!!呪いに飲まれて今頃街中の人達を殺しまくってんじゃないかぁ?ハハハハハハ!!!!!」
『くっ......』
「あわれだなぁ!!託された使命一つ果たせず!!お前はここで死ぬんだ!!!!!......でも、私も死ぬ。外で暴れてるお前の肉体が死んだら、私も......だから、今ここでお前を殺して!!スッキリしたままあの世に行くんだよ!!!!」
オブシディアンは歯を食いしばる。影が再び刃を飛ばすと、オブシディアンは片腕でその剣を受け止めた。
『......』
「ハッ、ようやく罪を認める気になったか?」
『俺は確かに、生まれるべきではなかったのかもしれない。俺さえ居なければ、ヤグルマがお前に呪いを押し付けなければ、お前は今頃幸せに暮らしていたのかもしれない。だが、』
オブシディアンは腕に刺さった、剣を掴むと、無理やりそれについている鎖を引き千切った。
「なっ!?」
『俺は今生きている。命を裁く権利は、俺にも、お前にも無い。』
「何言ってんだお前!!お前は俺に害を与えた!!!それは紛れもなく罪だ!!!だから私が罰を―――」
『もう黙れ。』
オブシディアンは千切り取った剣を構える。
『何故死ななければならなかったのか、そんなこと考えた事も無かったが、からっぽな俺とこの世界を秤にかけて、そんなこと考える必要も無いと、それだけで使命を背負って生きて来た。だけど、』
オブシディアンは影を睨む。
『この島に生きる人々を俺は見て来た。あいつらに居場所がある限り、『俺達』は、尚更必要無い。』
オブシディアンは、構えた剣を逆手に持ち、真上に構えると、自身の胸に突き刺した。
「なっ!!?何をしている!?頭がおかしいのか!?」
『俺らは、この世界には要らないんだ。ようやく分かった。』
「そんな訳無い!!私は、この世界に生まれたんだ!!この世界で生きるんだ!!!!...あ......」
影はその場に両膝を着くと、天を仰いだ。
「そっか......私、もう、生きられないんだ......。...違う、私はそんな事...嫌、嫌ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
影は慟哭する。オブシディアンは自身の胸部から噴き出す血液を見ながら、その場で俯く。
「なんで?どうして私が死ななきゃいけないの!?なんで私だったの!?」
影は虚空に向かって、答えの返ってこない問いを永遠と投げかける。2人しか知らない場所で、2人の命が、絶えようとしていた。
『これでいい......これで......』
オブシディアンの意識が朦朧とし始めた、その時—―――
「っ!!!!」
暗くなっていく空間が割れ、オブシディアンの前に見知らぬ顔が現れた。
「......」
『......』
「そうか、そこに居たんだな......」
見知らぬ人はオブシディアンに向かって、青く光る結晶をぶつけながら、儚げな表情を浮かべていた。
「今まで、父親らしい事出来なくって、すまなかったな。」
オブシディアンは自身に起こっている事が理解できなかったが、目の前の人物からは、どこか暖かい心地がした。
「俺も後から行くから、一足先に逝っててくれや。「カイヤ」......」
『...!?』
俺が、加賀知カイヤ?加賀知カイヤは、ここに居た?
目の前の人物がオブシディアンの顔面を結晶で貫くと、オブシディアンの身体は仰向けになり、そのまま灰になって行った。その間も目の前の男は、ずっとオブシディアンの顔を、涙が頬を伝いながら、覗き込んでいた。
――――――
―――
――?
目の前には空が広がる。意識が戻ると、目の前には鳥の羽と足を持った、人型のナニカが居た。何か言葉を発そうとしたが、身体の感覚が無い。俺は死んだのだろうか?
『お前はやり遂げた。生まれるべきでなかった、まさに忌み子は、最後に愛を手に入れた。』
目の前の梟は淡々と述べる。片羽の先には、鳥籠があり、その中には白い蝶が閉じ込められていた。
『1つだけお前に問う。''お前は''、人を知りたいと思うか?』
......
『まぁ、どの道お前にはその資格がある。望むと言うのなら、与えよう。ただそれは、あくまで旅の終着点。お前は今からまた、旅に出るんだ。』
......どこへ?
『それを言っては、面白くないだろう?だが、1つだけ条件がある。』
『お前は――――――――なれ。』
視界が白く染まっていく。再び意識がどこかへ消えて行く。あぁ、これが、『死』というものなのか。
――――――—――
鐘の音が響く。太陽が南の空に昇り、昼になった相図だ。
「さてと、私も何か食べないと...そういえば、砂糖の貯蓄まだあったかしら。無かったらまた買いに行かないとね。鐘を鳴らすより、砂糖を教会まで運ぶ方が大変なのに......ダメよブロンド、教会に努める鐘鳴らしとして、弱音ばっかり吐いてはダメ!鐘を鳴らすのも慣れたのですし、それもすぐに慣れるはずよ!」
階段を駆け降り、聖堂の横を通ると、少女は厨房へと向かった。
[愛の形、孤独の形] end
retrograde:[愛の形、後悔の形]




