#29『献花』
段上の2人は同時にその場から相手に向かって行き、オブシディアンは自身の右手の拳を刃と同じ硬さに変えると、铃兰の拳を相殺した。呪いに体を蝕まれているとは言え、オブシディアンの形成した拳は表面がひび割れ欠けていた。
铃兰はオブシディアンを間合いの外に出す事無く、その場で1回転して相殺された拳を再びオブシディアンにぶつけに行った。オブシディアンはひび割れた拳を再生し、今度は腕同士をぶつけた。その反動は周りで見ている人々にも伝わってきており、今にも大地が割れんばかりだった。
『どうした?そんなんじゃいつまで経っても俺には勝てんぞ!』
『今俺が力を行使しちゃ都合が悪いんでな。このままやらせてもらう。』
2人の周りには沢山の人間が居る。今ここで力を思う存分使えば有利に立ち回れるだろうが、そうすれば誤解を生みかねない。
オブシディアンは铃兰と交えている腕に絡みつき、そのまま反対の腕を硬化させ铃兰の頭部目掛けて肘を伸ばす。だが铃兰は左足で強引にオブシディアンを蹴飛ばし、2人の間には距離が出来た。オブシディアンは何とかそれに反応し自身の左足で相殺する。
『お前人との丸腰での喧嘩は初めてだな?まぁ、俺はこの通り神子だから、多少無茶やっても平気だがな!!』
铃兰は言い終えると同時にオブシディアンとの間合いを詰める。オブシディアンは頭をガードしながら、铃兰の攻撃を極力避けながら隙を伺う。
『もう怖気ずいたか!!悪いが今の俺は手加減する気は無いぞ!!どちらかが折れるかくたばるまで、とことんやりあおうじゃねぇか!!!!』
オブシディアンは後ろに下がりながら、立て続けにくる铃兰の攻撃を躱す。
「このままじゃおーちゃんの体力がもたない...でも、声を掛けたりは出来ない。これは2人の戦いだから。」
オブシディアンは铃兰が右足を踏み締め、右手拳を伸ばしたタイミングで姿勢を低くし、铃兰の死角に回り込む。铃兰は右腕を薙ぎ払おうとするが、オブシディアンに腕を掴まれ、そのまま頭部に1発貰った。
『ってて...へッ、やるじゃねぇか。だがこのくらいどうって事は無いね!!!!』
铃兰は掴まれた腕をそのまま掴み返し、オブシディアンを投げ飛ばす。オブシディアンは石畳の端で体勢を立て直すと、铃兰に迂回しながら接近する。
『型を変えたか...?いや、どう来ようが、返り討ちにしてやるまでだ!』
铃兰は接近してきたオブシディアンに回し蹴りをする。オブシディアンは铃兰が出した足の方に回り、そのまま右の拳を铃兰の顔目掛けて払う。铃兰がそれを腕で防ごうとした時、オブシディアンの手が跡形も無く消え、铃兰の前に手首の無い断面が現れた。その断面は灰色の液体で見えなくなっており、铃兰は目を疑った。
(目潰し!?フェイント!?じゃなきゃこれはなんだ!?)
オブシディアンはそれを起点に铃兰を間合いに留めながら果敢に攻める。だが铃兰の腕や足、急所に当たる直前で、オブシディアンの四肢の先が消えて無くなる。
「すごい......何が起きてるの......?」
(このくらいだったら、そういう武術だって誤魔化せるだろ。幸いここから人間たちが居る所までは距離がある。)
铃兰はオブシディアンの攻撃が全てフェイントだと分かっていても、それら全てを見切り少し大袈裟に躱す。
『悪いが俺に体力が尽きるなんてものは無い。俺自身力を使ってる訳でも無く、純粋な武力で勝負してやってるからな』
『ハッ、残念だが。俺もだ』
オブシディアンは铃兰が出している風圧で搔き消せる程度の声で話す。
铃兰が身を低くしたタイミングで、オブシディアンが蹴り上げようとしたその時、铃兰はオブシディアンの足首を掴み、そのまま上に放り投げた。オブシディアンはそのまま身を翻し、铃兰から距離を取ったが、すぐに接近されてしまった。
『攻守交代だ!!』
铃兰は再びオブシディアンに連続で技を繰り出す。視覚を突かれたからか、今回は付け入る隙が全く無い。オブシディアンは次第に畳の端に追い詰められ、ついに頭部に隙を晒してしまった。
『トドメだ!!!!』
(チッ、どの道こうなるか。)
铃兰がオブシディアンの頭部目掛けて拳を放ち、それが命中した瞬間—――
ザバァ!!!!
『なっ!?』
「「え!?」」
オブシディアンの頭部からは灰色のしぶきが上がった、だが、その場にいた皆の衝撃の理由は、それだけではなかった。
『......』
オブシディアンはしぶきの中から顔を出し、铃兰が突き出した拳を掴む。
『くっ、』
铃兰はそれを掴み返すが、それもまたしぶきになって消えてしまう。オブシディアンは掴まれた右腕を溶かすと共に弾けさせると、すぐに右腕を形成し直し、铃兰を回し蹴りで突き飛ばした。
铃兰はオブシディアンと対称の位置で着地し、構え直す。
『へぇ、それがお前の本当の力か。』
『...そう思いたいなら好きにしろ。』
『ヘッヘッヘ、悪いが、お前に加減する理由が無くなった。』
『......?』
铃兰は先程とは違う構えを取ると、足元に軽くヒビを入れた。その眼にある文様も、先程よりも輝いて見えた。
『そいつは竜胆が使ってた技だ。何故お前が使える?』
『......』
「え?今、铃兰なんて?」
「確かに、オブシディアンが今使った技は竜胆のものとよく似ておる。これは偶然か、はたまた運命の気まぐれか。」
『......』
『それを俺の前でやるからには覚悟しやがれ!跡形も無く消し炭にしてやるからよ!!』
铃兰は荒れ狂う焔の様に、再び片足で地面にヒビを入れると、その足のバネで瞬時にオブシディアンに近付いた。オブシディアンは被弾したところからしぶきを上げながら、铃兰の攻撃を極力躱す。その铃兰の顔は笑っているようで、激しく怒り狂っているようにも見えた。
「ねぇ...じいちゃん」
「うむ...あれは......」
「おーちゃんは今、誰と戦っているの?」
『峰打ちで済ませてやろうと思ったのによォ!その気が失せちまったじゃねぇかァ!!!!』
铃兰は我が身を滅ぼさんばかりにオブシディアンへの攻撃の勢いが増していく。このままでは呪いを払うどころの話ではなくなってしまう。
「これじゃあただの醜い争いだよ...止めないと......」
「...じゃが、ワシらが間に入った所で铃兰の暴走は止まらんじゃろう。一体何があやつをそこまで怒り立てたんじゃ...?」
『死ね!!!!さっさと死ね!!!!死にたいんだろうが!!!!だったら俺が殺してやるよ!!!!』
铃兰の左目にある赤い文様が光り輝く。铃兰はうめき声を上げながら、オブシディアンへ立て続けに攻撃を仕掛ける。
『お前...今何を見ている?誰を見ている?』
『お前に決まっているだろうが!!!竜胆を殺した!!大災害を起こした!!!!お前を!!!!!!』
「え......?」
「いかん、本当に正気を失っとる。このままではオブシディアンだけじゃ済まんぞ...」
「皆!!道場の中に避難して!!」
黑珍珠が声を上げると、近くに居た門下生や弟子達が次々道場の中へ駈け込んで行く。2人の争いの音で聞き取れなかった奥の人々も、異変を悟り、道場の中へと戻って行った。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』
铃兰のうめき声は雄たけびへと変わり、オブシディアンは再び追い詰められていく。そんな中、黑珍珠が再び声を上げる。
「おーちゃん!!周りの皆はもう居ないよ!!!!」
その声がオブシディアンの耳に入り、オブシディアンが周りに一瞬だけ視線を映した瞬間、铃兰の拳がオブシディアンの胸を貫いた。
To be continued.




