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40話 追憶 サーヤとの出会い

前回までのあらすじ


 イカイサの街のお姫様 エリザの要望により襲撃で傷付いた人々を盛り上げる魅せ試合をすることになったエイジャーとアルジード。試合を通じて魔族に植え付けられたトラウマで起きる支障をコントロールし、新しい技を開発することができた。


 しかしエリザが頼みたかった事はもう1つあり…?


「主、クネペパも件の人間の手に落ちたようです。ロウディに引き続き私の監督不行届…大変申し訳ありません」


 ここはとある場所…魔族の中でも高位とされているリオゴールは、空中に寝そべっている"主"の前に跪いていた。


「リオ君のせいじゃないよ〜あの子言う事聞かなかったもんね。気まぐれで拾った割には楽しめたしオッケーオッケ〜」


─ここはワタシにお任せください、主


 演技がかった声を高らかに上げながら、これまたブーツを高らかに鳴らしながらとある男が暗闇から現れた。

 振り返ったリオゴールは男の無礼な態度に不快感を隠そうともせず殺意を向けると、放たれたオーラにより空気がビリビリと震えだす。


「貴様…許可もなく謁見するとは何事だ」


「なに、こういった策略はワタシのような狡猾な蛇の得意分野…リオゴール殿に代わって満足いく成果をもたらそうと思いましてね」


 男はリオゴールの殺意を受けてもなお余裕の表情を見せる。今の状況を言い表すならまさに一触即発…"主"は小指を動かしてさらに強いオーラで2人を黙らせると、再び笑顔で男を覗き込む。


「自信満々だねぇ。キミみたいなのが引っ掻き回す展開も面白そうだ。何か必要なものはある?なんでも用意しちゃうよ!」


「あの"失敗作"を使わせてください。少し回りくどいですが…主が見たいものをお届けできると約束しましょう」


「オッケー!キミに魔眼を植え付けておくから楽しみに待ってるよ!じゃあね〜」


 男はリオゴールを鼻で笑うと、再び高らかにブーツを鳴らしながら闇へと消えていった…


「…主、あなたの判断に物申す意味は理解しています。ですがあの者は…」


「リオ君は嫉妬深いね〜。キミの立場が揺らぐことはないから大丈夫!それよりさ、たまには一緒にご飯でもどうだい?ボクたちには無意味な事だけど…相手の立場になってみるって奴だ」


──────────────


「さっさと片付けてオレの仕事を減らしてくれ!頼んだぞお前ら!!!」


「ルルさん!先輩のことよろしくお願いしまーす!」


「エイジャー様!良い返事をお待ちしておりますわ~!」


 宴の翌日。エイジャーたちはアラクネが使う道具の供給ルートを調査するためイカイサの街を出発、金さえ積めば誰でも採掘ができる鉱山"ロックリフ"を目指していた。

 なお周辺の調査で通る道ということもあり、道中の馬車はバドロが出してくれている。

 

「シエスタのおっさん必死だったな…あれからほとんど休んでないらしいぜ」


「俺も迷惑かけちゃったし楽にしてあげないとね。次の調査で進展があるといいんだけど…」


 エイジャーの先輩であるシエスタは扱いの難しい戦斧を使いこなすなど高い実力を持つ人物である一方で"他の奴ができること"をすぐに手放してしまうサボり癖がある。

 そんな彼のポテンシャルを存分に発揮させるべく、副団長が直々に中隊長の地位を与えたのだが…王都とともに団員が激減した今、あまりの激務にすっかり疲れ果ててしまっていた。


 近隣の調査を潰すほどに彼の休暇が増える、そういう意味でも早く解決したい問題であった。


「そういや団長、姫様から手紙を受け取ってなかったか?それに良いお返事がどうとか…」


「イソーにいる技術者に渡してほしいって頼まれたんだ。…俺宛てじゃないからルル、頭擦り付けるのをやめて…」


 エリザが拠点へやってきた際に言っていたお願い…それは前にお忍びと称して無断でイソー行きの馬車へ乗り込んだ際、道に迷っていた自分を助けてくれた技術者 エイトへお礼の手紙を渡すことだった。

 内密に頼むようなものを受けてよいのか迷ったものの…彼女に押し切られる形で役目を負う羽目になってしまったのである。


「一応中身は見せてもらったし、ダグさんにも判断を仰いだ上だけど大丈夫だったかな…」


「いざとなったらシエスタのおっさんに押し付けようぜ…そういや姫様に馴れ初め聞かれてたよな?暇だしオレにも教えてくれよ」


 会話を聞いていたのか、鉱山まではまだまだかかるぞー、というバドロの援護射撃が荷台の外から飛んでくる…逃げ場がないことを悟ったエイジャーは諦めたようにため息をついた。


「どうして皆そんなもの知りたがるんだ…話すから茶々入れは無しでお願いね」


・ ・ ・


・ ・


・


 母親を病気で亡くした俺は"師匠"と呼んでいた老人に拾われ、その師匠も魔族の襲撃で失った…


 こうしてまた天涯孤独になった俺は襲撃に駆け付けた騎士団に保護されて王都にやってきた。スラムの人たちにも打診はあったみたいだけど、旧王政への不信感からほとんどの人は燃えて何も無くなった土地に残ったらしい。


 当時はクーデターとそれに誘発された暴動をエルドラ王が収めて日が浅い時期、孤児院なんて莫大な資産と善意が必要な施設はまだ存在していない。

 騎士団も軍隊から生まれ変わったばかり、諸々を支える裏方が足りていなかったそうな…だから衣食住と教育の対価として雑用を手伝う、見習いという立場で入団することになった。


 見習いとして雑用を手伝うようになって1年くらい経った頃、王様はあることを決めた…それは昼夜の食事に王都の人間を呼び、民の声を直接聞くための"お話会"を開くこと。


 旧王政に苦しめられていた地域への遠征で実施した時に実りのある話ができたことから決めたらしいんだけど…とにかくそのお話会に俺も呼ばれることがあったんだ。


「…なるほど。共有できる耕作地という案は議題に挙げてみよう。次にエイジャー君…彼は家を失ってね…見習いとして騎士団が預かっているんだ。どんな事をしているのか聞かせてくれるかな」


「はい王様。朝は食事と洗濯のお手伝い。その後は読み書きや計算の勉強をして、夜は補修する装備品を集めて回っています」


「ありがとう、君は聡明な子だね。しかし負担が多すぎる気もするな…これでは子供らしい情緒が育たない。後で実務時間の報告をしてもらうとしよう。次は─」


─待ってください、王様!


 小さな手で机を叩き、王様の言葉を遮ったのがそう…後の奥さんであるサーヤだった。

 同じくらいの子がいるのは見えてたけど目立たなかったから、口を開くのはそれが初めてだったと思う…つい最近までクーデターで物騒だった時期だ、思わず身構える憲兵を下がらせた王様が笑顔で語りかけた。


「君は確か…サーヤちゃんだったね。どうしたんだい?」


「はい!その子がお手伝いをしているのは、王様たち大人がちゃんとしてないからですよね?だから褒めるんじゃなくて謝るべきだと思います!私は自分が悪い時は謝らなきゃダメってお母さんに習いました」


 俺が孤児になったのも、子供らしく遊べないのもお前たち大人が悪いんだから謝れ…そう言ってサーヤは真っ向から王様に食って掛かったんだ。

 いくらエルドラ王が穏やかな人とはいえ立場が違いすぎる、周りの大人たちも必死に止めたけど彼女は止まらず、ひたすら大人の責任を追及してみせた…子供ながらに生きた心地がしなかったよ。


 王様はしばらく唖然とした後に大笑いして、俺のところへ来ると頭を下げたんだ。


「君の言う通りだサーヤ。すまないエイジャー、君の生きる道を狭めたのは我々だ…今すぐは難しいが、君のような子供が少しでも自由に暮らせるよう尽力すると約束しよう」


「そ、そんな王様やめてください!僕は騎士団の人に助けられました。受けた恩は必ず返せというお母さんの教えを守りたいだけです」


「君のお母さんは素晴らしい人だったんだね…私の罪の重さを知るためでもある、どんな人だったか今度聞かせてくれるかな」


──────────


 お話会が終わった後、俺は意気揚々と帰っていくサーヤを呼び止めた。王様を怒るなんて大変なことだ、前の酷い王様みたいな酷い人だったら殺されてたかもしれないぞ、と…

 サーヤはそんな俺に近付いてきてデコピンをしてきた。すごく痛かったのを今でも覚えている。


「だって本当のことじゃん!あの人たちのせいでエイジャーはお母さんたちと暮らせなくなったんだよ?なのに全然怒らないから私が代わりに怒ったの!」


「それは…代わりに怒ってくれたことはありがとう。でもそれでサーヤに何かあったらお母さんたちが悲しむよ」


 正直なところ…病気の母を王都に入れてくれなかった旧王政や師匠の救出が間に合わなかった騎士団に不満が無かったわけじゃない。

 でも今日出会った俺のために怒ってくれた人が、そのせいで不幸になる姿は見たくない…そう伝えたら聞いたサーヤは少し大人しくなったあとに、もう一度俺にデコピンをしてから立ち去った。

 2回目は全然痛くなかったから、きっと思うところがあったんだと思う。


「…騎士団のところにいるんでしょ?また会いに来るね」


 それからサーヤは俺を訪ねて騎士団の拠点へやってくるようになった。彼女は両親が忙しく昼間は暇してたのもあって同じ勉強をしたり、雑用を手伝ってくれたり…一緒に過ごす時間が多かったな。

 王様に物申した女傑って事で拠点でもちょっとした有名人、拠点の大人たちからも可愛がられてた。その頃から美人の片鱗はあったけど、気が強いから同年代の子供達はビビってたよ…


 そんな日々が続いて数年…普通の学校に通うようになったサーヤとの一緒の時間が減り始めていたある日。俺が本格的に騎士団としての道を考えていると知った彼女は、俺を実家に連行したんだ。


 ご両親は勝ち気なサーヤとは正反対の穏やかな人で、初対面の俺を優しく迎えてくれた。父がいて、母がいて…俺が知らない普通の家族というのをその日初めて体験できた。温かい時間だったよ…

 半日ほどお世話になって夕飯時、いよいよ帰ろうかと思った時にお父様が書類を俺の前に差し出してきた。それは当時まだ珍しい養子縁組の必要書類だったんだ。


「君のことは昔からよく聞いていたが本当にいい子だな…いいよサーヤ、彼ならば歓迎だ」

 

「あのね、エイジャーを養子に迎えてくれないかって2人に相談してたの。そうすれば騎士団なんかで戦う以外の道も選べるでしょ?」


「…ごめんなさい、俺にはもう家族なんていらないんです…っ!」


 そう言って俺は家を飛び出した。過ごした時間は短かったけどあそこには温かい家庭があって、そこに入ることができたら幸せなのは理解できた…だからこそ失った時の事を考えて怖くなったんだと思う。


 人の厚意を最低な形で突っぱねて、自己嫌悪でどうにかなりそうだった俺は気がついたら王都を見渡せる高台に来ていた。

 家々から漏れる温かい光…いつもは気にならないそれらに無性に心を掻き乱されていると後から追いかけてきたサーヤがやってきて、呼吸も整わないうちに頭を下げてきた。彼女が俺に謝るのはそれが初めてのことだったと思う。


「ごめん!エイジャーが騎士団に入るかもって聞いて、養子としてあそこから引き抜いちゃえば普通に生きられるんじゃないかって…勝手に話を進めちゃった」


「サーヤは悪くない。みんなの優しさをあんな形で断ってしまった…謝るべきは俺だけだよ」


─お!今日はかなりの当たりじゃん?


「ここってロマンチックだろ?カップルになるようないい女が見つけやすくてさ。男もボコられたこと恥ずかしくて人に言えないからちょうどいいのよ〜」


突如聞こえた声に振り返ると、3人の軽薄そうな男たちがニヤニヤと笑みを浮かべながら近付いてきていた。

 どうやら人の女を奪う趣味の下衆どもで、普段は拠点にいる俺が知らないだけで噂を耳にする程度には悪事を重ねていたらしい…サーヤはあの程度の連中に怯える性格ではなかったけど、それでも後ろに下がらせた。

 

「君は下がってて…すぐ終わらせる」


「おーそうそう!みんなそんな感じでカッコつけるんだよね!ヤワそうな顔してるけど男はみんな同じだな〜」


 男たちはケラケラと笑っていた。どこから入り込んだのか、昼間は真面目を装っているのかは知らないが…こんな連中に彼女を汚されるわけにはいかない。

 まだ騎士団としての戦闘技術をほとんど習っていなかった俺は硬そうな棒を拾って、師匠から教わった型を初めて人に使うことにしたんだ。


「棒ね!これもよくあるパターン!でもさ…どいつも忘れてるんだよねぇ…数の恐ろしさをさぁ!!!」

 

「エイジャー!」


「大丈夫、俺に家族はいないけど…みんなが託してくれたもので誰かの家族を守ることはできる。『刃式 隼突撃』!!!」


 俺は溜めた足で一気に飛び出すと、すれ違い様にみぞおち目掛けて振り抜いた。

 油断しきっていた男が吐き散らしながら沈黙する姿を見た2人は萎縮、その隙にに片方の後頭部を蹴飛ばし、最後の1人は回転の力を利用して腕を捻り上げて全員を無力化することに成功した。


「ごめん、俺を追いかけてくれたせいでこんな事に…怪我はない?」


「意外とやるじゃん…なんて。助けてくれてありがと。今のエイジャー、けっこうイケてたよ」


───────────────


「噂の暴漢たちを確保とはお手柄だなエイジャー!余罪は憲兵に絞らせるよ。にしてもこんな可愛い彼女とデートとはマセやがって…」


「先輩さん初めまして!将来の伴侶サーヤです♡」


「伴侶!?」


 サーヤは聞いたこともない猫なで声を出しながら、対応してくれた先輩の1人の前で腕を絡ませてアピールしていた。今思えばあれが外堀りを埋める作戦の第一歩だったのかもしれない…


「養子にするのは諦めるけど、あなたが幸せになるための作戦は続けるから!絶対に攻略するから首を洗って待っててね、エイジャー♪」


「強引すぎるしそれは悪党の殺害予告だよ…」


 こうしてサーヤと俺が結婚するまでの、数年にも渡る攻防戦が始まった…というわけだ。


─────────────────


「幼馴染で美人で超積極的ねぇ…団長じゃなかったら出来の悪い妄想すんなで切り捨ててたぜ」


「…信じてくれて嬉しいよ。あとルルさん。あの、頭突きがそろそろ苦しいです」


「ん!!!」


 嫉妬だろうか…攻撃的なスキンシップを交わす騒がしい2人を見ながら、アルジードは在りし日のエイジャー夫妻はこんな感じだったのだろうかと重ね合わせる。


 同時に"彼の周囲には強い女性が集まる"というグレナルドの言葉を思い出していた。ついていくと決めた理由の1つに放っておけないがあったことも含め、皆似たような思いで引き寄せられるのだろうと密かに納得する。


「そろそろロックリフ鉱山が見えてくるよ。奴らの見張りがいるかもしれない、少し離れた地点で降ろすから準備よろしく」


 バドロの言葉を聞いたルルは荷台から顔を出し、初めて見る岩が切り立った山に感動の声をあげる。

 処罰(?)から逃れ作業に集中できるようになったエイジャーとアルジードは荷物の最終確認をする。いよいよ目的地 ロックリフだ。



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