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喧嘩したそうです

カーテンの隙間から、まぶしい光が差し込んでいる。ベッドで眠っていた、というか転がっていた私の顔にちょうど光が当たり、「うっ……」という声を上げてもぞもぞと身を動かす。


肌触りのいい白いシーツに見慣れない調度品。あれ、ここって……そうか、昨日ルレオードに着いたんだった。それでシルヴィアの話に付き合って。私いつベッドで眠ったのかしら。


隣には黒髪の美女がすやすやと眠っている。昨日泣きながら愚痴を言っていたのに、瞼がまったく腫れていないのは美女補正なの?ちゅってキスしたくなるほど近い距離に、きれいな顔があった。


(まつ毛が長い。かわいい……妖精さんだわ……)


美女は見ているだけで癒される。でも、なんだか身体が重い。私、お酒は飲んでいないはずなのにまさか風邪の予兆かしら。


足元には団子みたいに丸まった毛布の感触がある。まったく暖をとれていない。私はうつ伏せのまま、足の指で毛布を引っ掛けようともぞもぞしてみる。


ん?何かが背中に乗ってる?寝起きでまだぼおっとしている私は、「ううっ」と呻きながら反対側に顔を向けてみた。


「……は?」


ところがそこには、絶対にいたらダメな人がおもいっきり瞳を閉じて眠っていた。あまりに衝撃的な光景に、一気に頭が覚醒する。


サレオスが寝てる!?


本来ならがばっと身を起こせるくらいの力で起き上がったのに、身体がまったくびくともしない。だって……サレオスの左腕が私の背中におもいっきり乗っているんだもの!


え!?なにこれどういうこと!?私どうしてサレオスの隣で……えええええええええ!?何があった昨日の夜!?


ベッドの上に二人きりじゃないことがまだ救いだわ。隣にシルヴィアもいるもんね……って、いやいやいや全然救いじゃない、どう見ても私、サレオスの腕の中で眠っていたわ!これは嫁入り前にあるまじきこと!


どうなったの!?え!?なんで?エリーは?ヴィーくんは?イリスさんは?どうしてこんな状況が許されているの???


パニックになった私は、ただただ目を見開いてサレオスの寝顔を凝視していた。あぁ、こっちもあっちもまつ毛が長い。なんでよ……。


あああ、もう意味わかんない、急に顔が熱くなってきた!そんなに無防備に眠っていたら襲っちゃうわよ!?サレオスは未だにすぅっと寝息を立てている。まさかこの距離で寝顔が見られる日がくるなんてっ……なんて幸せな朝なの!


はっ!いけない、そうじゃないわ。早くここから抜け出さなきゃ……。


ええっと、どうやって抜け出そうかしら。仰向けに……なったら胸が腕に当たる。それは絶対にダメ。既成事実をつくろうとしたと勘違いされたら恥死量オーバーだわ。


私はとりあえず、シルヴィアの方に身体ごと向けてみた。こっちもやはりまだ眠っている。ちらりと時計を見ると、まだ朝の5時だった。リサはきっとまだ起こしに来ないけれど、さすがに私は起きなきゃマズイ。


……あれ?クレちゃんは?


そういえば昨日、シルヴィアの愚痴に付き合っていたらクレちゃんが飛び込んできたんだったわ。テーザ様と喧嘩したって言って。


『テーザ様ったらひどいのよ!?結婚するなら学園は辞めてもいいんじゃないかっていうの!』


『結婚できるのに何が不満なのよ!あんた贅沢よ!』


『あわわわ……シルヴィア落ち着いて!』


『だって結婚して学園をやめたりしたら、領地経営でも商人との取引でも舐められるわ!しょせん女が気休めでやっていると思われるじゃないの!』


『それはだめね!女にだって誇りはあるわ!』


『でしょぉ!?私がどれだけ必死で……テーザ様ならわかってくださると思っていたのに!』


『私はクレちゃんが学園辞めちゃったらイヤよ!』


『それもよ!マリー様を置いてひとりでトゥランになんて来られないわ!絶対にサレオス様と、うぐっ!』


『クレちゃん!!!さぁ!飲んで!お酒いっぱいあるから、シルヴィアが持って来させたから!』


あやうくクレちゃんが私をサレオスに押し売りするところだったわ。やばいと思ってクレちゃんの口を塞ぎ、事なきを得たんだった……。


『あぁ!もうテーザ様なんてどうでもいいわよ!私はやっぱりマリー様が一番好き、愛してるわ!』


『私もよクレちゃん!大好きよ!』


『私も入れてー!マリーもクレアーナももう友達よ!』


私たちが騒いでいるのを、サレオスが茫然と眺めていたわ。最初こそびっくりしていたけれど、サレオスも何かスイッチが入ったのか突然ぐびぐび飲みだしたんだった。


結局、シルヴィアはあれだけ文句を言っていたのにクレちゃんと意気投合してしまった。あまりに仲良くなりすぎて、お酒が進んでいたような気がする。



で、朝起きたらこの状態って、あの後何があったんだったっけ?私は飲んでいないのに、なんで記憶がないの?もしかして途中で寝たのかしら?

両手で目をこすりながら必死で昨夜のことを思い出そうとするも、自分がいつどうやってベッドに入ったかまったく覚えていなかった。


(きっとソファーで寝ちゃって、エリーが運んでくれたんだわ。だいたいそうだもの)


シルヴィアの寝顔を見ながら一人で納得していると、これまでただの重しだった腕が動き、背中の方からあったかい塊がやってきて私にピタッとくっついてきた。


「ひゃっ……!」


「マリー、おはよう」


嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!もう起きたの!?起こさないようにおとなしくしてたのに私!しかもっ……しかもぎゅうってされてるー!やめてー!キュン死にする!


「おっ……おはよう……ございます」


「寒い」


寒いならぁぁぁ!上掛けがありますからぁぁぁ!!!私のことは放してくださいぃぃぃ……。


起きたばかりなのにまた気絶しそうな私は、サレオスの腕の中で必死にもがいた。でも、もがけばもがくほど……ってコレなんの罠なの!?寒いのはわかったからそんなにきつくぎゅってしないで!襲っちゃうから!


「うううっ……」


「どうした?」


どうしたもこうしたもあるかぁー!


私は叫びそうになるのをどうにか押し込め、目の前のシルヴィアを起こす作戦に切り替えた……のに私は両手を胸の前に折りたたんでしまっているから、彼の腕が解かれない限りシルヴィアに手を伸ばせない!


しばらく無言のまま、時間だけが過ぎていく。なぜか髪を撫でられているわ!え、何、寝ぐせ?私、寝ぐせがついているの?


好きな人と同じベッドにいるという異常事態が、私の思考を停止させていた。私にできることは、身を縮こまらせること以外にない。


あああああ、お父様ごめんなさい。マリーはいけない子です。お母様……は、いいか謝らなくても、喜びそうだから。


はっ……サレオスなら昨日のこと、知っているかも。


「あの……クレちゃんは昨日どうしたの?」


「この状況で最初に聞くのがソレなんだな」


「だって……!?」


何を言えばいいの!?昨日、何かありましたか、なんて聞けるわけないじゃない!


「ひゃっ!」


私のドキドキも知らず、サレオスは私の背中に顔を埋めようとする。


ななななななに!?寝起きで甘えてるの!?どうすればいいの!?


あぁ、なんか世の中が白いわ。気絶ってこうやってしていくものなのかも……


そんな風に現実逃避していた私は、サレオスの次なる暴挙によって一瞬で引き戻される。


「んひゃぁっ!」


今なんか首の後ろを噛まれた!やめて!もう本当にやめて!ほんっとうにお嫁さんにしてもらわなきゃいけなくなる!


お父様に街ごと滅ぼされるっていうか、サレオスとの魔法大戦になるからもうこれ以上は危険よ!


「顔を見せてはくれないのか」


「みっ見せられ、ない。女の子には色々と、その、あれがそれで、なのよ」


私は寝起きなのよ。顔も洗ってないしヨダレの跡とかついてたら困るじゃない!あなたみたいに、いつ何時でもキレイな状態じゃないの!


あぁ、心臓がバクバク鳴っていて破裂する!息を吸うのもままならないわ。ついに限界が来た私は、彼に背を向けたまま懇願した。


「本当にもうやめて。恥ずかしくて死ぬ……!」


キュン死に寸前の私は涙目だ。これ以上何かされたら、今日一日ベッドから起き上がれない可能性がある。


「……すまない」


さすがにやりすぎたと思ったのか、サレオスはスッと腕を引いて起き上がった。


そしてそのままベッドから降り、ゆっくり歩いて部屋を後にした。うわぁ、またもや置き去り……得意技なの?なんて迷惑な……!


あれ、結局クレちゃんはどうなったんだろう。私はシルヴィアに上掛けをかけると、自分も毛布にくるまって真剣に思い出そうとした。あぁ、ダメだわ。ドキドキが収まらない……。もう一回寝よう。


私とシルヴィアは、しばらくしてからやってきたリサに手荒く起こされ、二人してのんびりと朝食をいただくのだった。


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