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ERASE〜夢に眠る夢〜  作者: 奏愛
episode 4
12/14

確信


ーーズキン…


痛みが治まってきた。

それと同時に視界もハッキリしてくる。


「…っつ」


こめかみに手を当てる。

彼女の頭の中に見えた情景(ビジョン)

必死にそれを思い出そうとする。が…


「わ、私…」

「なんだ?何か思い出したのか⁉︎」


咄嗟にカイトが詰め寄る。


「お前はやっぱり…」

「い、いえ…私は」


重い身体をゆっくりと起こすと彼の方をまっすぐと見る。

そしてハッキリと言った。


「少なくとも、私はマリアと言う名前ではありません」

「っな⁉︎」


一瞬で顔色が変わった。


「バカな事言うな!そんなはずはない!だってお前は…」

「私は、貴方の知ってるマリアという女性ではないと思います」

「じゃあ何か?記憶を全て思い出したって言うのか⁉︎お前は一体誰なんだよ⁉︎」

「ぜ、全部思い出した訳ではありません…ただ、頭の中に何かが見えたと言うか…」

「…んだよそれっ!」


再び壁をドンっと叩く。


「なんなんだよ⁉︎」

「ご、ごめんなさい…でも私っ…」


言葉が上手く出てこない。

何か言わなければならないのに。

今見えた光景はとても曖昧で、まるで雲を掴むようにぼんやりとしていて、鮮明には分からない。


「クソっ…」


カイトの顔に、わずかに絶望の色がうかがえる。

やっと逢えたと思ったのに。

やっと話せる機会(チャンス)が持てたというのに。

待ち続けた結果がこれだ。

もどかしい。もどかしい。もどかしい!


「なんで…っ」


体から力が抜ける。

ズルズルと壁伝いに滑り落ち、そのままガクンと座り込んでしまった。


先生(ドクター)…」

「お前みたいなそんな髪の奴なんて、他にいねぇんだよ…」


カイトがぼそりと呟く。


「マリアの顔を、俺が見間違うはずなんて…」

「そんなに…似てる、んですか?」

「似てるんじゃねぇ!同じ(・・)なんだよっ!」

「……っ⁉︎」


彼の剣幕に押され、彼女はビクっと体を震わせた。


「あ…悪い…」


思わず目線を逸らす。

バツが悪そうに彼は立ち上がると、彼女に背を向けた。


「……」

「さっきは、髪を引っ張って悪かった」

「……え?」

「それから」


くるりと振り返るとーーカイトのその顔は既に元の医師の顔に戻っていた。


「今の君は絶対安静なんだ。あんな乱暴な事をしてしまった手前、こんな事を言うのもなんだが……ゆっくり横になってるといい」

「あ、あの…」

「曲がりなりにも、君の担当医師は僕だ。1日も早い回復を祈ってる。異端者(ヘレティック)さん?」


そう静かに言うと、病室を出ようと踵を返しーー


先生(ドクター)!!!」


その声にぴたりと足が止まる。


「私…私の名前はラディです。何となくしか思い出せないんですけど、私のこと…ラディと呼んでくれませんか?」


カイトは彼女の言葉を黙って聞いていた。

少しだけ。ほんの少しだけ首を彼女ーーラディの方へと向け、


「ーーいいだろう」


それだけ言い残し、病室を出て行った。








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