確信
ーーズキン…
痛みが治まってきた。
それと同時に視界もハッキリしてくる。
「…っつ」
こめかみに手を当てる。
彼女の頭の中に見えた情景。
必死にそれを思い出そうとする。が…
「わ、私…」
「なんだ?何か思い出したのか⁉︎」
咄嗟にカイトが詰め寄る。
「お前はやっぱり…」
「い、いえ…私は」
重い身体をゆっくりと起こすと彼の方をまっすぐと見る。
そしてハッキリと言った。
「少なくとも、私はマリアと言う名前ではありません」
「っな⁉︎」
一瞬で顔色が変わった。
「バカな事言うな!そんなはずはない!だってお前は…」
「私は、貴方の知ってるマリアという女性ではないと思います」
「じゃあ何か?記憶を全て思い出したって言うのか⁉︎お前は一体誰なんだよ⁉︎」
「ぜ、全部思い出した訳ではありません…ただ、頭の中に何かが見えたと言うか…」
「…んだよそれっ!」
再び壁をドンっと叩く。
「なんなんだよ⁉︎」
「ご、ごめんなさい…でも私っ…」
言葉が上手く出てこない。
何か言わなければならないのに。
今見えた光景はとても曖昧で、まるで雲を掴むようにぼんやりとしていて、鮮明には分からない。
「クソっ…」
カイトの顔に、わずかに絶望の色がうかがえる。
やっと逢えたと思ったのに。
やっと話せる機会が持てたというのに。
待ち続けた結果がこれだ。
もどかしい。もどかしい。もどかしい!
「なんで…っ」
体から力が抜ける。
ズルズルと壁伝いに滑り落ち、そのままガクンと座り込んでしまった。
「先生…」
「お前みたいなそんな髪の奴なんて、他にいねぇんだよ…」
カイトがぼそりと呟く。
「マリアの顔を、俺が見間違うはずなんて…」
「そんなに…似てる、んですか?」
「似てるんじゃねぇ!同じなんだよっ!」
「……っ⁉︎」
彼の剣幕に押され、彼女はビクっと体を震わせた。
「あ…悪い…」
思わず目線を逸らす。
バツが悪そうに彼は立ち上がると、彼女に背を向けた。
「……」
「さっきは、髪を引っ張って悪かった」
「……え?」
「それから」
くるりと振り返るとーーカイトのその顔は既に元の医師の顔に戻っていた。
「今の君は絶対安静なんだ。あんな乱暴な事をしてしまった手前、こんな事を言うのもなんだが……ゆっくり横になってるといい」
「あ、あの…」
「曲がりなりにも、君の担当医師は僕だ。1日も早い回復を祈ってる。異端者さん?」
そう静かに言うと、病室を出ようと踵を返しーー
「先生!!!」
その声にぴたりと足が止まる。
「私…私の名前はラディです。何となくしか思い出せないんですけど、私のこと…ラディと呼んでくれませんか?」
カイトは彼女の言葉を黙って聞いていた。
少しだけ。ほんの少しだけ首を彼女ーーラディの方へと向け、
「ーーいいだろう」
それだけ言い残し、病室を出て行った。




