動揺
ぱたん、と扉を閉めると、カイトはそのまま背に体重を預けた。
はぁ…
深いため息を吐くと、ギリっと下唇を強く嚙み締める。
「……」
考えがまとまらない。
彼女を発見した時、心臓が張り裂けそうだったのを覚えてる。
意識はないものの、命には別状はなかった。
このまま治療を続けていれば、いずれ目を覚ますだろう。
そう確信していた彼は、目が覚めたら問い詰めようと思っていた。
思っていたのだが…
「…まさかこんな事になるとはな」
遠い昔言ったような台詞を口にすると、力の抜けた笑みを浮かべた。
「俺は…俺はこんなにも覚えてるっていうのに…」
どこをどう間違えたのか。
あの時自ら命を落としたのがいけなかったのか。
それとも…
「俺は、産まれてこなければ良かったのか?」
自問自答する。
答えなんてない。
答える者もいない。
「そりゃそうだよなぁ。俺は、産まれた時から血にまみれていたんだから…」
ーーどくん。
心臓が、鳴る。
どうして自分だけは記憶が残っているのか。
どうしてかつて愛した者は記憶がないのか。
それだけではない。
「俺が下界に来た理由ーー」
それだけが、どう考えても理解出来なかった。
予想も出来ず、検討も付かない。
「…俺は一体何者だ?」
考えるだけ無駄だと、一度は棄てた問いを、再度彼は口にした。
「先生?」
しかし、そう言ったのは彼ではなかった。
「診察終わりました?」
先程の看護師だ。
言いつけてあった仕事を終わらせたのだろう。
手に書類らしきものを持っていた。
「ああ」
「良かった。あ、これ作成済みです」
そう言うと、手に持っていた数枚の書類を、カイトに手渡した。
「ありがとう。後で目を通しておくよ」
「お願いします」
ぺこりと軽くお辞儀をすると、足早に去って行った。
まだやる事が残っているのだろう。
おおかた、割れたガラスやひびの入った壁の修繕や備品の注文と言ったところか。
「ふっ…まぁいい」
そう呟くと、渡された書類をペラペラとめくりながら歩みを進め始めた。
「まだ時間はある。まだーー」
カイトの背中からは、先程までの動揺は微塵も感じられなかった。
むしろーー
「ん…?」
何枚目かの書類に目を通していた時、ふと手が止まる。
「なんだ、これは…?」
書類の文字に違和感がある。
いや、単なるケアレスミスか?
【半自律型自動歩兵二機の進入、暴走によりーー】
ーーどくんっ。
「半自律型自動歩兵、だと…⁉︎」
いつの間にか、足も止まっていた。
嫌な汗が頬を伝う。
「どういう事だ、これは⁉︎自律型自動歩兵ではない…?」
一気に血の気が引いた。
書類を持つ手が、わずかに震えている事に。
そしてこれが後に大きな問題となる事に、彼はまだ気付くはずもなかった。




