『クソな人生』
英雄やヒーローになる。
ガキの頃はそう信じて疑わなかった。
そんな俺は今頭を地面に擦り付け道化を演じている。
「君たちの会社のせいでこのプロジェクトは台無しだよ。どうしてくれるんだ!」
後輩が大きなミスを犯してしまい謝罪に同行させられた。
「申し訳ありません!」
(なんで俺がこいつの代わりに謝らないといけないんだ)
後ろで謝罪もせず突っ立ってる後輩に腹を立てる。
「君じゃなくて後ろの君!君に言ってるんだ!なんとか言ったらどうなんだ!」
悪びれる様子もなく後ろに立つ後輩に指を刺す。
(そうだそうだ、なんで俺が初対面の人に土下座しなきゃならんのだ)
「え、僕っすか、えーと申し訳ないっす」
ニヤニヤと人を舐め腐った笑みに腹が立つ。
「もういい!帰ってくれ!君たちに使う時間がもったいない!」
そう言うと俺と後輩を部屋から追い出した。
その帰り道、頭の中は社長にどう報告するか、クビになってしまうのかなど、悩みのオンパレードだ。
「先輩、なんか丸くおさまって良かったっすね」
(こいつは何を言ってるんだ、これが義務教育の敗北というやつだろうか。最近の若いのはこんなにアホなのか?)
「お前なぁ、あの『もういい』はもう君たちとは関わらないから良いですよって意味だぞ。だから全然良くないんだよ」
「マジっすか!先輩が土下座までしたのに?!」
「したのにだ。それとお前のミスなんだからお前で謝るくらいはしろよ」
軽く後輩の頭をこづいてやる。
「うす、すんませんっした」
その謝罪に反省した様子はない
(ほんとろくでもない奴だ、誰が教育係変わってくんないかな)
「とりあえず帰るぞ」
こいつが入社してから二年ずっと面倒見てきたが、変わる様子は一向になく、最近では怒りすら湧かなくなってしまった。
俺の教えが悪いのかと思った時もあったが、他に面倒見たやつはいい人材に育っているので、こいつの問題だろう。
ー翌日
「おはようございます!すみません遅れました」
その日は電車の遅延に巻き込まれ、出社が遅れてしまった。
出社後の雰囲気がいつもと違う気がした。
「田嶋くんちょっと来たまえ」
「え、はい。分かりました」
(あー、昨日のことか、なに言われるんだろ、流石にクビとかはないと思うけど)
そんな事を頭の中で巡らせ社長室に向かう。
「失礼します」
三回ほどノックをして部屋に入る。
中に入ると待っていたのは社長と後輩だ。なんで後輩とも思ったがこいつがやらかしたのだから当然だと思い考えるのをすぐにやめた。
「君、田所くんにパワハラを行ったそうだね」
「え!してません、してませんよ!」
焦ってる否定をする。
「でもねぇ、本人が言ってるんだよ。」
(どういう事だ!なんでこいつが)
何か弁解しなくては、最悪の場合クビになってしまう。
「やってないものは、やってないんですって。なぁ田所怒らないから嘘だと言ってくれよ」
出来るだけ無様に見えるように頼み後輩の情に訴えかける。屈辱だが職を失うよりはマシだ。
「僕は先輩に『契約を切られたのはお前のせいだ、責任とって会社をやめろ』と脅されました。何度謝っても許してくれませんでした、なので僕も先輩を許しません」
「だそうだ、君には悪いが今日限りで会社を辞めてもらう、今までありがとう」
「だからってなんで俺が「クビだ・・出ていってくれ」
十年間勤めた会社を入社二年目の奴にクビにされた。
長年勤めた会社をクビにされた彼の心の中は、怒りでも、悲しみでもなく、落胆であった。
人への落胆、この世界への落胆、なのより大きかったのは何もできなかった自分に対しての落胆だ。
「・・帰ろう」
思考停止しかけている頭でかろうじて出た案がとりあえず家に帰る事だった。
帰るため駅のホームで電車を待つ。
テンテン♪テンテン♪テンッ♪
電車の到着を知らせる音声が聞こえる。
その時は判断力が低くなっていたのだろう。
電車が到着し切る前に前に歩き出してしまった。
「あっ・・・」
急に地面がなくなる感覚で我に帰るが、その時すでに電車は目の前まで迫っていた。
電車は止まる事なく男を吹き飛ばし、クビと胴体を切り離す。
(轢かれたのか、痛いなぁ、でも生きてても何もないしちょうどいいか・・・もし来世があったら英雄かヒーローになりたいな、それで世界中の人に愛される存在になりたい、まぁあるわけないか・・・)
途切れゆく意識の中で子供の頃の夢を思い出していた。
20XX年X月XX日 田嶋 優は死んだ
ありがとうございました。




