第90話 エーミール絶対殺す勢の疾走
だだだだとボルトの飛び交う路上を走る。
足下に階段状に障壁を作って、空中を駆け上がって四階建ての建物の屋根に乗る。
魔力で身体強化して、馬の走る速度で屋根の上を高速移動する。
ガンガンと障壁がボルトを跳ね返し、ひびが入り、割れていく。
そのたびに新しい障壁を前面に出す。
走る走る走る。
近づくごとにボルトの威力が上がっていき、障壁を貫いて、私の体に当たるボルトが出始める。
手に当たる、足をかする。
障壁を砕き抜いて来た時にボルトの運動エネルギーはほぼ無くなっているから、かすり傷だ。
エーミールが手をあげる、もうすぐショートボウの射程距離だ。
奴が手を下ろす、ショートボウの矢がくる、同じタイミングで詠唱。
『ライト』
すかさず手で自分の目を覆った後、八倍魔力で崩壊!
バッシュッ!
閉じた目越しにも強い閃光を感じる。
間を置かず、アンヌさんの爆裂矢が時計塔の屋根を爆破していった。
「ぐあああっ! 目が、目が~~」
バルスバルス。
遠距離攻撃に閃光魔法は相性が抜群だ。
狙うには目標を注視しないといけないからなあっ。
障壁を階段状にして、時計塔に駆け上がる。
屋根の上では、エーミールと弓兵が目を押さえてぐねぐねしておる。
いっひっひ、高低差があるだけで、やることは何時もと一緒じゃいっ。
時計塔の屋根の上に到着、狙うはエーミールの体の中心だ。
駆け寄ってー、足を振り抜く。
メキョリキ。
「うぎょえぐわばっがあああっ!!!」
嫌な音と感触がして、エーミールが絶叫しながら吹き飛び、時計塔から転げ落ちていった。
転落死するか、と思ったが、途中の階で軽甲冑を着た女が空中のエーミールを受け止め引きずりこんだ。
ちっ、運のいい奴め。
「くそっ!! 撤退だっ!! エーミール隊、撤退するっ!!」
軽甲冑の女が号令を発し、時計塔の中でごそごそと大人数が移動する音がした。
「ざまぁ」
うひゃひゃ、勝った勝った。
勝利の余韻に浸りながら、あちこちに付いた軽い傷をヒールで治しながら、障壁階段で路上に降りる。
カロルの方へ歩いていくと、三人がわっと駆け寄ってきた。
「マコト!! 危ない事をしちゃ駄目よっ!! 心臓が止まるかと思ったわよっ!!」
カロルが私の肩を両手でつかんで揺すぶった。
「ご、ごめんよう、我慢ができなかったんだ」
「それでも駄目よっ!! おねがいだからっ」
「うん、心配かけてごめんね」
カロルが私の背中に手を回して、ぎゅっとハグしてきた。
彼女の早い心臓の鼓動が伝わってきた。
あー、凄い心配かけたかー。
ごめんよー。
そして、抱きしめられると、あたたかくてやわらかくて、とても幸せ。
アンヌさんとダルシー、いや、カロルもだな、目をしばしばさせていた。
それぞれの目に手を当ててヒールを掛けてあげる。
さすが八倍の閃光魔法である、あの距離でも効果があったようだ。
「目の中のギラギラが消えました、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「あの閃光は何倍なの?」
「八倍だよ。エーミールはたぶん失明してる、治療にしばらく掛かるとおもうよ」
「そうですか、閃光魔法は遠距離特化型への相性が最高ですね」
アンヌさんはバランス良く戦況を見るなあ。
ベテランって感じでとても良い。
ダルシーはそこらへん少し弱いかな。
「しかし、一人で十傑衆の一員を下すとは、マコトさまは凄いですね。特に障壁魔法の使い勝手が卑劣クラスに有用です」
障壁魔法は何枚もはれるし、見えないし、足場にもなるし、チートだよねえ。
まだまだ応用できそうであるよ。
ダルシーの目が潤んでいて、胸の前で握りしめられた手が細かく震えている。
「ど、どうしたのダルシー?」
わ、目から涙でたーっ、私が泣かしたーっ!?
「ご、ごめんなさい、マコトさま、私、私は……」
依然としてカロルが抱きついてるから、ダルシーにリアクションを返せない。
かといって、カロルを振り払うのもなあ。
手だけ出してみた。
ダルシーは愛おしげに私の手をとり抱きかかえるようにした。
「死んでは駄目です、絶対に、私が守ります」
んー、ダルシーは昔に何かあったんだろうなあ。
大神殿でやさぐれる原因が。
いつか、自分から話してくれたらいいな。
役人が来たので、事情を説明した。
王都内で戦闘は控えてくださいと言われたが、それは襲撃側に言ってくださいよ。
失明した弓兵が十二人捕まって、屋根の上から下ろされた。
こいつらは治安局に連行されて尋問される模様だ。
まあ、ポッティンジャー公爵家が裏で手を回すのだろうけどねえ。
そうでないと十傑衆みたいなふざけたグループは生まれないだろうから。
「さあ、学園に帰りましょう」
「そうね」
抱き癖が付いたのか、カロルがずっと私と接触しているのだが、私としても、柔らかいし、良い匂いなので問題なし、心がぽかぽかするんじゃー。
腕組みをする感じで、カロルと私は学園に向かって歩き出した。
諜報メイドどもはまた姿を隠した。




