第91話 時計塔事件を解題する、あとマリリン
カロルと手をつないで時計塔の近くへと歩く。
……。
あれ?
路上に塗料で×印が描かれている。
×印と時計塔の距離を目で測る。
「どうしたのマコト?」
「ああ、エーミールの布陣が変だと思った。あれは馬車を襲う布陣だったんだな」
カロルも路上の×印と時計塔の屋根を見比べた。
「ここで、サーヴィス先生の馬車を狙って打ち下ろす感じだったのね」
「ここまで来れば、時計塔の屋根の上からのボウガンとショートボウで必殺を期待できるからね。逃げも隠れもできない、最終的には馬車ごとハリネズミみたいにできるのだな」
「先生の馬車に乗らなかったのが幸運だったのね」
馬車から出ても、時計塔の中腹に兵がいるので屋根の上のエーミールには簡単には攻撃できない。
ここで襲われなくて良かった。
ボウガンのボルト相手だと、障壁も当てにならないからね。
サーヴィス先生の馬車のぼろさに感謝だなあ。
ライル家方面からの道は、堀に面していることもあり、時計塔の麓に集まるんだ。
さすが遠距離特化の狙撃型だね、良い場所を選ぶなあ。
まあ、相手が障壁を駆け上がって来たりしなければですけどね。
常識的な相手だとエーミールも、なるほど脅威度Sだなという感じだね。
エーミールは馬車必殺の陣を組んで我らを待ってたのだけど、こっちが徒歩で来たので、超長距離狙撃に切り替えたのだろう。
私を狙って撃ったボルトをダルシーの献身で防がれたという事だ。
ぐだぐだな布陣かと思ったら、そうでもなかったな。
まあ、エーミールの奴は、やっつけちゃったから問題が無いけど。
目が治るまでは大丈夫だね。
奴の布陣は理解したので、カロルと手をつないでぶらぶらとお散歩再開である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぶらぶら歩いていたら、あっというまに学園である。
買い物は昨日したしな。
「カロルは錬金?」
「うん、今日の分やっちゃわないと」
私の嫁は勤勉であるよ。
勤勉で無い私は何をしようかな。
女子寮に向かうカロルと分かれて、ぶらぶらと集会棟へ向かう。
155号室のドアを開けると、中にはカーチス兄ちゃんと、ガタイの良いご令嬢がいた。
「カーチス、こんちわ」
「お、マコト来たか」
ガタイの良い令嬢はにっこり笑って頭を下げた。
誰?
「こいつはマリリン・ゴーゴリー、俺がポッティ派閥からぶっこぬいて来た逸材だ」
「いやだわ、カーチスさまったら」
ああ、そういや、池の周りに居て、私が踏み台にした頑丈そうな令嬢だわ。
マリリンというイメージではないけどなあ。
「ゴーゴリーさま、宜しくお願いします、派閥の領袖をやっている、マコト・キンボールです」
「マリリンとお呼び下さいませ。キンボールさま」
「マリリンさん、では、私もマコトで」
「マコトさま、敵対派閥から来ましたけど、仲良くしてくださいましね。得意なのは、社交と刺繍です」
でっかいのに、趣味は乙女だなあ。
「こんにちはー、あっ、マリリンッ!!」
「まあまあ、メリッサちゃんっ!!」
メリッサさんが、集会室にやってきて、マリリンを見つけ、飛び込むように抱きついた。
「マリリンも聖女派閥に入ったのねっ、うれしいわっ」
「メリッサちゃんも派閥になじんでるみたいね、良かったわ」
二人は抱きしめあって喜んだ。
「ごめんなさいね、池に落とす事に反対できなくて」
「ううん、マリリンは気が弱いからしょうがないよっ、恨んでないからっ」
「ぐすん、そう言ってくれて嬉しいわ、なんとか後で助けようと棒を用意していたのだけど、聖女さまに助けていただいて助かったわ」
気が弱いのか、マリリン。
悪い子じゃ無さそうだね。
というか、何を思ってマリリンをぶっこぬいて来たのだ、カーチス兄ちゃん。
「なんでまたという顔をしてるなマコト」
「なんでまた」
「マリリンは逸材だからだ」
「まあ、はずかしいですわ、カーチスさま」
「なんの逸材?」
「マリリンは磨けば王国一の女騎士になれるっ」
「「「……」」」
集会室を沈黙が覆った。
「わ、私、その、武道はやったことがなくって、夢はお嫁さんで、その、女騎士だなんてっ」
「大丈夫だ、俺がお前の才能を保証してやる、お前は絶対に武道に向いている」
「そ、そんな、カーチスさま」
カーチス兄ちゃんが無茶ぶりをしているなあ。
おまえは、一昔前のスポーツ漫画のコーチか。
「さあ、マリリン、ブロウライトのタウンハウスに行くぞっ、お前に似合った甲冑と武器を、俺が選んでやる」
「そ、そんな、カーチスさまは強引ですわ」
カーチス兄ちゃんはマリリンの手を引いて、集会室を出て行こうとしている。
「私も付いていって良いですかっ、カーチス様っ」
「うむ、メリメリも来るかっ」
「メ、メリッサです……」
「メリメリは俺が付けた愛称だ、南の暗黒大陸にいる植物魔物の名前だ」
「そんな、コワイ愛称はいやですーっ」
「文句を言うな、メリメリ、さあ、行くぞマリリン」
マリリンには愛称を付けないんだな。
というか、名前を適当に言って、間違っていたら愛称と言い張るのはやめろ、カーチス兄ちゃん。




