第1576話 ミラナの昇天
廊下をヒューイで疾走させる。
十字路のようなところで、倒れたアントンを抱きしめているミラナと、頭が凍ったボンボンの死体があった。
「ミラナ、大丈夫か?!」
「マ、マリー、や、やばい、早くアントニアさんを治してくれ。なんとか傷を凍らせてはいるけど、体温が下がっていて」
「判った!」
ヒューイから跳び降りて、アントニアさんの容体を『オプチカルアナライズ』で調べる。
ピーーン!
微弱だけれども生命反応はある。
すぐ治す。
『ハイヒール』
私が傷口に当てた手が青白く光り、傷が消えて行く。
ふう、危ない所だった。
あと三十秒ほどで昇天する所だったよ。
「もう、大丈夫……?」
「ああ、お手柄だ、ミラナ」
「ああ、良かった、アントニアさん、良かった」
「お前はよ?」
愛しげにアントンを抱きしめるミラナの姿が透けはじめていた。
魔力が無くなっているなあ。
「ボンボンを氷玉で攻撃したんで魔力が無くなったよ……」
「そうか、消滅だな……」
「うん、でも、良いんだ」
「そうか」
「アントニアさんが、私の代わりに生きてくれるよ」
「そうだな」
アントンが息をひゅっと引き入れて、目を開いた。
「ああ、ミラナさん、助けてくれ……」
彼女は半透明になったミラナを見て悲鳴を上げた。
「どうしてどうしてっ!! ミラナさんっ!!」
ミラナはそんなアントンを見て、優しく微笑んだ。
「旅、楽しかったなあ、アントニアさんのお陰だ、ありがと……」
お礼の途中でミラナは粒子になり、分解した。
光の欠片が空に向けて登って行く。
「ああ、本当に昇天するんだなあ」
「どういう、どういう事なの、マリー! ああ、なんであなたは? 聖女マコトなの? これは夢なの?」
「残念だが現実だ、アントン。ミラナは魔力を使い果たして昇天していった」
「どうして、私なんかを助けなくても良いのに、どうしてっ」
「旅を終わらせるよりも、アントンが死なない方がミラナにとって大事だったんだろうよ」
「ああ、ミラナさんっ」
アントンは胸をかき抱いて号泣した。
安らかに眠れ。
ミラナ。
不意にイメージが浮かんだ。
ミラナを思わせるような女の子と、アントンを思わせるような女の子、よく似ていて双子かな。
どこかの農場で二人で楽しく暮らしているビジョンが、浮かんだ。
来世かな。
「来世は、どっかの農場で、ミラナと双子の姉妹になれるみたいだよ。幸せそうな光景が見えた」
「ああ、ああっ」
「だから、今世はミラナの分もしっかり生きるんだ」
アントンは返事をしない。
ただただ、首を横に振って、泣いた。
うん、今はお泣き。
アントンをヒューイに乗せて、私は手綱を持ってホールまで歩いた。
おばちゃん尼さんたちが泣いているアントンを抱きしめてあげて、慰めていた。
ホールではハンネス伯爵の兵隊ではない練度の高い騎士団が制圧していて、アンヌさんが何やら指揮を取っていた。
「マコトさま、大丈夫でしたか」
「カロルは?」
「伯爵の執務室で証拠を押さえてらっしゃいますよ」
「暗殺計画を知ってたんだ」
「ええ、いろいろ雑でしたからね、カロリーヌさまが自ら囮になった感じです。ですが、さすがにマコトさまが助けにいらっしゃるのは想定外でございました」
「たまたまだよ~」
まあ、あんな粗雑な計画だと騙される方がおかしいか。
「ミラナはどうしましたい? 聖女さま」
「んー、というか驚かないのか、おばちゃん」
「二人は私が頼んだ、ベテランの尼さんですよ」
ヴィヴィアンヌさまがそう言った。
なんとー!
「元売女は本当だて」
「嬰児殺しもだぜ」
「ふふ、二人とも大きな修道院の院長先生ですよ」
「うおーー」
どでかい心の尼さんと思ってたら、ただ者じゃ無かったのか。
「久々に巡礼旅で楽しかったねえ」
「ああ、まったく、マルトとアントニアは、うちの修道院で貰うよう」
「なにおっ、一人ずつだろう、なんてえ欲深だい」
そうか、巡礼の旅で修道女の試験をしていた感じなんだろうなあ。
「ミラナも居れば、貰って行く所なんだけどねえ」
「なんか、曰くがあったんだろう、聖女さんや」
「あいつは魔物でさ、魔力を使い果たして消滅した」
「「おお」」
おばちゃん尼さん二人の顔が歪んだ。
「魔力が光の粒子に変わって昇天したから、たぶん輪廻の輪に入ったよ」
「それは」
「ああ、なによりだね、輪廻の旅の果てで、またミラナとも会うことがあるだろうね」
おばちゃん尼さんたちはホーリーシンボルを出して、天に向けて祈った。
そうだね、早く地上に戻って来なよ、ミラナ。
ドアを開けてカロルが入って来た。
マメちゃんを引き連れているな。
な、なんか表情が険しいな。
うん、怒られるかな。
あれだ、あんまりカロルが怒るようなら、蒼穹の覇者号を呼んで王都に帰ろうか。
どきどき。
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