第1574話 アントンは選択する
Side:アントニア
お城の廊下の十字路まで、私はカロリーヌさまを案内してきて、立ち止まりました。
このまま北に向かえば、兵隊が沢山いて、カロリーヌさまはとらわれの身となります。
ここから西に折れれば、階段があって誰にも知られず城外へと出ることが出来ます。
立ち止まった私を、カロリーヌさまは大きなよく動く目で見ています。
「どうしましたか? どこに行くのですか?」
私はエドガールの計画通り、お見せしたい物があるから一緒に来て下さいとカロリーヌさまを誘い、彼女は疑いもせずに付いてきたのです。
「お逃げください……、西に行けば階段があり、城外へと逃れる事が出来ます、これは、あなたへの暗殺なのです……」
カロリーヌさまは、この人は何を言ってるのだろうという表情を浮かべてこちらを見ています。
「麻薬禍の中では山高帽の手下だったアントニアさんですよね。どうして私を救うような事をするのです?」
「気付いて……」
わあっと、広間の方から兵のときの声が聞こえてきました。
ガンガンという音、物が砕ける音。
「あれは? 広間には私の兵隊はいないのに……」
「巡礼の尼さん達を殺して、あなたの暗殺の下手人にするつもりなのです……」
「なっ!!」
カロリーヌさまは表情を変えて踵を返しました。
「騎士団を連れてきますっ、あなたは裏切ったのですからどこかに隠れていらっしゃいっ」
「逃げてください、そんな、どうして騎士団を」
「私の大好きな親友は、教会の巡礼団が殺されたら悲しむんですよっ」
ジャリジャリジャリーンと彼女のスカートから大量の鎖が現れて、馬のような形に組み上がりました。
彼女はそれに跨がりました。
「やっぱり、一緒に行きましょう、危ないです……」
「裏切ったなあっ!! アントニア~~!!」
エドガールが激怒の表情を浮かべて走ってきました。
私は彼の前に立ち塞がりました。
「早く逃げて!!」
「判った、すぐ騎士団を連れてくる!!」
カロリーヌさまは鎖の馬で廊下を飛ぶように駆け去っていきました。
「どういうつもりだ、お前はカロリーヌ・オルブライトを誘い出して捕まえる役目だろうっ!!」
「もういやなのよ、悪い事をして人に恨まれるのは、もういやなのよ、あなたもおやめなさい、エドガール」
「ふざけるなっ!! カロリーヌをおびき出すのにどれだけの時間が掛かったと思っているんだ、使えない女めっ!!」
エドガールは腰に下げた長剣を抜きました。
廊下の蝋燭の光の下、剣はギラギラと光ってます。
「ワンワンワン!!」
マリーの子犬がエドガールに猛然と飛びかかり、耳をかみちぎって廊下に着地しました。
「ぎゃあっ、な、なんだ、このクソ犬めっ」
「ワンワンワン!!」
マリーの犬はぺっとエドガールの耳を吐き出すと、私の足の間をくぐって、カロリーヌさまが行った方へ駆けていきました。
「耳が、俺の耳が、お前のせいだっ!! くそうっ! くそうっ!! はやくカロリーヌを連れてこいよっ!!」
「もういやなのよ、巡礼団の旅で、私は大事な人が何人もできたわ、でも彼女達は殺されてしまう、だったら、私もいっしょに死ぬわ」
「じゃあ、しねええっ!!」
エドガールは剣を振り上げました。
「アントニアさんっ!!」
ああ、ミラナさんは生きている、ああ、ときの声が聞こえて、もう駄目だと思ったのに、元気にこっちに走ってくる。
その瞬間、エドガールのピカピカの剣が私の胸をざっくりと切りました。
剣で斬られるのは初めてで、痛いというよりも、凄く熱い感じで、足から力が抜け、膝にざばざばと血が降りかかりました。
ああ、久しぶりの綺麗な若草色のドレスなのになあ。
血で汚してしまうなんて。
ああ、でもでも。
「ミラナさん、逃げて~!!」
「アントニアさんっ!!」
ミラナさんは絶叫しながら、こちらに突っ込んできました。
エドガールがニヤリと笑って私の血で汚れた剣を振り上げます。
私は最後の力を振り絞り、エドガールにつかみ掛かりました。
「は、はなせっ!」
ミラナさんは片手に握った、まっしろな珠のような物をエドガールの顔面に叩きつけました。
「ぐあああっ! な、なんだっ、こ、凍る、冷たいっ!!」
エドガールは廊下に吹き飛ばされて転がりました。
顔からピキピキと真っ白な氷柱が生まれ、壁や廊下に這い回り、エドガール本人は痙攣して動きを止めました。
はあ、ミラナさんが斬られなくてよかった。
私は脱力して、廊下に膝を着きました。
「アントニアさん、しっかりしてっ、今、マリーが来るから」
「大丈夫、うん、大丈夫、最後にミラナさんの顔が見れてうれしいわ。本当に、本当にありがとう」
「馬鹿、死んじゃだめだっ! 一緒に山奥の教会でお料理をして暮らすんだろうっ!!」
ああ、本当に、そんな日が来たらよかったなあ、ミラナさんといっしょに同じ教会で穏やかに暮らして、たまにマリーとかマルトさんとか、尼のおばちゃんたちとかと会って、楽しく暮らしたかったなあ。
でもこの血の出方だと駄目だろうなあ。
凄く寒くて、もうすぐ死んでしまうのだろう。
ああ、学園ではずっと探しても見つからなかった本当の友達が、いやいや参加した巡礼の旅で見つかるなんて。
ミラナさんが私を抱きしめてくれている。
血を出しすぎて体温が下がっているのか、ミラナさんの体温が暖かくて心良い。
「アントニアさん、あなたは私が消滅しても、絶対に死なせない、絶対だ」
そんな言葉を聞きながら、私は幸せな気持ちで意識を失った。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




