第98話 昼休みに学園長に呼ばれたぞ
A組の教室に入ると、カロルが小さく手をふってきた。
「おはよう、カロル」
「おはよう、マコト」
真面目なカロルは今日も教科書を机に出して予習をしていた。
エルマーが入ってきて席についた。
「……おはよう、マコト」
「おはよう、エルマー」
今日は武道が無いので四コマ座学であるね。
歴史、国語、数学、魔術理論であるよ。
アンソニー先生がやってきて、ホームルーム。
にこやかだが、今日はたいした連絡は無い模様。
座学座学~。
基本的に私は基礎スペックが高いのか、勉強は得意であるよ。
前世では考えられないぐらい、記憶力も発想力も高い。
知恵があるのはとてもよい。
でも、なんか自分でも感じるぐらい、行動が馬鹿っぽいのは私の選択の方向が変なのかもなあ。
かならずしも知識は賢明を保証しないのだな。
さらさらっと座学終了。
魔術理論がちょっと難しいかな。
まだ一年生だから概論程度なんだけど、もうすこし深くなってきたらエルマーに教えてもらわないといけないかも。
勉強が出来るお友達は貴重よね。
さてさて、お昼であるな。
「マコト、今日はどうするの?」
「どうしようか、ひよこ堂に行く?」
「そう……、しよう」
昨日のお昼は散々だったからなあ。
ひよこ堂でパンを買って、自然公園で食べようかね。
おろ? アンソニー先生が寄ってきたぞ。
「キンボールさん、学園長がお呼びですよ」
「え、なんでまた」
「そこまでは知りません、また何かしましたか?」
「ん~~~」
なんだろう、ここの所で大きいのはエーミール戦ぐらいだけど、学園長は関係が無いしなあ。
とりあえず行ってみよう。
「カロル、悪いけどパン買っておいて」
「わかったわ、集会室に置いておくね」
「聖女パンと、ハムベーコンで」
「了解よ」
こういうときに親友は助かるぜ。
廊下をアンソニー先生と共に歩く。
「学園長はポッティンジャー公爵家派閥です」
「そうなんですか」
「ですので、理不尽な要求をされるかもしれません」
「そうですね」
なんだろう、いきなり退学言い渡されたらかなわないな。
「そんな時は言って下さい、国王派閥の教師を集めて抵抗します」
「え?」
なんでまた、国王派閥の先生たちが?
「キンボールさんは、いつも突拍子も無い事をしでかして、頭が痛いです」
「す、すいません、いつもいつも」
「でも、詳しい事情を知れば、あなた自身は何も悪く無い事が多いです」
「あ、ありがとうございます」
「あなたは基本的に善意で動いて、回りの人に良い影響を与えていると思います」
「は、はい」
なんだよ、アンソニー先生、そんなに褒めるなよう。
照れちゃうぞ。
「ですので、いわれの無い理不尽な決定が出た場合、それに反対するのは教師の務めなのです」
「何時も怒られていますが、私もアンソニー先生は良い先生だと思いますよ」
「あ、ありがとうございます」
アンソニー先生がちょっと赤くなった。
うん、私は、先生の事、大好きだよ。
学園の一階、一番奥に学園長室はあった。
重厚な扉がどどんとあるな。
アンソニー先生がノックをしてドアを開ける。
「やあ、来たね、マコト・キンボールくん、私が学園長のフランク・ダドリーだ」
学園長は髭のダンディな感じのおじいさまであった。
「初めまして、フランク学園長」
にこやかに笑ってカーテシーを決める。
「ヘーゼルダイン先生ご苦労だった、下がってよろしい」
「差し支えなければ、私も同席したいのですが」
「それには及ばない、下がりたまえ」
「……はい、失礼します」
アンソニー先生は心配そうな視線を私に向けながら退席した。
大丈夫、心配しないでよ。
さてー、フランク学園長、どうでますかな。
彼は豪華な応接セットに私を誘った。
おお、凄い良い皮だな、このソファ。
すべすべ。
学園長はテーブルに、ぽんと羊皮紙で出来た書類を置いた。
「カルホール神学校への転入届だ、これにサインをして、君は学園を去りなさい」
「なんでまた」
学園長はテーブルに肘をついて、ため息をついた。
「これ以上、学園で派閥闘争をされるのは困るんだ。十傑衆まで出てきたと言うじゃないか」
「それは、ビビアン様に言ってくださいよ、こっちが希望してるわけじゃないんで」
学園長はにこりと笑った。
「肝が据わっているね、さすがは未来の聖女さまという所だが、このままではどちらかに人死が出る、解ってくれないか」
「学園長は生徒に公平に接するべきでは無いんですか?」
「偉い年寄りでもね、やはりひいきはあるんだ。思い出深いジェームズの孫だ、なんとか良くしてやりたいと思うのは自然な事ではないかね?」
学園長、率直だなあ。
ごり押しで来ない所は好感が持てるが、それは知り合いを贔屓しまくるというのといっしょじゃんよ。
「割を食う方としてはたまったものではないですね。学園長がポッティンジャー公爵家派閥を押さえる事はできないんですか?」
「君が思って居るよりも、ずっとジェームズは偉大な男だった、王になるべき男だったんだ、だから、その子孫である、ポッティンジャー公爵家の血がこの国を支配するべきだと、私は考える、いや、私ではないね、私を含む、ポッティンジャー公爵家派閥の貴族たちだ」
「それは、謀反じゃないんですか?」
「キンボール教授の養い子なら解るだろう、こんな事は良くある事なんだよ」
「ええ、良くあって、内乱の元だって知っています」
学園長はにっこり笑った。
「噂に聞いている愚劣な娘というのは間違いなのだな、なんとも聡明な子だ、私としても、君のような子は、この学園で学んで可能性を開花してほしいのだが、なんとも残念だよ」
ああ、これは、じじいでインテリでジェームズ信者なのか。
うーむ、わたしは今、学園を追い出される危機であるな。
舌戦で居場所を勝ち取らないと駄目か。
めんどくせえええ。




