前編
私の親友は、男の人が好き。
「今、幸せ?」
「まぁ、今の所はね」
そう言ってはにかむ親友に、なんだかこちらまで幸せな気分になる。今の所はね、なんて。開けっぴろげに幸せをひけらかさない、そんな品の良い親友が、私の自慢であった。
私の親友は、男の人が好き。
私の親友は、男の人だったけれど。
「うわああああんもう知らないもう知らない彼氏とかもう当分いらないいいいいい! こっちから願い下げてやるー! 男なんてみんな一緒のろくでなしだよー!」
私の雄叫びに、親友はおやまぁと苦笑する。またいきなりだねぇときたばかりのライムサワーに口を付けた。
行きつけの居酒屋で、月に一度、私たちは飲み会をする。それはいつから始まったことかは分からない。知り合ったその月に、たしか私がその当時付き合っていた彼氏と別れて、荒れていた所へ、私が知り合ったばかりの親友を誘ったのだと思う。
親友の恋愛観を知ったのは、知り合う前だったか知り合ってからだったか、正直覚えていない。
ともかく、月に一度のお決まりになった二人きりの飲み会で、私たちはお互いの近況を報告するのだ。
恋の話を、ひたすらするのだ。
私はいつも、彼氏とラブラブな時は惚気て、別れた時は泣きわめき、いない時は相手の話を聞いてあげる。
親友は、いつも私の話を聞いて、時々、こぼれるように自分の話をしてくれる。彼氏がいない時くらいは、私だって聞く姿勢をちゃんととる。だけれど、それでも、親友はあまり自分の話を沢山しない。
話したがらない、と言うのとは、別である気がする。
まぁ、確かに、私に男心について相談されても、困ってしまうのだけれど。
お互いの知人を紹介することは、あまりない。どちらにとっても難しい(めんどくさいとも言う)話になってしまうためである。
うわあんうわあんと喚く私を慰めながら、何がどうなってそうなったの。また何かしたの。今度はどっちから言い出したの。と、親友は情け容赦なく聞いてきた。根掘り葉掘りと私の傷心などおかまいなし。お互い何度目のことであるか数えきれないため、遠慮など今更だった。
親友と出会ってから、何人目の彼氏だろうか。別れるたびにもう彼氏なんて作らないと親友に向かって啖呵を切って、一番早くて二日目で新しい彼を作ったこともあったような。
自分がひどい恋愛体質であることは、自覚している。
親友も、知り合ってから何人か彼氏が変わっている。彼氏と別れた時は私のように泣きわめくことはないが、やっぱりしょんぼりしていて、いつもは親友が率先して取ってくれる注文を、私が取る。
私が注文すると、居酒屋なのになぜか甘いものがテーブルに並び始めるため、親友は苦笑して私にストップをかけてくる。しょんぼり顔が少しでも笑みに近づくのを見て、私はほっとする。甘いものを注文するのは、自分のためだった。
「それはねぇ、君の見る目がなかったんだよ」
うじうじと私が事情を話せば、ばっさり、さらりとそう言ってくる親友を、私はきっと睨みつけた。「そんなことないもん!」勢い込んでそう言うものの、優しげに苦笑する親友の目が合った途端、語尾が消え入るほど小さくなっていく。
むう、と頬が膨らんだ。
「その、なに。元カレさん? の、行動の端々に、気になって目についちゃう所があったなら、それは最初の段階で切るべきだった」
「うー」
「同じこと何回やってんの。確かその前の彼氏と別れた時も、俺これ言ったと思うんだけど」
「だって! その時は別にいっかって思ったんだもん!」
「君は出会ってから付き合うまでが早すぎるって、なに、平均二日か三日じゃないの。最短で半日? いや三時間? 長くてっていっても、一週間もないでだろう」
「うー」
猛獣みたいだよ、と、親友は笑った。唸った私は、さっとメニューへ視線を走らせ、拳を作って両手をあげた。
「じんとにっく飲むー!」
はいはい、と、親友は「それ威嚇?」と笑いながら、店員さんを呼ぶ。
店内にて、最近流行の曲が流れる。あぁ、もうすぐこの曲発売だった。買わなきゃ、と思いながら、私は親友を見つめて聞いた。
「そういうあんたはどうなの」
そう言えば、最近別れたと言う話を聞かない。
あー。と間の抜けた声を上げて、親友は首を傾げた。頬杖をついて小さく浮かべる笑みに、(あ、惚気だ)と身構える。
「そうだね。もうすぐ一年になるかなぁ」
「一年!」
のけぞるほど驚く私を、「続いたことないもんねぇ」と親友が胸中を言い当ててくれる。だって一年だ。そんなに続いたことない。続いても三ヶ月だ。あり得ない。奇跡。ミラクル。
「じゃー、その人で決まり?」
「ん?」
「じゃあ、ずっとその人と一緒じゃんね!」
なんだか楽しくなってきた。きらきらした目でそう言えば、親友はきょとんと瞬いて、控えめに笑う。
私たちは何年も友達で、何人ものお互いの彼氏の話を聞いてきた。私に比べると、そりゃぁ親友の彼氏の数は少ないけれど、それでも、何人か知っている。片手が足りるか足りないかの人数はいるはずだ。
そのうちの何人かは、私が原因で別れているのだ。
女の子と二人きりで毎月飲むような親友を、信じきれないと突き放すのだ。それはそうだ。女の子に走られてしまえば、彼らはぐうの音も出ない。傷つく前にと突き放すのだ。
その度に私は、やめようと言う。毎月の飲み会。友達でいることを。それでも親友は、「それとこれと話が違う。好きになってくれる男の人は何人もいるけれど、こんな風に話を聞いてくれる親友は、なかなかできるものじゃない。だから、俺は恋人よりも親友を取る」ときっぱり言い放ったのだった。
だから私は、「親友よりも愛する恋人ができたなら、その時は突き放してくれても良いんだからね」と言うことしかできなかった。「あり得ないよ」と、笑う親友はまぶしかった。
だから私は、親友のことを心の底から好きだと言って、親友が心置きなく幸せにしてあげれて、幸せになれる誰かの存在を、待ち望んでいる。
だって、こんなにも素敵な優しい人は、幸せにならなければ嘘だから。
それにしても、好きになってくれる男の人は何人もいる、だなんて。
私の親友は、大した自信家です。
「今、幸せ?」
「まぁ、今の所はね」
そう言って、控えめに、この人は惚気るのだ。
んで、君は今回一ヶ月で別れたよねと、親友はいらない一言を付け加えるのだ。
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