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即位の日の逃亡

1話の続き

一度目の逃亡に失敗した俺、テナート・アスカテシアは。

「いっとくが、何もしないからな」

「ええ、存じております」

「もう!照れちゃって…!」

「うるさいわ!」

ステファニーとメイラに挟まれながら、実に居心地の悪い夜を過ごしていた。

左右から完璧に監視され、逃げ道はゼロ。

(地獄か?)

そして迎えた、王位継承当日。

王都は祭りのような賑わいに包まれていた。

街は装飾で彩られ、各国の要人たちも続々と来訪している。

(くっ……このままでは本当に王に……)

現実から目を逸らしたくなるが、時間は待ってくれない。

「時間です、坊ちゃま」

無慈悲な宣告と共に、ステファニーが現れる。

「くれぐれも、逃げようなどとお考えにならぬように」

「……わかってるよ」

ここまで来れば、さすがに無理だ。

俺は観念したふりをして、自室を後にする。

外へ出ると

「テナート様だ!」

「万歳ー!」

民衆が道の両脇に押し寄せていた。

護衛に囲まれながら進む中、祝福の声が飛ぶ。

……だが。

「なんで王女様じゃないんだ……」

「本当に大丈夫なのかしら……」

疑念の声も、確かに混ざっていた。

(ふっ……)

思わず口元が緩む。

(狙い通り)

事前に流しておいた噂。

王子は頼りないという評判を、あえて広めておいたのだ。

(せめてもの抵抗だ……!)

そんな声を背に、俺は式典の場へと向かう。

たどり着いたのは

勝利の玉座庭ベストローネ

建国の英雄ヴァルディオスが、独立を宣言した伝説の地。

王国の象徴とも言える場所だ。

そこには既に、先代国王ヴァルディオスをはじめ、貴族や各国の来賓、そして無数の民衆が集まっていた。

「待っていたぞ、我が息子よ」

父が静かに告げる。

圧倒的な存在感。

やがて、式が始まる。

「我がアスカテシア王国の王、ヴァルディオスは――」

厳かな宣言。

そして王位継承の証は

聖剣グラン・レガリア

代々王に受け継がれる象徴の剣。

(あー……これで俺も王か……)

父の演説など、正直ほとんど耳に入っていなかった。

(嫌だなぁ……)

ふと、くだらない妄想が浮かぶ。

(今から急に襲撃とかされないかなぁ……)

その瞬間。

ヒュンッ!!

空気を裂く音。

「っ!」

ヴァルディオスが即座に反応し、聖剣で矢を弾いた。

「うお、マジか!?」

思わず声が出た。

(本当に来た!?)

黒いマントの集団が、次々と現れる。

「きゃあああ!!」

悲鳴が響き渡り、会場は一気に混乱に包まれた。

「お前たち!王女様と貴族を守れ!」

ステファニーの指示が飛ぶ。

兵たちが動き出し、賊と激突する。

剣戟。怒号。混沌。

アスカテシア王国はできたばかりの小国だっため、敵国も多かった。

今回の襲撃もなんら不思議ではない。

だが

「……最高かよ」

俺は、1ミリも動じていなかった。

むしろ。

(逃亡チャンス!)

混乱の中、俺の存在など誰も気にしていない。

「死ねぇ!」

賊が斬りかかってくる。

「邪魔だぁ!」

賊を蹴り飛ばして、そのまま突破。

そのまま人混みを抜け、俺は逃げた。

「へへ……」

城外の森へと駆け込みながら、笑いがこみ上げる。

「誰も気づいてない……!」

(勝ったな)

多少の罪悪感はあるが、それよりも解放感の方が大きい。

「このまま隣国にでも逃げりゃ」

そう考えていると

「逃がしませんよ」

「っ!?」

背後から、殺気。

咄嗟に身をひねり、飛来した剣を避ける。

木々の間を跳び、軽やかに着地したその人物は

「おいおい……どんな登場だよ」

「少しでも目を離すとすぐ逃げるんですから」

ブレイン王国第三王女。

俺の婚約者のメイラルドだった。

手には、一本の剣。

それはただの剣ではない。

聖剣アストラクトレイン

ブレイン王国に伝わる、ありとあらゆる万物を斬り裂くとされる秘宝。

「なんでそんなもん持ってんだよ!」

「私の座右の銘は常在戦場」

「どんな場所でも、ありとあらゆる障壁を想定して日々過ごしていますから」

「意味わかんねぇ!」

だが、俺も剣を抜く。

「でもメイラさんよぉ」

「ステファニーならいざ知らず、女のお前如きで俺の逃亡を阻止できるとでも思ってるのか?」

「テナートは唯一、武術だけは一流だった」

「私を甘く見ないことですね」

構えながら、俺は笑う。

「いいこと教えてやるよ」

「俺の座右の銘は正々堂々だ!」

そして。

煙玉を地面に叩きつけた。

「相変わらず正々堂々のせの字もないですね」

煙が視界を覆う。

「無駄ですよ」

アストラクトレインの一振りで煙を倣う。

だがそこにテナートの姿はなかった。

「何!」

俺は全力で逃げていた。

「勘違いするなよ」

走りながら叫ぶ。

「俺は正々堂々と逃げる!」

清々しいまでの逃げ腰だった。

「仕方がないですね」

目を瞑り、深呼吸をする。

「応えて、アストラクトレイン」

メイラが静かに呟く。

次の瞬間。

斬撃が、飛んだ。

「はぁ!?」

距離など無視した一閃。

慌てて回避するが

「なんでもありかよその剣!」

だがそれで終わりではなかった。

斬撃によって切断された木々がドサドサと倒れ込み、俺に降りかかる。

「ちょっ――」

回避、間に合わず。

「ぐえっ!!」

見事に押し潰された。

「捕まえましたよ」

上から覗き込むメイラ。

「卑怯だろ!!インチキだ!!」

「テナート様だけには言われたくありませんわ」

にっこり。

完全勝利の笑み。

「さぁ、檻に戻りましょうね」

「嫌だぁぁぁ!!」

こうして俺は再び連れ戻されたのだった。

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