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船上


 「船を追いかけるには、船しか方法がないが……借りられたのは、こんなボート一台だけか」


 ニナたちの前にあるのは、大人が頑張って四人乗れる程度の小さなボートのみ。一方、ロレーヌをさらった船は大きな貨物船らしく機動力に大きな差がある。

 

 「このままでは、どう考えても間に合わないな……」


 ノアが吐き捨てるよう呟き、ニナたちの間に小さな沈黙が流れる。それを断ち切ったのはカミュだった。


 「ひとつだけ、方法がある」

 「な、どんな方法だ?」

 「俺がドラゴニュートの力を解放して、全力でボートを漕ぐ。それでもイチかバチかには違いないが、行けるかもしれない」

 「なんと……」

 「ただ、解放できる時間が限られてる。その時間でどこまで進めるかって問題と、時間が来たら俺はボートで倒れる。そうなったら、ノアお前ひとりで奴らを倒さないといけない。ニナも守ってもらう」

 「……」


 ノアはカミュの話を聞いた後、小さく深呼吸をしてからニナを見つめる。ノアの表情は今まで見てきた中で、一番落ち着いて見えた。


 「ニナ、私を信じてくれないか。エルフの戦士に掛けて、必ず君を守る」


 そう言って、差し出された手は震えるでもなく、真っ直ぐニナに向けられていた。ニナも、躊躇うことなく握り返す。


 「ニナは、戦うことは出来ないけど……でもニナも役に立つよ。一緒にロレーヌ、助けようね」


 ニナは守られるだけの存在としては、連れて行ってほしくなかった。共に力を合わせる存在でありたかった。

 

 「ああ、期待している」


 ノアは、力強くニナの手を握り返す。ぎゅっと込められた力が、彼女の思いを感じさせ、ニナは少し眉を下げる。


 「よし、じゃあ行くか」

 「カミュは倒れちゃったらどうするの?」

 「上手く体が動かせなくなるだけで、意識はあるから大丈夫だ。少ししたら戻るから、そしたらお前らを追いかける」

 「大丈夫というのかそれは……」

 「なんとかなるさ……それに、これしかない」

 「すまない……助かる」


 全員がボートに乗り込むと、カミュは瞼を閉じ、深く深呼吸をする。ゆっくりと中腰になり、拳に強く力を込めると、ゆらゆらとカミュの体から湯気が湧き立つ。

 ボートが揺れ出し、ニナは慌ててボートの縁を掴む。

 カミュが瞼を開くと、大きく口から湯気を吐き、「行くぞ、ノア、ニナをしっかり掴んでてくれ」と言ってオールを握る。

 ノアがニナの腰を掴み、「いいぞ」と答えると、カミュは大きくオールを漕ぎ出す。


「うおおおおおお」


 カミュの腕は残像が見える程のスピードで、オールを漕ぎ続ける。ボートは大きな水飛沫を上げながら、風を切り裂き進んでいく。


 ニナは余りのスピードに声すら上げられない中、必死でノアの腕を掴む。速すぎて目がほとんど開けないなか、薄目でノアを見上げる。彼女は真っ直ぐ前を見ながら、瞳を常に動かし貨物船を探している。

 そのまま、数十分前進し、徐々にカミュの息が荒くなっていく。


「はぁ……はぁ……」


 少しずつオールを漕ぐスピードが落ちてきた、その時だった。


「見つけた! あれだ!」


 そうノアが叫ぶ。彼女の指差す先には、ゴテゴテと飾られた貨物船が見える。カミュはノアの声に、一度力を込め、貨物船まであと数十メートルというところまで迫るが、また徐々に距離が離れていく。


「はぁ……はぁ……すまない。もうすぐ時間切れだ。こうなったら、俺はお前らを、あの船まで投げる」


 カミュの言葉に、ニナとノアは驚愕の表情を浮かべる。

 

「ノア、お前なら無事着地できるだろ……ニナを、頼むぞ」

「約束しよう。頼むぞ、カミュ」


 そう言って、カミュはニナを背負ったノアを掴む。大きく深呼吸をすると、腕が湯気を出し異様に太くなる。そのまま最後の力を振り絞り思い切り貨物船の上空目掛けて、大きく振りかぶって投げつける。ニナたちは風を切り、真っ直ぐに貨物船に向かっていく。振り返った時、カミュは力尽きたのかボートに背中から倒れ込み、大きな水飛沫が周りに立っていた。

 

 ニナたちはスピードを落とすことなく、一直線に進む。

 貨物船中央のマストに届くか届かないかというところで急降下する。ニナは悲鳴をあげ、ノアは腿からナイフを取りマストの帆に突き立てる。ナイフはそのままビリビリと勢いよく帆を切り裂き落下していくが、太いロープにぶつかりようやく止まった。

 ニナがホッと胸を撫で下ろすと、船の上から叫び声が聞こえてきた。


「おい! お前ら降りてこい! 何者だ」


 乗組員たちのようだ。その中にはオークション会場で見た顔もいる。彼らに気がつき、ノアの瞳孔が開く。


「ノア」


 ニナの声に、ノアは彼女に視線を送る。

 ニナの手は小さく震えているが、彼女はそれを感じさせないように、力強く伝える。


「私、ノアのこと、何度だって治すよ。だから、絶対ロレーヌを助けよう」

「……ああ、こうも頼もしい仲間がいるとはな。心強いぞ、ニナ!」


 そう言って、ノアはマストを伝い、見張り台まで登る。

 そして、手に弓を出現させ、大きな声で叫ぶ。


「エルフの戦士、ノアだ! ロレーヌは返してもらうぞ!」


 そう言って、矢を射るポーズをしながら、見張り台から飛び降りる。だが、ノアは落下せず、そのまま空に浮いている。彼女の背後には、空中に幾つもの光の矢が現れ、ノアが矢を射った瞬間に、船上に雨のように降り注ぐ。


 船員の悲鳴が轟き、船上の色が変わる。ノアがゆっくりと船上に降り立った時には、誰も船上に立っておらず、波の音だけが聞こえていた。


 ノアは荒くなった息を整える。周りに誰もいないことを確認すると、ニナをゆっくりと下ろす。

 汗を手の甲で拭うノアを見て、ニナが、「大丈夫?」と尋ねると、「ああ、少し疲れただけだ」と返される。

 だが、どう見ても少しには見えない。息は中々整わず、汗も止まらない。

 ニナはノアを助ける何かがないかと、周りを見渡そうとすると、ノアがニナの目をそっと隠す。


「あまり見ないほうがいい」


 ノアはチラリと横たわる、赤く染まった船員を横目にする。ニナには少し刺激が強いかもしれない。


「わかった、みないようにする」


 そんな会話をしている二人の背後に、ゆっくりと男が近づいてきていることに二人は気がついていなかった。


 


 

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