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~ウィルダー視点~
「僕が離れたばかりにごめんね」
「何もなかったのだから何度も謝らないで。それにウィルにだって付き合いがあるでしょう?友達は大切にしなきゃダメよ」
何もなかったと言っているが⋯⋯余程強く掴まれたのだろう、手首に掴まれた跡が残っていて痛々しい。
それに僕に相談を持ちかけてきた奴を姉上は友達だと思っているが、名前と顔を知っていて挨拶を交わす程度の者だ。
相談があると言うわりに、なかなか話さないそいつの様子がおかしく、問い詰めるとローテックス嬢にお願いされて姉上を僕から引き離したと白状した。最初から計画されていたんだ。
慌てて姉上の元に向かうと、手首を掴まれ抵抗している姉上の姿が⋯⋯だけど、すぐに掴んだ手は離された。
姉上を救ったのはまたヴォルフ殿下だった。
去年の卒業パーティーもだが、今回の卒業パーティーでも壇上に姿を現したのは王太子殿下だけで、2回とも会場のどこにもヴォルフ殿下の姿は見当たらなかった。
それが姉上がピンチになると、どこからか現れて助ける。
⋯⋯偶然というには出来すぎではないか?
姉上は気付いてないようだけど、王都の街に出かけた時に姉上を助けたフードを被っていた男⋯⋯身長、身体付きから見てアレもヴォルフ殿下ではないかと思っている。
いや、確信に近いか。
声には出せないが、もしかしてヴォルフ殿下は⋯⋯姉上を監視していないか?
ははっ⋯⋯まさかな!僕の考えすぎだよな?
そうだとしたら怖いもんな!
でも姉上は身内の欲目から見ても、淑女の仮面を被れば女神、素の笑顔は天使、誰に惚れられても不思議ではない。
この国に来てから約2年半ほど経った。
その間に聞こえてきた噂話だとヴォルフ殿下はどんなに綺麗な令嬢だろうが、可愛い見た目の令嬢だろうが触れるどころか近付けることもしない大の女嫌いだと聞いていた。
それがどうだ、姉上には自分から傍に寄っていっていないか?
偶々なのか?僕の気の所為なのか?
兄上なら⋯⋯王都の街でフードの男に会った時も、去年と今回の卒業パーティーにもいた兄上なら何か知っているか、気付いているかもしれない。
常に忙しそうにしている兄上には申し訳ないが早めに時間を取ってもらおう。
「噂通りヴォルフ殿下に浮いた話は1度も上がったことがない。俺は15歳からこの国に留学して、王太子殿下の側近になる前からヴォルフ殿下のことを知っているが⋯⋯一言でいえばヴォルフ殿下は賢い方だよ。
ヴォルフ殿下の第一印象って不機嫌そうに眉間にしわを寄せて取っ付き難そうだろ?それは自分を担ぎあげて王太子にし、美味しい汁を啜ろうとする奴らや利用しようと企む連中を拒絶するためなんだ。聞けば7歳になった頃にはそうなっていたらしい。何か切っ掛けがある出来事があったんだろうな」
だからあんな感じになったのか。
「それは令嬢にも言える。あの顔と地位に惹かれる令嬢は数知れず。あらゆる手を使って婚約者になろうとする令嬢が多くてな、中には侍女もいたとか⋯⋯だから母親の王妃様以外は近付くことを許さなくなってしまったんだ。もうその王妃様も亡くなったがな」
侍女すら許さないって、いったいヴォルフ殿下に何があったんだ!
想像はできても想像したくないな。
「そんなヴォルフ殿下がベルにだけは反応するんだよ。どこで見初めたのかは⋯たぶんお前たちがこの国に到着した時だろうな」
「は?」
「何処かから見ていたんだろう。あのお祖父様が迎えに来ただろ?で、抱き上げられたんだろ?」
思い出させないでくれ!
「あ、兄上に言ってないのに何で知っているんだよ!」
⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯俺もやられた」
(伯父上には高い高い、同じ歳のモルダーには『一人旅ができてエラいエラい』と頭を撫でられた⋯⋯この2つはベルとウィルには言えない。兄の威厳を失ってしまう)
ぶっ、この美貌の兄上が抱っこされたのか?
そ、そっか⋯⋯想像したら笑えるな。
「笑うな!⋯⋯まあ、目立っていたはずだ」
「その時から?その時の一場面を見ただけで?」
「飾らないベルを見たんだろ」
「あ~あの時の姉上を見ちゃったのなら仕方がないかな?」
「まあ、想像だけどな。俺はベルが幸せなら相手は誰だろうと構わないと思っている。ベルがディスター侯爵家がいいと言うのなら嫁に行かなくてもいい」
「うん」
「それはウィルにも言えることだぞ。俺はお前たちを幸せにするために⋯⋯(生きているんだ)」
最後はよく聞こえなかったけど、僕も兄上と姉上が幸せならそれでいいと思っているよ。




