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早いもので私のデビュタントから1年が経とうとしている。
今年は17歳になったウィルが成人し、社交会への参加が認められた。
そして今日、私はウィルにエスコートされて王宮で開かれる舞踏会に参加する。
これが私がこの国に来て2度目の社交の場だ。
この1年間私が何をしていたかと言えば、レックス兄様が治める領地に行くというお父様について行って領地経営のノウハウを学んでいたのだ。
『ディスター領は私が手を貸す必要もないぐらい栄えているが、レックスの地盤固めの手伝いぐらいはしてやろうと思っているんだ。ベルも手伝ってくれるか?』と、聞かれれば頷くのは当然。
今ですら王太子殿下の側近で忙しいお兄様は数年後には宰相の地位を約束されているそうだ。
今よりも比べ物にならないぐらい仕事量も増えるのは間違いないだろう。
だからこそ、大好きなお兄様の負担を少しでも減らしてあげたい。そのための勉強なのだ。
もちろん行きっぱなしという訳ではなく、行ったり来たりしていた。
長く留守をするとレックス兄様は悲しそうな顔をするし、ウィルは私から離れず甘えん坊さんになってしまうから⋯⋯
ディスター侯爵家の領地は王都からそれほど離れておらず、馬車で2日の距離にある。
そこでウォール公爵家で働いていた執事長や何人かの使用人が居たことには驚いた。
驚く私に40歳も過ぎたお父様が悪戯が成功した子供のような顔をするので『もっと早く言ってよ~』と拗ねてみた。
それに⋯⋯まだ先の未来に私の役目が終われば、この穏やかな領地の片隅にでも住ませてもらえれば⋯⋯と密かに思っている。
それよりも今は今日の夜会を無難に終わらせることが大事だ。
さて、久しぶりに淑女の仮面を被りますか。
ウィルにエスコートされてホールに入場すれば、令嬢たちの黄色い悲鳴が⋯⋯
この1年でウィルはグンと身長が伸び騎士団の練習にも参加を認められ、引き締まった身体付きになった。
何より、レックス兄様によく似てきた。
そうなると当然、もの凄い美貌に⋯⋯いつも無表情なお兄様と比べ、愛嬌のあるウィルは学院でもモテモテのようで、邸にまで押し掛けてくる令嬢が後を絶たない。
「面倒くさい。僕も愛想笑いするのをやめようかな。兄上が外で無表情なのはコレが原因だよね」
と、顔を指しながらまだ女の子に興味がなさそうなウィルは、令嬢たちに追いかけられるのも、話しかけられるのも億劫だとよく愚痴をこぼしている。
そんなウィルに集まる視線がギラギラしていて、隣にいるだけなのに少し怖い。
前回モルダー兄様にエスコートされた時は、私も随分痛い視線を向けられたけれど、今日の視線は『邪魔だ~』とか『早くどこかに行け~』とか訴えたもののように感じる。
「姉上、絶対に僕から離れないでよ。揉みくちゃにされたくないんだよ。アイツら集団だと身体中ベタベタと触ってきて気持ち悪いんだ」
確かに異性に揉みくちゃも、ベタベタも触られるのも嫌よね。
「1曲踊ったら帰るよ」
「はいはい。モテるのも大変ね」
令嬢たちの勢いを舐めていた⋯⋯
王族への挨拶も無事終わらせ、ダンスも1曲踊ってウィルと向かい合って礼をしたと同時に、私は突っ込んできた令嬢たちに押し出され、ウィルは令嬢たちに囲まれてしまった。
令嬢たちより頭一つ分背の高いウィルはこっちを見て目で助けを求めていたけれど、私には無理だと大人しく壁際に寄った。『ここで待っているね』と口パクでウィルに私の居場所は伝え済み。
⋯⋯⋯⋯。
誰も話しかけて来ないけれど、遠巻きに視線は感じる。
いいえ、視線だけではない。
『あの方、学院に通っていないそうですわよ』
そうですが?
『編入試験に姉が不合格だなんてウィルダー様がお可哀想ですわ』
合格しましたが?
『それで恥ずかしくて社交の場に出てこられないのですね!』
出る必要性がないからですが?
この程度では淑女の仮面は剥がせないわよ?
聞こえな~い。聞こえない。
はあ⋯⋯早く帰りたい。
何となくレックス兄様の方を見ると無表情に見えて心配そうにしているお兄様と目が合った。
大丈夫ですよ~の意味を込めて少しだけ仮面を剥がして笑顔を返す。
その時、今回も不機嫌そうな顔をしていた第2王子殿下と目が合った⋯⋯気がする。
すぐにそらされたから私の気の所為ね。
「あ、姉上!早く!早く帰ろう!」
ふふっ、そんな必死な顔をしなくても⋯⋯セットしていた髪まで乱れている。
あの包囲網からどうやって抜け出してきたのか後で聞いてみよう。
「ええ、帰りましょう」
もう一度お兄様の方を見て『帰りますね』とアイコンタクトを送ってから出口に向かった。




