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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第六章 ソロモンの改革
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第25話 再びダブリオン

 次の日。ソロモンはベーリルントを発った。ダブリオンから遠距離通信が可能になっている事をシンシア行政官に伝える。何か連絡したいことがあれば、トルシェン行政官に頼むように、と。


 彼女は目を輝かせながら、ちぎれそうなほど両手を振ってソロモンを見送った。


 トルシェン行政官にその話をしてからソロモン城に戻ろう。そう考えてダブリオンへ向かった。

 ダブリオンは相変わらず活気に溢れていた。莫大な資金が投じられた事が盛り上げているのかもしれない。この空気は数年続くだろう。


 建て替え前の行政府にまだトルシェン行政官がいる。ヴィクトルはそこへ馬車を走らせた。往来する馬車が多い道をゆっくりと進んでいく。


「そのうち建築資材を積んだ馬車が行列を作るんだろうなぁ」

 などとヴィクトルに話し掛けていると行政府に到着した。


 中に入ると先日程のカオスな状況は解消されていたようだ。動いている人は居るが、廊下を塞ぐような物の山はほぼ消えていた。受付もカウンターの向こうは空になっていて、受付嬢はいない。

 適当な人を捕まえて聞くとトルシェン行政官は居るようだ。お礼を言ってから施設内を歩き回る。ドアが開けっ放しの部屋を覗いてみると中は空だった。


 目的の部屋のドアをノックする。中から返事が来たのでドアを開けて入室。


「こんにちは。ちょっと寄りましたよ」

「ソロモン様お疲れ様です。シンシア行政官から聞きましたよ。石炭というなにやら凄い物が出てきていたそうですね? どうぞ座ってください」


 促されてソロモンとヴィクトルは椅子に座った。前回来た時よりも三割くらい書類の山が消えていた。座って落ち着いて話せるスペースが出来ている。


「元いた世界では燃料として重宝されていた資源なんです。ですが変質材として有用そうなので、ステルダムと協力して新しい魔装具を作ります。その工場をトルモール地区に建てれば、何とかやれそうですよ」

 トルシェン行政官は目を丸くした。そして全身がそのまま固まった。昨日聞いた話と全く違う内容がソロモンの口から出てきたからだ。


「実用化までどの位時間が掛かるかって所はありますが、実用化されたら便利ってレベルじゃないですよ。王国内への供給元としてトルモール地区の産業の一つに出来そうです」

「え……ええ……。それは……良い事かと思いますが……。すみません、ちょっと頭が付いてきません」


 ソロモンは少しだけ自慢気に笑った。たとえそれが絵に描いた餅だったとしても、それが絵ではなく現実に起こる事だと信じている。

 その魔装具がどういう物か。それを説明しようと口を開いた時ドアがノックされた。


 トルシェン行政官が返事をすると、男性の役人が入ってきた。


「お話中の所申し訳ございません。聖エストール王国から先日の件で回答が来ました。というか、バーディマス公爵がお越しになられました。応接室に通してお待ちいただいています」

 トルシェン行政官は一瞬で目の色を変えた。真剣そのものの表情だ。


「役職は聞いたか?」

「西方外交貿易庁の最上級長官とのことです。先日正式に任命されたとのことです」


「そうか、分かった。バーディマス公爵が来るとはな……。正直予想外だ」

 ソロモンは黒髪を掻いた。何か重大な事態が発生している様な気がする――。


 頭の中の記憶から必要な情報を最大速度で探す。元の世界でいうと、外務省と経済産業省を合わせたような所だったと考えた記憶が見つかった。


「西方外交貿易庁って、アスレイド王国との貿易と外交政策をしている役所ですよね?」

「正確に言えば北方小王国群も対象内ですが、その認識で大丈夫です。我々ダブリオンと直接取引している、港湾都市ロザルゼースに本部を構えています。その最上級長官が自らお越しとは……。いきなりだな、エストール側で何かあったか……」


 トルシェン行政官の目付きは鋭くなっていた。そこでソロモンは疑問に思った事を聞いた。引っ掛かったのは役職の方だ。


「長官って一番偉い人なのに最上級って付いているのは何でなんですかね?」

「本来はそうなんですけど、特別な権限を与えられているケースがあるのです。その場合は権限の強さや重要度から、上級長官又は最上級長官となります。公爵の爵位を持っている方ですので、それが理由でしょう」


「役職と同じかそれ以上に身分が高い人ってことか」

 凄い人がやってきたらしいな。そういえば今までエストール王国側の人間と接触した事は無かったな。


「確か以前貰った資料では、長官が解任されて空席になっていたんですよね? それで向こうの動きが止まっていたんだとか」

「長官どころか中核を担う役職クラスにも解任の流れがあったようでしてね。三ヶ月近く殆ど機能不全状態でした。両国の商会の皆さんが上手くやってくれましたからね。お陰で経済が止まることはありませんでしたから、こちらに悪影響は特にありませんでした」


 その話を聞いてソロモンはふと思った。


「もしかしてあちらさん、内部で不正発覚か派閥争いで揉めたんですかね?」

「聞いた話ではどうも派閥争いでしょうね。これ、西方外交貿易庁に限った話ではありませんよ。聖エストール王国では、二年くらい前から国中の行政機関でその流れがありました。一年前からそれが激化したようです。政治的な面で荒れてた訳ですね。

 その背景には国民からの強力な不満の声があったとも聞いています。国民の不満を利用しての権力闘争。何も今回が初めてという訳ではありません。過去にも起こったことです」


「成る程。じゃあ今来てる公爵様はそれに勝った人、ということですか」

 エストールの事はある程度勉強した。爵位の事は知っている。一番上のランクだ。


「そう考えて宜しいかと。バーディマス・ラベルディゴ公爵。聖エストール王国の最上流貴族、ラベルティゴ公爵家の次男。正直な意見ですが来て欲しくなかった相手です。

 なにせ中央に強いコネがあるのは勿論、それ以上に地方政界に極めて強力な影響力がある公爵家でしてね」


「えっ、でも権力が強い人なら寧ろ頼もしいのでは?」


「それは相手方の方針によりますね。ラベルティゴ公爵家は聖エストール王国内でも広く知られた『タカ派』の筆頭。フェデスツァート帝国相手に外交と戦争で徹底抗戦を仕掛けた事もある強硬派です。

 実際前回の戦いではラベルティゴ公爵家主導でフェデスツァート帝国に攻め込みましたからね。ストルクバルンを落とせず休戦になった事で、失脚しかけたと前任者は言っていましたが今だ健在のようです」


「うわっ、ヤバそう。これはかなり強気にきそうですね」

 帝国側の人間でもある俺の立場的に、楽観視出来る相手じゃないってことか。


「間違いなくそうでしょうね。最初は穏やかですが、その後は強めに当たってくると考えた方がよいでしょう」

 ソロモンは黒髪を掻いた。今まで他国に対して強硬に出てくるタイプを相手にしたことは無い。初めて聖エストール王国の役人に関わるのに、厄介そうなのが来たというのは非常に難易度が高い。


「トルシェン行政官、領主ソロモン様。公爵を待たせております。そろそろご対応を……」

「ああそうだな。ソロモン様も同行をお願い致します」


「勿論行きますよ。領主としては絶対に会わないといけない相手ですからね」

 二人は立ち上がった。ヴィクトルもワンテンポ遅れて立った。部屋を出て応接室へと静かな廊下を歩いていく。

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