第3話 無限牢獄・開錠
シオンと相対した翌日の朝。
ルイシャたちは王都から少し離れた森の中に来ていた。
「本当にこっちで合ってんの?」
「うん。さっき村を見たし、もうすぐだと思う」
シャロにそう答えながら、ルイシャは森の中を進む。
するとアイリスが彼の隣にやってくる。
「先ほどの村がルイシャ様の故郷なんですね」
「うん。なにもないとこだったでしょ」
ルイシャは笑いながら答える。
彼らは今、ルイシャの故郷の村の側にやって来ていた。
辺りは木が鬱蒼としているが、危険な獣もモンスターもおらず平和であった。
「……着いた。ここだよ」
そう言ってルイシャは立ち止まる。
しかしそこは辺りとなんら変わりのない普通の場所であった。誰かがいるわけでも変わった物があるわけでもない。
「大将、本当にここなんですかい? なにもないように見えますが……」
「うん、間違いない。全てはここから始まったんだ」
ルイシャはヴォルクにそう言うと、目の前のある一点を注視する。
そこはなにもない空間に見えた。しかしよく目をこらすと、その一点だけ時折ぼやけているように見える時があった。まるで空間が歪んでいるみたいだ。
(……懐かしく感じるね)
その歪みを見たルイシャは、無限牢獄に入った日のことを思い返す。
幼馴染みであるエレナから逃げたルイシャは、この森で一人魔法の練習をしていた。そしてその途中でここに空いていた『穴』を見つけ、そこにうっかり落ちてしまったのだ。
そしてその穴は『無限牢獄』に繋がっており、ルイシャはそこで気の遠くなるような時間を過ごすことになったのだ。
「だいぶ小さくなっちゃったけど、まだ穴は残ってる。これなら無限牢獄に接続できると思う」
ルイシャはそう言って目の前の『歪み』に集中する。
やることは一つ。無限牢獄を解放し、中に閉じ込められている『王』を助けること。
(無限牢獄から脱出してから意識だけ中に戻れることはあったけど、肉体が戻れたことはない。無限牢獄を解除するなら肉体が入ることができた、ここでやるのが一番成功率が高いはずだ)
すでに王子であるユーリに、シオンと彼が行おうとしている『浄化計画』については話している。国としての対策は彼に任せ、ルイシャたちは自分にできることをやるため、この森に来ていた。
「……本当に上手くいくのでしょうか」
アイリスが不安そうな顔で呟く。
魔王テスタロッサを救い出すことは、全ての魔族にとっての悲願。この状況はアイリスにとってもずっと願っていたことであった。
しかしだからこそ、彼女は失敗を強く恐れていた。
ここまでやって無限牢獄を解放することができなかったら、万策が尽きたと言ってもいい。
他に事態を解決する案もないし、信じて送り出してくれた仲間にも顔向けできなくなってしまう。
そんな彼女の不安を察したルイシャは、彼女の手を握る。
「大丈夫、絶対になんとかなる。いや……なんとかしてみせる」
「ルイシャ様……っ。はい、信じております」
アイリスは自分の心の中を支配していた不安がふっと霧散するのを感じた。
ルイシャの言葉には、絶対的な『安心感』があった。それは努力と実力によって裏付けされた、強固なもの。
かつて気弱だった少年は、いくつもの戦いを経てそれを身に着けていた。
「それじゃ、やってくるね」
まるで散歩でもしてくるかのように、前に出るルイシャ。
するとヴィニスがやって来て、手にした麻袋の中からベルトのような物を取り出し、ルイシャに手渡す。
「ルイシャ兄」
「うん、ありがとね」
ごてごてとした装飾が施されたベルトを、ルイシャは受け取る。
そのベルトはとある格闘大会を優勝した証である『チャンピオンベルト』だった。
代々優勝者が受け継いできたそのベルトは、もともと勇者オーガが身につけていた物であり、その証拠にベルトの中央部にはそれを示す大きな宝石が埋め込まれている。
綺麗な紫色のその宝石は、勇者の家系に受け継がれていたもの。その中には勇者の力が込められていた。
「これで最後……。ついに揃ったんだ」
ベルトの宝石から光が放たれ、ルイシャの体に吸い込まれていく。
すると体の中でカチリ、となにかがピタリと嵌ったような感覚がした。
(……今なら、できる気がする)
右手を前に出し、集中する。
ルイシャはすでに異空結界『無限牢獄』を会得している。魔王と竜王が囚われている無限牢獄は他人が生成した結界であるが、同種の結界術を会得したことにより、それに接続することは容易になっていた。
後は勇者のアイテムから取得した力を使い、自分がその結界の『主人』なのだと認識させればいい。
そうすれば無限牢獄を解除することが可能になる。
「……見つけた。ここだ」
空間の歪みに接続し、無限牢獄と同期する。
無限牢獄は時の進行を遅くする効果のある異空結界であるが、実はそれ以外にも他の結界術にはない特徴があった。
それは異常なまでの『耐久性』。
普通の結界であればメンテナンス無しに何十年何百年も維持することはできない。それに王紋を持った者であれば数日で結界を破壊することもできる。
しかし無限牢獄はその異常な耐久性能のおかげで、最強の王である魔王と竜王を三百年もの間、幽閉することができたのだ。
――――しかしそれも、今日終わる。
「よし……いけそうだ。無限牢獄は僕を術者だと認識している」
ルイシャは無限牢獄の掌握に成功する。
ずっと待ち望んでいたその時が、ついにやって来る。
「無限牢獄――――解除っ!!」
三百年もの間、発動され続けていたその結界を終わらせる。
すると空間の歪みは一際大きくうねると、内部にいた者たちを解放する。
「あら、いったい何ごと? もしかして……」
「おわ!? お主がやったのではないのか!?」
空間の歪みが広がり、その中から二人の人物が姿を現す。
二人の姿を見たルイシャは、思わず駆け出し二人に近づく。
「テス姉! リオ!」
ついに最愛の二人を助けることに成功したルイシャは、二人に抱きつき再会を喜ぶのだった。





