表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷酷な彼女は今日も嗤う  作者: shadereal
7/7

第六話 ディーネの記憶

ディーネは遠い昔の記憶を思い出していた。


それは今から200年ほどの前のことだった。クロド王国、ディーネが生まれたその国は地球上の4分の1の陸地を領土とする大国であり、彼女の兄クロド・シエ・ルシファはクロド王国の現国王だった。代々引き継がれてきた王の血族の中でも最高傑作とまで言われたクロド・シエ・ルシファは貴族からの信頼が厚く、平民からの支持力も絶大であった。ルシファが国王へ即位した途端、様々な法律を改変し他国との交渉が上手くいったこともありクロド王国は3年という短い期間に以前の1.3倍ほどの国力と利益を手にした。

クロド王国の市民は以前より生活に余裕ができるようになり、全てが上手くいっていた。


町は活気に満ちており、路地裏へ行ったところで誰も襲われるようなことは無い。王都は勿論のこと国にある数々の町にもスラム街は一つも存在しておらず、村人が飢えで死んでしまうことも以前と比べて激減した。誰もが幸福であり、飢えに困ることの無いその国は完璧に思えたが、ルシファには一つの誤算があった。



クロド・シエ・ヴィード、幼き頃からルシファと競い合っていたルシファの兄。彼は全てにおいてルシファより優れており、次の国王はヴィードと言われていた。だが、実際国王になったのはルシファだった。


ヴィードが即位する数か月前、クロド王国には魔物の群れが大群になり数多くの村を襲い始めた。そこで王は騎士団、貴族、軍をもってルシファとヴィードをも魔物の討伐を命じた。ヴィードは全能に長けた魔法剣士。誰もがヴィードの圧倒的なまでの武力により今回の討伐も今まで通り楽勝なのだと思っていた。だが結果はルシファの魔法一撃より魔物の大群は壊滅した。


ルシファはただ一回でもいいからルシファに何かで優れていたかった。だから幼き頃からただ魔力の増幅と魔法威力だけを極めることに固執していたルシファはこの戦いにおいてやっと兄を越す程の魔法を見せつけることに成功したのだ。だが、その魔法は必要以上に強力すぎた。その魔法は魔物の大群だけでなく、貴族のルシファへの認識や魔法使いとしての価値、そして兄ヴィードの威厳すらをもなぎ倒していったのだ。


 その後、ルシファは不本意ながらも国王に即位することになった。実際、ルシファも兄ヴィードが国王になることを望んでいたのだが、今更王位を譲ったとしても実力で全てが決まるこの国でヴィードが国王になることは許され難い。


それから再び数年が経ったある時を境にルシファはヴィードの悪行の噂を耳にするようになった。本来、他国でもそうだが王族というのは王を中心にして王都の領地を管理するのだが、クロド王国に関しては王族一人一人に領地が与えられていた。他国は民主主義の多く王族が権力を独占することを回避するために、領土は各貴族に分け与えられているのだが実力主義で動くこの国にそのような制度は無い。


兄ヴィードもまた、クロド国内に領地を持っていた。国王となったルシファの持つ王都の二番目に大きな都市だ。そこでルシファはその都市が様々な類の増税が行われているということを知り、ヴィードに話をしてみたが一切聞く耳を持たなかった。そしてそうこうしているうちに兄ヴィードの悪行を止めるに止めれなかったルシファの市民からの支持は徐々に減っていき、貴族からもヴィードに対しての不満を多く聞くようになった。


「陛下、もはや王兄様から領地を没収他無いかと」


玉座の前には複数の大貴族とも呼ばれる者たちがルシファに頭を下げ、ヴィードの領地剥奪を願っている。それはヴィードの領地を欲してるなどという理由からではなく単純に国民のためのことを思っての行動だとルシファは理解している。


だがもう少し待ってほしい。きっと兄はまた元の素晴らしいルシファの憧れていた兄に戻るはずだ。ルシファはその後もヴィードの悪事を治めようとできる限りの努力をしていたのだがついに、ルシファはその若き歳で疲労のせいかある日突然、死んだ。


そして次の日、国で二番目に武力のあったヴィードが国王に即位した。不満がある者は半分と、以前のヴィードの性格へとまた元に戻ることを祈り彼を支持するものが半分。国民もまた以前ヴィードが管理していた領地の者とそうでなかった者とで意見は分かれていたが、それをあからさまに即位したばかりの国王に言うものはいなかった。そんな中、ルシファの妹ディーネはルシファが死んでからというもの耐え難い悲しみに襲われ毎日部屋に引きこもりヴィードを呪っていた。そんなある日の夜、ディーネが寝室に入った途端、そこには複数の者たちが立っており、ディーネを襲った。ディーネは悟った。これはヴィードの暗殺部隊なのだと。毎回、ヴィードの後ろでただの側近として立っているだけの者たちだが顔は全て覚えているつもりだ。だがそれがわかったところでもう手遅れでだった。


 ディーネは生まれた時から体が弱く、いつもルシファの後ろを歩いているような子供だった。だがいつしか自分には魔法の才能があることに気づき、女だからと何の期待もされていなかったディーネは自室で日々、魔法を極めていたがある日ルシファがディーネの行使する魔法を見て教えてほしいと言ってきたのは今でも覚えている。なんせ、ルシファが王になれたのもその後ディーネが丁寧に魔法を教えたからなのだと自分でも思っていた。だが、今になって教えるべきではなかったと後悔する。ルシファが死ぬことになるのなら最初から魔法なんて教えなかったのに。彼が死んだのは自分のせいだ。そう自分とヴィードの両方を呪い苦しんでいたディーネを今、この者たちは体中を複数の場所を串刺しにした。ディーネは刺される前に急いで魔法を使おうとも思ったが、魔法の詠唱というものはこの一瞬で終わらせられるほど短いものではなく詠唱できたところで実際に発動するまでには最低でも2秒はかかる。だから何もできずにディーネは串刺しにされたまま地面に倒れた。


わけがわからない。何故、私が殺されなければならない。何故、あの醜い血の繋がった長男は王座に座っている? 何故、悪事を働き始めた? 


死にかけの脳を名一杯働かせこの状況から身を守る方法を必死に考えた。絶対にあの玉座に座った醜い豚を殺すまでは死ねない。必ずあれは私が殺さなければ。そして徐々に体中が凍えるように寒くなり意識が朦朧とし始めた時、ディーネはとある魔法を発動した。


不死の魔法、”ライフ・トゥー・アンリミット”。


この魔法に詠唱は必要無い。古代より伝わりし神々の魔法。今までの歴史上にこの魔法を発動したものがいるのかさえわからない神話級の魔法。


この魔法にはある程度の膨大な魔力を使わなければ発動できないだが、兄ルシファ以上に魔法に長けていたディーネは簡単にその魔法を発動してしまった。すると体中の刺された傷口は刺される前の元の肌へと戻っていき、脳も心もおかしなくらい冷静。


「本当にできたのかしら。。。」


魔力はほぼ底を月かけており、膨大に溜め込んでいたディーネの魔力はこの魔法に全て使われたことはすぐに理解できた。ディーネは喜んだ。そして今からヴィードを殺しに行こう。そう思い、地面から立ち上がった瞬間、床が抜けた。というよりかはこの建物自体が分子単位まで分解し、遥か上空へと吸われていくことに気づいた。


ディーネは慌てて見晴らしのいい場所へ移動するが、そこに写るのは信じられない光景だった。帝都中の建物はディーネの住んでいた屋敷と同様に分解し、遥か上空のおぞましい暗黒の物体へ吸い込まれていき、地面はディーネの立っている場所を中心に砂漠化していく。そして何よりも信じられなかったのはその分子単位で分解されているだろう建物と共に都市中の人間も分解し、その暗黒の物質へと吸い込まれていく。だからディーネは理解した。不死の魔法は完全に発動できていなかったのだと。


過去に開いた古代書の中には神々の魔法は膨大な魔力を代償に発動することができると記述されていた。そしてもう一つ、魔力が足りない場合は命を持って発動されると。今まで足りない分の命は術者の命で支払われると思っていたが、それは間違いだったのだ。不死になったディーネから命を奪うことはできない。不死の前にディーネの命が削られたとしてもどのみち不死になるのだから意味がない。つまりはこの不死の魔法は周囲の命をもってその不十分な魔力は補充する。それに気づいたディーネは自分がしでかした罪を思い知った。だが、それも今はもう手遅れである。10分も経たずに王都はその暗黒の闇に吸い込まれ、残るのは砂漠化した地面だけだ。そしてその中心でディーネは足を崩し、その風景を見て


嗤った


何故だろうか。つい先ほどまでは絶望的な感情が込み上げていた。だが今は何も感じない。人間が死のうとも王都が消え、砂漠化した地面を見ても何も感じることはない。寧ろ、大量の人間が消え、心がすっきりとした感覚まである。何故、こんなにも無感情でいられるのだろうか。ヴィードを殺せて満足しているのだろうか。何も無い。ディーネは胸に手を当て、不思議そうに考え込んだ。何もない。心が消えたように何も感じない。私は。。。


頭が痛い。眩暈がする。気持ちが悪い。ディーネはぱたりと砂漠化した地面に倒れ、気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ