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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン グランドホール
48/56

未来視の娘

ライライライラクライホウライシ!

「というわけで、ダメでした」


ケントは毅然たる口調でジョシュアに報告した。


「魔法使いは見つからなかったと言って過言じゃありません」

「バカ言うな。もう一回探してきやがれ」


とは言え、協力者を探すのはケントが最も不得意とするところであった。


社長室のソファーにもたれ掛かり悩んでいるとカルラが入ってきた。


「お客さん来てたよ。ケントにだって」

「ほう、分かりました」


階段は部屋の外にあるので、外に出て階段の上から下を眺めた。


「あ」


エッダが杖にもたれ掛かるようにして立っていた。何だかガタガタと震えているようにも見える。


手を振って声を掛けようと思ったが、やめておいた。また気絶されると困る。

少し考えて、社長室に戻り手紙を書いて外に戻った。やはりエッダはまだ立っていた。


変な話を思い出した。地球にいた頃に聞いた怪談で、死神が山の奥から毎晩零時に一歩ずつ家に近付いてくるという話だ。

夕焼けの今、丁度エッダはその死神のように微動だにしていない。


ケントは手紙を飛行機の形に折り、エッダに向けて飛ばした。

飛行機はひゅるーと飛んで、コツンとエッダの頭に命中した。


「あうあう?」


エッダは飛行機を拾い、中身を読むとビクッと震えながら見上げた。

アメジストの髪がふわりと揺れる。やっと視線を合わせることができた。

上がって来いとジェスチャーするとエッダはひとしきり挙動不審な動きをしてから上がってきた。


社長室は人が多過ぎて倒れるかもしれないので、三階の自室に向かった。以前アイナが来たときは何もないと言われたが、一応応接セットは準備してある。


そう言えばアイナはどうなったのだろう。アスクラピアの地下はダンジョンにまで繋がっており、アイナはアインヘル達と一緒に行ってしまったようなのだが、無事であればいいと思う。


「どうぞお入りください」


シアンは扉の下の隙間を通って先に部屋の中で待っている。これならさすがに見た途端に気絶するようなことはないだろう。


エッダはおずおずと部屋の中を覗き込んだ。シアンを見て明らかに体が固まる。


妙だ。急にシアンが現れたから気絶したのではなかったのか。どうやらエッダはそもそもシアンを警戒している様子だった。

何度も振り返ってケントの顔とシアンの間で視線を往復させる。


それからやっと意を決したように部屋の中に踏み込んだ。

ガチガチに緊張して右手と右足を同時に出す有り様である。


エッダが椅子に座るのを確認して、部屋の隅にあるミニキッチンで紅茶を淹れる。

それをエッダの前に置いてから尋ねた。


「さっき振りですね。何か聞きたいことでもありましたか?」

「うう……」

「ゆっくりと、どうぞ」

「はぃ……その……もしかして……その……」


エッダはまたチラッとシアンを盗み見た。


「その……そちらの方は神様ですか?」

「ほう?」


この子、何故それを知っている。いや、何故分かるんだ?

シアンが神の化身のようなものであることは、誰にも言っていない。


「いえ、あのすいません!気に、気にしないで下さい!」


黙っているとエッダは気の毒なほど青ざめた。なので、正解を教えてあげることにした。いずれにしろ、わざわざ隠すほどのこととは思っていない。


「――――いえ、正解です。彼女、シアンは神様だ」

「で、では!ああああ、あなたは、神様の遣いなのですね!」


エッダの顔がパッと輝く。


「いやぁ、それは……」

「世界をお救いになられる勇者様なのですね!」

「――――はい?」


おいおい、何か話が変な方向に行ったぞ。


「滅び行くこの世界を食い止め、滅びの軍勢を打ち倒す奇跡の人なのですね!」

「いや、多分それは違う気がするんですが。滅びの軍勢とか知らないし」


と言ってみたものの、エッダの眼は妙に熱が入っていてやむ気配はない。


「あなたに違いありません!だって貴方には滅びの時が見えませんもん!貴方はこの世界の運命を変えられる人です!そちらの方はこの世界の理から自由で、だから運命を変えられる貴方が救世主じゃない訳がありません!」

「な、何を言っているんだ!?」

「だから、あなたが救世主だということです!……です……ですぅ……あぅぅ」


エッダは急に自分の発言に戸惑ったのか声が小さくなってうずくまった。


「のう、貴様よ」

「……はぃ!?」


シアンの声にエッダはビクッと反応した。


「貴様、何ゆえ我が神の末端であると知れた?」

「ふぇ……あのぅ、私……未来が見えて……けど、神様のはきっと見れないはずだから……。その貴方のは見えなくて、だから」

「未来が見える。ふはは、未来視の娘、貴様は自らが未来視の魔女だというのか。面白い!」


何か分かったのか?


(我にも何故そんな能力が与えられたのかは分からんが、原理なら分かる)


説明を求む。


(人間が魔素と呼ぶこの一つの生命の全存在に端を発するこの粒子には段階があるのは知っておろう?)


かつてオーブとして摂取インジェストした『運命論』『因果論』『世界論』を参照すると、魔素には三段階があり通常の触媒を使う魔法では触媒から可能性を引き出して即時に顕現させているのだが、ここから一段階上に上がると顕現された可能性を辿って結果から原因を引き出すことや、因果の流れをずらして発生した結果を改変することが可能になる。すなわち、魔素には、可能性を操る段階と、その上に因果を操る段階があるのだ。


そして、更に上の段階に上がると因果を離れてこの世の因果と関わらない、この世に存在しない、この世界ではない事を操れるようになる。最後の段階、世界を操る段階だ。


(エッダは酷くゼラスに愛されておるようでな、己の魔素に因果粒子が混ざるようじゃ。それが未来視の源となっておる)


ふーん、じゃあ本当なんだ。


「便利そうだね」

「いい、いいえ、あの、私じゃ、未来は変えられないので……」

「ほう、まあいい。それで結局どうしたいのですか?」

「……あの、私も一緒に、せ、世界を救いますッ!」

「えー」


世界を救う??


「いえ、私は勇者様のお側にいるだけでいいんです!」

「そもそもの話だが、勇者様って他にいますよね?円字教の救世主と呼ばれてる人」


確かヴェルギア大陸中央のパーシヴァル王国に当代勇者アルクェス・リオ・パーシヴァルがいたはずだ。話によると、共和国の『英雄』ガリオン・ガリアッドや帝国の『剣聖』マテバ・ハイテリオンに並ぶ大陸随一の強者だと聞くじゃないか。


世界を救うのならば、そういう人間が相応しい。ドミニオンで燻っているような復讐者に務まるようなことじゃないし、こんな私がいないと救えないような世界ならば滅んだ方がいい。


「いえ、それは勇者様なんて見たこともないし、近付ける気もしないので次点というか……」

「ええ……」


現実的な事を言い返されてしまった。


「よいではないか。なあ、ケントよ。未来視ができるとは面白い。一つ採用試験といってみよう」

「お、お願いします!」


確かに、要は能力があれば誰でもいいのだ。未来死など猪口才なことを聞く必要もない。


「まあ、いいでしょう。裏庭に来て下さい」

「はあう……」


裏庭と言えども、そんなに広くはなく、20畳程だ。

正面に向かって撃っては街を破壊してしまう。ケントは空を指差した。


「では、適度に強力な魔法を空に向かってどうぞ」


魔法使いという職種を見たことはあまりないが、ジョシュアのドラゴンブレス程の威力があればそれで十分だろう。


「や、やってみますぅ」


エッダは杖を構え、肩掛けポーチからビー玉程の大きさの触媒を取り出して、集中に入った。


「……力を貸して、麒麟さん。――――電子満ち満ちて溢れたり、河川冠水し氾濫せり、圧せよ流れよ稲妻の獣!雷来雷落雷放雷司ライライライラクライホウライシ!雷鳴雷光轟け『麒麟の雷鞭』、ケラウノストリィィィィム!」


チリチリとプラズマを発した触媒『麒麟の雷鞭』が杖の前で宙に浮かび、崩壊していくと同時に幾条もの閃光がエッダの周りを切り裂いた。そして、最後の掛け声と共に雷の柱が空に向かって放たれ、轟きと共に遥か天上の雲に穴を開けてみせた。


声を失ったケントにシアンが語りかけた。


「凄まじい威力じゃな。ジョシュアのブレスを上回る殲滅力であることは間違いないじゃろう」

「魔法使いってのは皆こんな化け物なのか……?」

「うーむ、そんなはずはないと思うがのう……」


シアンもケントも首を傾げた。これではジョシュアが自慢げに使う高級触媒の魔法など児戯にも等しいではないか。


と、裏庭に面した二階の窓が開いて、ジョシュアが顔を出した。


「おい、今のは!?」

「その子の魔法です」

「はうあう……」


ケントが指を差すとエッダは恥ずかしそうにフードを目の下にまで下ろした。


ジョシュアは「うー」と唸り声を上げると「採用!」と叫んだ。




「へえ、お嬢ちゃん未来が見えんのか。そりゃあ大変だったろうなぁ」


ジョシュアは痛ましそうな声色で言った。


はて、未来が見えるのは便利なことだろう?例え未来を動かすことはできなくても、覚悟し努力することはできる。つまり、未来が見えたとしても辛いことは何もないのだ。なのに――――


「はい……大変で!」


目を潤ませてエッダは笑顔を浮かべた。


それはさておき、ケントは「火力もこれで十分なわけだな?」とジョシュアに尋ねた。


「ああ、申し分ないな。エッダちゃん、レベルは?」

「3……38です」

「やっぱたっけぇなー。魔法使いともなると」


ジョシュアのレベルが28でケントのレベルが未だに11であることから、エッダのレベルが非常に高いことがわかる。


そもそも1-5が素人、6-10が下級、11-20が中級、21-30が上級と考えられており、ほとんどの冒険者はLv.30を超えない。

Lv.30を超え始めると加速度的に人間離れしていき31-40は達人、41-50は超人、51-60ともなると一人で国を相手に戦争でき、61から上では神話を体現するような存在になる。


なので、エッダのレベルは達人クラスということになる……が、そうではない。

レベル、というものはおおむね当人の技量と比例する場合が多いが、これは統計上の話であり比例しないこともよく聞く話だった。レベルは確率に対する干渉力によって計測され、その本質は当人が持つ世界に対する影響力の暗示であるから、本来技量や強さとは無関係のものなのだ。だから、例えば王族等は生まれながらにしてLv.20を超えていたりする。


だから、魔法使いであれば若くしてLv.30を超えることも珍しいと言うほどではない。


とはいえ、エッダは褒められて喜んでいるらしく厳つい上に素顔の見えないジョシュアを前にしてもそこまで怖じけずに話していた。


「いつから出勤できる?」

「出勤、って……ダンジョンのこと、ですか?」

「まあ、そんなところだ」

「あの……あ、明日からでも!」


それからチラッとケントを見た。


「よし、そいつはありがたい。教育係はケント、お前に任せる」

「了解した」

「それと、寝床はあるかい?うちで働くならこのビルに住むといい」

「あ、ありがとうございます!わた、私、卒業したばっかりですぐ、お告げで、その、来たので」

「ははあ、エウライド学園の魔法科を卒業してすぐに未来視か占いのお告げにしたがってドミニオンに来たから、まだ寝床がねぇんだな」

「は、はい!占いです!」


話が通じたことがかなり嬉しかったらしく、エッダは満面の笑みを浮かべた。こうして笑うと陰気な雰囲気が無くなり、顔立ちのよさがよくわかった。ガラス細工のような繊細な造形の中にあどけなくてとても可愛らしい表情が収まっている。


「確か5階に空いてる部屋があったはずだな。荷物は?」


エッダは他の荷物はギルドに預けてあると述べて五階に駆け上がって行った。


「いい子そうじゃねぇの」

「そうですね。可愛らしい女の子です」

「それが何を好き好んでこんな血生臭いところにくるんだろうかねぇ」

「子供には見せたくない仕事です」

「お前もそんなこと考えんだな」

「考えはしますよ。子供も好きですし」

「そういや、カルラも意外になついてるよな」

「……カルラもまだ子供でしたね」


彼女もまた血生臭い行為に加担しているわけだが。


「いいんだよ、アイツは生まれながらにこっち側だ。どうやっても血生臭くなっちまうんなら、ちゃんと教えてやった方がマシだ」

「そういうものか」

「そういうもんだ。お、戻ってきた」


バン、と勢いよく扉を開けて入ってきたのは、目を回したエッダの手首を握ったカルラだった。


「ジョシュア!この子、うちの会社に入るんだよね!もらっていい?」


入るなりカルラは目をキラキラさせて言った。


「ダメだ。そいつの面倒はケントが看ることになってる」

「えー!!またケント!?」


カルラはがっくりと肩を下ろしてエッダの手を離した。

エッダと友達になりたいのだろうか。


「ふむ。そう言えば、荷物がギルドにあるんだったな。そうだ、カルラちゃん」

「ちゃん付けすんな」

「カルラ」

「呼び捨てすんな」

「カルラさん、どうもエッダはドミニオンに着いたばかりでここのことをよく知らないようだ。彼女を案内してくれるかな?」


カルラは「わ、私ひひ一人で大丈夫――――」と口走るエッダを「任せて!」と遮り、エッダの手を掴み直して走っていった。


「子供は子供同士遊ぶのが一番ですから」

「そうだな」


ケントはお茶を置くと立ち上がった。


「さて、私は他の社員を呼んできます。遅くとも明後日までには出発しておきたいですから」

「おし、任せたぞ」


ゼラスには無線電話が存在しない。歩き回って探すしかないのが面倒なところだ。

麒麟

ヴェルギア大陸南東部の山岳地帯に生息する鱗で覆われた馬、あるいは四足の龍と伝わる魔物である。

全身に雷を纏い、二本の角からは雷を落とし、肩に生えた触腕からは感電させ、強力な雷を操る。


角は万病に効く薬とされるが、実際には電気刺激により体の凝りや姿勢の歪みを矯正する効果があるに留まり万病に効くとまではいえない。

肉は食用にすると微かに舌に刺激があり何とも言えない食感。口に入れると極めて濃厚な味がするが、電気刺激により味覚が変化しているためであり、本来の味は鶏肉や鰐肉とあまり変わらないという報告もある。

麒麟の蓄電臓は刺身で食べるとザリザリと食感と共に特に強い電気と旨味が流れ、高級珍味である。

鱗は避雷針のように雷を集める性質がある。


ダンジョンでは下層27階辺りでよく見られる。その際には絶縁体で体を守りつつ、麒麟の鱗等で雷を避けることが推奨される。

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