表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン都市ドミニオン
20/56

街角噂探偵

幸せを運ぶ鳥?

アイナ・バーンシュタインは退屈していた。何も変わらない毎日に、というわけでもなく、取材も何もなく他社の新聞を読んで適当な創作話を真相らしくして記事を作るのに、だ。

一週間も厳ついおっさんと同じ部屋にいたらアイデアだって枯渇してしまう。

そこでアイナはその厳ついおっさん、所長に切り出すことにした。


「……最近物騒ですよね」

「そうだね」

「今朝の新聞みました?」

「……私を何だと思っているのかな」

「弱小出版社のドミニオン営業所所長」


粗い髭に角刈りの厳つい顔をした中年男、ラカン所長が呆れて溜め息を吐く。弱小、を強調されたがラカン所長も何も反論ができない。


「……よく分かっているじゃないの。それで、新聞がどうしたんだい?」

「えっと、何でしたっけ」

「知らないよ」

「そうだ!ギルドの人が殺されちゃったり、妙な薬が流行り始めたり、ひどい事件も増えてきて最近怖いです。特に今朝の新聞に載ってた真昼のバンパイア事件!家の近くであんな……。なので、真昼のバンパイア事件について取材してこようと思います!」

「えー、取材って君ねぇ。北区はもう大手の人たちが取材した後だしきっと何も残ってないよ。ああいう怖い事件は大手に任せて僕たちはもっと身近なことやろう。ほら、これとか面白いよ?闇夜に蠢く白い獣、スラムの地下に潜む純白の魔獣!ドミニオンに魔獣だって。困っちゃうよね、気にならない?」


アイナがラカン所長が手に取った『街角噂探偵』宛てのお便りを見て舌打ちする。

『街角噂探偵』はアイナが働く週刊Anotherの不定期企画で読者から集めた噂の真相を暴いたり、悩みを解決したりする企画だ。全体的に酷評されているAnotherの中ではかなり評判はいい。


「あ、アイナちゃん上司に向かって舌打ちはないでしょ」

「チッ!気になりません。どうせ南の金持ち共のペットでしょ、それ。ただの魔獣じゃここじゃスクープにもなりませんよ」


ラカン所長が大げさに上を向いて椅子の背もたれに体重をかける。


「参ったなぁ、ペットかぁ。そう言われるとそんな気がしてきたよ。君は名探偵だね。そんな君なら取材に行かなくたって何でも分かるさ!ほら、適当な記事作っちゃおう!溜まってるんだから!」

「あ、所長!これなんてどうですか!」

「ああ、人の話を聞いたためしがないね!君は!」


アイナが手に取ったお便りにはこう書かれてある。


『最近、時々近くの広場で変な鳥が集まってます。何だか不気味です。けどとってもきれいでかっこいいので捕まえようとしたのですが、全然捕まりません。どうやって捕まえればいいか一緒に考えてください!北区円字教教会、サハム、7才』




『コールマン葬儀社』はドミニオン西区職人街と北区スラム街の境目に建設された天井が崩れた古いビルの二階にある。そこから二人の男の声が聞こえてきた。


「――遅い。次の仕事が来てるぜ」

「どんな感じです?」

「犯人を見つけて逮捕、ってところだ」

「またですか。それ葬儀社の仕事じゃないでしょう」

「うちは揉め事も葬儀すんだよ。そもそもここで葬儀する奴なんざいねぇだろ」

「何でここに店開いたんだ、あんたは」

「知るかバカ野郎」

「そもそも、逮捕だったらジョシュアでもできるでしょう」

「俺よりお前の方が探し物は得意だろう。それに、今手つきの用件があるんだよ」

「私だって用事くらいある」

「だあ!居候の癖に文句言うんじゃねえ」

「このビルはあなたの所有物じゃないでしょ」

「俺が住んでるんだから俺のだろ。いいから行ってこい!ほら、依頼書。住所はそこに書いてある」


依頼書の住所にはスラム街の教会とある。


「……はあ。スラムの方じゃ時間かかりそうですよ?」

「分かってる。……頼んだぜ」


おや、頼むなんて言うのは珍しいな。


「……ふぅん。依頼者さんと仲いいんですか?」


ジョシュアが思うに、これがこの男、ケントの面倒くさいところだった。大して興味がないくせに察しがいい。


「……ったく、なんだっててめぇは。あそこの教会にはカルラの友達がいるんだ。よくしてやってくれ」

「そういうことでしたら、任せてください」

「ああ、よろしくな。あと、いい加減その変な敬語やめろよ」

「癖なんです。では、行ってきます」


ケントが事務所の扉を開け、石造りの階段を降りてボロボロのビルから出る。

太陽はてっぺんを過ぎていて、丁度気温が一番高くなる頃だ。残暑がきついが日本よりはだいぶカラッとしている。


ゼラスに来てからもう一年ちょっとが経とうとしている。

それにも関わらず、加納敬志に繋がる情報は未だ掴めていなかった。

分かっているのは、人間同士の殺し合いを誘発するために加納敬志がこの世界に呼ばれたということだけだ。

なので、ジョシュアの仕事を手伝いながら何度か北の紛争地帯に赴いて加納敬志に繋がりそうな情報はないか調べてみたものの、何も見つからなかった。

もしかしたらまだ動き始めていないのかもしれない、とも思ったが奴はそんな人間ではない。奴は必ず動いている。

その確信はあるのに、実際には何の情報も得られない。それを不気味に思いながらも日々を過ごしていた。


悩むケントを影の中から見ていたシアンが実体化して言った。


「焦るでないぞ、ケント。マリスの使徒は必ず戦争を起こす。そうなればいつかは必ず大きく動くはずじゃ。我らはそれを待てばよい」


シアンが隣まで歩いてきたので手を繋いだ。シアンの手には温度がないが、それでも心配する心は伝わった。


「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」


シアンの頭に手を伸ばし軽く指で髪をとかそうとすると、パンと手を払われた。


「ふん、ここは臭い。早く行くぞ」

「そうだな」


二人はそれ以上は無言で歩き出した。


スラム街は臭い。

常に生ゴミを煮詰めたような臭いが漂っていて、そこら中に下腹の膨れた栄養失調の子供や膝を抱えて動かない者がいる。その少し裏に入ると腐敗した死体や、麻薬中毒らしき目の焦点が定まらない人が転がっている。勿論、死体は刺激的な腐臭がするが、スラム街の住民の大半は生きていても腐臭をさせている。彼らは生きながらにして死んでいるのだ。スラムから出ない限り生きてても死体と変わらない、というのはジョシュアが私に言った言葉だったか。


教会はこのスラム街の中央よりやや南、ドミニオンの中心を西から北、北から東にくねりながら流れるサンズ川の近くに建てられている。

サンズ川の北は病や飢餓、麻薬が溢れ返りギャングが幅を利かせる死の街だが、教会はサンズ川の南に位置しているのでまだマシな方だろう。


いざ、教会に着いてみると予測は当たっていたことが分かった。

何せ、教会は屋根があり庭にはまだ小さな花が咲いていた。川の向こうではこんな小さな花ですら愛でられることなく栄養失調の子供に食われてしまうだろう。

流石、ゼラスで最も信仰を集めるゼルエム円字教である。統治者のいないドミニオンにおいても一定の援助があるのだろう。


「あ!おじさんもしかしてお客さん?あ、髭生えてる」


後ろから声を掛けられた。7歳くらいの男の子だ。身なりはあまり綺麗ではないが、健康状態は良さそうだ。全眼でそれを確認してから振り向いて答えた。


「ああ、ここのシスターさんに用があってね」

「!」


シスターに用があると言った途端、男の子は落胆し、次に敵意を目に浮かべ睨んできた。


「……おじさんもしかして借金取り?」


シアンは睨まれたのが気に入らないらしく、ムッと眉をしかめて言い返した。


「バカガキめ、少女と手を繋ぎながら来る借金取りがおるか」


この前仕事でシアンと一緒に悪質な借り手に取り立ての代行したけどね。


「あー!バカって言った方がバカなんだぞ!」

「ふん、これだからガキは。それしか言えんのか」


シアンはよく子供と喧嘩をする。

ケントはどうしようかと少し迷ったが、対立関係が生じつつある7歳と見た目年齢11歳の間に割って入ることにした。


「はいはい、シアンも落ち着いて。ね?坊やもごめんね。なるほど。私は借金取りじゃあないよ、葬儀屋のおじさんだ。シスターさんに頼まれてここまで来たんだ」

「ソウギ?」

「ああ、なんだろうほんと。色々やる人かな」

「んー、じゃあやっぱり探偵の人?」

「探偵?」

「違うの?」


探偵ってのは、こそこそと人のプライベートを嗅ぎ回り、民事紛争の証拠を探したり脅しのネタを掴んだりする、大なり小なり非合法なことに手を染めている輩だ。

つまりは今の私のようなものだ……。


「色々違うな」

「そっかー。……じゃあお姉ちゃん呼んでくるね!」

「ああ……ん?」


男の子は教会の中に走り去っていった。

お姉ちゃんってのはシスターのことだろうか。呼んできてくれるのならば待っていよう。

シアンと繋いだ手をぶらぶらと振っているとすぐに男の子は戻ってきた。金髪の幸薄そうな女性を連れている。まだ少女と呼べる年齢に見える。


呼んできた男の子に礼を述べて女性に向き直る。


「こんにちは。あなたがケイトさん?」


女性は不審げな目をしている。


「はい、そうですが……」

「失礼しました。コールマン葬儀社のケントと申します。依頼のご説明を伺いに参りました」


コールマンの名前を出した途端、少女の顔が華やいだ。ジョシュアは信頼されているのだろう。


「あ、ジョシュアさんの部下の方ですね!この教会でシスターを務めているケイトと申します。ジョシュアさんには、ほんとによくしていただいていて。そちらは娘さんですか?」


部下というのは心外だが、礼儀正しい子で好感が持てる。


「いえ、こちらは妹のシアンです」

「こんにちは、シアンちゃん。あの、今日はジョシュアさんいらっしゃらないんですか?」

「ええ、今忙しいようでして」


ジョシュアがいないと聞いて少女の顔が曇った。……ほう。

耳の裏を掻きながら少し付け足すことにした。


「……大切な場所だから早く行けってせっつかれましたよ」

「ジョシュアさんが大切な場所、だなんて。ふふ、どうぞ中に入ってください。依頼の説明をしますので」


お邪魔しまーす、と言いながら教会の中に入る。

玄関は拝廊と呼ばれる小さな部屋になっており、拝廊の扉を開けると大きな聖堂に続いてる。聖堂の奥は巨大なドーム状で、そこは礼拝堂となっている。拝廊から礼拝堂に至る道は身廊およびその側面の側廊が繋いでいる。礼拝堂の正面奥には大きなステンドグラスがあり昼間になると南からの光を受けて輝くそうだ。また、床には同心円状に何列もの長椅子が設置されてある。


「埃一つない。綺麗にされてるんですね」


とても綺麗に掃除されている。ケイトさんの几帳面で努力家で信心深い人柄が見えてくる。


「いえ、ありがとうございます。あまり人も来ないので時間だけは余っていまして」

「ほう。それでも大したものです」


ケイトは西の側廊にある扉をくぐり聖堂から出て、通路に入っていった。そこの階段を登るとまた通路があり、南と東に向けて二つの通路が伸びている。東に向けた通路は突き当たりで南に曲がっているようだ。ケイトは東に向いた通路の半ばにある扉に入っていった。

幾つかの椅子と楕円形の大きな椅子が置かれてある。会議室のようだ。


「応接室は本当は礼拝堂の奥にあるのですが、今朝から牧師様がいらっしゃらず開けれなくて」

「お気遣いなく。では、今回の依頼について説明していただいてもよろしいですか」

「はい。あのシアンちゃんは――」

「気にするでない。不幸話の万や億はとうに聞いておる。続けよ」


迷ってケイトが私を見たので、頷いておいた。

それでやっと気を取り直してケイトが続ける。


「依頼の内容というのは、いなくなった子供たちを探して欲しい、ということです。そして、もし子供が死んでいたらその人拐ひとさらいと殺人犯を殺していただきたいということです」


ケイトの目には一種の覚悟が見て取れた。


「殺しですか?捕縛じゃなくて?」

「……はい。私は、許せません」

「ほう。穏やかじゃないですね。詳しくお願いします」


話の大筋は簡単なものだった。

彼女と共に教会に住んでいる孤児が二人、行方不明になった。恐らく帰ってこないだろうことは理解しているが、あきらめられないので見つけて欲しい。そして、その犯人にむくいを与えて欲しい。捕縛では生ぬるい、きっちり始末して欲しい。とのことだ。


私は一も二もなく引き受けることに決めた。


「お受けします。報酬は後日決めましょう」

「ありがとうございます。……天は私をお許しになりませんでしょうね」


ケントは何の関心も抱かずに答えた。


「はあ。大丈夫だと思いますよ」


ネキアを思い出すと、ゼラスの神様ってのは大概上等なものじゃあなさそうだ。復讐くらい気にもしないだろう。

シアンも思うところがあるのか口を開いた。


「大丈夫じゃ。信心が真なれば、ゼルエムは人の営みなど露ほども気にせぬ」


ケイトが自信満々のシアンに言われてうっすらと微笑んだ。


「ふふ。そんな、ものでしょうか」

「……では、私は子供たちの捜索に向かいますので」

「あ、じゃあお見送りします」


玄関を出るともう太陽は暮れはじめ空には赤が差していた。


庭先ではハンチング帽を被った二十歳はたちほどの女性が先程の男の子と視線の高さを合わせて話していた。


「じゃあ、その鳥を見たのは川の近く?」

「うん、あーっちの方!」

「いつ頃だったか分かるかなー?」

「えーっとねー」


男の子が指折り数え始めた。

ケイトさんに知り合いか尋ねてみると、ケイトさんは首を横に振ると、男の子に声をかけた。


「サハム君、そちらのお姉さんはどちら様かしら?」


すると、ハンチング帽の女性が歩み寄り懐からサッと名刺を取り出した。


「初めまして。私、週刊Anotherで記者をしています、アイナっていいます。今日は『街角噂探偵』という企画でサハム君に取材に来ました」

「街角……あ、知ってます!あのコーナーだけはよく読んでます」

「え!ほんと!!実はあれ私が――」


続いてアイナが自慢をしようとしたところで、サハムが指を数え終わりアイナの腕を引っ張った。


「お姉ちゃん、いつかわかんない!」

「ん?あーわかんないかー」

「うん、わかんない!けど多分今日は来るから」

「じゃあどうし――――え、マジ?私すっごくタイミングいいじゃん!よし行ってみようか」

「うん!お姉ちゃん、行ってきていい?」


今の「お姉ちゃん」はケイトの方だ。

最近は子供たちが一人で教会の敷地から出ることを禁じているそうだ。


ケイトが視線をサハムから私の方に動かした。なるほど。


「捜索は日が暮れてから行うつもりですし、私も着いていきましょうか?」

「あ、ありがとうございます!お手を煩わせてすみません。サハム君、この髭のおじさんから離れないって約束するならいいですよ」


サハムが大きく頷いて、「うん!」と返事をした。


それからサハム、アイナと共にケントとシアンは教会の裏に回りサンズ川のすぐそばまで向かうことになった。


サンズ川……三途の川。

ゼラスの住民にとっては何でもない名前だか日本人にとっては不吉な名前だ。実際、川の向こう側、北区は死の国と呼ばれており、当たり前のように死体が転がっている。


悪い予感に溜め息を吐いているとアイナが喋りかけてきた。


「えっと、牧師様なんですか?」

「そう見えるかい?」


ケントの服装は黒いコートの上から胸当てを着け、右肩には肩当て、両足に脛当てを着け、髪も髭も伸び放題というものだった。冒険者か不審者のどちらかでしかない。


「とても見えませんね。じゃあロリコンの方ですか?」

「アイナさん、少しは歯に衣着せた方がいいと思いますよ」

「やだ、図星ですか!」

「違う」

「だってずっとそっちのかーわいい女の子と手を繋いでるじゃない」

「妹だ」

「ふーん、シスコンってことね!」


旗色が悪い。話を変えよう。


「……コールマン葬儀社のケントと申します。お見知り置きを」

「え、葬儀屋さん?確かに陰鬱な顔……」

「まだご挨拶していなかったでしょう」

「話の変え方強引すぎない?」

「それより、もうそろそろ着くんじゃないですか。ね、サハム君?」


アイナに追及される前に、サハム君に話を振る。


「うん!もうすぐだよ!真っ白でとってもきれいでかっこいいんだから!」

「ほう。楽しみだね」


逃げられた、みたいな顔をしたアイナがふと思い付いてサハム君に話し掛けた。


「ねえ、サハム君。そう言えば、なんで今日はいるって分かるの?」

「スープが出たんだよ」

「スープ?」


アイナがオウムのように聞き返す。


「うん、鳥が出る日はね、大体スープの次の日なの。昨日はスープだったから、きっと今日は鳥がいるんだよ」

「そうかぁ、スープの次の日だからかぁ」


完全に偶然の話じゃないの、それ。と、アイナは思ったが口には出さないことにした。


サハム君は一同を川岸の近くにある廃屋の中に誘導した。


「ここからが一番よく見えるんだ。いるよ、ほら」


崩れた廃屋の窓の上から頭を突き出して覗き込むと、煌めく川面をバックに白い鳥がいた。


「ほう」

「うむ」

「ほんと、きれい!」


確かに30m程先、サンズ川のほとりに数羽の純白の鳥がいる。ワシのように大きい全身を白銀の鎧で覆い、見るからに強そうな爪と鉄でも砕きそうなオウムのような丸い嘴を持っている。

私たちの背後から照らす夕陽が鳥の鎧で跳ね返り、赤い光を投げ掛けている。


「じゃあ、早速あれを捕まえてみましょうか!」

「うん!」


ほう、捕まえるのが目的だったのか。

アイナとサハムが廃屋の隅に行き捕獲作戦について話し合い始めた。

ケントは周りを警戒しておくことにした。


「今までどんなことをしたのかな?」

「えっとね、罠作ったり、石とか投げたよ」

「ダメだった?」

「うん、罠かからなかった。鳥の餌おいといたのにぜんっぜん見もしないんだよ、あの鳥。それでね、怒って石投げてやったらガンって当たったの」

「当たったんだー」

「うん、当たってね、そしたらあの鳥がバサッて!こっち来たから逃げたの。死んじゃうかと思いました」


石を投げたのか。


二人の話が耳に入ってくる。


「ガッツのある鳥ね。じゃあどうすれば捕まえられると思う?」

「んーと、バサッって来たところを殴る?」


すぐ暴力に頼るのはいけないと思うけどね。とはいえ、世が荒んでくると子供の心も荒むのである。


「え、マジ?あたしたち死なない?」

「大丈夫、何とか逃げれるよ!」

「我の愚兄ならばあれを捕まえる程度容易いじゃろうな」

「へえ、おじさんすごいんだね!」

「ぴったりピースがはまったわね」


シアンちゃん、いつの間にそこに加わった。

アイナが笑顔で振り向いて、おねがいできますぅ?と猫なで声で言った。

魅力的な顔だ。そう思ったが、ケントの表情は変わらなかった。


「……はぁ、いいですよ」


廃屋から出て小石を拾う。


「こいつを投げればいいんですか?」

「そうよ。さぁ、サハム君!その小石をあの鳥にぶつけちゃって!私たちはここで待ってるから、ケントさんはしっかりサハム君を守ってね」

「なるほど、いいですよ」


私が投げた方が早いと思うが、企画的にはそれじゃ意味がないのだろう。


草一本も生えていないので身を隠すことはできないが、姿勢を低くして鳥に近付く。15m程まで近付いたところでサハム君に石を渡した。

サハムが小石を受け取り、目を鋭く細めて白い鳥に狙いを定める。サハムが振りかぶる。脚を高く上に伸ばし、その脚で踏み込み右手が空を切り裂き、指先を離れた小石が一直線に鳥に向かう。美しい投球フォームだ。

かくして小石は鳥に当たり空き缶を蹴ったような甲高い音をあげた。当てられた鳥は当たった直後は何事もなかったかのように地面から何かを啄んでいたが、すぐにサハム君の方を振り向いた。

ヤル気満々の鋭い目付きだ。


「おじさん、来るよ!」

「ああ、下がっていなさい」


鳥が大きな翼をはためかせ川岸からサハムに迫る。

さあ、どうやってこの鳥を料理しようか。捕まえたいって話だから首落としちゃダメだろうな。


「ん……?」


違和感を覚え左目の魔力感応レベルを上げると、鳥の中に小さな魔力の塊が見える。かなり小さいが間違いなく魔石だ。半魔なのか、この鳥。


魔石を壊さないと、ペットにはできないだろうな。


左手から愛用のシースナイフを引き抜いて加速する。


「ちょっと殺さないでよ?」


遠くからアイナが何か言ってるのが聞こえたが、気にせずナイフを骨のように白い鎧の隙間から鳥の胸の中央にするりと突き入れた。23cmの刃渡りのうち5cm程が鳥の体内に入り、魔石を砕いた。

魔石を無くした衝撃に鳥が気を失い、きりもみして地に落ちる寸前に力が抜けた首を掴んで捕らえる。

血は噴き出していない。殺さずにはすんだようだ。


捕らえた鳥をサハム君に渡す。


「どうぞ、サハム君」

「おわぁ、ありがとうおじさん!さすがのお髭だね!」


髭は関係ないけどね。


「少し怪我させたからこれを垂らしてあげるといい」


ケントは回復薬を渡した。

サハムが頷いて回復薬を鳥に垂らす。ドロリとした粘性の液体が鳥の傷口を覆いゼリー状に固まって出血を抑える。


うん、日も暮れそうだし探偵は終わりだな。

さっさとアイナのところに戻ってサハム君を教会に送ろう。


「アイナさん、シアン。捕まえた……よ?」


廃屋の中には誰もおらず、日は地平の向こうに落ちた。

「『街角噂探偵』は読者の皆様の寛大な慈悲とご協力によって成り立っております。

皆様の身近にあるちょっとした疑問や他愛のない悩み事を当社までご寄せください。当社の優秀な探偵がすぐさま解決しに参ります。(成功率20%)

どうぞ、気軽にご応募ください(※なお、当社では一切の責任を負いかねます)」


ラカン「僕なら絶対応募しないよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ