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仕事を探すのも、もっぱらレオンの役割だ。
レオンのラボでヴィルムの修理が行われている間に、届いているメールに目を通すが、レオンの目に叶うものはそうそうない。
この辺りで稼ぐのは、無理だな。そんなことはヴィルムに会った時から分かっていたのだが。
ヴィルムは、恐らく元は軍人なのだと思った。彼の装備を見れば、間違いない。それが何故除籍されたのかとか、何故現在バウンティハンターをやっているのかとか、色々と疑問はある。だが、ヴィルムもこっちの詳しい事情を聞かないので、こっちもあえて聞いてはいない——調べたかどうかは、別問題だ。
ヴィルヘルム・イェーガー少佐(享年27歳)。
手に入った情報は、それだけだ。死亡の理由も死亡した場所も隠された謎の人物。いや、実はその辺りに結構同じ扱いの人間がいたので、明るみに出ていない作戦があったのだろうと推測される。あくまで推測だ。
レオンは、ヴィルムの為人を気に入っているし、過去が何であったかは大した問題ではないと思っている。
だからこそ、元軍人であると分かる身体を、大幅リニューアルしたいわけだが。事が事だけに直接言うのは憚られる。
機械だから定期的なメンテナンスも必要だし、エネルギーキューブも高価だ。
もちろんヴィルムは賞金稼ぎとしても強いし、いい仕事に当たればそれなりの儲けは出る。でも、続かなければジリ貧になる。
本当は、こんな中途半端な地方都市に居るよりもセントラルシティに出た方が仕事が多いのだが(物騒な仕事は特に)。戸籍がでたらめなヴィルムもだが、レオンにだって都会に行きたくない理由がある。
「いざとなれば、『ネオ・クーロン』だな」
ため息混じりにそんな事を吐き捨てる、レオン。『ネオ・クーロン』とは言わずと知れた暗黒街だ。単価の高い仕事なら、ごろごろしている。脛に傷を持つ者どもの吹き溜まりだから、こちらの事情を詮索されることもないだろう。
明日の命の保証もないだろうが。
そうこうしている間に、適当なパーツを見つけたAIが作業の指示を出す。
ヴィルムの身体は軍用な上にタイプが旧式なので手持ちのパーツではなかなか合うものがなかったが、適合率91%のものが見つかったようだ。
そのパーツを確認し、レオンは作業を止めようと思った。
なぜならば、それはレオンが作成した試作品で少しだけエネルギー循環効率が上がる——生体潤滑オイルの質を高めて、身体の動きがよりスムーズになり、腕力も上がる筈……そうなれば良いが。
だが、性能試験はしてみたものの一個限りの試作パーツだし、本体に組み込んでの試験は出来ないので、消化器官や他の末端パーツとの兼ね合いは未知数。
だけど。
「そっか、今から試験できるじゃん」
黒い笑みを浮かべて、レオンは作業を続行させた。
手術を終えて、ソーセージとビールを楽しむヴィルムに、レオンが「調子はどうか?」と聞いて来た。
もちろん、腹に穴が開いていた時と比べれば、何の問題もない。
「むしろ、調子が良いな。体が軽い」
先刻まではオイル切れを起こしかけていて、身体中が軋んでいたのもあるが、穴の開いたオイルタンクを交換しただけで、体の動きもスムーズ。何より、ソーセージとビールが美味い。『止まり木亭』でテイクアウトしたものが、どんどんと減って行く。
「え? ちょっと調べさせて」
端末を操作するレオンの表情が曇る。
「エネルギー変換効率、42%ダウン。やっぱり、あの9%は消化器官との不適合か。ちょっと大きい数字だなとは思ったんだよねー」
「何の話だ?」
ヴィルムとしたら身体は軽いし、ビールは美味い。良い事づくめなのだが。
「ああ、新しいパーツとの適合率が91%だったから。消化器官との適合があまり良くなかったようだね。つまり、ビールとソーセージはまだ良いとしよう。エネルギーキューブが今までの倍近く必要になった」
それは。
この身体の維持に、今まで以上に金がかかるという事だ。
何故か、レオンは額に汗を浮かべて——珍しく、焦っているように見える。
「そうだ、これを機会に最新モデルにリニューアルしよう。エネルギーキューブ一個で10,000mの山に高速で登れるようになるよ」
「そのモデルは、悪い噂しか聞かないから却下だ」
一応、ヴィルムだって自分の身体の維持費がどれぐらいのものなのかは知っている。レオンに出会う前は、何度オイル切れに陥ったか。
機械の身体は、潤滑オイルが切れるとただの金属の塊になる。
最後の手段である『超高濃度エネルギーキューブ』が身体に組み込まれている事は知っているが、それは自分の意思で使うことが出来ない。
レオンによって、それは他の誰からも(ヴィルム自身からも)アクセス出来ないようになっている。
軍に居た頃の事は、ほぼ記憶から消されている。
最初から死亡者名簿が作られていたので、死地に赴く事は分かっていた。
その場面で、『超高濃度エネルギーキューブ』が使われる予定であった事も、その存在を知らされた事で理解できた。
たまたま、ヴィルムの通信回線がエラーを起こしており、計画が実行されなかっただけ。サイボーグは使い捨ての存在なのだと。そう理解した。
効率を重視した新作は、人格を失う可能性が残されている。残されているのではなく、奪うのだろう。
サイボーグを、効率的に使える道具とする為に。
軍の考え方には反吐が出るが、レオンはただ、金食い虫のこの身体を何とかしたいのだと思う。
最近は、高額な仕事もなかった。レオンの負担になるのは、まっぴらだ。
「ネオ・クーロンにでも、行くか?」
言わずと知れた、この星の暗黒街。
外見は未成年のレオンは連れて行けない。だが、絶対に稼げる。
「それも有りだけど。今、ブランカさんから連絡が来たんだ。ミリアに何かあったみたいだから、先にそっちを片付けよう。エネルギーキューブなら、まだ少しは余裕あるしね」
ブランカは、60歳ぐらいの女。仕事の斡旋をしていて、ヴィルムも世話になっている。
そしてミリアは、ここよりもっと辺境から出稼ぎに来たという娘。18歳で、下に5人の妹弟がいると言っていた。この街に来た所でひったくりに遭い、たまたま通りかかったヴィルムが撃退したら、懐かれた。
ブランカに預けて、事務仕事をしていると聞いていたが、何かあった?
18歳の娘に何かなど、考えたくもない!
「行くぞ、レオン」
「はいはい」
ボランティアなのに、レオンは文句も言わずについて来た。珍しい事もあるものだ。




