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相談員の瀬戸内です

ピッ、ピッ、ピッ

「温めますか?」

「大丈夫です」

「ありがとうございました」

はぁ…。

瀬戸内はるな、26歳、独身。

ろくな身寄りがいないにも関わらず1人上京し紆余曲折の末フリーターをしている。

…やばいなぁ、わたし。もうアラサーなのに何してるんだろ。

コンビニバイトじゃせいぜい月収二十万ちょっと。そこから税金だの社会保障だの取られて、さらに家賃やら水道光熱費取られて、そして削りに削った食費を引いて、残るのはどんなに頑張っても数千円程度だ。

周りは大卒初任給25万とか、すごい数字。

このままじゃまずい。

何より、このままじゃ、このままじゃ!

推しの勇輝くんに貢げない!!!!!!

いつもライブ配信でスパチャを投げたいと思うのに投げれるのは給料日に数百円。これじゃ認知なんて程遠い…。

あーなんか、楽に稼げる仕事ないかな。かと言って闇バイトとかする気ないけど。合法で簡単に稼げるバイトとかないんかな。

「はるなちゃんもうあがっていいよー」

「あ、店長、分かりましたお疲れ様ですー」

そう言って帰り支度して店を出る。

あたりはすっかり暗く、雪は降ってないものの冬の寒さが身に染みる。

来月のシフト増やせないかなぁ…でも限界まで入れてるしな…うーん、バ先ふやすかな…検索してみるか…

『楽に稼げる ホワイトバイト』

我ながら笑ってしまうワードチョイスである。

「…ん?これなんだ?」

興味本位でタップしてみる。

『提供人相談員募集中。精神的に安定している方大歓迎。ストレスフルな職場耐えられる方大歓迎。国が募集するお仕事で安定です。月収:40万円から。資格必要なし(カウンセラー等の資格がある方大歓迎)。月の出勤は5、6回程度で副業可能。面接は多いですが応募待ってます』

月5、6回の出勤で四十万。怪しい、絶対手を出しちゃダメな気がする。でも本心は、「勇輝くんの配信で名前呼んでもらえるかも!?」でいっぱいである。

ところで提供人…ってなんだっけ、なんか聞いたことあるような…

『提供人 とは』

『提供人とは、日本に住む15歳以上の条件を満たした者に新たに認められた制度で、自殺志願者に安楽死を認め、その代わりに臓器提供を行う、という制度です。提供人相談員が申請されてから約2年にわたってその意思を確かめ、安全な医療機関で実行されます。提供人相談員の過酷さから人材不足が問題視されており、最近、給与の見直しをしたり、資格の必要がなくなったりしました。』

AIってすげえなわかりやす。

提供人相談員って、そういうことか…ちゃんと国の仕事…

うーん、でもストレス耐性はあるからな…この限界状況で推しを作れるくらいにはメンタル強いし…思い切って応募してみるか。なにより、月収四十万…!!!



「瀬戸内はるなさん、どうぞ」

「よろしくお願いします」

「なぜ相談員を志願されたか教えて頂けますか」

「私は今までの人生で様々な経験をし、その中で死んでしまいたいほど絶望したこともありました。ですから、提供人の志願者に寄り添い、否定も肯定もせず一緒に歩んでいける、そう確信し、ここに応募しました」

全部AIに作らせて覚えた志望理由だけどいけるか!?

「なるほど、ありがとうございます。では、およそ2年の間支えた提供人志願者が最終的に臓器提供を決断し亡くなった際、次の仕事に移る自信、覚悟はございますか」

「もちろんです。彼らの思いを受け取り、その悲しみややるせなさを生かしてまた次の仕事をより良いものにしていけるよう努めてまいりたいと思っております。また、相談員の核である、『死にたい思いを否定しない』という精神のもと、彼らの決断を認め前に進める自信があります」

AIの想定問答集最高だな。

そんな感じでなんだかんだ一次面接を突破し、二次面接3次面接と行くにつれAIには求められなかった質問をされる中で「相談員」という仕事について理解して、お金以外の理由で勤めてみたい、そう思うようになった。

『瀬戸内はるな 様

3次面接に通過いたしましたので、最終面接のご案内です。最終面接ではこれまでの面接と違い、実際に相談員に同行して相談員の仕事を間近でみてもらい、貴方自身に『この仕事をやっていけるのか』を判断していただきます。つきましては下記の日時をご確認ください。

瀬戸内はるな様 2/10 17:30〜 場所は面接と同じです』

はへぇ、面白いことをするもんだ。合否を自分で決めるとは。そして仕事内容を見せるとは。

頑張らなきゃな。


その日の夜は、眠れなかった。どんな人の、どんな苦悩を、聴くことになるのか。今までの面接とは訳が違う。AIも全く通じない。そんなこと、私にできるのか?

…でも、やってみなきゃ、わからない、か。


その日は晴れていた。服を干して、集合場所へ向かった。

「はるなさんですかね?」

「はい、本日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。相談員の川田まきです。本日はわたしが一年ほど担当している17歳の女の子のるりちゃんところに行きます。貴方はただみているだけで大丈夫です。では、行きましょう」

「はい」

そう言って川田さんと車に乗り込み、住宅街へ向かった。

「今日の子を簡単に説明しておくと、彼女は高校一年生になる春に両親を事故で亡くしてね、年齢もあって施設には入らず遺産とバイトで一人暮らしをしている子よ。公園でオーバードーズをしているのを警察に見つかったのをきっかけに提供人制度を知って応募してくれたわ。私的には、まだ若いんだから生きてほしいと思うんだけど、人の死にたいは否定しないがうちのポリシーだからね、まあ、ゆっくり話は聞いてあげてるんだけど。」

「なるほど、そんな若い子もいるんですね」

私が17の頃何してたかな。ぼっちJ Kでずっと推しの配信みて赤点とって怒られたな。懐かしい。あんまり変わってねえな。

「若い子だらけよ。死ぬに死ねない、勇気が出ない、だから安楽死したい。そんな子ばっかり。でも一年もカウンセリング続けてそれでも彼女みたいに多少の迷いはあれどやりたいって子は割と少数派かもね。まあ状況が状況だものね。」

「…そう、ですか」

そんな会話をしているうちに、彼女の住む、私の家と同じくらいボロいアパートに着いた。

ピンポーン

「あ、こんにちは。まきです。るりちゃん、あけてもらってもいいかな?」

「あ、まきさんですね、今開けます」

「こんにちはー」

「こんにちはっ、あ、えっと、その方は…」

「相談員になりたいって言ってくださってる方よ。今日は見学させてもらってもいいかな?」

「あぁ…えと…はい。えっと、分かりました」

「ありがとうございます。瀬戸内はるなです。すみませんお邪魔して」

「いえ…あの、ちょっと、今日は踏み込んだ話は控えた方がいいですか、まきさん」

「いや!今日は瀬戸内さんが自分にもできるかを見に来たんだから、むしろるりちゃん節全開で大丈夫よ」

「は、はぁ。分かりました。どうぞ、お茶一個しか用意してないんですけど…」

「私お茶あるんで大丈夫です!」

「わ、分かりました…」


「るりちゃん。最近はどう?メンタルとか」

「それが…またやっちゃって」

そう言って彼女は棚にある薬の箱を指差した。

「本当はやめたいんですけど…母さんと父さんのこと思い出すと涙止まらなくなって。やらないとやってけなくて。提供のため我慢だと思うと頻度はかなり減ったけど、それでもつい2日前やっちゃって…」

「悪いことじゃないのよ。全部の臓器を提供しなきゃいけないわけじゃないしね。苦しくて、提供できないまま死んじゃうよりはまだいいわ」

悪いことじゃない。提供前に死ぬよりまし。確かにそうだけど…なんか、なんか変だな。死にたいって、そんなもんなのだろうか。

「…この面談、やっぱりあと一年やらなきゃだめなんですか。早く死ねるなら死にたいし、万が一決意が変わった時のためにって行ってる高校も大変だし…」

「そうよね、その通りよ。るりちゃんはとても頑張ってるわ。でも残念だけど、国が最低でも2年は面談してねってルールだから。高校とかも簡単にやめたらダメだよってルールだしね。でもどうしても辛いなら辞めるのもありだし、高校やめて、提供人もやめても人生意外とどうにかなるし、まあ、いつでも相談してね」

「ありがとうございます。ごめんなさい、こんな私に毎月時間割いてもらって」

「ううん、いいのよ。るりちゃんが安全にその日を迎えられるように見守る役目でもあるしね。じゃあ来月また会いましょう」

「ありがとうございました」


「なんか割とあっという間に終わりましたね…あっさりしてるというか」

「もう1年も経ってるし、いつもはもうちょい雑談するけどそこは瀬戸内さんもいるし遠慮したのかもね。どうだった?できそう?」

「…人の命を預かるって、大変なんだって当事者を見て実感しました。けど…もしこういう人たちの、少しでも救いになれるなら、頑張ってみたい。やってみたい。そんな気持ちです」

「そうね、ありがとう。これで最終面接は終わり。やるつもりなら、面接の時のメアドにやる意志を送ってね。最初は研修があるから心配しなくてオッケーよ。お疲れ様。心が案外疲れてるだろうからゆっくり休んでね」

「ありがとうございました」

…やろう。人の救いになれて、四十万。どっちもゲット。やるしかない。

そう言い聞かせて、メールを送った。


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