第27話 模擬戦・後編
攻撃役を一人射抜いてからは、ロアとリオは自陣の見晴らしの良い場所に移動し、さらに注意深く見張った。
「兄ちゃん、見つけるのは任せたよ!」
リオが笑う。
ロアははにかんでうなずいた。
リオがこんなにも自分を信頼してくれることが、兄として誇らしかった。
そのとき、草むらの中を、今度はゆっくりと影が動いているのに気付いた。
ロアはリオの袖を引き、指をさす。
リオはその先をじっくりと目で追い――矢を放った。
草むらから、額に墨のついた少年が立ち上がった。
自陣が湧く。
「くそ、ちゃんと匍匐前進してたのに……」
リオはロアの方を向いてぱっと笑った。
「さすが兄ちゃん!」
それからしばらく経ったが――残り一人の攻撃役がまだ現れない。
リオが耐えかねて口を開いた。
「そろそろ、辺りを探してみない?」
「うん。ハニスも一緒に行こう」
ロアは頷く。
リオは手を打つ。
「そうだ、ハニスなら敵の匂いがわかるかも!」
ハニスは困ったような顔で笑った。
「誰が攻撃役かわからないからなあ......でも、頑張ってみるよ」
そうして三人は、自陣周りの探索に向かった。
少し歩いたところで、ハニスは急に立ち止まり、
そして小さな声でつぶやいた。
「……あれ?......ラピン?」
だが辺りには誰もいない。
「どうしたの、ハニス?」
リオが声をかける。
「こっちからラピンの匂いがする……」
「ラピン!? でも、攻撃役なんてやりたがるかなあ」
リオは首を傾げた。
ロアも、ラピンが攻撃役をやりそうには思えなかった。
だが、ハニスが言うなら確実に近くにいる。
「とりあえず、匂いの方向に行ってみる?」
ロアが提案する。
三人は、ハニスを先頭にして再び歩き始めた。
ハニスはどんどん森の奥へ入っていく。
リオが不安そうに言った。
「なんか、変な方向に行ってない?ラピンが来た方向に戻ってるんじゃない?」
ハニスは鼻を動かしながら答える。
「いや……でも、こっちの方が匂いが新しいから。こっちに向かって行ったんだと思う」
「ハニス、そんなことまでわかるんだな……」
リオは感心したように見つめた。
しばらく歩くと、少し開けた草むらに出た。
長い草が、風でざあっと揺れている。
――その揺れと全く同じ速さで、異様な影が草の中を滑っていく。
「......ラピンだ」
ロアはつぶやいた。
「ええっ、本当にラピン!?」
リオは驚きながらも、迷いなく矢をつがえた。
放たれた矢が空気を裂く。
――その瞬間、影がギュンッ、と曲がった。
まるで摩擦という概念が存在しないかのように、ラピンの影は進行方向を直角に変え、草むらを滑るように走り抜ける。
「なっ......!」
リオは次々と矢を放つ。
だが――
放つたびに、影は別方向へ曲がる。
まるで、どこに矢が来るか先に知っているかのように。
ロアは目を見開く。
リオが矢を外すのを初めて見た。
駆け回る宵ウサギすら、飛ぶ鳥すら射抜くあのリオが。
リオの顔に焦りが浮かぶ。
弓を引く手に力をこめた、その瞬間――
パンッ!!
大きな破裂音と共に、弦がちぎれた。
ラピンの影は最後にひと跳ねし、宙を舞うように森の中へと消えていった。
「嘘だろ……俺の矢が当たらないなんて……」
「僕もびっくりした……宵ウサギどころの速さじゃなかったね……」
「見つかっちゃったから、もう追い付けないね……」
三人は肩を落としながら、自陣の方へ歩いた。
少し歩くと、自陣の背面が見えてきた。
森の奥まで入りすぎたせいか、気づかないうちに回り込んでいたらしい。
そのとき――
ロアの目に、衝撃の光景が映った。
ラピンが、自陣の中で、ぽつんと座っていた。
しかも、誰もラピンの方を見ていない。
「ラピン!?」
リオの声が裏返った。
自陣の少年らは一斉に後ろを振り向き、そして固まった。
ラピンは驚いたように立ち上がり、
――温かい髪を風に揺らした。
ラピンの勝利だ。




