29.荒野の町、ティレル
砂埃が風に混じる中、荒野に町が立つ。
荒野の町、ティレル。
その町の中央には小さなオアシスがあり、それ以外は取り纏め目立った物は見当たらない。
素朴な町並み、素朴な人々が町を行き交うばかりだ。
逆説的に言うならば、荒野の真ん中と言う過酷な環境で有るにも関わらず、素朴程度で済むと言うことは、ここの住民達は強くしたたかであることがわかる。
全員が全員、生きる達人と言った所ですかね……
「さて、先ずは宿を探しますか。ヨゾラ殿はここで待っていてくだされ……」
彼はそう言うと馬の手綱をこちらに預け、近くを通る住民に声を掛けて行った。
町の住民はグレイスさんに話をかけられると、少し戸惑った様子を見せるが直ぐに警戒を解いて談笑を始める。
それどころか、グレイスさんから溢れ出る上流階級のフェロモン故か最終的には何処と無く恭しい態度で接している様に見える。
コミュ力が高くて羨ましい限り。
俺にはとても出来ない。
騎士様ってのは天然の陽キャなのかね……
グレイスさんは一人、また一人と声を掛けて行った。
談笑を始めとして、驚いたような表情を浮かべたり、時には真剣な表情を見せたりと、百面相を披露している。
一体、何を話したらそんな表情豊かな会話が繰り広げられるんだろうか、まったく想像がつかん。
そう言えば、外国人って滅茶苦茶表情豊だけど、この世界の人達もそんな感じなのかな?
そうだとすると、日本人の私はかなり鉄火面依りかもな……
今のうちに笑顔の練習とかしておきますか?
「何をやってるんですか、ヨゾラ殿?」
「は、はひ!! あえ、いえ、何でもないですわよ、おほほほほ……」
そんなこんなしていると、グレイスさんがいつのまにかに帰ってきていた。
普通にびっくりした……
笑顔の練習をしていた私を他所に……
と言うか、見なかったことにしてくれたらしく、グレイスさんは一つ咳払いをして喋り始めた。
「コホン。どうやら、オアシスの畔にある宿がオススメとのこと……」
さいですか……
流石でございやす、グレイス殿。
フードを目深に被ってる明らかに怪しい俺では、こう上手くは行かなかってでございましょう。
「さて、行きますか、ヨゾラ殿」
「は、はい、そうですね」
俺は自分の未熟さを噛み締めながら宿に向けて歩き出した。
あと、笑顔の練習を見られた恥ずかしさも噛み締めながら……
それにしても、宿の場所を聞くのも一苦労だよなぁ……
しかも、話を聞く時にあんな百面相も披露して……
なんか、グレイスさんにしてはスマートじゃないやなぁ……
まあ、私がグチグチ言っても仕方ないか。
そんな「店は男が予約しておく物でしょ!!」みたいな事言ってる場合じゃないしな……
本当なら、俺も少し頑張らないといけないんだろうしな……
うし!! 頑張るぞ!!
そんなことを思いながら、両頬を叩いてみた。




