ep58.『いってらっしゃい』『いってきます』
_____暗い___
どうして私はこんなところにいるんだろう。
みんなはどこにいるんだろう。
何も見えない。
聞こえない。
光もない。
"そんな中で一体どうやってみんなを見つけたら良いの?"
"…?みんな…?みんなって誰のこと…?"
刹那、真っ暗だった景色に一瞬にして色がついた。
辺りを見回すと、何とも不思議な光景が目に入った。
私の周りを囲むようにして、半分は花畑。もう半分は海が広がっていた。到底先の見えない広さだ。
何となく、海に浸かりたくなった。
とても綺麗で、辺りを見回せば青一色。
身体が熱いような気もするし、海に入って身体を冷やすのも悪くはないだろう。
そんな考えに至り半分くらいまで海に身体を浸からせた時、聞き覚えのある声がした。
『ソフィ』
"誰?"
『ソフィ、こっちへおいで』
その声のする方に行かないと行けない気がした。
私は海に浸かっていた身体を地上まで持ってきて、今度は花畑の方へと向かった。
2つの声は花畑の方から聞こえる。
『ソフィ、大丈夫。そのままこっちへおいで』
声の正体が何なのかは分からない。だけど、その声はこの前聞いた声とはまた違うが私を安心させた。
声の正体に会ってみたいと思った。だから歩いた。たくさん歩いてようやく、辿り着いた。
『…っ_!』
『『ソフィ、おいで』』
言われるがまま、私は手を広げた2人の声の主の方へと勢いよく走った。抱擁を求めた。
2人は快く受け入れてくれて、強く強く抱きしめてくれた。
『痛かったでしょう。よく耐えてくれたわ。』
『生きててくれてありがとう。ソフィ。もう大丈夫だよ』
『お父様ぁ…お母様ぁ…』
この数ヶ月。どれだけ痛くても泣かないようにしていた。
だけど、もう大丈夫だと言ってくれた。
世界で一番頼りになるお父様がだ。
ならばもう大丈夫なのだろう。
『痛かったんです………辛かったんです…苦しかったんです…。ずっと一緒にいたいです…。もう離れたくありません………』
顔は涙でぐしょ濡れ。それでも、お父様もお母様も私を離すことはなくて、むしろもっと優しく抱きしめてくれた。
私が何か言うたびに、
『ソフィは偉いわ』
『よく頑張った』
『もう泣いても良いのよ』
『私たちの前では何も我慢する必要はない』
そんな優しい言葉をかけてくれた。
怖がることはない。不安がる必要はない。大丈夫。そんな言葉で私は私を奮い立たせてきた。
私が気持ちを落ち込ませてしまったら、泣いてしまったら、ただでさえ今にも泣きそうな顔をするレオやお兄様たちがもっと辛い思いをさせてしまいそうで、それだけは嫌だった。
心臓は週に2回という頻度で痛くなるし、吐血だって血の量は増える。
それでも約束したから。死なせてなんて言えるわけがなかった。
だから耐え抜いた。
けど、今ここにお父様とお母様がいるということはつまり、そういうことなのだろうか。
『お父様、お母様。私は、死んでしまったのでしょうか…。』
お父様とお母様は一拍置いて言った。
『大丈夫。まだ死んではいないわ。だけどそうね、少し危ない状態ね』
父が言い聞かせるように優しく説明してくれた。
『ここは下界と常世の間だ。ここにいるということは、ソフィは少なくとも死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされているんだよ。』
『そう…なんですね…』
少し、無理があると思っていた。
残り2ヶ月で死ぬという私の心臓を2年間もたせるなど、いくら最新の医療技術があったとしても厳しいはずだ。
後悔はある。
レオとの約束を守りたかった。生きて一緒に暮らしていこう、歳をとっていこうと約束したのに。守れない。
"約束を破るようなことはしたくなかったのになぁ…"
『何を諦めてるのソフィ。』
『え?だって、生きるか死ぬかの瀬戸際だって…』
『そうだ。まだ決まっていないだろ?…ソフィ。私たちがあげられる最後の誕生日プレゼントだ。』
『誕生日…プレゼント……?』
今日は私の誕生日ではない。
おそらく、今までの分の誕生日プレゼントということなのだろうけど、ここであげられる誕生日プレゼントとは何なのだろう。
嫌な予感がする。
『お父様、お母様。また会えますよね…?』
『『…………』』
2人の表情や、何も言わない様子を見て全て悟った。
お父様とお母様は、自分を犠牲にする気だ。
『私はお母様とお父様の犠牲で成り立つ生なんて嫌です。』
『ソフィ。これは犠牲じゃないわ。だって、私たちが望んでるんだもの。ソフィが生きることを。それを犠牲とは言わないわ』
『でも…』
躊躇ってしまう。
ここから目覚めてしまえば、もう二度とお父様とお母様には会えなくなる。
常世でいっぱい話をしたい。
お父様とお母様が亡くなった後こんなことがあったのだと、沢山聞いてもらいたい。
でも私が生きる選択肢を取ってしまえば、もうそれは叶わない。
これは憶測でしかないけど、お父様とお母様は自分の魂を犠牲にするつもりだと思う。
もしこれが本当なら、私を助ける代わりに2人の魂が消滅してしまうから、死んでも会えないし2人の魂が再び下界に降りてくることはない。
何の対価もなしに私を生かすなんてお父様とお母様が神でもない限り無理な話だ。
『ねえソフィ。お母様たちが亡くなる前に何を願ったか分かる?』
『…分かりません。』
『もし娘と息子に何かあった時、救う機会をお与えくださいとお願いしたのよ。その時点で私たちが魂を代償にすることは決定してるの。だからあなたが気負う必要なんてない』
私のお父様とお母様はとても聡い。
私が何を察して【犠牲】という言葉を使ったのかを瞬時に理解していた。
『お母様の言う通りだよ。私たちはお前たちを置いて逝ってしまったことが悔やみきれないんだ。これは犠牲なんかじゃない。親としての娘を助ける権利だ。どうかそれを私たちにくれないだろうか』
『…………__ずるいですよ……』
『ごめんねソフィ、最後にもう一度抱きしめても良いかしら?』
『……はいっ__…』
それからしばらく動かなかった。
私も、お父様も、お母様も、みんなで抱きしめあった。強く、お互いの愛を確かめ合うように
『覚えておいて。私たちはずっとソフィの心の中にいる。』
『…お父様、お母様』
『何だい?』
『なぁに?』
2人の優しい声にまた涙ぐんでしまいそうになる。
だけど、やっぱり最後は笑顔でお別れをしようと思った。
『大好きです。…さようなら。また絶対会ってくださいね』
『ええ、絶対よ』
『ああ、約束だ』
会えないことは分かっている。それでも、約束しておきたい。叶うことのない約束だけど、それでもしたくなった。父と母との最後の約束。
大好きな人との別れというのは辛い。
でも泣いている顔を見せたくなくて、2人にとっての最後の私は笑顔でありたい。
だから、私は2人に背を向けて『行ってきます』と言った。
今まで見ていてくれてありがとう。もう大丈夫だよという気持ちを込めて。
世界がまた暗く染まるほんの数秒前、父と母が『いってらっしゃい』と言ってくれたような気がしたのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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