ep59.叶わないと思っていた『公爵視点』
あれから、ソフィアを送り出してから2年半もの月日が経った。
カルロスが言っていた期間は2年。
つまり、…そういうことなのだろう。ソフィアとの約束は守られない。
ソフィアがいなくなってから、また俺の世界が元に戻った。
色味のない、白と黒と灰色の世界で、何を食べても味がしない。
唯一味がしていたデザートも、最近ではだんだんと感じなくなってきている。
2年半前は活気付いていた邸宅も、今はまた淡々と仕事をこなすだけだった。
ソフィアがメイド長の罪を明らかにしてから、使用人は楽しそうに仕事をしていた。
もちろんメイド長がいなくなったからという理由もあると思うが、一番はそのメイド長を追い出したのがソフィアであり、ソフィアのために働きたいと思ったからだろう。
俺は極力関わる使用人を決めていたからあまり他の使用人との関わりはない。
故に、使用人を元気づけることが出来るのはソフィアしかいないというのに、肝心のソフィアはここにはいない。
会いたい。
聞きたい。
話したい。
抱きしめたい。
もうそんな願いも叶うことはないのかと考えると、毎日涙が出そうになってしまう。
だが俺が泣く資格なんて何処にもない。
ソフィアと出会う前の俺はこんなに泣き虫ではなかったというのに。
だが、俺もソフィアの義父も兄のリアムとルイスも、日常の生活を疎かにすることはあっても、仕事を疎かにすることはなかった。
今日も執務室の机に置いてある書類をまとめていて、今はその休憩中だ。
これは俺たちのケジメというやつだった。
せめて上から見てくれているのならば、ソフィアに弱っている俺たちは見せられないという意志のもとだった。
だが願わくば…
"___ソフィアにもう一度だけ会いたい__"
そんなどれだけ願ったって叶いもしないような願いを頭の中に思い浮かべていると、扉の開く音がした。
俯きながら考えに呆けていて気配を察知出来ずにいたので扉を開けた人物が誰かはわからなかったが、勝手に開けるのは礼儀に反するので取り敢えず指摘する。
「おい。誰かは知らんが扉を開けて良いと言った覚えはないぞ」
「ごめんねレオ。勝手に開けちゃってぇ。だけど、今一番会いたい人を連れてきたよぉ。遅くなっちゃってごめんねぇ」
「…っ?!」
いつもならば今ここにいない人物の声がした。
そしてその人物は俺の一番会いたい人を知っている。
顔を上げるのが怖い。
顔を上げて会いたい人がいなければ、俺はまた少しの間絶望してしまうだろう。
カルロスは嘘をつかないと分かっていても、それでも怖いのだ。
これでも近衛騎士団長をしているのに、怖いという気持ちとは無縁だったのに、当たり前のように今は俺の心の中に怖いという思いが存在している。
「本当にいるのなら、…声を聴かせてくれ…」
「…レオ様。私と目を合わせてください」
「…っ!!ソフィア…なのか…本当に…!」
俺はゆっくりと顔を上げた。
やっと、やっとやっと、声が聴けた。
顔を見ることが出来た。
「ただいま帰りました。レオ様。遅くなってしまってすみません」
「…抱きしめても、いいか…」
「はい」
俺はゆっくり立ち上がってソフィアの側に行き、割れ物を扱う時のように抱きしめた。
強く抱きしめたらすぐに壊れてしまいそうで、今ここにソフィアがいることがまだ信じられずにいる俺がいた。
「本当に、ソフィアだよな…?」
「はい。本当にソフィアですよ」
「俺の幻じゃない…?」
「私はここにいますよ。不安にさせてしまってすみません。長い間待っていてくださってありがとうございます。」
独り言のような発言にもソフィアは丁寧に返してくれた。
ソフィアがここにいるのだとようやく実感する。
またこうしてもう一度出会えたことが奇跡でないならば何だと言うのだろうか。
「愛してる。本当に愛してるんだ…。」
ソフィアも手を俺の背中に腕を回して、言葉には出していないが大丈夫ですよと伝えてくれている気がする。
「また泣かせてしまいましたね」
俺はソフィアに表情を見せていないはずなのに、どうして分かるのだろう。
俺でさえソフィアに言われて気が付いたのに。
抱きしめながらも色々と考える。
熱はないか?
心臓は痛くないか?
立っていても大丈夫なのか?
苦しくはないか?
もう辛くはないか?
今すぐにでも聞きたいことは沢山あった。けど今聴きたいのは…言いたいのは
「…おかえり、ソフィア。」
「っえへへ。嬉しいです。おかえりと言ってくれる人がいて、私は幸せ者ですね。ただいまもどりました」
「…何を言う。俺の方が幸せに決まっている。こうしてソフィアが帰ってきてくれたのだから。」
おかえりと言われてこんなに幸せそうな声をするなんて、今までの分も沢山幸せで満たしてやろうと改めて決心する。
だが、少しその声に違和感があった。
震えているような、我慢しているような
「ソフィア…?」
「…夢を見たんです……。」
「夢?」
「…夢に、お父様とお母様が出て来たんです。…2人が、私を生かしてくれたんです……。」
ぽつりぽつりと話すソフィアの声は震えていた。
そして全てを話してくれた。
ソフィアは実の父母は大好きだったのは知っている。その2人が、自分を犠牲にしてソフィアを生かしたこと。
走馬灯とはまた違う、本当に死者との会話をソフィアと実の父母としたこと。
死者との会話は同じ死者、もしくはもうすぐ死ぬ人でないと会話は出来ない。
つまり、ソフィアは生と死の間を彷徨っていた。
そして大好きな2人の犠牲によって助けられたこと。
その事実が、ソフィアにとっては辛くて悲しくて仕方ないということ。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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