ep43.安心してください
◇◇◇
「…………」
「……あ…!お目覚めになりましたか。」
「ソフィア…?」
レオは重たそうな瞼をゆっくりあけて私の名前を読んだ。
声はいつもより元気がなくて眠たそうな声だった。
「せっかく起きたので夕食を食べてしまいましょう。明日体調が治るとはいえ、食べるのと食べないのでは身体の怠さに違いが出てくるはずですから。」
そう言って、私はレオの身体をゆっくり起こした。
食べるものは昼食とさほど変わりはない。まだ身体が弱っている状態でいつも食べているものを食べれば、身体が頑張ってしまう。なので、味付けを変えてもらったものをレオにだした。
「…ソフィア……また、食べさせてくれるか…?」
「…!もちろんですよ、公爵様。今は身体が弱っているんです。ですから、存分に甘えてください。」
私が貴方にしてもらったように。
伯爵家にいた時は甘えるなんて思いつきもしなかった。甘えたところで、その思いに応えてくれる人なんていなかったし。
でも、レオが私に甘えるということを教えてくれた。
だからその恩返しがしたかった。
今日だけで今までの恩が全て返せる訳じゃないけど、それでも私が生きている間に少しずつ恩を返していかないと、死ぬまでに全ての恩を返しきれない。
「…ありがとう…。」
たった一言をふにゃりとした笑顔で言うものだから、思わず目を見張った。
心の中は、こんな状況だけど少し穏やかだった。
子供の頃のレオに完全に戻ったみたいで、今だけは余計な気も抜いてくれているような気がして嬉しかった。気を遣ってくれるのは嬉しいけど、それだとレオも疲れてしまうだろうから。
それからゆっくり食べさせると、昼よりゆっくりではあるものの、しっかり食べ切ってくれた。
だけど、夜に体温が高くなるのは当然のことで、夕食を食べる前も食べ終わった後も、レオは昼よりも荒い息をしていて辛そうだった。
私は引き続き、少しでも楽になってもらうため、額に当ててる濡れタオルをぬるくなる前に変えている。
看病されるのはもう慣れたものだったけど、看病をする側に回るのはとても新鮮だった。
その事実に少し楽しいなと思っていると、ゆっくりとレオの口が開いた。
「ソフィア、もうそろそろ部屋に戻ってくれ。」
それはおそらく、私の体調を心配してのことなのだろう。
しかし、今は私よりも心配しなければいけない人が目と鼻の先にいるというのに、レオはそれに気付いていない。
自分の身体を顧みないのは私と同じなのだろう。
でも私も当たり前のように、自分とレオの優先順位は圧倒的にレオの方が上だから。
「…公爵様。」
「…?一体何を…?」
「いつも公爵様がしてくれていることです。」
レオが目を見開いた。驚くのも無理はないだろう。
私は今、レオの頭を撫でているのだから。
前は触れられるのをとても恐れていたというのに全く気にしていない様子だった。特訓の成果は出ていたのだと嬉しくなる。
「公爵様。…とても、安心しませんか?」
「…ああ、なんだかくすぐったいな。」
レオの感想に思わず少し笑ってしまった。
くすぐったいという言葉にはもっと撫でてくれと言うような意味に聞こえる甘い声をしていた。
「今は何も気にしなくて良いんですよ。自分がして欲しいことを言ったとしても、数日休んだとしても、誰も咎めたりしません。いつも頑張っていることは邸宅にいるみんなが知っているのですから。」
「…ありがとう、ソフィア。……なら、俺が眠るまでの間だけ、ここにいてくれるか。」
「はい。もちろんです。」
タオルを変えて、レオの頭を撫でてを繰り返していると、あっという間にレオは眠ってしまった。
撫でるのが相当気持ち良かったようだ。
眠ったレオは先よりも心地良さそうな寝息を立てているが、レオにはゆっくり休んで欲しいという思いから看病は続行した。
そして時計の短い針が真上を通り過ぎる頃、私の眠気も限界に達してしまったのだった。
私にとっては、とてつもなく長い1日だった。でも、いつもと違うレオを見ることが出来て、レオの本心を知ることが出来て、嬉しいと思う私がいた。
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