ep38.初めて気付いた思い『公爵視点』
俺は眠ったソフィアの頭を優しく撫で、考え事をしていた。
ソフィアから出て来た言葉は、本当に俺の知らないことばかりだった。
ソフィアが以前に婚約を結んでいた男がいたことも知らなかったし、そもそも知ろうとはしていなかった。
今の婚約者は俺であり、ソフィアも俺だと言ってくれた。
だが、何故か無性に腹が立つ。寂しくなる。
『俺の元に戻っておけば傷つくことはない』という侯爵の言葉は、まるで俺の側にいると必ず傷付くと言っているような、妙に違和感が残る言い方だった。
あいつもソフィアのことを考えていたという言葉にも心底苛立った。
ソフィアのことを考えていたら妹の方に言い寄ることなんてないだろう。
それと、ソフィアの「傷がついたとしても気付けない」という言葉。
あれがもし本当なのだとしたら、ソフィアが泣くことは本当に難しいことなのかもしれない。いや、ソフィアは俺たちに嘘をつくはずがないのだから本当なのだろう。
傷は痛むことがなければ自分で視覚的に見つけないと発見することは出来ない。
そしてその痛さや苦しさをソフィアは感じなくなってしまった。
長い間人と戦って来て、人に気を遣って、自分自身には大丈夫大丈夫と言い聞かせているうちに、分からなくなってしまったんだ。
人の痛みには敏感なくせに、たまに屈託のない笑顔をこっちに向けて来るくせに、ソフィアは自身の痛みには全く気付けない。
どこが限界かも分からずにずっと笑顔で、余命が分かっていてもそういう運命だというふうに彼女は受け止めてまた笑っている。
誰に対しても一線を引いてそれ以上踏み込もうとはしないし、自身の囲いには誰も入れようとしない。
なのにどうして、俺の所へきたのだろうか。殺してもらうためとはいえ、伯爵領からここまでは半日もかかる。
余命が残り少ないからという理由だけでここに来るものなのだろうか。
殺すと言っても、わざわざ俺のところへ来る理由がない。何故なら、違法ではあるがまだまだこの国には暗殺者が存在しているからだ。
その暗殺者に半年後殺してほしいと頼めば、俺のところへ来るよりも確実だっただろうに。
不思議だ。だが今はこんな事を気にしている場合ではない。侯爵の言っていたことについて少し調べないといけないな。
「旦那様、邸宅に到着致しました。…お嬢様は…」
「俺が運ぶ。」
考え事をしている間に着いたため、俺はソフィアを起こすことはせず抱っこをして運んだ。
それからベッドに寝かせて、静かに部屋を出た俺は後ろにいる二人に声をかけた。
「リアム、ルイス。」
「何でしょうか。」
何故声をかけたのか、単純明快だった。
「ソフィアを守れ。」
「「…!。」」
「俺が邸宅内で仕事をしている時は常に側にいる必要はない。だが騎士の仕事を任された時はどうしてもここを離れないといけない。その時はお前たちしかソフィアを守れるほどの実力者はいない。」
いつも見ていて感じる。トレーニングを欠かさず行ったことが分かる体付き、剣を持つ人間の手の荒れ方、目から感じる威厳やオーラ。
この二人は強い。
ただの騎士ではない。いくつもある騎士団の中で圧倒的に群を抜いた強さを持っている。
「お褒めに預かり光栄です。ですが、公爵様の方が実力が優れているかと。」
「…俺が剣を握ったのは5歳だ。それから19年修行をしている。俺がお前たちより強いのも当たり前と言えば当たり前だ。積んできた経験も俺の方が多いしな。だが誇れ。お前たちは強い。」
俺が今言ったことは何一つ嘘ではない。全て本当のことだ。もし俺と同じ年だったなら、この二人は俺を超えていたかもしれないな。
「これでも妹のために11年剣を触って来たので。公爵様に認めて頂けてよかったです。」
「ああ、その強さを妹のために発揮しろ。期待している。」
「御意。」
普段は俺とソフィアのことでよく口論するリアムもやはりソフィアのこととなると真剣な口調で俺と話す。
ルイスも同様だ。口調は荒いが実力も強いし態度も忠実。
この二人ならきっとまだまだ強くなる。
「話は以上だ。夕食は部屋に運ばせるから部屋で食べろ。」
「…公爵様……」
「…なんだ?」
"嫌な予感がする…。"
「俺のソフィとどのようなお話をしたのですか」
やっぱりか。
「何も話していない。それに『俺のソフィ』とはなんだ。ソフィアはお前のじゃない。」
「いいえ、俺の世界で一番愛する妹です。」
「いいや、俺の方がソフィアを愛してる………。」
"…………………………は?"
俺がソフィアを愛してる?今俺がそう言ったのか?…。
"……そうか。愛しているのか…。"
だから侯爵から言われたことに腹を立てた。
ソフィアが苦しんでいる姿を見て悲しくなった。
ソフィアが泣けない姿を見て寂しくなった。
たまに向ける心からの笑顔に俺まで胸が躍った。
ああ、全て合点がいく。
俺の今までの行動や気持ちは愛からくるものだったのか。
少し前の俺なら、心の中では向こうが好きだと言った瞬間追い出してやると息巻いていただろう。
それが今では、すっかり彼女の魅力にハマってしまった。
「そうだ…。俺は誰よりもソフィアを愛してる。」
「例え公爵様と言えども誰よりもは譲れません。俺が一番です。」
「リアムも公爵様もやめてください。ここはソフィの部屋の前です。ソフィの睡眠の妨げになります。」
ルイスに言われて俺とリアムは顔を見合わせた。実は一番ソフィアを大切にしているのはルイスなんじゃないかと思ったが、その気持ちは心に留めておいた。
多分、リアムも同じ考えだったんじゃないかと思う。それでも声に出さなかったのは、言ってしまえば物凄い形相で襲いかかってきそうな気がしたから。
「そうだな。すまなかった。俺はまだすることがあるから、二人はもう戻れ。」
「「分かりました。」」
こうしてよく言葉が被るのはやはり仲のいい証拠だと感じる。
ソフィアも本来なら…義母や義父に大切にされていたなら、当たり前のように笑ったり泣けたり出来ていたはずなのに。
その当たり前をソフィアは出来ない。その苦しみから、俺はソフィアを救い出すチャンスを貰った。人として当然の権利を、幸せを、喜びを、全て俺がソフィアにとっての当たり前にしてやる。
与えられたからにはしっかりやり通さなければいけないだろう。
絶対侯爵の発言の意図を見つけ出すと俺は誓った。
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