ep39.何故敬語を使うのか?
"…朝"
やらかした。
ベッドの上で目覚めたということは誰かに運ばせてしまったはず。そしてそれは多分レオだ。
頭を預けるだけで充分休めたはずなのに、レオの言葉に甘えて眠ってしまった。
「おはようございます。お嬢様」
「おはようございます、アイヴィー、アメリア、フィービー。なんだか久しぶりのような気がしますね」
「ですね。しばらくは旦那様とリアム子爵様とルイス子爵様が看病されていましたから」と少しだけ寂しげにアイヴィーが言った。
なるほど。それで久しく会ってない気がした訳だ。
「あの、公爵様が今どこにいるか分かりますか?謝りに行きたいのですけど…」
私の言葉を聞いてことの顛末を察したのか、フィービーが口を開いた。
「そのことなら、旦那様から気にするんじゃないぞと言伝を預かっておりますよ。なので気にしなくて大丈夫です!」
続いてアメリアも言った。
「そうですよ。旦那様は謝られるよりお嬢様の元気なお姿を見る方が何倍も嬉しいかと思います」
「そっか…。ありがとうございます、みなさん。」
嬉しいことを言ってくれるが多分違うだろう。
レオは別に私のことを好いているわけじゃない。ただの罪悪感から世話を焼いてくれてる。
何度でも思うが、本当にレオは優しすぎる。
「お嬢様、公爵様から朝食を食べようとのお誘いがありますが行かれますか?」
その問いに、私は迷いなく頷いた。
「はい、行きます。」
体調も悪いわけじゃないし、食べられるうちに、歩けるうちに、たくさん今の当たり前を謳歌しておきたい。
どうせまた、不定期に心臓の激痛が私を襲うのなら、その間くらい楽しんだって罰は当たらないだろう。
「かしこまりました。それでは用意致しますね。」
「ありがとうございます」
アイヴィーもアメリアもフィービーもどうして心配したり寂しそうな素振りをするのだろう。
あの時、メイド長にやれと言われたからと言っていたけど、多分私的な感情も入っていたと思う。
どこからともなくフラッとやってきた私を婚約者にしてしまったのだから私的な感情が入るのも当然と言えば当然か。
けど私はレオを独り占めする気なんてさらさらない。残り三ヶ月をここで過ごしたら、私はレオに殺してもらう。
やっぱり生きたいとは思わない……。自分のことになると途端に全てにおいてやる気をなくしてしまうのだ。
「ありがとうございます三人とも。」
考え事をしているうちに用意が終わっていた。
お礼を言うと、三人はやっぱり少しだけ寂しそうな顔をして「いえ」と言った。
その表情に少し違和感を感じたけど私から三人に「どうしたの」と聞くのは違う気がする。
そう思い、これ以上は何も言わずに部屋を出て食堂へ向かった。
食堂に行っている途中、執事やメイドが皆こっちを向いていたけど気付いていないフリをした。
もう面倒ごとに巻き込まれたくはない。
食堂に着くと、そこにはレオとお兄様が揃っていた。
「お待たせしてすみません」
謝罪をすると、すかさずレオが言葉を入れた。
「いや、俺たちも今着いたばかりだ。もうすぐ朝食が来るはずだ。ソフィアも座れ。」
「はい、公爵様。」
そういえば、食堂で食事をするのは久しぶりだ。
しばらくはベッドの上で食べていたため、若干作法に不安がある。
そんな私の心情を察してか、レオが「ここは公式的な場じゃないから気にするなよ。」とお兄様たちに聞こえない声で私の隣で言ってくれた。
ここまで来るともはやエスパーなのではと疑ってしまう。
それでも、やっぱりレオの気遣いが嬉しいのは変わらなくて「ありがとうございます」と言って朝食を取った。
朝食の後は部屋でゆっくりしようと思い、レオに図書室まで案内してもらった。
「好きな本を選ぶと良い。」
「ありがとうございます。」
私は小説を数冊選んだ。
時間を潰せさえすればそれで良かったので、これといった拘りはない。
だけど、その適当に選んだ小説はレオの好みにフィットしたようで、「後で読んだ感想を教えてくれないか」と聞かれた。
私も、別に断る理由はなかったので承諾した。
そして、図書室を後にして部屋に戻ろうと扉の前まで来た時、今日の執事やメイドたちの視線の意味に気付くことになった。
私の部屋の前で公爵家にいるほぼ全員の執事とメイドが集まっているのだ。
流石の私でも驚いた。
「みんな、どうしたのですか?」
私が心底疑問に思い聞いてみると、メイドも執事もバツが悪そうな顔をして言った。
「お嬢様、どうか私たち公爵家の使用人一同に、お嬢様へ謝罪をさせてくれませんか…。」
「っえ?!急にどうしたんですか…。それに、何に対しての謝罪を…」
「今までのこと全てです。お嬢様に冤罪をかけてしまったその日から昨日まで、公爵様には話しかけることを禁じられていました。」
これは唐突のカミングアウト。
まさか私の知らないところでそんな指示を出していたなんて知らなかった。
"でもどうして?"
「そして今日、やっとお嬢様へ話しかける許可が降りたのです。初めから私たちは決めていました。許可が降りてまず一番初めにすることはお嬢様への謝罪だと。」
あの日からずっと、気にしていたのかもしれない。
私が冤罪だと認められて、枷を解かれた瞬間に倒れてしまった日。
確かにあの日から私は使用人に声をかけられることはなかった。
目線で追われることはあったけど、それでも話しかけられることはやっぱりなかった。
「そう…だから今まで声をかけなかったのですね。」
「はい…。お嬢様…今一度、謝罪をさせてください。今までたくさんのご迷惑を、そして見て見ぬふりをしてしまい、本当に申し訳ありませんでした…!」
「「申し訳ありませんでした…!」」
アイヴィーが代表して謝罪をし、その後に他のメイドや執事も続いた。
私はもちろん
「お顔をあげてください。皆さん。私はこの通り元気です。ですから、そんなに気に病まなくて大丈夫ですよ。」
全部終わったことなのだからと許した。
あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。
痛いし苦しいし辛かった。でも悪いことばかりじゃなかった。
カルロスとたくさん話す時間は楽しかったし、レオと話せることも増えた。
私は全く気にして…
「でしたら何故…」
「…?」
「何故、敬語をお使いになるのですか…。」
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