ep34.楽しい時間
言われて初めて気がついた。
レオの仕草はエスコートをする時のものだった。
「その…大丈夫ですか?無理はしないでください。触れるのは嫌がっていましたし、待って頂けるだけでもありがたいですから。」
「…!はぁ、そうだよな、俺があんな態度さえ取らなければソフィアにそんな気を遣わせることを言わせることもなかっただろうに。」
レオは少しの間一人でボソボソと呟いた後、改めてと言うように私の方へと向き直った。
「俺は無理をしていないし、お願いしたい。俺にソフィアのエスコートをさせてほしい。俺はソフィアなら触れても問題ない…というか、むしろもっと触れていたい。」
「へ?」
私の間抜けな返事と共にレオは私の手を自分の手の上に乗せて甲に軽くキスをした。
「どうか、俺にあなたをエスコートする機会を与えてくれませんか?」
いつからこんなにも芸達者になったのか。
私は少しだけ笑って応えた。
「喜んで。公爵様」
後ろでやれやれと言う様子で見ていたリアム兄様とルイス兄様も少し微笑ましそうに見られた後、馬車まで歩き出した。
馬車に乗ると、私とレオが隣。そして向かい側にリアム兄様とルイス兄様という配置になった。
そこまでは良かったのだが…
「あの、公爵様…?」
「なんだ?」
どうしてこんなことをしておいてそんなにも平然としているのか。
「…下ろしてください」
「却下だ」
触れることをあれほど拒んでいたレオが私を膝の上に乗せているのだ。
離れようとレオの胴体を押してもびくともしない。むしろ私の肩をがっちり優しく掴んで離さない。
考えてもみてほしい。実の兄の前で馬車の中で婚約者の膝の上に座っている。そんな状況を見られるのだ。
"恥ずかしさでどうにかなりそう…"
「まだ分かっていないようだな。俺はソフィアだから触れるんだ。他の女性には近づかれることすら無理だ。」
「いえあの、そう言う問題ではなく…」
「それに、こうして膝の上に乗っていた方が揺れも少ないし身体への負担も軽減されるだろ?」
「……わかりました…。」
正当な理由があるなら、しかも私の身体を労わっての行動を拒否など出来ず、結局公爵領に着くまで膝の上に座らされたままだった。
公爵領の街には私とレオとの噂を流すため何度も行ったことがあるが、やはり久しぶりに訪れてみると新鮮な気分だった。
賑やかな声と笑顔溢れる公爵領の街はいつ来てもこちらまで自然と笑顔になれる街並みだ。
「一緒に街に行くのは久しぶりですね」
「そうだな。今日は兄もいることだ。こいつらを存分に振り回してやれ。」
何を言ってるのかと困惑したが、お兄様たちもレオの発言に乗ってきた。
「ソフィアならいくらでも俺たちを振り回してくれて構いません。」
「同感です」
違う…私はお兄様たちにレオの言動を止めて欲しかったのに。レオと同じ思考になってしまってはもう私に男三人を止める方法はなかった。
振り回されるのはお兄様たちなのにそんなにウキウキしながら言われても困る。私は振り回すつもりなど毛頭ないのだから。
「あの、私は誰かを連れ回すよりリアム兄様とルイス兄様、公爵様と一緒に街を見て回りたいです。」
これは本当だ。実際、お兄様たちとレオと一緒に街に出掛けられてテンションが上がっている。
「おい、この優しい妹は誰の妹だ?天使か?」
「俺の婚約者だ。腑抜けたことを抜かすな」
…前言を撤回しようと思う。レオとお兄様たちの方がテンションが高そうだ。
普段は誰もこんなことを言うような人ではない。
リアム兄様は常に冷静のはずだしレオは俺の婚約者だなんて言わない。
逆に、今この状況で一番冷静なのはルイス兄様だった。ルイス兄様はこの状況を楽しんでいるようでお腹を抱えて笑っていた。
私がこそっと「助けてください」と言うと、ルイス兄様は「もう止められねぇよ」と笑いながら返された。
「もう行きましょう…。ルイス兄様、来てください。」
リアム兄様とレオが私のことで言い合っていることを他所に、私はルイス兄様と歩く。
久しぶりにルイス兄様の隣で歩いた気がする。
私がルイス兄様の隣で歩いた最後の記憶は小さい時に父と母含め5人でよく平民のふりをして遊びに行っていた時だ。
ちょうどルイス兄様も同じことを考えていたのだろうか。「懐かしいな」と隣で一言、穏やかな表情で言った。
「はい、とても懐かしいです。またこうやってルイス兄様と歩くことが出来て、本当に良かったです。」
「ああ、俺もだ。誤解も解けてまたこうして歩ける日が来るとは思ってなかった。…本当にすまなかった…。守るって言って家を飛び出したのは俺たちなのに。本当は家なんて飛び出さず3人で支え合うべきだったのに…俺は」
「ルイス兄様」
私は謝ろうとするルイス兄様の言葉を静止する。
「これは私も勘違いしてましたしお互い様ということでもう忘れましょう。だから謝らないでください。謝罪の言葉はもうたくさん聞きましたから。」
そう。これに関しては私もお兄様たちも謝り倒した。
この前、私が謝るとレオに私は謝らなくて良いと困った顔で言われた。続いてお兄様もレオの言葉に賛同し、私に謝るなと言ってきたのだ。
だったら、と言って提案したのがこの件はもうお互いに水に流すということだった。
レオもお兄様たちも渋々だったが了承してくれたのでもう謝らないと思っていたのにどうやら私の考えが甘かったらしい。
ルイス兄様自身が言ったことや行いは思っていたよりも自分自身を追い詰めていた。
「違う」
「はい?」
「俺たちが水に流したのは手紙の件であって俺自身が発した言葉じゃない。ソフィに妹じゃないって言って、傷を抉るような真似をして本当にごめん。これは俺の一生の贖罪だよ。」
ルイス兄様がリアム兄様と似たような話し方になっているときは相当弱っているときだ。
それと同時に、本当に真剣に謝っていることが分かる。
だったら、私も本音で返すのが筋というものだろう。
「……正直、悔しかったんです。」
「悔しい?」
「はい。一応七年間はお兄様たちと一緒に過ごしてきたのに、十一年経った私の言葉はどれだけ信用がなかったのかなって、ぽっかり穴が空いたような気分でした。」
「っ……、そう、だよな。」
「…ですが、それに関してももう充分謝ってもらいました。後は、残りの時間をルイス兄様とリアム兄様、公爵様と過ごせたらそれで満足です。」
嘘偽りのない本当の言葉。
ルイス兄様の言葉で穴が空いたような感覚に陥ったのは事実だし、残りの期間を一緒に過ごせたらいいなと思うのも事実。
何一つ、嘘など言っていない。
「なぁ、ソフィ。」
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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