ep28.植え付けた恐怖『ルイス視点』
「答え合わせといこう。お前たちとソフィアはどういう関係だ。」
「…兄妹です。」
「やはりか。二人は何故ソフィアが公爵家を訪ねてまで婚約を結んだか知ってるか?」
「…知りません」
「お前たち、ソフィアのことについて何も知らないな?」
公爵の質問には全て兄が答えていった。俺はただ見ているだけ。
だが、公爵の怖さを知るには十分だった。
得体の知れない恐怖だ。俺たちも騎士のため、ある程度の修羅場は潜り抜けて来た。
だから恐怖で肩がすくむなんてことは滅多にない。ないはずだ。なのに今、俺もリアムも公爵を前にして変な汗を掻いている。
ソフィアへの態度とは大違いだ。
まさにこれが噂通りの公爵。
冷徹で冷たい目をしている。
「俺たちは先週、十一年ぶりにソフィに会いました。」
「十一年?それまで何をしていた。」
少し怒りが込められている言い方に、リアムが落ち着いて応えようとするのを俺は止めた。
「俺に、話をさせてくれませんか…。」
「良いだろう。話してみろ」
そして話し始めた。どう言った経緯で俺たちが騎士団に入ったのか。
公爵家に来て、俺がソフィに対して何を言ってしまったのか。
最後まで、公爵は口を挟まずに聞いてくれた。
そして話終わると、公爵の表情は険しいものとなっていた。
「これで俺たちの話は以上です。」
「……そうか。…お前たちは精神的にソフィアを拷問していたんだな。だが、俺も人のことは言えない。故に責める権利はない。…次は俺の番だな。」
意外にも落ち着いた口調で俺たちにこれまでのことを話し始めた。
初めは顔や金が目当てだと思いキツく当たったこと。
話すたびにソフィアの性格の良さに気づいたこと。
そんなソフィアを信じきれず、拷問にかけたこと。
今も、まだ痣や傷跡が服の下に残ってしまっているということ。
「っ…!公爵……!」
俺が怒りを露わにすると、公爵は俺を睨んだ。
「お前に俺のことを言う権利はない。お前も俺と同じようなことを精神的にして来たのだからな。俺のことを罵る権利があるのはソフィアだけだ。」
「…俺たちも同様です。俺たちを罵ってもいいのはソフィアだけです。」
公爵の解答に、リアムも当然だと言うように応えた。
そしてやっと本題に入れるとでも言うかのように、公爵は次の話へと話題を移行した。
「そうか。それで、お前たちはこれからソフィアのことを知ろうと思うか?」
「「…?」」
俺たちは二人揃って困惑した。だがすぐに公爵が補足で説明をした。
「ソフィアが吐血をした理由、心臓を抑えて苦しんでいた理由。それをソフィアの体調が治った時に話してもらう約束をしている。それにお前たちも来るかという誘いだ。」
俺は悩んだ。ソフィのことを傷つけておいて、ソフィの持っている辛さを知っても良いのか。
俺が悩んでいる間に、リアムはすぐに応えた。
「俺は行きます。兄として、妹の辛さや苦しみを少しでも背負わせてほしい。」
リアムに次いで、俺も同意した。
「俺も同じ意見です。」
公爵は考える素振りをしてこう言った。
「お前たちにとって、ソフィアは妹でも何でもないんじゃなかったのか?」
「…っ」
当たり前の反応だ。
俺はそれだけ罪深いことを、ソフィアを傷つけることを言った。
だからここはリアムじゃなくて俺が言うべきだと思った。
「取り返しのつかない言葉を言ったのは承知の上です。これから全力で償っていくためにも、ソフィの話は聞いておくべきだと思いました。どうか一緒に話を聞かせてください。」
俺は正式に立ってお辞儀をした。
すると、リアムも続いて「お願いします」と頭を下げてくれた。
この兄にはいつまで経っても頭が上がらない。
俺とリアムが二人で頭を下げると、反省の意が伝わったのか
「顔を上げろ」
と言ってくれた。
「お前たちがどれだけ俺に頼み込んだところで決めるのはソフィアだ。話を聞きたいのならまずは真摯に看病することから始めるんだな。」
「はい!」
「…話は終わりだ。戻ろう。部屋は用意してあるから案内してもらえ。俺はソフィアの所にいる。」
「分かりました。」
公爵の言う通り執事に部屋まで案内してもらい、俺たちは荷物を片付けた後伝書鳩に言伝を頼んだ。
内容はもう少しだけ休みを引き延ばせないかというお願いだ。
やることが全て終わると、俺とリアムは急いでソフィのいる部屋に向かった。
着くと、定期的におでこに当てているタオルを変える公爵の姿と、荒い息をしながらベッドで横たわっているソフィがいた。
ソフィはとても辛そうだった。こんなことなら医者にでもなれば良かったかもしれない。
子供の頃は義母という恐怖に襲われていた。だが今は、体調面での恐怖がソフィを襲っている。
ソフィは常に、何かの恐怖を感じている気がする。
その恐怖から、少しでも守れるような男になりたかったのに、俺は逆に恐怖を植え付けてしまった。
家族を失う辛さは俺とリアムとソフィが誰よりも知っているのに、その辛さをまたソフィに一時的とは言え味合わせてしまった。
きっとこの高熱は、俺が発言した内容への強いストレスが大きな原因の一つだろう。
「公爵様、まだお仕事が残っているのではありませんか。変わりますので急ぎの物だけ済ませて来ては?」
「…お前たちがソフィアの兄だということを信じているぞ」
「かしこまりました。」
これはきっと警告だ。
公爵がいない間ソフィに何かあったらただじゃおかないという警告。
「ルイス」
「ん?何だ」
「俺たちはソフィに許してもらえると思うか…。ソフィは怒っていないと言っていたが、怒っていないとしても深く傷つけたはずだ。」
リアムが珍しくネガティブな発言をしていることに俺は驚いた。
どうやらソフィが倒れたことが相当堪えたらしい。いくら冷静に判断出来るからと言って心がないわけじゃない。
むしろソフィのことになると人一倍兄は気を遣う。所謂シスコンというやつだ。
そして例に漏れることなく俺もその一例。
だからこそ、ソフィを傷つけた自分が許せない。
「多分、許す許さねぇの問題じゃない。俺は小さい頃みたいにまたソフィが純粋な気持ちで笑えるまで努力するつもりだ。ソフィ、全然笑えてなかっただろ。」
「…ああ、目に光が無かった。笑ってるけど、全然笑ってない気がする。」
リアムの言う通り、ソフィの目に光は無かった。当たり前のように笑って大丈夫だと言っているが、大丈夫ではない。
ソフィは俺たちに大丈夫だと言っているのではなく、まるで自分に言い聞かせるように大丈夫だと言う。
今も眠っているが、呼吸は乱れて苦しそうだ。
それからソフィが目を覚ましたのは熱が出てから三日後のことだった。
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