ep10.まわりの変化
そう言って私が指をさした場所は、デザートの売っているお店だった。
これは私が食べたいという気持ちもあるが、それ以外にもお店による理由がある。
「何か食べたいものがあるのか」
「はい、少しだけ。公爵様は外で待っていてくださって大丈夫です。」
私が外でという言葉を発した瞬間、レオの眉が少しピクッとなった。
"やっぱり…"
「だがお金はどうする」
「一番初めに公爵様にはお金の出費はないと言いましたので、契約を破る訳にもいきません。」
私が説明すると、若干悲しそうな顔をしながら分かったと言い渋々といった感じで外で待っていた。
私はお店の中に入り、レオが好きそうなデザートをいくつか買った。
レオの反応からも分かる通り、レオは完全に甘党だ。
前世では、私はベッドの上で、レオはその隣に椅子を置いて一緒にデザートを食べていた。
もしかすると子供の時から味覚が変わっているかもしれないと少し心配していたが、あの様子を見る限りは大丈夫そうだ。
「お待たせいたしました。帰りますか?」
「ああ…」
やはり少し残念そうだ。
大人になったレオは済ました顔をしているところしか見れなかったので、少し可愛く思えてしまった。
それからすぐに馬車に乗った。
邸宅と街までの間の道はとても綺麗なので、邸宅に到着するまでの時間は速かった。
「公爵様、どうぞ。」
馬車から降りて邸宅に戻り、玄関ホールまで来たところで、私は先程買ったいくつかのデザートが入った箱を公爵に渡した。
「…何故だ」
「はい?」
「何故甘いものを俺に渡す」
「食べたそうな表情をしていたので。仕事の休憩時間に食べてください。…あっ、それと」
「…??」
「公爵様と一緒にお出掛けするの、とても楽しかったです。」
本当は元から知っていたからだけど、実際デザートの売っているお店の前を通るたびにチラチラ見ていたのも事実だから嘘は言っていない。
振り返って部屋に戻ろうとする私の後ろで、レオがデザートの入った箱を見つめていたことを、私は知る由もない。
◇◇◇
街に出掛けるようになって二週間。私とレオの関係にも、少しだけ変化があった。
初めは何の目的もなく歩き、会話もなかったのが、今では街で一番美味しいデザートはどこかを探すために歩き、デザート関係になるとレオも口を開くようになった。
ただ、まだまだ信頼はされていないようで、あの物置のような部屋はそのままだった。
そのため、私の身体にも少しずつ異常が生じた。
まず吐血する回数が増えた。幸いなことに、レオや公爵家の侍従には見られてはいないのでまだ大丈夫だと思っている。
次に、朝から微熱が続くようになった。レオと歩くのはいつも午後からなのでそれまではほとんど動かず、ベッドもないのでソファをベッド代わりにして寝ている。
布団が一枚しかないので寝ていても体力が回復しているとは言い難いが、それでも寝ないよりはマシだ。
まさかこんなに症状が早く進むとは思わなかった。
カラミティ病は、決して一年で死ぬわけではない。【一年以内】に死ぬのだ。
つまり、一年も経たずに死ぬ場合もある。前世ではたまたま公爵家に拾われて最高である一年を生きることが出来た。
今回も公爵家ではあるものの、環境があまりにも違いすぎる。
病弱なのも相まって身体が悲鳴をあげている。
それでも休む訳にはいかなかった。だけど、昨日でちょうどレオとの出掛ける期間は終わった。
…はずだった。なので休憩しようと思っていたのだが、急に朝食に呼ばれてしまった。
もちろんレオが直接ここに来ることはなく、メイドが朝起こしに来たのだ。
いつもは自分で起きていたため、誰かに起こされたのは新鮮な気分だった。
「おはようございます。メイジーさん」
「おはようございます。旦那様がダイニングでお待ちです」
メイジーさんは公爵家のメイド長を務めていて、私に対してはまだ敵対心を見せているようだった。
私は一応今レオの婚約者としてここにいる。けど私のことを奥様や若奥様と呼ばずにお嬢様と呼んでいるのが良い証拠だ。
目つきも鋭く、完全に私のことを嫌っているのがすぐ分かる。
それでも私は分からないフリをしてにっこり笑ってありがとうございますと返事をした。
私が何も言わないのは、メイドの気持ちも分かるから。
突然やって来たぽっと出の令嬢が突然婚約者になったのだ。気に入らないのも理解出来る。
「おはようございます、公爵様。本日は朝食にお招き頂きありがとうございます。」
「…ああ、座ってくれ」
どこかぎこちなく言うレオの言葉に私は従った。
座る席はいつもと一緒で、レオの座っている席から一つ開けた場所だ。
朝食を食べ始めると、私もレオも黙々と食べていた。しかし、レオが突然口を開いた。
「キャンベル伯爵令嬢」
「っ!はい、何でしょうか」
一瞬私の隠していることでもバレたのかと思っていたが、杞憂に終わった。
その代わりに、今のレオからは思いもよらない言葉を聞いた。
「…その、今日も出掛けないか。」
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