アーティファクトと宝珠
ベヘモスも消え失せたイニティより数キロ離れたなんの特徴もない街道で、僕と母さんは感動の再会を果たしていた。
間を割って入ってきたオールバックの神経質そうな男は仰々しく僕の事を聖女の戦士”化け物殺し”とわざわざ冒険者達に喧伝した。
「なんと! あの山ほどある化け物をどなたが仕留めたかと思えば、聖女様の戦士でしたか! 素晴らしい! 戦士ハルカ殿! 皆! 戦士ハルカ殿にも感謝の意を!」
「ハルカ様! ありがとうございます!」
冒険者ばかりだが、皆口々に僕の名前と母さんの名前を叫んでいる。感動的な場面がより劇的シーンとなり上書きされていく。
そして、皆が騒がしい間にオールバックの男は僕に耳打ちをする。
「このような場面でご挨拶するのは失礼だとは思いますので、後でテュルカの教会に来ていただけますかな? そこでちゃんとご挨拶させてください」
この時は特に違和感なく頷いてしまった。この判断が間違っていた事を知る由もなかった。
「それでは、私どもはイニティの教会へ戻りたいと思います! どうか皆さまも御無事でイニティに辿り着かれますよう! 聖女様の祝福があらんことを!」
男は最後まで、高らかに叫び続けた。演説が終わり、冒険者たちの声が上がり続ける中で男は魔法を展開した。
「天に導かれし我らの赴く救いの階よ! ここに現れよ! ”ゲート”!」
朗々と読み上げられた詠唱と共に魔法陣が門を形成していく、そして発動した瞬間にテュルカの法衣を来た二人は光と共に消えていった。
「逃げおったか……」
後ろのオウガはそんな事を言っている。冒険者たちは、未だに興奮冷めやらぬようで、みな聖女様だとか、ハルカ様だとか口々に叫んでいる。
「やっとここまで来れたわ! ハルカ君! べへモスを倒してくれてありがとう」
セレスティルさんがこの大勢の人の波を搔き分けてここまで来てくれた。少し遅れてアーサーさんも付いてきた。
「いやぁ、剣の講習を受けている駆け出し冒険者にべへモスを討伐されるとは思ってなかったよ。ギルドを代表してお礼を言っておくよ。ありがとう」
アーサーさんにも感謝されたが、ギルドを代表してなんて言われるとなんか変な感じだ。ん? ギルドを代表して? 疑問符が二つ程上がったところでセレスティルさんがアーサーさんにツッコミを入れた。
「アンタのとこでも討伐報酬出てたわよね。参加が金貨1枚で、討伐が確か白金貨100枚だったかしら? ちゃんとハルカに払いなさいよ?」
「そうだね。ハルカ君。口座に入れておくから後でちゃんと確認しておいてね」
「えっと、何の話ですか? 討伐報酬って、僕は依頼も何も受けていないですけど」
セレスティルさんとアーサーさんのやり取りで余計に混乱してしまう。
「ハルカ君いいのよ! この人こう見えて冒険者ギルドで今は一番偉い人間だもの」
「そうそう、エドガーさんがまだいるけどあの人は元ギルド長だからね、今は僕の世代なのさ」
「えー! アーサーさんが冒険者ギルドのギルド長何ですか?」
「あら、アーサー言ってなかったの?」
「あれ? たくさん話したから言ってると思ってたんだけどな」
確かにいっぱい喋ったけどそんな話は一つもしていない。
「あはは、そうだったんですね」
顔が引きつっているのが自分でも良くわかる。本当に凄い人たちに囲まれているんだとつくづく思った。
「ちょっと待って! ハルカ君! そのマナの放出は? 君は何をしたの?!」
セレスティルさんに肩を思い切り掴まれて揺すられる。
「これは……」
僕が言い淀んでいると後ろからオウガが答えてくれた。
「お主と同じ病気だ。禁呪を使った」
「オウガがいるってことは、まさか!」
「そうじゃ、二段階まで使った。だからこその”化け物殺し”だ」
「なんでそんな事になるのよっ!」
セレスティルさんは驚き、そして僕の身体に起こったことを把握したんだろう。
「セレス、今は止めよう、ハルカ君のおかげで僕らは助かっているんだ」
「あなたまでっ! ハルカ君に私と同じようになって欲しくないでしょう!」
「セレスっ、今はだよ。今はこうするしかなかった」
セレスティルさんとアーサーさんがやり取りするのを見守るしかなかった僕らだが、オウガが隙を見計らって声を掛けてきた。
「お主、その宝珠をアーティファクトに触れさせよ」
きっと宝珠ってこのべへモスの瞳みたいな宝石の事だよな。手に持ったままだった宝珠を掲げてこれの事かとオウガの反応を待った。オウガはコクリと頷くだけだったが、どうやらこれのことであっているようだ。
僕は宝珠をアーティファクトの腕輪に触れさせた。
瞬間、宝珠はその色と同じ赤黒い光を放つとするすると小さくなり、ビー玉程の大きさになったところで腕輪のくぼみに収まった。
「それは宝珠だ、アーティファクトを持つものが一部のモンスターを倒したときにドロップする。それで病の対策にはなるはずだ。気をつけろよ、病が無くなったわけではないのだからな」
「うわっ、小さくなった? なんか凄いな」
ビー玉程の大きさになった宝珠を眺める僕、腕輪にはあと6つ窪みがあるように見える。
「宝珠とアーティファクトの組み合わせでアーティファクトの力が引き出される。詳しくは装着してみなければ分からないが効果はどれも強力だ。お主に必要かは知らんがな。さっきの男の”ゲート”もその力の一つだろう。」
「さすが、天才鍛冶師ね。研究の賜物と言ったらいいのかしら?」
アーサーさんとの痴話げんかが終わったのだろうか、セレスティルさんがこちらの会話に加わった。
「そういってやるなよ、死んでもまだ武器の事しか考えてない魂なんだからさっ」
夫婦そろってオウガの事を馬鹿にしているのだろうか? いや、揶揄っているのか。
「どうでも良いが、お主はマナを吸われる質なのだろうな。あの刀と我もそうだが、宝珠までとは」
確かに言われてみればそんな事ばかり起きているな。
「それ全然嬉しくないや、寄生されやすい体質なのかな」
「そうだろうな」
なぜかあの妖精の姿が頭に浮かんだ。あの白金貨を眺めている時の異常な程の執着心をもった姿だ。
「クロエもそんなところあるよね」
「そうね、あの子はいつだって私たちの所に寄生してたからね」
おそらく、アーサーさんとセレスティルさんの所に行って酒を飲んでいた時の話だろうか。まったくあの妖精は何をしているんだか。
「ここにいても落ち着かないわね。イニティの街も気になるし、聖女様も教会で待っているんでしょ?」
「はい!」
僕は思い出した。母さんに出会ったことを、こんな状況で一方的に居なくなってしまったが、イニティの街に行けば会えるんだ。
「その顔は、お母様だったのね。良かったわ、おめでとう。でもここからが本番ね。このレヴェラミラから抜け出すのは大変よ」
「僕らも出来る限り協力するからね。諦めたらだめだよ」
そうか、見つけるだけだとダメだった。此処から元の世界に連れ帰るには”おしまいの塔”を登り切らなければならない。
「そうですね。でも、母さんに会えただけでかなりの進歩です。此処から頑張っていきます!」
僕は改めて決意を口にしてイニティの街に戻る事にした。
色んな冒険者に声を掛けられ、感謝された。正直、ほとんど覚えていないし、オウガがやってくれた事だと思っている。
感謝の言葉は有難く受け取っていたけど。やはりむず痒い。
それよりもイニティの街に戻って母さんとちゃんと話がしたかった。
色々な記憶が戻り、母さんと共有している思い出を一緒に話したかった。
それが叶わぬことと知るにはそれほど時間は掛からなかった。
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