魔女の真相
窓のない特製の飼育室。そこに漂う生々しい血の匂い、乾いた汚物の臭気、そして常に空間を支配する陰鬱な冷気だけが、現在のロキにとっての世界のすべてだった。黒鉄の檻の床に敷かれた深紅の絨毯の上で、彼は衣服をすべて剥ぎ取られた無残な肉体を震わせ、ただじっと重厚な鉄扉の方向を見つめていた。
「あ……、主、様……。マーリン、殿下……」
ロキの思考は、すでに複雑な命令を理解することを拒むほどに退化していた。かつて彼が犯した闇奴隷売買や密輸の罪の対価、そしてマーリンに与えた屈辱の代償として、その肉体には生涯消えない無数の痕跡が刻まれている。大男たちに力ずくで引き裂かれた後ろの窄み、 そして右胸に赤黒く腫れ上がった主の「奴隷紋」。
「復讐してやる」というかつての燃え盛るような反抗心は、度重なる肉体的・精神的蹂躙の果てに跡形もなく磨り潰され、 今や彼は、マーリンが与える粗末な餌と、格子の外から向けられる冷徹な視線だけを貪る、哀れな家畜に成り果てていた。
コツン、コツン。
その時、静寂を切り裂いて、ロキがこの世で最も愛し、そして最も恐れる靴音が近づいてきた。
ロキの身体が本能的な歓喜と恐怖で激しくのけ反る。彼は自ら進んで、首輪に繋がれた鉄の鎖をジャラジャラと鳴らしながら檻の最前列へと這いずり、深紅の絨毯に額を何度も叩きつけた。
「あ、う……主様、我が絶対の神、マーリン殿下……っ! 良い子にして、お待ちしておりました……っ!」
鉄扉が開き、純黒のドレスを纏ったマーリンが優雅に入室し、定位置である黒檀の椅子に腰掛けた。彼女の背後には、真紅の瞳を妖しく明滅させた魔女レイナが寄り添っている。
マーリンは、格子の隙間から必死に自らの靴を舐めようと手を伸ばすロキを、一切の感情を排した冷徹な青い瞳で見下ろした。
そんなロキの無様な姿を見つめながら、レイナは自らの忌まわしい過去を思い起こし、昏い愉悦の笑みを深くした。
かつて、レイナはただの薬草師であり、市井の人々を癒やす心優しい魔法使いだった。しかし、当時、裏で闇奴隷売買と禁忌薬物の密輸に手を染めていた聖騎士長ロキは、自らの犯罪の証拠を掴みかけた彼女を抹殺するため、そして自らが「魔女を討伐した英雄」としての地位を不動のものにするために、レイナに無実の罪を着せたのだ。
ロキは自らの部下を使い、レイナの工房に禁忌の呪物を仕込み、彼女が街に疫病を流行らせたと偽りの証言を捏造した。民衆の歓声を浴びながら、白銀の甲冑を纏ったロキは、無実を訴え涙を流すレイナの髪を掴み、その尊厳を徹底的に踏みにじって処刑台へと引きずり回した。
冤罪によってすべてを奪われ、地獄の底から這い上がってきたレイナだからこそ、同じくロキに嵌められ処刑されかけたマーリンと手を組み、この完璧な社会的逆転劇を成し遂げたのだ。
「思い出すよ、ロキ。お前が私を処刑台へ送ったあの日のことをねぇ」
レイナが格子の隙間から、冷たい視線をロキへと突き刺す。
「お前が私に仕立て上げた『邪悪な魔女』の力で、今お前がこうして檻の底で這いつくばっている。これ以上の因果応報はないと思わないかい?」
「あ……、あう……、う……ごめんなさ……お許し、ください……」
過去の罪を突きつけられたロキは、知性を失った頭でただただ恐怖に怯え、ガチガチと歯を鳴らして許しを請う。その哀れな姿は、二人の復讐が完全に成就したことを物語っていた。
「良いわ、ロキ。お前は死ぬまで、その狭い檻の中で私のために惨めに生き続けなさい」
マーリンは冷酷に微笑むと、椅子の脇に置かれた家畜用の泥のような餌を、看守長に命じて檻の床へと置かせた。ロキは待ってましたと言わんばかりに、直接口を器へと突っ込んで、泥のような餌をクチャクチャと音を立てて貪り食い始めた。口の周りを灰色に汚し、喉を鳴らしながら貪るその姿は、完全に人間の尊厳を失った獣そのものだった。
だが、二人の復讐の本番はここからだった。マーリンは椅子からゆっくりと立ち上がると、檻のすぐ目の前、ロキの視線が絶対に避けられない、わずか数十センチの特等席へと歩みを進めた。
「レイナ、こちらへ」
「ええ、私の可愛い主」
マーリンが呼びかけると、レイナは恍惚とした表情で彼女の身体を正面から抱きしめた。
檻のすぐ目の前、太い鉄格子の向こう側で、遮るものもなく繰り広げられる二人の美しき勝者による、あまりにも濃厚で退廃的な抱擁。
純黒のドレスの肩紐がゆるりと滑り落ち、マーリンの白く滑らかな、陶器のようなデコルテがロキの目の前に曝け出される。レイナの細くしなやかな指先が、マーリンの露わになった背中やうなじを、慈しむように、そして見せつけるようにねっとりと愛撫した。二人はロキを完全に「観客」として扱いながら、互いの体温を限界まで確かめ合うように、深く、深く唇を重ね合わせた。
「ん……、ふあ……っ……」
チュウ、と甘く生々しい水音が、静まり返った飼育室に不気味なほど響き渡る。
互いの舌を深く絡ませ合い、唾液を分かち合いながら、勝利の果実を貪るような情愛の口づけ。マーリンはレイナの首に細い腕を絡め、自らの豊かな胸をレイナの身体へと強く押し当てて、歓喜の熱い吐息をロキの目の前で漏らし続けた。肌と肌が擦れ合い、互いの境界線が溶けていくような濃密な愛の儀式が、檻のすぐ目の前で延々と繰り広げられていく。
「あ……、はぁ……っ、レイナ……最高の気分だわ……。この男の絶望の目の前で、貴方に愛されるのは……っ」
「ああ、マーリン……。この男には二度と手に入らない、本物の幸福と支配の光景を、その濁った目に焼き付けてやろうねぇ……。もっと私を求めておくれ、私の可愛い女王様……」
息を呑むほどに美しい二人の少女が、勝利の愉悦に狂い、お互いの存在を肉体と精神の奥深くまで刻み込むように深く貪り合っている。
その、手の届かない至高の光景を目の当たりにした瞬間、ロキの脳内で、何かが決定的に音を立てて粉々に崩壊した。
かつては自分が世界の中心にいて、彼女たちを踏みにじる側だったはずだった。 しかし今、自分は汚物に塗れて檻の底に這いつくばり、 彼女たちは自分など一瞥もせず、完璧な愛と優越感を謳歌している。
その圧倒的な現実の落差、そして自分が二度とあの世界に戻れないという絶対的な絶望が、ロキの脳髄を限界まで狂わせた。
「あ、あう……、うあ、あああああっ……!!」
ロキの口から、言葉にならない絶望の嗚咽が漏れ出す。彼の瞳は完全に焦点を失い、あまりの精神的衝撃と、目の前の妖艶な光景への歪んだ興奮が完全に混ざり合い、口元からはダラダラと歯止めなく大量の涎が垂れ流され、絨毯を汚していった。 肉体も、精神も、そして生物としての尊厳さえも完全に破壊され、ただ羨望と恐怖の涙を流しながら、二人の濃密な交わりをただ見つめることしかできない、文字通りの「去勢された家畜」。
マーリンは、涎を流して完全に白痴と化したロキを一瞥すら汚らわしいと言わんばかりに完全に無視し、レイナの髪を強くかきむしりながら、さらに深く、激しく唇を重ねた。
レイナは真紅の瞳を妖しく濡らしながら、マーリンの露わになったうなじから鎖骨、そして豊かな胸元へと、まるで極上の獲物を確かめるように、自身の長い舌を驚くほど丁寧に、ねっとりと滑らせた。
「ん……、あ……っ……、レ、レイナ……っ」
マーリンの口から、今までにないほど甘く、神秘的な喘ぎ声が漏れ出す。レイナの舌が触れるたびに、彼女がかつてロキに奪われた「薬草師・魔法使い」としての、怪しくも美しい真紅の魔力が燐光となって二人の肌を包み込んでいく。マーリンの身体は勝利の歓喜と官能の熱に浮かされ、その太ももの隙間からは、止めどない悦びの蜜がじっとりと溢れ出て、彼女の白い脚を伝い落ちていった。
「ふあ……、ぁ、はぁ……っ! すごいの……、身体が、熱くて……っ!」
マーリンはレイナの長い黒髪を強くかきむしり、その快楽に身を震わせる。しかし、二人の情宴はそれだけに留まらない。
今度はレイナが、マーリンの足元で自ら進んで四つん這いになり、その美しい腰を高く突き出した。主従の反転。かつてロキによって「悪の魔女」として貶められた女が、今や最愛の女王の前で最も従順な獣と化している。マーリンはそのレイナの背後から腰を落とし、突き出されたレイナの豊満な尻へと、自身の舌を容赦なく、そして濃厚に絡め、その穴を舐め回した。
「はぁっ……! あ、あん……っ! マー、リン……、お前の舌、最高に、気持ちいいよぉっ……!」
レイナもまた、神聖さすら感じさせる美しい喘ぎ声を響かせながら、自らの指を太ももの奥、自身の秘部へと伸ばし、激しく、執拗に弄り始めた。自らの指で自身を貪り、マーリンの愛撫に悶える魔女の姿。
格子のすぐ向こう側で、息を呑むほどに美しい二人の女が、勝利の愉悦に狂い、お互いの唾液と体温を限界まで貪り合っている。
檻の底で、その行為を眺めながら、すべてを失い一生這いつくばる偽りの英雄。
その絶望を最高のスパイスにしながら檻の目の前で勝利の愉悦に酔いしれる、二人の美しき魔女による完全なる統治。
復讐劇の幕はここに、最も濃厚で、そして最高に美しい絶対支配の日常とともに、完全なる大団円を迎えるのだった。




