第四十話:恋人役とかいう承認するやつは馬鹿しかいないイベント
昼休みになり、美玲の如く飯を勢いよくかきこむ。
今朝、校門前で先輩が言ってた「なるべく人が来ない所が良いんだけど……とりあえず昼休みになったら私のクラス前に来て」と言う言葉を守るためさっさと飯食って、さっさと教室を出ようとしていた。
「塁くんどうしたのそんな必死に、ウンコでも漏れそうなの?」
骨付きフライドチキンをムシャムシャと食いながらくっそ汚ぇ話を持ち出してくる美玲。
バリッ!ボリッ!!
え!?骨ごと!?
「ああ、いやちょっとこの後予定あって」
「うっそだ~完全にウンコの顔してるよ。ウン好感度見えるし」
それは、僕がウンコみたいな顔してんのかウンコしたそうな顔してんのかで火力変わるぞ。まじで。
「というか、なんだよウン好感度」
「運が良いか悪いかを数値化したメーター」
ウンコ関係ねぇじゃねぇか。
ったく。
「そもそも、女の子がウンコとかいっちゃいけません。女の子は女の子らしい言葉遣いにしないと」
「糞」
「もっとだめだ」
「野糞」
「外とは限らんだろ」
「ドロ便」
「具合悪いんだろうなぁ」
じゃねぇ!
僕は弁当のチキンライスを一気に飲み込み、席を立つ。
クソがいつもより量多いんだよ。
「じゃ!僕行くから!」
「いってらッシャイニングストリーム~」
何だそりゃ。
僕は半ば強引に教室を抜け出し、先輩の教室へと向かった。
階段を何階か上がり、左右を確認する。
(そういや2組とかいってったっけ…)
じゃあ渡り廊下わたんのか。
僕は渡り廊下を歩いた。
なんだか先輩と付き合っていると知られてから周りの視線がヤバいな。
ジロジロと観られている。
それも以前よりもガッツリと。そんなに僕が気になるかぁ?珍獣かなんかか。
少し速歩きで歩き、曲がり角を左に曲がる。
お、あそこか。
僕は2組を発見し、また足を早める。
教室の前に立ち、沈黙する。
忘れていたが、先輩は2年生だ。2年生とは関わりがほとんど無い。それなのに「ちーっす氷室先輩います~?」とか聞くのはちょっとあれだな……。
スマホで連絡……あ、教室に忘れた。
「あれ、塁くん?どうしたのこんなところで」
僕がどうするかと悩んでいると、後ろから声が聞こえた。
「あ、佐倉先輩」
振り返るとそこには佐倉琴音先輩がプリントを抱えながら立っていた。
集配係なのかな。
そういえば忘れていたが、佐倉先輩も2年生だった。最近会ってなさすぎて忘れていた。
「いや…ちょっと氷室先輩に用があるんすけど呼び出しづらくって……」
理由を話すと佐倉先輩は「なんだそんな事」と言ってプリントを抱えたままドアを開ける。
「鏡花さーん、塁くんが呼んでますよー」
うおっ唐突だな…。
この人見た目の割に結構グイグイ来る人なんだよな。
初対面で下の名前とか、本人によると「下の名前で呼んだほうが相手も嬉しいでしょ?」とのことだ。
後ろから中を除くと、横髪をサラっと耳の後ろに掛けながらこちらへ振り向く氷室先輩。
そして、すぐに席を立ち僕の方へ歩いてくる。
「ごめんごめん、連絡来ないから忘れてるのかと思って」
僕はそんな忘れっぽくない。
「二人はお友達だったの?」
と何も知らないような顔で聞いてくる佐倉先輩。
ん?この人僕と先輩が付き合っている(仮)ことを知らないのか?
「えぇ、まぁそんな感じ」
「へ~そうなんだ……」
先輩は僕の方へ視線を向ける。
なんだ。メガネが:光ってて恐いな。
すると、先輩は僕の耳元へ口を近づけ小さく囁く。
「頑張ってね!」
佐倉先輩は最後にグッと親指を立て、グッドポーズをし、教室の中に入っていく。
あ、この人2組なんだ。
というか頑張ってって……まぁ可愛かったしいっか。
「…じゃあ……行きやすか」
僕と先輩は特に話をするでもなく廊下を歩き、階段を降りた。
すると先輩は。
「その…なるべく人通りが少ないところとかが良いんだけど……」
という。
「じゃあ、やっぱりあそこっすね」
◇
「ね、ねぇ流石に私の立場上ここは…ちょっと……」
「大丈夫っすよ。さっきも言ったけどここ人こないし」
「そりゃ立入禁止だからね…」
少し呆れ気味に先輩は言った。
そう、僕達は今屋上にいる。
先輩と僕とで柵をサッと飛び越え、屋上までの階段を登った。
今日は天気もよく風も少し吹いているから、なんとなくいつもより涼しい気がする。
いつもよりってだけだから普通に暑い。
「で、話ってのは…」
僕が聞くと先輩は咳払いをしてすぐに話し始めた。
「あぁそうね。……えっと、その一昨日のことはありがとう。貴方がいなかったら…私、死んでいたかもしれなかった。だから、本当にありがとうございます。それと、ごめんなさい。私が気を失ったときに私のお姉ちゃんがちょっと失礼なことしちゃったみたいで、私を守るためにやったことだから結して塁くんに危害を加えるためじゃないんだけど、気を悪くしちゃったらごめんなさい」
先輩は僕に向かって頭を下げる。
うぅ、なんか気持ち悪。
というか、あの人先輩のお姉さんだったんだ。なんとなーく顔つきは似てるなとは思ったけど、僕の勘は鋭いな。
「頭上げてくださいよ。それに敬語とかそっちのほうが嫌なんで」
「そ、そう?じゃあ…うん。わかった」
先輩は少し下を向きながら言った。
あ、そうだ。
「そういや先輩荷物忘れてったっすよね。はいこれ、ちょいちょい破れちゃってたっすけど」
そう言いながら僕は影の中にしまっっていた紙袋を取り出す。
「え、あ…うん。ありがと……って、そうだ!一昨日のあんた、明らかに普通の高校生じゃないでしょ!私のことはなんとなく予想ついてそうな風だけど、私は全くわかんないからちゃんと説明して!」
元気だなーこの人。
「じゃあ説明しますよ。長めなんで覚悟ししてください」
割愛!!!!!!!!!!!
「…で、そん時にそいつがセミファイナルして…」
「わかったわかった。多分最後らへんはあんま関係ないわね。……でも、聞いたことないわね霊力がないなんて……それに、式神もいるのね」
「式神ってそんな珍しいんすか?漫画とかじゃよく見るけど…」
「あんたのはちょっと式神とは違う感じがするけど、式神術自体 は一応そこまで珍しくないわ。珍しいのは式神をしっかりと調伏できているとこよ。式神っていうのは調伏するだけでも結構霊力必要だし、使役するのもすごく難しいの。ただでさえ最近の異能力者は昔と比べて実力が落ちているし、使えるのはほんの一握りだけね」
はえー。そうなんや。
「あ、そうだ。一昨日も聞いたけど、あんたのその剣術って誰に教わったの?」
ああ、そういえばそんな事言ってたような言ってなかったような…。
「知ってるかあれだけど…トキ様っていう僕の師匠」
「トキ様?うーん……わかんないわね…フルネームとかは知らないの?」
「そんなん忘れた」
「こいつ…」
「というか、なんでそんな僕の師匠のことを知りたがるんだよ」
先輩は腕を組み、うーんと唸り何かを考えている。
「……まぁこの際、関係ないわね。本当は秘密なんだけど、あんたの扱う剣術が私の…氷室家の扱う剣術と酷似してるというか、ほぼそのものなのよね」
ほーん。
「酷似って言うけど、完全には違うの?」
「貴方が最後にクラウモノはに放った一撃。あの一撃はないのよ」
「どういう事?」
「詳しくは言えないわ。けど、あんな技はないってこと。それもその師匠って人に教えてもらったの?」
「うん。でも、なんか関係あんのかね」
「そこが分からないのよ。うちの剣術は秘伝の術だから他者への伝授は禁止されているし、伝えられた人がそもそも少ないのよ」
「まぁよくわかんないけど、今度師匠に聞いてみるよ」
「あ、じゃあそのときは私も誘って頂戴」
「おけ丸」
最後に僕はそう言って帰ろうとする。
そろそろ時間だしね。
すると、先輩が僕を呼び止めた。
「あ、あと…その……さっきはお礼だけしか言えなかったけど…命を助けられたし、なんか…してほしいこととか……して…あげる…」
先輩は顔を少し赤らめながら、モジモジとしている。
僕は少し考え込み、先輩に「してほしいことって…何でも?」と聞くと、先輩はゆっくりと頷いた。
僕は不敵な笑みを浮かべる。
そして………。
「じゃあ、屋上の自由使用権利をください」
僕がそう言うと先輩はぽかんとした顔を浮かべる。
「え?毎日お弁当作ってきてとかじゃなく?」
「別に自分で持ってくるし」
「彼氏役を続けるとかでもなく?」
「色々と都合合わせんのめんどくさい」
「……………」
先輩は黙り込んでしまった。
そして、ため息をつく。
「はぁ……もう!わかったわよ!承諾してあげる!ほら、もうそろそろ昼休み終わるんだから早く帰るわよ!」
なんでこの人ちょっと怒ってるんだ。
先輩はプンスカしながら階段を降りていく。
屋上にい塁の耳に暖かい風が吹き抜ける。その風の音のせいで氷室鏡花の最後の言葉を聞き逃す。
「もう…ちょっとエッチなことされるかも…とか考えた私が馬鹿みたいじゃない………」




