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第十四話:スーパーフェミニスト

僕の脳内は、そのあまりに短絡的で極端な思想にドン引きしていた。いや、スーパーフェミニストというより、もはや究極の男性嫌悪者(ミサンドリスト)だ。しかも、その歪んだ思想を現実に実行するほどの力を持っているのが、このイザベラだ。


「あんたの過去に何があったか知らんが、あんたのエゴに人を巻き込むな」


「知った口を……」


そして、彼女は持っていた鎌を右手に持ち替える。

僕はとっさにカゲロウで『凰剣・剱』を創る。その瞬間、キンッ、という金属とは違う、粘りつくような音が響き、鎌の勢いをわずかに逸らすことができた。しかし、その威力は凄まじく、腕が痺れる。


「その口切り裂いてあげます」


イザベラの唇が歪む。彼女の動きは、人間離れしていた。鎌を軽々と操り、縦横無尽に振るってくる。その度に、血の飛沫が周囲に飛び散り、ホールに異臭が立ち込めた。イザベラの身体能力は、確かに塁よりは劣るものの、常人のそれを遥かに凌駕していた。

僕は剣で攻撃を受け流し、時には紙一重でかわす。一瞬の隙を突き、イザベラの側面に回り込んで剣を振るう。金属が擦れるような、甲高い音が響く。しかし、僕の剣が当たったイザベラの肩口は、皮膚が裂けたかと思うと、すぐにドロリとした血肉が蠢き、瞬く間に傷が塞がっていく。致命傷にはならない。


「しぶてぇな。プラナリアかよ!」


いや、プラナリアは増えるか。

イザベラは僕の攻撃など意にも介さず、鎌を振り回しながら距離を取る。そして、その振った鎌から出た地面に広がる自分の血溜まりに手をかざした。ブツブツと泡立ちながら、そこから鋭利な血の槍がいくつも生え出す。


「死ね!」


槍が僕目掛けて一斉に飛来する。僕は剣を構え、迫りくる槍を叩き斬り、あるいは身をかがめて回避する。

そしてその勢いでイザベラの懐に入り込み、そのままイザベラに肉薄しようとした。

そこで、脳内にリンクの回転斬りがうかんだ。


(あ、そうだ。リンクの回転斬りしてみよ。かっこいいし)


しかし、現実は甘くなかった。回転の勢いがつきすぎ、バランスを崩しかけた僕の隙を、イザベラは見逃さない。


「あっ//」


「愚かな!」


鋭い拳が僕の顔面を捉えた。


「いっでぇ!……クッソー、リンクみたいにはいかないか」


僕は盛大に尻餅をつき、鼻血を拭った。調子に乗るんじゃなかった。

再び立ち上がり、イザベラの鎌を迎え撃つ。彼女の猛攻は続く。何度も剣を叩きつけ、体当たりで距離を詰める。しかし、その都度、僕の攻撃は浅い傷を残すだけで、吸血鬼の異常な再生能力の前には無力だった。

激しい攻防の中、イザベラの鎌が大きく横薙ぎに振るわれる。

それを避けた僕の頬を、血の飛沫が掠めた。

その飛沫が、僕が邪魔だなーと思い床に置いていた大切なものが入った袋にかかった。


「あああぁぁ!!!僕のラノベえぇーー!!」


僕の叫び声が、ホールに虚しく響き渡った。

咄嗟にイザベラの腹に強めの一撃をプレゼントし、ラノベの方へ移動する。買ったばかりの『僕だけが気づいてた、きみのココロと甘い秘密』の表紙に、生々しい血痕がベッタリと付着している。

そして、イザベラはというと、一撃で奥の壁まで吹き飛び激突する。


「チッ、迷える子羊たちよ。その穢れた畜生の糞を分からせてあげなさい!」


彼女の声と同時に先程まで動かなかった女性たちが一気に動き始めた。

僕はラノベだったものを投げ捨て。


「カゲロウ!『滅脚』!」


カゲロウを脚に纏わせ中に浮き、そこから一気に足を伸ばし信者たちを一掃する。1番範囲が広いのは『叢棘(そうきょく)』だけど、流石にできないよな。殺しちゃうし。


「チッ、害虫が……!」


続いてはイザベラが鎌で攻撃してくる。

僕は剣で攻撃を受け流し、時には紙一重でかわす。彼女の狙いは、どうやら僕を連れてきた女性、そして僕自身に向けられているようだった。


「いでっ!」


イザベラが突然、鎌とは逆の手を僕に向けて突き出した。瞬間、その掌から何本もの血の針が飛来する。僕は咄嗟に身を捻り、致命傷は避けたものの、一本の針が左腕の肩口を掠めた。

チクリとした痛みが走るが、大したことはないと思い、構わず戦闘を続行する。

だが、すぐに異変を感じた。左腕が、鉛のように重い。全身に倦怠感が広がり、体が思うように動かない。イザベラの紅い瞳が、愉悦に満ちて輝いている。


「ふふ……私の血は、そう簡単に捌けぬぞ。お前の体内を巡り、穢れを蝕んでくれる」


体内で暴れ回るイザベラの血液、意識はあるのに思うように動かない体。

最初からこれ使えばいいのに。

動けない僕の襟を掴み、処刑台のような少し高くなっているところに僕を放り投げる。


「終わりだ」


そう言ってイザベラは鎌を僕の首目掛けて振り下ろす。

しかし、次の瞬間、僕は力を振り絞りカゲロウを纏わせた黒腕で鎌を受け止めもう片方の手でイザベラの首を掴む。


「なに……!?」


イザベラの顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。彼女の体が、微かに震え始める。


「カゲロウ、流せ!!」


そう叫ぶと僕の腕から、ドス黒いイカヅチの奔流がイザベラの体に流れ込んだ。イザベラの体が激しく痙攣する。瞳から光が失われ、その紅い目が虚空を見つめた。鎌が手から滑り落ち、ドロリとした音を立ててイザベラと同じように床に広がる。


「ぐっ……ぁ……!」


イザベラは全身を硬直させ、言葉にならない呻き声を上げた。だが、意識は残っている。怒りに満ちた、しかし動けないイザベラの姿を見て、僕は深く息を吐いた。


「な…にを……した」


痙攣して上手く喋れないイザベラを横目に僕はスっと立ち上がる。どうやら中で暴れていた血の操作ができなくなったようだ。

ちなみに何をしたかと言うと、カゲロウの霊力を流した。通常、霊力は相手に流しても特に意味が無い。しかし、カゲロウの霊力は違う。カゲロウの霊力は他の霊力とは少し異なっており、電気に近い性質を持っている。今まではカゲロウの形状変化だけで戦えてきたから使ってなかっただけだ。例えると、銀魂の『ゲームは1日1時間』の回で出てきた長老を武器にして使ってたのが、長老も意志を持って戦うみたいなもんだ。


「なぁーに、ただ霊力を流しただけさ」


僕のじゃないけど。


「さぁーてと…」


イザベラの全身が痙攣し、意識が残っているものの完全に身動きが取れなくなったのを確認して、僕は大きく息を吐いた。

そして、よろりと膝をつくと、そのままドサリとイザベラの腹の上に座り込んだ。


「さーて、どうしてくれようか」


僕が体重をかけたことで、イザベラの体がわずかに沈む。銀髪が床に広がり、鮮やかな赤の瞳が僕を睨みつけた。憎悪は相変わらずその瞳に宿っているが、身動きできない彼女からは最早、何の脅威も感じられない。


「この…穢れた男が……!すぐさまそこをどけ!貴様のような下等な存在が、私に触れることさえ許されることではない……!この屈辱……覚えておれ!次に会う時は、貴様の首をこの手で捩じ切ってくれるわ!」


イザベラが絞り出すような声でそう言った。僕は呆れたようにため息をつく。


「っへ、バカが。無理に決まってんだろ負けたんだから」


声は荒々しいが、先ほどのような絶対的な威圧感はない。完全に虚勢だ。


「それにさー、僕をどうこうするんなら別に好きにしてもらっていいけどよぉ。なんも罪もない人……例えばお前の信者なんかを殺そうとするのはやめとけ。関係ないだろ?お前がやってるのは男への報復じゃなく、脳筋の…まさに男がやりそうなことだぜ?」


「黙れ!私を男などと一緒にするな!この世の男は全て害悪!私の経験が、それを証明している!奴らは女を性の道具としか見ていない!私がどれほどの屈辱を味わったか、貴様ごときに理解できるものか!」


イザベラの声が震える。その瞳には、かつて受けたであろう傷の痛みが、再び鮮明に浮かび上がっていた。僕の脳裏に、彼女が語った「強姦されかけた」という言葉が蘇る。確かに、それは想像を絶する恐怖だったろう。その経験が、彼女の心を深く蝕み、男への絶対的な嫌悪へと変質させたのだろう。


だが、それは彼女が他人を傷つけて良い理由にはならない。


「……確かに、あんたの経験は、あんたにとっての真実なんだろうさ。男にも最低な奴がいるのは否定しない。実際知ってるしな。あんたが受けた傷は、僕には理解できないほど深いものなんだろう。けどな、だからって世界中の男をゴミみたいに排除しようとするのは、ただの逆恨みだ。あんたの言う『穢れた男』の中にだって、あんたが助けようとしたあの女性みたいに、あんたを心配してた信者たちみたいに、誰かを大切に思ってる人間だっているんだよ。あんた自身、そうやって誰かの救いを求めてたはずだろ?そうやって誰かに声をかけて、この宗教を始めたんじゃないのか?」


僕の言葉に、イザベラの目が僅かに見開かれた。

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