第十二話:時間の流れは早いよ
あれから数週間が経った。
流石に日数が進まなすぎるのもアレだしなーってことで無理くり進ませた。ものの二日でいろいろとイベントに巻き込まれ、それを解決していってるがここ数週間は何も起きてない。
そして僕は自分が高校生になったということを再確認するために『ラノベの主人公ごっこ』をすることにした。
洋介がいないときとか美玲が飯食うのに忙しいときなんかは大体やってる。ラノベを読むこともあるけど、橘や鏡野もどちらも一人でいるか、どこか物憂げな表情で窓から吹き抜ける風と共に外を見ている。
ちなみに席替えをしたが僕は場所が変わらずだった。
美玲とは同じ班ではなくなったが右隣から左隣に変わっただけだった。
洋介とは一緒になれた。こいつは普通だから結構良い。
そして先ほど話題に出した橘と鏡野はというと、橘は最後尾の一番左側の窓際、つまり主人公席だ。正直羨ましい。だってーあそこ座るの憧れてたんだもん。
席替えの時は神に願っていた。
席替えの時はくじ引きやあみだくじなどではなく、パチンコのスロット方式だった。
灰田がパチンカスで確定演出とか入れて良くわかんなかったけどなんやかんやで皆盛り上がっていた。
そして、橘が主人公席、鏡野が最後尾の橘から数席離れた位置という結果に終わった。
当の本人たちはというと、何でもないねみたいな顔していた。変われボケ。
話を戻す。
主人公ごっこの内容としては、なんかいい雰囲気の場所を見つけてそれっぽいポージングをしたり、具体的に言うと休みの日に皆がいない教室に忍び込んで橘の主人公席に座って、風で靡くカーテン、青空に描かれた一本の飛行機雲を眺めたりしている。
そして今やっている主人公ごっこはというと、ラノベやアニメでは欠かせない屋上に来ている。
屋上は良いねー。ただ立っているだけでも主人公っぽくなる。
ん?なんだい?普通の高校は屋上なんか開いてないって?
ハハハハハ。僕のとこも同じだよ。
一体いつから屋上が開放されていると錯覚していた?ふっつーに開いてねぇわ。
では、どうやって屋上に入ったのか教えてあげよう。
それはね………『無理やり鍵をぶち壊す』さ!!
こう、ドアノブを思いっきり握り潰して……まぁそんな感じ。
え?真似できない?ビビりだなーもう。
仕方ない。別の方法も教えてあげよう。別の方法はもっと簡単だ。なんならこっちの方が安全だからいつもこれでやってる。如何せん普通に階段を上って入るとバレやすいからね。一般生徒もいるし。
僕がいつもやっている方法は、非常階段から屋上へ上るってことさ。
非常階段の方は警備が薄いからね。だって入口のところにちょっと高めの柵があるだけなんだから。
ひょいっと飛び越えちゃえば終わるんだし。楽ちん楽ちん。
これでまず屋上への道はできた。ここからもまぁまぁ重要。
屋上にたどり着いた時、一番最初に思ったのは、めちゃくちゃ汚ぇってことだね。
いや、マジで。
変なコケ?みたいなのも生えてるし、全体が黒ずんでるし。
もう、とにかく汚かった。
だから僕が最初に問った行動は大掃除だ。デッキブラシを持ち、ウタマロを用意し徹底的に大掃除をした。
大変だった。だが、価値はあった。
なんということでしょう!あの大人の心のように穢れていた屋上がこんなにもきれいになったんです!
そんできれいになった屋上で今僕はお弁当を食べていた。
「うん、やっぱりいいなこの場所は」
そう一人で呟きながら、姉さんが作ったお弁当から唐揚げを取ってほおばる。うん、美味しい。
一人だけの少し柵がさびている屋上、広大に広がる青空。そこにいるだけで僕は物語の主人公だった。
◇
日曜日、僕は近所にある大型のショッピングモールの7階にある『くらざわ書店』に来ていた。
今回、僕が買いに来た本は……『僕だけが気づいてた、きみのココロと甘い秘密』の新作だ!
主人公『結城侑磨』は生まれつき人の心が読める。読めるというよりなんとなく感じ取れるっていう感じだが。そんな結城侑磨は能力を他人に言わず平凡に生きていたが、あるとき高校の完璧で優雅な生徒会長
『傍眼紗季』に出会う。彼女は普段誰にでも優しく文武両道、眉目秀麗というトンデモスペックの人間だと思われているが、本当はダメダメで弱虫という性格。そんな彼女を放っておけず………という感じの内容だ。しかし、この紗季ちゃんが可愛いんだこれが。チョロインっていうのかな。いやーこんなこが僕の周りにもいてくれたらナー。
そんなことを思いながらブラブラとラノベコーナーへと足を運ぶ。そして新作を手に取り………購入!!
さーて、楽しみにしていた本も買えたし、さっさと家に帰って読むぞー。
? なんだよ。誰かに会うとでも思ったのか?佐倉先輩や美玲や誰かに。なわけねぇだろ。んな偶然起きないんだよ。ここは現実世界だぜ?それに僕、家遠い設定だからそういうのも、やりにくいんだヨ。
ったくよ~
そう思いながら店内を歩いていると、中華料理店の食品サンプルとにらめっこをしている人を発見してしまう。
「………」
………何してんだこいつ。
美玲であった。
起きたわ。偶然。
少し、したら美玲もこちらの存在に気が付いたのか視線を僕に移す。
数秒の沈黙。しかし、静寂ではない。店内ではせわしなく響くBGMが鳴り続けている。いや、店内BGMがマツケンサンバってなんだよ。
そして、その沈黙を切り裂いたのは美玲の腹の虫であった。
美玲がこちらに物乞いをするような目を向けてくる。
「……奢らんぞ」
「そんなぁ!」
こいつ奢らせようとしてきやがった。
「ていうか何してんだよお前」
「いやいや、ここは君の家なのかい?私がここにいちゃあだめなのかい?ところで奢ってくれないかい?」
「まぁ、確かにそうだな。あと、奢らんぞ」
公共施設だしな。
「じゃなくて。僕が言ったのは食品サンプルが入ったショーケースを眺めて何をしてるんだと聞いているんだ」
「なにって…普通にお金がないから食品サンプルを見てで済ませようとしてるんだよ?」
「お金がないって………お前んち貧乏なのか?」
いつも大食いなのは、普段食べられないから食べておこう的な価値観なのか……?
「ううん、普通に散財しただけ」
「心配して損したわ」
「ていうか、なんでそんなんなるまで散財したんだよ」
そう言うと美玲はバカデカため息を吐く
「それがさー聞いてよー。超特盛メガビッグ激辛ラーメン1kgを10分以内に食べることができたら賞金5万円っていうラーメン屋さんがあってね。そこで何とか辛いのを我慢して10分以内に食べ終わったんだけど、途中で水を飲んだからダメって言われちゃってお金全部持ってかれちゃてさー」
なんだそのぼったくり店。
「そういう塁君こそ何してるんだい?万引き?」
「金あるわ!いや、ただ単に本を買いに来ただけ」
「お金があるなら私に恵んでもいいじゃーん」
涙目でウソ泣きをする美玲。
「貴様にやる金などない」
「チッ、ケチめ」
舌打ちしやがったこいつ。
「まぁいいや。僕もう行くからな」
「あいあーい」
そう言って僕はショッピングモールを後にした。




