【書籍三巻発売記念】ある日、我が家に王子様がやってきた
「きゃー! なんてことするのよ、お兄様!」
ルエラは悲鳴を上げるのと同時に足が宙に浮いた。そして、すぽっという音とともに穴に嵌ってしまう。何が起きたのかわからないまま、ルエラは穴から抜け出そうとバタバタと手足を動かした。
そんなところに、ひょっこりと顔を出したのは兄のローレンスだ。
「ははは、引っかかったお前が悪い。そもそも、今日は屋敷から抜け出すなと言われていただろう?」
「だからって! 魔術を使うなんてずるいわ!」
慌てて駆け寄った使用人に助けてもらいながら、微妙に小さな穴からなんとか抜け出した。
ぼさぼさになった髪を手で乱暴に撫でつけながら、文句を言う。ローレンスは満面の笑みを浮かべ、なぜかポーズをとった。
「何、それ?」
「かっこいいだろう? 魔術を成功させたら、こうしてポーズをするんだよ」
「……だっさ」
ルエラは真顔で言い捨てた。その言葉に、ローレンスがわしゃわしゃと髪をかき混ぜた。
「なんだと! この素晴らしさがわからないとは、まだまだ子どもだな」
「お兄様だって子どもじゃない。それから、髪! 淑女の髪を弄るなんて最悪だわ!」
むっとして言い返せば、ローレンスはにやりと笑ってさらにかきまぜた。
「俺は大人だ」
「じゃあ、そんなポーズしないでよ。それに紳士は淑女に優しいはずだわ」
「……そうか」
ローレンスはにっこり笑った。そして、ぐしゃぐしゃにした髪から手を放し、一歩下がった。ルエラは突然大人しくなったローレンスに首を傾げる。
「では、淑女のお前には特別サービスだ」
「え?」
次の瞬間、ルエラの身体がふわりと浮いた。
「きゃあああっ! お兄様のばかーっ!」
ローレンスがわはははと、大声で笑う。ルエラはおろして!って大騒ぎしたが、ローレンスはどこ吹く風だ。
「何をしているの」
「は、母上」
ローレンスの笑い声が止まった。ルエラはその瞬間、ふんわりと地上に降りてきた。そして母の腕の中にすぽんと落ちる。
「お母様!」
「ローレンス。人に対して魔術は使ってはいけないと伝えていなかったかしら?」
「いや、その……ルエラはルエラだし?」
凍ってしまいそうなほど恐ろしい眼差しでラモーナがローレンスを見つめた。ローレンスは徐々に声が小さくなり、視線をさっと逸らす。
「そうよ、お母様、もっとちゃんと叱って! お兄様ったらいつも私に魔術を使うのよ!」
「それからルエラ。あなた、今日はちゃんと部屋にいるようにと言っておいたわね?」
突然の飛び火に、ルエラが固まった。
「えっと? 聞いたような聞いていないような?」
「まったく二人とも、今日は王都からお客人が来ると言っておいたのに」
ラモーナは大きく息を吐くと、すぐに侍女長を呼んだ。
「二人の身なりを整えて、応接室に連れてきてちょうだい」
「え、誰か来たの?」
ルエラがぽかんとした顔をした。ラモーナが複雑な表情で頷く。
「引き受けるつもりはなかったのだけどね。まあ、仕方がないから。見て見ぬふりをするのも寝覚めが悪いし」
ラモーナの言っていることが分からず、ルエラは問うようにローレンスを見た。
「お兄様は何か聞いている?」
「いいや?」
彼もぶんぶんと左右に首を振った。
「ま、すぐにわかるだろう。さっさと着替えてこよう」
それもそうだとルエラはラモーナから離れ、ローレンスの後を追うように部屋へと戻った。
その一時間後。
連れて行かれた応接室には第一王子のグウィンがいた。
Fin.




