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「ティフォンヌ、すまなかった。俺が強引すぎたようだ。だけど、嬉しかったんだ。ティフォンヌが俺のことを好きだと思っていてくれてたことが、すごく嬉しくて、もう一度ちゃんと言ってほしかったんだ。
だけど、ごめん。俺、待ってるから。ティフォンヌから好きだって言ってくれる日をずっと待ってるから」
そう言って、優しく抱き締めてくれるアルフィス殿下。
どうしよう。すごく嬉しい。私、今、すごく幸せだ。
アルフィス殿下の腕の中がすごく安心できて、アルフィス殿下の胸の温もりがすごく心地よくて。この人が私の婚約者なのだと思うと胸が熱くなる。
「ティフォンヌ、俺はティフォンヌが好きだ。それだけは信じてくれ」
男の嘘を見破れない女は不幸になる、って誰かが言ってたけど、殿下のこの言葉は嘘じゃないよね。
本物だって思う。
本物だって信じたい自分がいるのが分かる。
殿下……アルフィス殿下……私もアルフィス殿下のことが……
顔を上げると、アルフィス殿下が私を見つめていた。
熱が籠った目で私を見ていて、私はその目に捕らわれてしまう。
あれ、アルフィス殿下の手が私の顔に触れて、ゆっくり殿下の顔が近付いてくる。
これって……もしかしてキスされるの、かな。
どうしよう、どうしよう。
結婚もまだなのにキスなんて。
こんなことが世間に知れたら、アルフィス殿下も私も怒られちゃうのに……
拒否しないと…って思うけど、私はアルフィス殿下に身を任せていた。
嫌がっていない。
心も身体も、アルフィス殿下を私は嫌がっていない。
もういいかな。
一度くらい、余計なこと考えずに好きな人に身を任せてもいい…よね……
「ティフォンヌ……好きだ」
アルフィス殿下、私も好き。大好き。
こんな私のことを好きだって言ってくれて嬉しい。
アルフィス殿下の息がかかるほど、近くに感じる。
ああ、私、アルフィス殿下とキスするのね……
私は黙って目を瞑った。
「お姉様、アルフィス殿下、お話は終わりましたか?」
あと少し、あともうちょっとだったのに、アルフィス殿下との初キスはフィリックによって阻まれた。
ど、ど、ど、どうしてここに……
動揺しまくりの私。
アルフィス殿下も顔をひきつらせている。
そんな私たちを見ても、フィリックは平然としていた。
「婚約しているといっても、あまり長時間二人きりになるのは良くないと思いまして。もう仲直りはできましたか?応接間にお茶を用意してあるので、どうぞって、お母様が言ってますよ」
フィリックよ、お姉様は貴方が少し怖いです。
その何もかもお見通しですよって顔はや~め~て~
アルフィス殿下も罰の悪そうな顔をして、「まさかフィリックに邪魔されるとは……」とボソッと呟いた。
結局、アルフィス殿下はお母様に挨拶だけしてお茶は飲まずに帰っていった。
私も恥ずかしかったので、ゆっくりされるよりは有り難かったけど、それでも、帰っていくアルフィス殿下を見送る時はちょっぴり寂しかった。
「また、明日」というアルフィス殿下の言葉がすごく嬉しくて、私も「はい」とその時は答えたけれど、後になってリディア様のことは何一つ解決していないことに気付いた。
アルフィス殿下のことを想うとふわふわと雲の上を歩いているような幸せな気分になるけど、リディア様のことを考えると、途端に気が重くなる。
これは、避けては通れない問題で、明日アルフィス殿下に勇気を出して訊ねてみようと思う。
次は、遠回しに聞くのではなくて直球で。
嫌みっぽくならないように。
この夜、私は二回目の練習をした。
アルフィス殿下に好きと伝える練習とリディア様との関係を訊く練習だ。
ああ、今度こそ上手くいきますように。




