12 痴漢行為はよくないよね!?
「みんなさあ。痴漢にあったこと、ある?」
朝のことである。
机の上に鞄を置くなり、先に来ていたみんなに聞いてみる。
「ないけど」
「私は自転車通学だし、ないかな」
「電車通学だけど、ないよ」
上から、花蓮・葵・雪音の順だ。
そっかー。みんな、ないのかー。
「ってゆうか、桜。もしかして、痴漢にあったの?」
「うー、うん・・・・」
眉をしかめた花蓮に聞き返されて、私は昨日の出来事を話し始める。
放課後。
本屋で立ち読みをしている時だった。
うちは両親が共働きなので、晩御飯の支度は私がしているのだ。
私ってば、家庭的~。
まあ、炒めたり煮たりするだけの簡単な料理ばっかだけど。
カレーとか。肉じゃがとか。肉野菜炒めとか。
あ。麻婆豆腐もよく作るかな。出来合いの奴じゃなくて、ちゃんと豆板醤と甜麺醤で作るやつだよ。えっへん。まあ、出来合いじゃなくても簡単なんだけど。ビールが進むと両親には大変好評だ。私もウーロン茶が進む、進む。
冬は鍋が多いかなー。みんな帰って来る時間がバラバラだから、〆の雑炊とかうどんは翌朝に回す。その日は鍋の具で白飯を食べて、翌朝にうどんにするのが我が家の定番だ。これが楽しみで、ついつい早く目が覚めちゃうんだよねー。朝うどんはなかなか悪くないよ?
・・・・・・・・・・・・・。
何の話だっけ?
あ。そうそう。痴漢の話だ。
えーと、それで。何か簡単で美味しそうな料理ないかなーと思って、料理の雑誌を立ち読みしてたんだよ。
はい。立ち読みです。本屋さん、ごめんなさい。
いや、料理の本ってさ、買うとダメなんだよ。目移りしちゃって、結局眺めてるだけになっちゃうんだよね。
だから。一個だけこれって料理を頭に叩き込んで、帰りに材料も買い込んで、早速今晩作る! とかにしないと。
頭に叩き込める程度の料理を選ぶのがポイントです。下手に凝った料理は、絶対に何かを失敗するし、そもそも作るのが面倒くさい。
あれ?
また、脱線してるな。
えーと。そうそう、痴漢の話。
その時は、他にあんまりお客さんもいなくてね。立ち読みをしてるくらいだから、店員さんからも死角になる位置だったんだよ。
で、雑誌を読んでたらさ。
右の尻を、こうガッて感じで鷲掴まれたんだよ。
なんていうか、こう。いやらしさを全く感じない、荒々し感じだったからさ。
てっきり、雪音かと思ったんだよ。
いっつも、腹を触っている仕返しに、新しい挨拶方法を考案したのかと思って。
こんなところで、何するんだよー、とか思いながら振り向いたら誰もいなかったんだよ。あ、や。怪談とかじゃなくてね?
あれー? と思って反対側を向いたら、知らない若い兄ちゃんが店の出口に向かって速足で歩いてるのが見えてさ。
何が起こったのか分からなくて、しばらく呆然としちゃったよ。
完全に姿が見えなくなってから、ようやく。
あ。これ、もしかして痴漢?
と。
「さ、さささ桜ちゃん!?」
「もっと、早く気づきなさい。それと、何みすみす見逃してるの」
「ちょっと、待て! おまえ、どういうことだよ! なんで、私が容疑者に上がってんだよ!?」
あ。
その反応は、予想してた。
予想はしていたけど、誰かにしゃべらずにはいられないというかね。
正直。雪音のおかげで、痴漢にあったショックとかはあまりない。というか、実感がない。
何というか。まずは身内を疑った自分の交友関係については、いろいろ思うところはある。
「大体、いっくら私でも、学校外でそんなことするわけ、ないっしょ!」
ほーら。こんなこと言ってるし。
「分かったよー。じゃあ、お詫びに本当に私の尻を揉んでもいいから、代わりに腹を揉ませて!」
「外に避難していた男子が、そろそろ教室に戻って来るから、次の休み時間にしなさい」
「はーい」
「いや、腹は揉ませねーよ!?」
冷静に注意してくる花蓮に私は素直に従ったが、雪音は納得がいかないらしい。私の尻を揉むことについては反論がないけど。自分だって、揉みたいんじゃん。
ちなみに、クラスに6人しかいない男子たちは、休み時間は自主的に教室の外で過ごしている。女子ばかりの教室は居心地が悪いらしい。
「痴漢にあって傷心の私をその腹で慰めようとは思わないのかね?」
「思わねーよ! つか、どっこが、傷心なんだよ!」
「んー。腹揉みへの期待でツヤキラしてるよね」
「誠心誠意、揉みしだくよ! 脂肪を! ちゃんと揉みだすから!」
「やかましいわ!」
やってるうちに、男子がゾロゾロ教室に入ってきたので、わきわきしていた両手をとりあえず降ろす。
ふっ。
次の休み時間が、楽しみだぜ。
まあ、しかし。
それは、それとしてだ。
痴漢行為はよくないよね!?
ダメ! 絶対!!




