Episode 55 : 帰還
今回は少し短めです。
「――以上が惑星コロンダストリアで起きた事件の顛末です」
隣に立つランドはいつになく真面目な表情をしていた。
普段クラウソラスにいるランドとはあまりに別人すぎるので、俺は思わず笑いそうになるのをさっきから我慢している。青白い人工的な光が満たす室内、純正チーク材の磨き上げられたワークデスクを挟んで座るリュドミールは、それを聞くと首を小さく頷かせた。
「なるほど、つまり奴らは最初からコロンダストリアにあった遺跡が目的だったと君は思うわけだな」
「はい、閣下。軌道エレベーターの破壊された時間から我々が彼らと接触した時間との差は38時間ほどです。彼らが最初から遺跡の存在を知っていなければあれほど早く遺跡にはたどり着くことは無かったかと」
ランドは報告書と作戦計画書を見比べながら、事前に話すと決めていた内容を淡々と話していく。
それに対してリュドミールも報告の確認をしながら淡々と事務的に話していた。
そんな二人に対して俺は先ほどから二人の話を聴いているだけだ。
実際報告に必要なのはランドだけなのだが、なぜかリュドミールが俺の出頭も指名したせいだ。
「遺跡を知った上で施設への強襲か……なるほど確かにその可能性は高そうだ。しかしどうしてそう思った? 」
「はい、閣下。隣のクレア・ハーミットから今回の首謀者である彼らの中にはローン遺跡で行方不明になっていたウェイン・グランスター博士が施設にいたとの報告が上がっています。ウェイン・グランスターは失踪前にローン公国にてアカシックレコードに接触しています。また部下であるクレア・ハーミットのボイスレコーダーに記録されていた会話内容から、遺跡とそこにあるであろうアカシックレコードを重要視しているようでしたのでそのように推察しました」
「なるほど、そうだとするなら可能性は高そうだ」
そう言うとリュドミールはデスクに備え付けられたタッチパネルを操作した。
すると薄い緑の光線を放ちなが、机上に幾つかのホロモニターが現れる。
ホロモニターには俺がコロンダストリアから帰還する最中に作成した報告書が映し出されていた。
「しかし腑に落ちないのは今回の事件で襲われた施設が表向きには惑星の環境汚染対策についての研究所であったことだ。どこから遺跡の情報が漏れたか、そこが問題だ」
「はい、閣下。そこは自分も腑に落ちませんでした。しかし戦略的価値が低いとはいえ防衛設備の豊富な軌道エレベーターを破壊するほどの戦力を保有している事実からみて相手の組織的規模は大きいと考えられます。また今現在の連邦においてそのような戦力を連邦の許可無く保有することは事実上不可能です。となれば背後には権力層がついていることも考えられます」
「だろうな、私は連邦のデータベースに登録されている艦船や兵器などの動きについてはそれなりに把握しているつもりだ。データベースに載っていない戦力を持つことが出来るのは連邦議会の中でも限られたものだけだろう。それが誰なのかが問題だ」
「それは我々と入れ替わりでコロンダストリアに送られた分析班の報告を待たなければ分かりかねます。しかしコロンダストリアに博士がいたことや、そして博士の世間からの評価や博士自身の人脈を鑑みるにかの組織は我が連邦のかなり深いところにまで根を張っている可能性を考えるべきかと」
ランドが自身の意見を言い終わると、リュドミールは再び小さく頷いた。
そして暫く考えていたかと思えば、今度は目線が俺の方へと向いた。
「まあ、そうだな。まだ現状ではなんとも言い難いか……クレア・ハーミット、ロランドの報告では君は確かにコロンダストリアでウェイン・グランスター博士を見たとあったがそれは本当か? 」
「はい、閣下。確かに私が見たのはウェイン・グランスター博士で間違いありません。現場で録音された彼の声紋は、連邦のデーターベースに登録された博士の声紋と一致していました」
戦闘服に録音機能が付いていて作戦行動中は基本的に常時モニターされている。
そしてそれはクラウソラスにおいても例外ではなく、ウェインとの会話は全て録音されていて作戦終了後に奴がウェイングランスターであったことは、ルーによって証明されている。
間違いなくコロンダストリアにいたのは本物のウェインだろう、それにあの純粋な科学に対する好奇心の強さとそれに付随する人ならざる気配は偽者が出せるようなものでもないだろう。
「なるほど、コロンダストリアにいたのが本物のウェイン・グランスターだとすれば今の連邦はかなり厄介な状況に陥っているかもしれんな」
俺の言葉を聴いたリュドミールは小さく嘆息を付いた。
「君たちはまだ知らないと思うが君たちクラウソラスがコロンダストリアに向かっている間に、このヒューゴスティア連邦のあちこちで似たような事件が相次いで起こっている」
その言葉に俺は小さく驚きを洩らしていた。
一方で隣のランドは小さく眉を顰めているだけだった。
「どれも同時期に遺跡や遺跡関連の施設がある星で起きている上にウェイン・グランスターと面識があるとされている学者が何人か目撃されている。そうなると君たちが関わった連中と他の事件を起こした連中との関連性は極めて高いだろう。といっても現状では断定は出来ないがな」
そう言うとリュドミールは机上のパネルを操作しホロモニターを閉じた。
「二人ともご苦労だった。ロランド、君は下がっていいぞ。クレア・ハーミットはこのまま残ってくれ」
ランドはチラッと俺を見ると、「お先に」と勝ち誇ったような表情をしたあと俺の方を二度軽く叩いて出て行った。
そんなランドの様子に小さくため息を付くと俺は少しだけ崩れかけた姿勢を戻す。
リュドミールはそんな俺の様子を暫く眺めていると口を開いた。
「ウェイン・グランスターはローン遺跡のときと比べて何か変化はあったか? 」
ここに俺が呼ばれた理由はこのことについて聴きたかったからか。
なるほど俺は一人頭の中で納得し、ローン遺跡のときの出来事とこの前出会ったウェインの様子を思い出す。
「いえ本人の状態としてはあまり変わった様子はありませんでした。しいて言うならアカシックレコードについてあの時よりも詳しく知っているようでした」
間違いなくコロンダストリアで出会ったウェインは、ローン遺跡で最後に見たときよりもアカシックレコードについて知っていた。
それだけは確かだろう。
「そうか……」
そう言うとリュドミールはあごに手を当てて何かを考えはじめた。
こうなると暫くこちらに話しかけては来ないだろう、それなりに付き合いのリュドミールだから分かる。
俺は小さく手を開いたり閉じたりして、軽い指のストレッチをする。
“もしもこの宇宙に争いがなければ、もしも永遠の生命を手に入れられたら、理不尽な死を怯えずに済む”
ウェインはそう言っていた。
その方法をウェインは知っているのだろうか……人を大勢殺した上に俺をこんな体にした奴の言葉だからとあの場では否定した。
しかし、俺は一瞬でもあの時の言葉で迷いが生まれたのも否定は出来ない。
「――ア」
だが、それを肯定するべきか否定するべきなのかはまだ分からない。
「――レア」
答えを出すにはまだ知らないことが多すぎる。
「クレアッ」
耳元で大きくなる声にいつの間にか下を向いていた顔を上げれば、呆れたようなリュドミールが目の前にまで迫っていた。
「は、はい! 」
「はあ、お前は一度考えると周りが見えなくなるらしいな……」
「すみません」
「まあ、いい。聴きたいことがある」
「なんでしょうか? 」
大体のことはもうランドが話したのだから、俺から話せることなどないと思うのだが……。
「作戦終了直前の5分間ほどのお前の音声データだけが壊れているのだが、その間何があったかを教えて欲しい」
「え、壊れてましたか? 報告書を書いていた段階では聞こえていたはずですが」
ルーとウェインの声の照合をしたのはつい先日だ。
そのとき一通りあの場所での会話は聞いたのでそのときに最後まで録音されていたのは確認していたはずだが……。
「ウェインが呼び出したらしき生態兵器との戦いがあったことは分かる。しかしその戦闘最中の音声データがないのだ。お前の報告ではクラウソラス以外の所属不明のMCSと接触したと書いてあるが、なにか話したか? 」
「殆ど会話はありませんでした。強いて言うならアカシックレコードに関わるなとだけ言われました」
あのMCSと話したのは本当にそれだけだ。
奴が何者かも、どこからきたかも不明だ。
「そうか、わかった。引き止めて悪かった下がっていいぞ」
「お力になれず申し訳ありません」
「いや、いい十分だ」
俺はリュドミールに一礼すると部屋を出た。
時間が取れましたので、少しずつ続きを書いていこうと思います。
次回から数話はまとめてから挙げたいと思いますので、また暫く投稿間隔が開きます。




