Episode 41 : 要塞攻略(後編)
お待たせしました。
【お知らせ】
※主人公の元の年齢を25歳から30歳へと変更させていただきました。
先行していく味方に続きタラップを降りていく。
タラップを降りるのと同時に体が軽くなったような感覚に襲われた。どうやら機内よりもこっちは重力が小さいらしい。
ハッチの先はSCグレネードの発生させた煙で視界が悪く、時折煙の向こう側から赤い白い光線が突き抜けてきた。
ここで足を止めれば命はない。目の前の味方を見失わない様にぴったりと後に続き煙の中を駆け抜ける。
『着艦ベイには多数のコンテナあり、コンテナに隠れるんだ』
隊の共通回線で先行した味方が物陰を発見していた。
物陰が無く、一方的にこちらだけが撃たれる展開は避けられるようだ。
ちょっとした安堵感を持ちつつも、あらためて気を引き締めて煙の中を突き進んだ。
途中大きなものに足が引っかかり転びそうになったが、何とか倒れることだけは回避する。
更に突き進むと、煙が晴れ正面に、通信通りのコンテナ群を見た。
「敵は狙いが甘い、素早く物陰に隠れながら応戦すれば大丈夫だぁッ」
コンテナの近くにいた兵士がそう叫びながら物陰から飛び出していく。
直後、彼の頭部を赤色のレーザーが撃ちぬいた。彼の頭部が赤い霧と供に蒸発。
頭部を失ってよろめく胴体にさらなる攻撃が加えられ、倒れるころには文字通り彼の体は穴だらけになっていた。
叫んだせいで敵の攻撃が集中したのだ。
俺はそれを横目で流しながら銃撃戦の中を走り抜け、コンテナ前までたどり着いた。
「状況報告! 」
隊の共通回線で叫び、先行した兵士たちに状況を尋ねる。
数秒後、焦りと興奮を混じらせた声が俺の耳に入る。
「敵は2階層に分かれて構えてる。下の奴らは死ぬのも構わず近接武器で突撃してくるが、上の奴らは銃で撃ってくる。下の奴に注意をとられていると撃たれるぞ」
「了解だ」
片膝を付き物陰から軽く身を乗り出し、敵が撃ってきていると思われる方向へと引き金を引く。
敵の数は想像以上だ!
適当に打った弾は狙いは思った方向には飛んで行かなかった。それでも近くにいた別の敵を貫いた。
撃ちぬかれた敵はバルコニーを滑り落ち、下の階層へと墜落する。
敵の数が多すぎる。これでは狙うにねらえない。
「ランチャーの使用を許可する! 上のバルコニーを狙え! 」
再び隊の共通回線で叫んだ。
『任せろッ!』
「全員物陰に退避――ッ」
直後、右斜め後方からロケット弾が飛び出す。
俺は床に広がる血に滑りそうになりながらも物陰へと隠れた。
閃光、続く爆音に爆風。
目を瞑ってもなお視界を明るくするほどの光は強烈で、爆音はイヤホンをしていない方の耳を耳栓で塞いだが、それでも十分すぎるほど五月蠅かった。
『命中、敵の出入り口を一つ潰した』
ガンガンとなる耳に薄らと入る味方の報告。
俺は左腕のスイッチを操作し、通信先を限定してから次の命令を口にする。
「了解した。MCS部隊を物陰で移動させながら前進させろ! 援護射撃! 上から狙う奴らを潰せ! 下はMSCに任せるッ」
叫びながらの通信を終え、今一度別の角度からの射撃を試みる。
確りとした構えではなく両手で軽く支える様に撃ったせいなのか体が後ろ向きによろけた。
Mブラスターの反動は比較的小さいものではある。しかし空間戦闘服のパワーアシスト機能があるとはいえ、か細い俺の腕だけで支えて撃つには、その反動は十分すぎるほどに強かったようだ。
反動によろけていると右頬近くを光線がかすめていく。
咄嗟に顔を引っ込めて、素早く射撃姿勢を取ると、先ほど俺に攻撃した奴を狙い撃つ。
『MCS部隊、バルコニー下の敵の制圧に入りました』
『新たな増援を確認ッ! 糞がっ!』
共通回線では慌ただしく情報交換が行われていた。
俺は小規模部隊用の回線に切り替える。
「モーゼフ、今どこだ」
「後ろだ大将」
コンテナに向けていた顔を反転させ、後ろを向くとモーゼフがガトリングブラスターを運んできていた。
ガトリングブラスターとは俺の身長ほどもある大型の設置型兵器である。
大型の設置型の兵器なのである!
にもかかわらず、モーゼフはそれを両腕に担ぎ持ってきていた。
「なにを持ってきているんだ! 」
「これはとっておきだ大将。見てろよォっ! 」
モーゼフはガトリングブラスターのボタンを押しながらコンテナの陰から飛び出していく。
続く、ストロボ音、続く破砕音と大量の悲鳴。
ガトリングブラスターはモーゼフの腕の中、その素晴らしき破壊力を表していた。
いや、ガトリングブラスターの破壊力もさることながら、それを支えるモーゼフの方が俺にとっては怖かった。
「どうだ大将! こいつが俺の相棒だッ!」
「…………」
余りの規格外さに返す言葉もでない。
そんな風に唖然としていた俺を余所に、直ぐに敵の反撃が開始されると、モーゼフはガトリングブラスターを捨てて回避した。
「無茶苦茶だ」
「ありがとよ、褒め言葉だぜ」
直後、ガトリングブラスターのエネルギーパックが敵の攻撃により破損、エネルギーパックは内部に蓄えた膨大なエネルギーを制御しきれなくなり、ガトリングブラスター本体もろと吹き飛んだ。
あの強烈な一撃を決めてもなお反撃する余力が衰えないとは。
「敵の攻撃が思ったより激しいな」
「ああ、アリみてぇにうじゃうじゃ沸きやがる」
「どうすればいいと思う?」
「あんたならどうするよ大将」
モーゼフに肩を叩かれる。
敵のいる方へと振り返り現場の状況を確認。
再び俺は共通回線へと叫ぶ。
「バルコニーの入り口をすべて潰せ! 敵が出て来れないようにするんだッ」
『ランチャーを使用するッ』
刹那、頭上を交錯して飛ぶ大量のロケット弾、その数秒後に再びの爆音。
今度は近場からの粉塵が大量に飛んでくる。
下手すれば味方が巻き込まれるほどの勢いで攻撃は続いた。
『これで奴ら出てこれねェぜ!』
『ざまぁ見ろってんだ』
そんな声を聴き、物陰から確認をすると、4つほどあったバルコニーの入り口はそのすべてが潰され、その周辺には炎が広がっていた。
上部の制圧はなんとかなったようだ。
「下はどうなってる」
『あらかたの排除が完了した。だが敵が奥から次々やってくる』
「わかった。強襲艇近くにいる者に通達。バリケード構築用の資材を運びだせ」
通信機を切るとモーゼフの方を向く。
「モーゼフも頼んだ」
「へい、大将」
強襲艇から次々に資材が運び出される。
その間にも下部分も着々と制圧が進み、敵を通路まで押し出すことが出来ていた。
「下の入り口にバリケードだ。急げ」
命令しながら俺は通路前まで移動することにした。
全体的に老朽化が進んでいる要塞内部。着艦ベイはサビが多く見られた、しかしその錆付いた床、壁の大半は先の戦闘により紅く血で染め上げられている。
足元に何か固い物があたった。
視線を下げると、それは中に腕が入ったままのグローブだった。
よく見ればそこらじゅうに死体の破片が転がっている。
俺は出来る限りそれらを見ない様にバリケードが作られた場所まで移動した。
「ここから先はどうするんだ?」
俺に気づいた兵士が、駆け寄って尋ねてきた。
俺はあらかじめ予定していることを周辺の兵士にも聞こえるよう言い放つ。
「2部隊にはここで残って、ベイの確保に努めてもらう。残る3部隊で敵の司令部への制圧を図る」
「おいおい、たった3部隊でいいのかよ」
「不安はある。それでも帰る場所を失うのだけは避けなければならない。セイヴァーⅢとセイヴァーⅤは此処に残れ。呼ばれなかった部隊は、要塞内部へと進行する」
その後、兵士に他の兵にも伝達するよう伝えると、俺は自分の部隊を招集する。
「ここから先はセイヴァーⅠが道を作る。MCS兵、先行してくれ」
「「「イエス、マム」」」
「よし、行くぞ! 進め! 」
通路に突入、要塞内の通路は比較的狭かったが、それが圧倒的数の差からの不利を相殺していた。
MCSの装甲を盾にしながら、MCSの隙間から銃撃を加えて進む。
あれの装甲は対人用に作られたさまざまな攻撃手段を、いともたやすく防ぐ性能がある。
狭い通路、進行方向に敵がいるのなら、敵は爆発物を使ってはこないだろう。それでは自分たちにも被害が及ぶのだから。
結局のところ敵は目立った反撃もなく全滅していった。
数十分かけて着艦ベイから要塞の中央エレベーターホールにたどり着く。
「エレベータがありますが 」
「それに入るのは自殺行為だ。階段を探せ、近くにあるはずだ」
周辺に階段がないか探してもらう。
暫くしていると俺の後ろで音が鳴った。
エレベータからだ。
敵が来たらしい。
「エレベーターから敵が来たぞ! 待機班、ブラスター用意。お前らは右を狙え俺は左のエレベータをやる」
そう言うと俺は戦闘服のブースターを点火し跳躍、真後ろのエレベータードア付近の天井に張り付くように着地する。
開くドア、俺は手を滑り込ませスライドドアの上部レールに指を掛けるとそのまま中へと体を回転させ、ナイフを取り出しながら、エレベーター内に侵入した。
「――上からッ」
「お、女ぁッ⁉ な、なん――」
事態を飲み込めない海賊たちに向かい、俺はナイフを振りかざし、その喉元を掻き切っていく。
大量の血が噴水の様に吹き出し、雨の様に俺に降りかかる。
ナイフの粒子量を増大させ、刃を少しだけ伸ばす。
着地したところで回転、海賊たちを壊滅させた。
生き残り逃げ出そうとする海賊の頭部を、後ろから突き刺して制圧完了と言う訳だ。
「階段発見! 」
エレベーターホールの端を探索していた一人の兵士から報告を受ける。
俺は死体の山を築き上げたエレベータから出ながら叫ぶ。
「エレベータは制圧した。そこから進むぞ! 」
しかし聞こえなかったのか、味方達は此方を向いて黙ったままだった。
「エレベーターは制圧した。見つけた階段を使って……」
言葉を続けようと息継ぎをした時、上から布が降ってきて俺の視界を覆った。
「大将、そんなに血で濡れてちゃどっちが“悪者”なのか分からなくなるぜ」
俺にかぶさった布は見る見るうちに液体を吸って重くなっていた。
なるほど、死体の山から血濡れの何かが出てきて叫んだだけじゃ、それが俺であると認識するのは難しいかったか。
俺は最低限の血をふき取った。
「よし、階段を使って上へあがるぞ」
今度は確りと聞き入れられ、俺達は階段を使い最上層へと駆け上がっていった。
× × ×
階段は暗く、じめっとしていた。
ヘルメットを持ってきてないせいで、ダクトから流れ出る空気が強烈にカビ臭い事を死ぬほど味わっている。
他の兵士たちは全員ヘルメットを着用しているのでカビ臭さに嫌気がさしているという事はなさそうだ。
何時もは邪魔で仕方がないと思っているヘルメットだが、今ばかりはそれがとても恋しく思えた。
階段を駆け上がること数分、一番上までたどり着くと扉の陰に横一列に並んだ。
扉のロックは既に解除してある。
俺は今一度念を入れる為、隊の共有回線を開いた。
「この先を進んだ先に司令室がある。激しい抵抗があるとするならここが最後だ。全員、気を引き締めろ。MCS部隊を先頭に前進する」
「フラッシュバン準備」
「準備! 」
「投擲しろッ」
手前から3番目の味方がスタングレネードを扉の隙間から投げ入れる。
数秒後に炸裂音、通路への突入が開始された。
最初の突入はとても危険だった。
幾らスタングレネードを投げたとはいえ、敵がそれをまともに食らってくれているという保証はない。
敵の反撃に一番合いやすいポジションなのだ。
それに加えて今回の作戦は、ほとんど突発的な思い付きで行われてる行動。
だからこそ俺は、この最も危険な役割を俺自身が実行することにした。
今指揮官である俺がこんなことをするのは、余りに愚策かもしれない。
それでも俺が身代わりになることができる状況で、他の誰かの命の危険にさらすことが俺自身許すことが出来なかったのだ。
結論を言えば苦労せず通路を制圧することが出来た。
敵は突撃時には十二分に怯んでおり、反撃らしい反撃もされることが無かったのだ。
そして通路の敵を倒した後は沈黙。
司令室からの増援は無かった。
そのせいか俺は油断していた。
敵の“大方”を制圧したことで油断していたのだ。
軽く司令室へとつながる扉をチェックした後、先行して司令室へと足を踏み入れた時だった。
両脇から勢いよく、エアロックが迫ってきた。
「糞っ! 」
前方へとローリング。 間一髪のところでエアロックに挟まれることを回避。
振り向けば、エアロックは完全に閉じていて、はからずも味方から孤立するという最悪の状況に陥ったのだ。
左手首のパネルを操作し、インターリンクの回線を開く。
聞こえてくるのはノイズ。他にも周波数を変えて試してみたがどれも応答がなかった。
「完全に外と遮断されているのか……」
そう、呟いた時だった。
暗い司令室の奥から赤黒く光る刃が突如として現れた。
次回は明日




