表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再構築少女-元男でしたが今は女の子です-  作者: もやし豆腐
chapter 5 :  A ruined Phantom
41/58

Episode 39 : ひとつの意志

 

 再びの窮地。

 


 艦隊の位置をアステロイド帯後方、F4ポイントまで後退させると一度再編成を行った。

 今は、先程まで書く小艦隊をまとめていた艦長たちとホロモニター越しに話し合いを行っている。

 一応の窮地は脱したが、追い詰められているという事実は依然として変わっておらず、俺への対応をどうこうしようというのは今のところ後回しにされている。


『見事な、手際だった……感謝する』


 一人の男が、勿体ぶりながら俺に感謝してきた。

 助けてもらった恩は感じているが、こんな小娘ごときにこき使われたという事実に憤りを感じているようにも見える。

 まあ、俺だって立場が逆ならば彼の気持ちも少しは分かる。


「感謝はいい、それよりこの後だ。既にこの艦隊にもう一度艦隊戦を行える能力はないと見ている。だからこそ撤退を進めたいのだが、そのことについてあなた方がどう思っているのか尋ねたい」

『我々とて撤退したいのは山々だ。しかし撤退はできない』

「どういう事だ?」


 各艦長達がしばらく沈黙したのち、目の前のコンソールにデータが送られてきた。

 コンソールを操作し、送られてきたデータを確認すると作戦概要だった。


『それに書いてあると思うのだが、現在この暗黒環礁宙域に逃げ道は存在しない』


 その言葉に俺は素早く、画面を下にスクロールさせていく。

 そしてその内容を目にし理解した時、その内容を声に出して読んでいた。


「……戦場となる暗黒環礁宙域だが。この宙域に唯一繋がる、トンネル状の安全航路は7時間ごとに開閉している。本作戦はこの宙域の特性を生かし、敵を暗黒環礁宙域の中央空間まで追い込んだのち、これをこの閉じた空間内で殲滅することにある」


 コンソールの時計を確認する。

 既に作戦開始から6時間が経過していることを示していた。

 トンネルを通過するのにかかるのは1時間以上、となると逃げだす時間はもうすでに残されていない。


『君の見解通り、我々の艦隊にもう一度奴らに艦隊戦を挑むほどの戦力はない。つまり、何が言いたいかといえば君のその意見には賛成したくてもできない。我々は最低でも8時間以上ここで耐え忍ぶ必要がある、ということだ』


 つまり、俺達はこの宙域内に閉じ込められ逃げ場がなくなったという事を意味している。

 再び開くまで8時間、大人しく待っているという手もないことは無いが、海賊たちがこの大きな隙を見逃すとは思えない。

 どうしたものか――そう悩んでいる時だった。


 一人の通信員が叫んだ。


『こ、高エネルギー反応急速に接近中……こ、攻撃ですッ! アステロイド帯が消滅していくッ』


 その数秒後、艦橋全体がこの世から影をなくさんほどの光に包まれる。

 刹那――艦全体があらゆる方向へと揺さぶられた。

 悲鳴と怒声、そして何かが倒れる音や割れる音が重なる。

 俺自身、席から宙に放り出され床にたたき落とされた。



 ×   ×   ×



『――答せよ、こちら観測デッキ。応答せよ』

『こちら第5砲塔、ブリッジ応答せよ。こちら――』


 けたたましいサイレン音、どこからともなく聞こえてくる叫び声。

 徐々に取り戻していく視界を確認したところで、暫くの間、自分が気を失っていたことに気付いた。

 床に手を付き、腰を起こす。


 艦橋ブリッジの窓に隔壁が降りていた。

 どうやら窓が割れてしまい何人もの人間が外に放り出されたようだ。

 確認すると俺自身、艦橋総括橋キャプテンブリッジではなく、ワンフロア下の航行制御ステーションに落ちていた。


 壁を頼りに立ち上がると通信コンソールへと手を伸ばした。


「こちらブリッジ、窓が割れたせいで酷い状況だ。至急、衛生兵を送ってくれ。それと報告は俺が受ける。自分たちの状況だけでいい、どうなっているか教えろ」

『こちら観測デッキ、よかった。誰からの反応も無くて心配だったんです。先程の攻撃は敵要塞の方向から放たれた模様。この艦より右側にいた艦は跡形もなく消えてます』

「そうか……あなた方は無事なのか?」

『幸い観測デッキ自体は艦の内側にあるので、多少の負傷者は出ていますが比較的被害は浅いです』

「そうか、それはよかった。そちらにブリッジで一度でも働いたことのある人間が居たらこちらに送ってほしい、人が足りない」

『承知しました』


 コンソールが半壊していたせいでモニターは映らなかったため、音声のみ消える。

 再びコンソールを触り、通信先を艦橋ブリッジに切り替える。


「誰か、反応が出来る者がいるなら応答してくれ」

『こちら艦隊通信ステーション。ああ……無事でしたか。艦橋総括橋にはゴドウェン大尉しかいなかったので心配しました』

「すまない、ワンフロア落ちたんだ。でも大丈夫だ、他の艦との通信はできるか?」

『はい、つい先ほどから残った艦との情報交換を始めました』

「そうか。それで被害状況は? 一応は観測デッキから聞いているが詳細な情報が欲しい」

『はい、先程まで存在していた我が艦隊の総数は36隻、内先ほどの攻撃により17隻が轟沈、および航行不能になった模様』


 通信員の言葉に俺は目を覆いたくなった。

 たった一撃、それだけで残った艦隊の半数以上を失ったというのだ。

 そういえば戦闘が開始されてからというもの<ヌアザ>がどうなっているのかが報告されていない……。


「ヌアザとの連絡は! 彼らはどうなったッ」


 彼は、先ほどの攻撃に巻き込まれなかったのだろうか……。


『――いえ、ヌアザからは戦闘が開始されて以降連絡が取れていません。先程、艦隊を再編成した時も居なかったようですので……もしかすると』


 ――すでに沈んでいるというのか?

 そんなこと、そんなことあってたまるか……きっと彼らは通信が届かない場所にでもいるに決まっている。

 そもそも遊撃を先程までは任されていたようだし、先程の俺の様に何かこの状況を打開する案を考えているのかもしれない。

 そうであって欲しい。


「そうか……時間を割いたな。すまなかった」

『い、いえ……。だ、大丈夫ですよ。きっと通信が届かないだけです』

「そうだな……ありがとう」


 ひとまず彼らの事はおいておこう。このままでは俺達はやられてしまう、他人の心配をする前に自分たちの心配をしなければいけないな。


『い、いや。べ、別に! お、俺でもよければ何でもいってくれよ。き、聞くぐらいならできるっすますからッ! 』

「……ん、ああ。助かる」


 突然どうしたんだろうか、通信先の通信員が照れ隠しの様に慌てて声を上げていた。

 まあ、それは置いておこう。


「いま通信できる艦長はいるか? 」

『んっ? あああ! はいッ! 先程まで左翼の指揮を執っていたドミニオンの艦長なら』

「繋いでくれ」

『わ、わかりましたッ』


 再び通信員は慌てたような声を上げると、保留音が流れ始めた。

 そして暫くして保留音が消えると、中年の男の声が聞こえてきた。


『ソルヴァンということは、今は君だな? 』

「そうだ少佐。あなたは無事だったか」

『どうやら君も元気そうだな』


 彼の声には、半分は本気で、残った半分には嘲笑が含まれているようだった。


「死んでいた方がよかったか? 」

『どうとってくれても構わんさ。ただ一つ言えるのは、この状況をどうにかできるのは我々くらいしかないないという事だ』


 声の調子から、かなり疲労していると感じ取ることが出来た。


「他の艦の艦長たちは? 」

『話せるものも多少はいるが、大半は戦意を喪失している。命令したところで言う事など聞くまい』

「そうか」

『まあ仕方ないと言えば仕方がない、なにせこの戦いに参加した半分以上は経験の浅い輩ばかりだったからな。負けることに慣れてないのさ。その点、君は冷静だ。そこらの大人より貫録がある様にすら感じるよ』


 彼の言葉で、ふとストラフェルの事が脳裏に過ぎる。

 なるほど、立場はどうであれ彼のような人間は少なからずいたという事だ。

 問題だったのはストラフェルは艦隊で一番高い権限を持っていたということだ。


「そう言ってもらえるのはありがたい。それで、あなたはこの後どうするか考えているのか? 」

『ああ、通信が繋がった艦長たちと話を付けた。動ける艦に人員を詰め込み、トンネルが開くまでの時間、この宙域内を逃げ回る』


 その言葉に俺は小さく納得する。

 先程までは大規模な戦闘を連続で行っていたために、こちらの位置が攻撃から予測されていたが、幸いこの宙域は元々レーダーが効きにくい。

 敵は見えないが、相手とてこちらの位置を正確に見つけるには苦労する。

 ならば常に位置を変え続け逃げ回ることは、決して悪い手ではない。

 俺も考えはした。

 だが、それではダメだ。


「その手は俺も考えた。しかし敵が見えない中、無闇に移動することは此方にとって明らかなリスクだ」


 そう俺が言うと、男の声は不満げに低くなった。


『では君には他に考えがあるとでもいうのか? 』

「無論だ。要塞に再度攻撃を仕掛ける」


 その言葉に彼は酷く狼狽し、その後の声は俺に対しての失望感をあらわにしていた。


『貴様はバカだッ! 正気じゃないッ! 子供の夢を叶える場所じゃないんだぞッ』


 確かに、先ほどのストラフェルの時よりも数が減ったうえに、士気が下がった艦隊で突撃するのは正気ではない。

 だからこそまったく別の手を、俺は考えていた。


「無論、要塞を艦隊戦で落そうとすれば正気の沙汰ではない。しかし要塞内部への強襲及び白兵戦での制圧ならば話は別だ」

『そんなことをするために近づけば、先程の攻撃に――』

「それを言うなら無暗に逃げ回って敵に位置を特定でもされてみろ、先程の攻撃一発で全滅するぞ」


 俺が静かに怒鳴ると、彼は黙り込んだ。

 否定はできない、だが納得もできない。

 そう考えていることは容易に想像がつく。


「もちろん強制参加させるつもりは無い、逃げたければ逃げればいい」

『私を逃げ腰の臆病者だというのか。ならば問おう。あの要塞へと乗り込むと言っても、どうやって近づくつもりだとな』


 寸でのところで興奮を抑えたような声がスピーカーから流れ出る。

 もちろん、確実性がなければ作戦とは呼べない。

 そして俺が作戦として提案するからには、その根拠はしっかりとある。


「この艦隊の船には元々、脱出ポッドとは別に、小型の強襲艇が内蔵された艦が多数あると聞いている。強襲艇ならばギリギリまで近づかなければレーダーには気づかれないはずだ、それを利用する」

『た、確かに……あれならばこの宙域でレーダーに引っかかる確率は限りなく低いが……しかしだな』

「もし要塞の制圧が出来なければどうするんだ? そう言いたいのは分かる。しかしそれを言うのなら、あなた方の意見だって同じこと。失敗すれば死ぬだけだ」

『な、ならばやはり逃げるべきだッ』

「あなたは言った。この艦隊には経験の浅い人間が多数いるのだと。つまるところそれはこの状況が長引けば長引くほど、我々の生存率は下がることを意味している。注意力が散漫すれば艦の航行にすら支障が出るはずだが」

『だ、だが。突撃をしたって同じことではないか。経験の浅い者が要塞の攻略など……』


 そう言われてしまえば、頷くしかない。

 どちらにしろリスクはあるのだ。

 それでも俺は、神に運命を預けてただ待つだけよりは、自らの手で要塞を攻略し、自分の手で希望を掴みとる方がマシだと思った。


「人は希望を見せれば頑張れるものだ。そしてただ待つだけよりは、抗っている方が人間、希望を持てるはずだ」

『そんなもの、ただの精神論だッ』

「ああ、精神論かもしれない。しかし、追い詰められた人間は、逆境を持ち直せる力が出せる。それを俺は幾度となく見たことがある。だから俺はそちらに賭けたい! それにだッ。敵はどれだけ量が多かろうが海賊、舐めて勝てる相手ではないが、訓練をした兵が一丸となれば勝てる可能性は十分ある」

『――だがしかし。もし、それを行うとして誰が指揮すればいい! 我々は艦隊を指揮は出来ても軍人を指揮はできない! 』


 その言葉に俺は一瞬の間を開けた。

 そして――


「俺がやろう」


 そう口にした。

 その瞬間、スピーカから流れる喧噪が掻き消えた。

 まるで世界が寝静まったかのように、場が静まり返る。

 むろん、ドミニオンの艦長だけではない。

 先程から艦橋ブリッジで救護活動をしていた者、他の艦や部署と連絡を取っていた通信員、その誰もが俺を見て黙り込んだ。

 理由は分かりきっていた。


 俺が、俺の見た目が年端もいかない少女だから―――それだけで、いやそれこそが最大の原因であるという事が。


 この姿であることがこれほどに、人から頼られないというのかが何よりも伝わったような気がした。

 やはり先ほどまで俺の言う事を聞いていたのは、自分たちが生き残る方法が俺に頼る事しかなかったからであると。

 そして、今はその危険が少しだけ遠ざかっていて、逃げ出して生き延びるという選択肢が出ているということ。

 何より、こんな俺に命を預けたくないという事が――。


 悔しかった。


 俺が、俺自身が認められていないという事に。

 しかたないと理解はしていても、子供の幻想と言われることが。

 俺は、どうなったって、俺だというのに……。

 でもそんな事をしらない周りの反応は容赦なく現実を叩きつけてきた。


 お前は、もうお前ではない――と。


 悔しさに拳を握った時だった。



『お前らあぁッ! よおおおく聞けえええええええええぇ――――ッ!』



 余りに爆音。あまりの轟音。

 艦内のスピーカーからは音割れの激しい声が響いた。


『いいかテメェらッ! お前らはついさっき、あの窮地をこのチビに助けてもらったんだ』


 その声には聴き覚えがあった。


『守られてなきゃ、犬にすらビビっちまいそうな見た目のガキに! お前らは! 一回! 既に助けられてんだッ!』


 低い声、唸るような声。

 それは間違いなく――“ストラフェルの忠犬”――その男だった。


『今更、子供だからってなんだッ! プライドなんか捨てちまえッ! 見た目に騙されるな! あのチビを、あのガキの言葉を信じろッ!』


 その言葉に俺は唇を噛み締めた。

 そして目を力ませた。

 そうしなければ、そうしなければ泣いてしまいそうだったから。


『要塞への強襲作戦! 俺は参加する! 死ぬのをゆっくり待つなんて御免だッ! 死ぬなら派手に! 戦いの中で死んでやるッ! お前らはどうなんだッ! 』


 彼の言葉が一言。また一言と響くたびに、周りが騒がしくなる。

 多分そのざわつきは、初めは驚きだったのだろう。

 一番、俺を卑下し、見下していたのは、ストラフェルのすぐそばに居続けた彼自身なのだから。

 しかし、そんな彼が言った言葉だからこそ、その影響力は大きかった。


『そ、そうだッ! 俺達は死ぬのを待つために此処に来たんじゃないッ! 勝つために来たんだッ』『女の子ばっかにいいとこ持ってかれてたまるか! 』『俺達だって、まだまだ戦える! 』


 少しづつ、少しづつ彼の言葉に賛同する声が大きくなっていく。

 勿論、彼の意見に賛成できない人間も、いるだろう。

 それでも、彼に、俺に、賛同してくれる人間は徐々にその数を増やしているのだけは分かった。


『お前も言ってやれ! 臆病風に吹かれてんじゃねぇってなあッ! 』


 別に……死にに行けと言いたい訳でじゃないんだが――。

 それでも、確かに、勇気は貰った。

 もう一回だけ頑張ってみよう、俺は通信機を艦隊全体へと向けた。


「要塞への突撃をこころみるッ! この作戦は非常に危険だ! しかし、その危険に見合った対価は大いにあると宣言する! このまま待つという者は、それでいい。それでもッ――俺に、一つの希望に、希望を見出してくれるというのなら、ソルヴァンへと来てほしい――」


 小さく震える肩を沈め、再び呼吸を整える。

 作戦の内容ではなく。俺個人の意見を言う為に。


「君たちを助けたい……いや、俺自身死にたくない、だからこその作戦だ。みんなで生きて帰ろう。だから、俺に、みんなの力を貸してほしい」


 そう言うと俺は通信を終了させた。

 どれだけの人数が来てくれるのかなんて分からない。

 もしかしたら一人かもしれない。

 それでも俺は、やると決めた。

 決めたのだから前へ進む、それだけだ。


 強襲艇のあるハンガーデッキへと向け、俺は歩き出した。


 次も未定ですが年内にはあげたいと思っています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ