Episode 36 : プロメテウスの進撃
お久しぶりです。更新しました。
本当はもう少し書き溜めてからの投稿を考えておりましたが、流石に年を越したくはなかったので投稿させていただきます。
<ソルヴァン>の艦橋総括橋では作戦開始に向け、総司令官であるストラフェルと、各分艦隊司令達による最終確認が行われていた。
「今回の作戦、皆には改めて心して貰う事がある」
紺色の空間服に身を包んだストラフェルは無数に浮かぶホロモニターに向けそう言った。
一拍置くと、力強くも落ち着いた声でストラフェルは言葉を続ける。
「敵艦隊はここ暗黒礁宙域内の奥深く、先の大戦で放棄された敵要塞を拠点としていると分かっている。今回我々は敵を、この要塞ごと叩くつもりでいることは、既に周知の事実であるはずだ。だからこそ、戦闘前に今一度知ってもらいたい。暗黒礁宙域では、レーダーによる索敵は通常宙域と比べ各段に性能が落ちる。さらに、暗黒礁宙域内では局地的に強重力が存在し、此処に艦船が接触すると、その巨大な重力によって船の制御が失われ、果ては艦船自身の巨大な質量により沈没する可能性があるということだ。皆には十分に注意して、艦を進めて貰いたい」
暗黒礁宙域とは、巨大なアステロイドベルトが集まった宙域のことだ。
内部では、小惑星達が発生させる重力が重なり、異常な重力場が形成されている。
そしてその異常な重力場は、戦闘で使われる“重力検知器”を狂わせるだけではなく、その巨大な重力場により近づいた艦船すらも飲み込み破壊してしまう恐ろしいものである。
今回の戦いにおいては、敵だけでなく、この異常な重力場にも気を付けなければいけないということを、ストラフェルは改めて再認識させようと、戦闘開始前である、このタイミングで言ったのであろう。
ストラフェルは暫くホロモニターを険しい顔で見つめた後、口を開いた。
「さて、私からの報告は以上だが。報告がある者はいるか?」
『はい、司令官。敵の布陣がわかりました。<ヌアザ>からの報告によりますと、敵の艦隊は暗黒礁宙域内部へと続く入口の奥で待ち構える敵の艦隊を発見したとのことです。戦略モニターを使ってもよろしいでしょうか?』
若い総司令官――ストラフェル――が一つのホロモニターに軽くうなずきかけると、戦略モニターに巨大な矢印と幾つかの図形が現れた。
そういえば<ヌアザ>と言えば、エレナは元気にしているだろうか、少し気になる。
いや、心配したところで今の俺に何かする力はないが……それでも今回の戦い、無事でいてほしいものだ。
『ご存知かと思いますが、赤い矢印は敵の、緑の矢印は我らが艦隊を表すものとなっております。我らが艦隊と敵の艦隊の間には、変重力ポイントが多く点在する“ブラックゾーン”のトンネルがあり、我らが艦隊100隻に対し、敵艦隊は52隻とのことです』
映し出されたモニター上、ストラフェルの艦隊と、敵との艦隊の間には分厚い“ブラックゾーン”の壁が存在しており、その中央に一か所だけ、トンネルのような形になった安全圏が存在していた。
敵はそのトンネル出口にて艦隊を3個に分断し待ち構えているようだ。
今回、ここまでの情報を集めれたのは<ヌアザ>による功績が大きいと言えるだろう。
<ヌアザ>はステルス艦として建造されている為にレーダーに映りにくいのである。
更にスペースブラックに塗装された船体、赤外線放射抑制機構により光学機器による発見もかなりの確率で防げるようにされている。だからこそ、このレーダーが意味をなさない宙域でここまで正確な情報を集められるということなのだ。
別に俺が造ったわけでも、俺の作戦でもないのだから俺が胸を張れる道理などないのだが、それでも仲間が重要な役割を担っているという事が誇らしかった。
「他には何か情報は?」
『はい、敵の中央の陣、そこには戦艦がいます』
「ほう……敵の頭だと思うか?」
『はい、中央の陣は一番守りが固く、戦艦は最奥に構えていることからも、その可能性が高いかと思われます』
「では敵は本気だという事だ」
その時、ストラフェルの顔に含みある笑みが零れるのを、俺は見つけた。
自信に満ちた、いや自己陶酔と言ってもいいようなその表情に、俺は少しだけ不吉な感覚を覚えた。
別に確信などもない、ただの直感なのだが、彼はもしかすると――
「敵は航行可能空間が狭まるのを利用し、トンネル内で決着をつけることを望んでいるのだろう。だが我々はそれを利用する、2倍の物量にものを言わせ敵が雲に隠れてしまう前に殲滅する」
『伏兵の可能性は?』
「戦艦まで出して来てるんだ、あれが敵の全戦力だろう、伏兵の可能性は低いはずだ」
『ではこのままま』
「ああ、作戦を開始しよう」
× × ×
その数時間後、“プロメテウス作戦”は開始された。
暗黒礁宙域にできた唯一つの安全圏のトンネルは非常に狭く、100隻の艦隊を通過させるために、艦隊を、前方、中央、後方、の3個に分け、その上で密集体形を組み進むこととなった。
そんな狭い空間を突き進む艦隊群、それはまるで宇宙に突然現れた槍の様にも見えたかもしれない。
そして戦闘は、最後の作戦会議から3時間後、トンネル出口で待っていた敵艦が、トンネル内に侵入したことにより、その戦端が開かれた。
『正面の艦から通信。1時の方向に艦影を発見しました』
艦隊通信ステーションの通信員が落ち着いた口調で告げる。
若き艦隊司令は頷くと、正面のディスプレイを操り複数の通信員に作戦支持を飛ばす。
「戦闘開始! 前列の艦隊に攻撃開始命令を送れ!」
『了解』
数秒後、最前列、最前線では、無数のレーザーとミサイルが飛び交い、虚空の闇の中に煌びやかな閃光を煌かせる。
各種兵器の互いにぶつかり合うエネルギーが共鳴する。それは両陣営に波となって押し寄せ各艦は姿勢制御に没頭せざる負えない状況になった。
しかし、ストラフェルの艦隊はそんなエネルギー波の中を、それを上回る艦隊による巨大な質量をもって突き進んでいく。
『司令、戦闘で発生した莫大なエネルギーの余波により、右翼の前線が予定航路より押し出されています』
「中央右翼を、前線に空いた穴を塞ぐように突出させろ。敵に休息の暇を与えるな! 」
『了解、中央右翼、支援砲撃艦は前へ、ヴァーティカルレーザーによる支援砲撃を行ってください』
ストラフェルの声に応答したオペレーターは、落ち着いた口調で指揮下の分艦隊へと命令を送り出す。
暫くすると艦隊不在により攻撃の手が止んでいた空間に、いくつもの光線が空を貫いた。
攻撃されていなかった空間に逃げ込んでいた海賊艦達が慌てたように回避軌道をとる。
しかし、回避虚しくもヴァーティカルレーザーは逃げた海賊艦艇を、その特性を持って追いかけた。
超遠距離、さらには暗黒礁宙域の影響により追尾機能が落ちたはずのヴァーティカルレーザーに、不運にも直撃を受けた海賊の小型艦の一隻は、その船体を中央で大きく捻じれさせると、二つに引き裂かれたのち爆散する。
そんな支援砲撃が行われている間に、
『右翼前線、予定航路へと針路を持ち直しました。中央右翼を前線より後退させます』
オペレーターが前線右翼部隊が軌道を修正し終えたことを報告した。
「ふん、戦艦など持ってくるからには、今の隙にでも反撃でもしてくると思っていたが、拍子抜けだな。艦隊そのまま前進」
『戦闘速度、現状維持、そのまま前線を押し上げてください』
敵艦隊中央の戦艦による攻撃を危惧しての行動あったが、当の戦艦が何もしてこなかったことに、ストラフェルは少なからずの不満を漏らしていた。
しかし敵とてやられっぱなしではなかった。
『左翼前線、ブラックゾーン付近、ブラックスペースより敵飛行隊3個中隊出現! 』
オペレーターの少しばかり上ずった声がブリッジに響く。
そんな中でもストラフェルは動揺などしていなかった。むしろ少しばかり緊張感が出てきたのではないか、そう思うくらいだったのだろう、鼻を小さく鳴らした。
「中央のフリゲートを遊撃に向かわせろ。一番近い艦5隻だ」
『了解。グラニア分艦隊は、フリゲートを左翼前線へ』
「他にもいるかもしれない、各艦には対空パーティクルレーザーをいつでも斉射できるように用意させろ」
『はい司令』
ストラフェルの予想通り、各所から海賊たちの、蜂のような形をした汎用型戦闘機のスコードロンが現れた。
汎用機たちは狭い航行可能宙域を縦横無尽に駆け巡る。
その内の数機はフリゲートによって撃ち落とされていくが、それでも敵の数は多かった。
そして眩い閃光が前線だけでなく、中央や後方でも散発的に起こり始める。
少なからずの混乱がストラフェルの艦隊を襲おうとし始めた時だった。
「対空パーティクルレーザー、一斉斉射! 」
『各艦、対空パーティクルレーザーを掃射してください』
その刹那、宇宙空間で巨大な光の膜が生み出された。
それは一斉に発射されたパーティクルレーザーの光であり、逃げ場の少ない空間で同時に発射された一撃は、海賊たちの汎用機に逃げる隙を与えなかった。
そして、その一撃はストラフェルの艦隊を大きく有利に動かし、瞬く間に前線はトンネルの奥、暗黒礁宙域の内部へと押し進められていった。
× × ×
艦橋総括橋のボルテージは既にMAXにまで上がっていた。
『敵損害大、敵戦力、敵右翼16隻から10隻へ、中央20隻から9隻へ、左翼16隻から7隻へ。こちらの残存勢力は84隻です。敵戦艦による激しい抵抗によりわずかな損害を食らっていますが、作戦継続に支障はありません』
現状を伝えるオペレーターの声は、戦闘中にもかかわらず明るかった。
きっと勝利を目前に浮かれているのかもしれない。
『敵艦隊、後退していきます』
「よし、そのまま敵を要塞まで追い込むぞ。艦隊、敵を撃滅しつつ前進、包囲陣形に移行せよ」
『了解。各分艦隊は、旗艦<ソルヴァン>を中心として距離6000、左右に異動を開始してください』
確かに現状を見れば敵は劣勢にある。間違いなく戦術レベルではあちらが負けている。
しかし俺はまだ、勝利を祝う気分には慣れそうになかった。
ひっかかるのだ、何かが……。
この暗黒礁宙域と通常宙域をつなぐ安全航路は先ほど進行してきた場所一つのみ、敵がこのまま後退することは、ただの悪あがきで、精々生きる時間を少し伸ばす程度の時間稼ぎでしかないはずなのだ。
それならば自殺覚悟でもこちらに突っ込んできたほうが、万が一にも逃げれるはず。
それに敵の艦隊は負けに向かっているのに、その艦隊運動に乱れが殆ど見えないという点も引っかかる。
やはり、何か……敵には、何か策があるのではないだろうか。
そんな中、一人の通信員が叫んだ。
『後方、右翼、イムグアイヤ分艦隊より入電。こ、後方から正体不明の攻撃を受けているとのことです! 』
その声には、焦りや不安、そして恐怖の色が混じっていた。
明日も更新あります。




