表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再構築少女-元男でしたが今は女の子です-  作者: もやし豆腐
chapter 5 :  A ruined Phantom
37/58

Episode 35 : ラグランジュポイント

 安心してください、ちゃんと書いてますよ。(訳:投降が遅くなり申し訳ありませんでした。)

 暗黒礁宙域・海賊エレフセリア本拠地・玉座の間――


「首領、バドム様がお負けになられました」

「バドムが……か」

「はい、バドム様がです」


 豪勢な装飾の施された椅子に座った、厳つい顔をした男――もとい老人――は深い嘆息をついた。

 隣で膝まずく男はそれを見て釣られるように溜息をつく。

 この椅子に座っている老人こそ、海賊エレフセリアの長である。そして隣の男は彼の側近の一人であった。


「して、被害はいかほどなものか」

「は! バドム様は艦隊の9割を失ったようでございます」

「9割だと……」


 老人の彫りの深い顔に、さらに深い皺が刻まれる。

 バドムと言えばエレフセリアの中でも屈指の艦隊指揮能力を持った人間である。その彼が自身の艦隊の9割を失うという結果になったことなど何かの嘘ではないのか。

 海賊の長たる老人はそう感じたが、すぐには表情に出さなかった。


「奴は生きておるのか? 」

「奴と申しますと……バドム様のことでしょうか」


 老人は隣の男を睨みつけ、不機嫌な様子を隠そうともしない様子で言った。


「貴様は他の誰かがいると申すのか?」

「は! 申し訳ありませんでした」


 側近の男は膝を突き、深々と頭を下げた。

 老人は暫くそれを眺めた後、その髭に覆われた口を開く。


「で、奴は生きておるのか? 」

「はい、先ほどこちらに報告の為戻られると……」

「そうか……ならばよい、貴様は下がっておれ」

「は! 」


 下がれと言われた男は老人に一礼、そのまま老人の元を去ろうとした時だった。

 老人が思いふけるような重たい声で呟いた。



「しかし、負け、という言葉を聞くのはいつ以来だろうなぁ……」

「大きな大敗と仰るのでしたら……先の第三次海峡戦争以来ではないでしょうか」


 第三次海峡戦争――大国として名高いヒューゴスティア連邦、そして古くからの国家として知られるアダマスティア帝国との間で起きた、歴史的観念から見て類を見ないほどに大規模だった戦争ある。


 彼らは元々アダマスティア帝国の軍人で、老人は男の上官、男は老人の部下であった。

 たがしかし、先の第三次海峡戦争の際、彼らの祖国――アダマスティア帝国――は負け、彼らは帰る国を失うこととなったのである。

 帰る場所を失った彼らは宇宙を彷徨った。

 敗走兵である彼らは堂々と宇宙港に入ることもできず、初めは十分に蓄えてあった物資も日を追うごとに無くなっていった。彼らは生きることに必死だった。

 結果数年後、彼らは悪名高き海賊となっていた。


「忌々しい記憶だ」

「それで首領、下がっても? 」

「ああ、下がれ」


 今一度男は老人に頭を下げると、部屋から出ていった。

 老人はそれを見送ると、湧き出す怒りを肘掛けに向けた。


「どうやら、お怒りのようですな」

「黙れ」


 老人の後ろ――椅子の後ろのカーテン越し――から老人をあざ笑う低い声が聞こえてくる。


「貴様らの管理が甘いからこの様なことになったのではないかッ」

「八つ当たりは関心しませんぞ首領」


 その声の主は、漆黒のローブに身を包み、老人の横に歩み出た。老人は猛禽類の様な鋭い瞳をローブの男に向けた。

 ローブの男はそんな視線を歯牙にもかけずに言葉を続ける。


「しかし我々とて管理が甘くないかと聞かれれば、胸を張って肯定もできない。入らぬネズミをこの星域に招き入れてしまったのも事実だからな」

「……なんの話だ」

「軍の中に、時代に適応できないでいる者が入ると言うことはあなたも知るところだろう」

「ああ知っている、海賊討伐派とか言う連中であろう。しかしそれは貴様等が押さえ込んでいたではないか」


 老人は眉をひそめ、神妙な顔に変わってローブの男を見やった。ローブの男は老人の顔を見て話を続ける。


「ああ、奴らはあと少しもしない内に派閥内で崩壊するはずだった。しかし、あの忌々しい老いぼれめが入らぬ置き見上げを残したのでな」

「何があったのだ。事と次第では貴様との取引は水泡へと帰すことになるぞ」

「部外者が海賊討伐派と接触したんだよ。奴らはそれを好機と見たか我々を一気に滅ぼそうとしている」

「なんだとッ――! 」


 老人は椅子から勢いよく立ち上がりローブの男の首もとに掴みかかった。ローブの男は老人の前に手を出し弁明する。


「まあ、待て。部外者が海賊討伐派と合流した事は間違いはない。しかしあわせる前に軋轢が生まれるように仕組んでおいた、奴らはさほど強固な協力関係にあるとは言えんだろう」

「だがそれだけだ、結果はどうだ。俺の艦隊が一つ消し飛んだではないか」


 老人は憤怒に燃える瞳をローブの男に向けた。

 掴みかかった腕には力が入り、老人の木の幹のように太い腕に血管が浮き出る。


「そ、それは違う」

「何が違うというのだ事実であろう」

「そうじゃない」


 ローブの男は必死な様子で老人に言葉を続ける。


「あれは負けたのではない! 最初からああなる様に仕組まれていたのだッ!」


 ローブの男の言葉に、老人の腕の力が抜ける。

 ローブの男はその隙に老人の腕から逃れ、老人から距離をとった。


「一体どう言うことだ、仕組まれたものであるかつ負けたのではないと言うのは……まさか」


 老人が眉をひそめローブの男を見やる。


「ああ、ネズミが紛れ込んでいるんだよ。ここにもな」


 ローブの男は口元をいびつな形に歪め笑った。




 ×     ×     ×




 惑星ブラーウェン・宇宙港内部――


 海賊エレフセリアの幹部、バドム・グロウとの交戦から六日、ラーウェン・ストラフェル率いる艦隊とクラウソラスの乗鑑<ヌアザ>の混成艦隊は、惑星ブラーウェンへと辿り着いた。

 ブラーウェンの宇宙港に民間船の姿は殆ど無く、見える艦艇全てが軍艦だった――数は裕に百隻は越えているだろう。

 それらの艦艇は全て海賊討伐派に属する艦艇であった。

 ラーウェン・ストラフェル艦隊と<ヌアザ>が入港したことで、その艦数は+20隻された。

 聞いた話によるとまだまだ数十隻は増えるそうだ。



 俺達が惑星ブラーウェンの宇宙港に到着してから更に二日、全ての艦艇が到着した。

 ストラフェルはそれが分かると、すべての海賊討伐艦隊の艦長達、クラウソラスの中では俺とマルメラに、宇宙港内部にある巨大なホールに集まるよう召集をかけた。


「やあ、久ぶりレディ。元気にしてたかい? 」


 全面が銀色の大ホールに足を進めると、最近聞いていなかった――背筋が凍るような――甘い声が、後方から聞こえた。

 俺はその声に嫌々振り向く。


「お久しぶりです“副隊長”」


 振り向けば金髪金眼の長身痩躯な美丈夫がそこにいた。

 ただ、少しばかりいつもと雰囲気が違う。

 着ているのは、黒を基調とした、体のラインがはっきりとしているMCS用プラグスーツでは無く、民間で流通している、だぼついた多目的スーツだった。

 それでも、まるで雑誌に写るモデルを見ているような感覚に陥るのは、この男の特筆すべき特徴と言えるだろう。


「……クレア、なんでそんな堅く呼ぶのさ、俺と君の中だろ? 」

「堅く呼ばれたくないのでしたら、その気持ち悪い喋り方を今すぐ止めて下さい。そのお礼という形で、私もいつも通りに“副隊長”ではなく“マルメラさん”とお呼びします」

「はぁ……わかった降参だよ。にしても見ない間に“お嬢様”もだいぶ板に付いてきたみたいじゃないか」

「それが任務であるのなら割り切ることはできますから。……それにあんなに大変な思いをさせられたら、それ相応に生かしてやろうとくらい思います」


 ストラフェルの艦に乗り込む前、俺はマルメラから厳しい指導を受けていた。

 どんなものかと問われれば“お嬢様”っぽく見える様に、言葉遣い、姿勢、足運び、食事の仕方、果てはうたた寝の仕方まで、様々な行動の仕方についてのイロハである。

 それを俺がストラフェルの艦に乗ることが決まってから乗り込むまでの三日間、厳しく管理されたスケジュールの中でマルメラが厳しく俺に叩き込んだ。

 死ぬかと思ったーーいや、死にたかった。

 俺の自尊心など作戦の上では無いに等しいと言うことだけが、俺の心に今も刻み込まれている。


「そうか……まあ、俺は手を抜きたくはないからね。でもその甲斐はあっただろう? 」


 白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべるマルメラ。

 まあ、彼の言う通り、やった甲斐は確かにあったと思う。

 とりあえずの所はストラフェルの艦内で、俺を戦闘員として扱う者は未だ出ていない。

 ただ、マルメラの寒気のする笑み――爽やかな笑み――を見ていると、やらなくてもよかったんじゃないかなとか思ってしまう。

 ええい、考えるのは止めだ。

 俺は一歩前に出る。


「もうすぐストラフェルの指定した時間です。行きましょう」

「ん、ああ。そうしようか」


 マルメラがレイディファーストをするが如く――外から見れば実際しているのだが、俺としては俺は男である――先行して、席のあるブース前の扉まで歩いていくと、俺を通すために扉を開けた。


「無用のお気遣いありがとうございます“副隊長”」

「身に余るお言葉をいただきましてありがとうございます“お嬢様”」


 ぐぬぬ……

 皮肉を言ったつもりだったが逆に言われ返されてしまった。

 俺はストラフェルにやるせない視線を向けた後、そのまま席の方へと座る。

 それから暫くすると隣にマルメラが座った。


「なんでランドじゃなくて、マルメラさんが今日は呼ばれたのでしょうか」

「さあね。俺にも分からないな」


 その会話を最後に俺達は無言になった。

 というよりはストラフェルの演説が始まったので止めざる終えなかった。

 最初の30分程は俺達に殆ど関係の無い身内話の様な話ばかりだった。

 ただ始めの演説が始まってから45分後、ストラフェルの話はいよいよ本題に入った。

 その始まりは、丁度、眠気が襲ってきていた俺を飛び起きさせるのに十分な程の大声量だった。




「――忌まわしき賊の本拠地を発見した」


 白銀の大ホールの中央で、ヒューゴスティア連邦の若い司令官――ラーウェン・ストラフェル――はそう言った。中央の席を円上に取り囲むようにして作られた席に座る人々は、その声に大きな歓喜の声を上げる。


「この情報は奴らの内部に潜入させた諜報員による情報であり、彼の情報を元に指定座標の調査を行ったところ、その宙域にて不審な重力場を検知した。この結果が意味するものは、かの情報が確かなものであり、とうとう我々が賊を討伐しうることが可能になったという言うことである」


 それから暫くたった後、ストラフェルは満足そうに頷くと深く息を吸い込み、口を開けた。

 周囲にゆっくりと首を巡らせながら。


「知っての通り、奴らは世にも奇妙な“レーダー、光学機器、に映らない艦艇”を所有している。だが、恐れることは無い。我々には、今、百隻をも超える艦隊がある。数に置いて此方が絶対的優位の立場にあるのだ」


 そこで一拍置いた後、ストラフェルは大きく腕を振りあげる。


「かの悪名高き賊の討伐に協力せんと、今、この場に集まってくれている諸君、今がその時だ。亡き海賊討伐派の偉大なる先導者――ユーベルト・ディガッシュ大将の名の下に、『プロメテウス』作戦の開始を宣言するッ! 我々はこの作戦を成功させなければいけない義務がある。

 それはここまでの間に命を散らしていった同志達、そして賊によって命を落とした人々の為でもあり、この先に奴らの手に掛かる者達を救うためであるッ。我々は勝のだ――そして我々の正義を奴らの心臓に刻み込んでやるのであるッ! 」


 ステーション全体が共鳴して大きく振動しているのではないかと思えるほどの爆発的な歓声が上がった。

 余りにもその音が大きかったので俺は思わず体を竦めてしまった。


 しかし、これだけ言えば今回の作戦に参加する者たちの士気はかなり高くなったのではないだろうか。

 俺は少しだけストラフェルの演説に感心した。


 マルメラが俺の肩を小さく叩いた。


「なんでしょうか」


 歓声にかき消されてしまわぬ程度に声を出す。


「レディとしては彼の評価はどれくらいだったのか聞きたくてね」


 マルメラも俺と同様、聞こえるか聞こえないか程度の声量で言った。


「そうですね、少なくとも、人を引きつけるカリスマ性はあると思います」

「いや、それじゃあないんだ。艦隊戦の指揮についてだ」


 マルメラの言葉に俺はハッとなり、少し前の記憶を漁った。そしてその場の主観的感情を捨て分析した結果をマルメラに伝える。


「確かに初陣を果たしたばかりの者としてはかなり巧い方です。ただ、戦闘において自分の有能さを主張したいのか、戦況に関係のない無駄な指令を少し出す癖があります」

「例えば、何だい? 」

「前回の戦闘を元に例を出すとしたのなら、基本、衝突を避ける為に速度を落とす小惑星帯を通過する際、旗艦の速度を上げようとして電力を非常用に切り替えたことです」

「でも、それには理由があったんじゃないのかい? 」

「はい、確かにありました。しかし、結局の所、小惑星帯を通過するときの速度は通常の戦闘航行時の最大船速を越えておらず、結局電力もシールド維持の為に元に戻していました」

「なるほどね。しかしレディは中々艦隊運用について詳しいんだね」


 マルメラの言葉に俺は、内心で「しまった」と叫んだ。

 ただ恐る恐るストラフェルをもう一度見上げると、ただ感心しているだけのようで、俺のことを見て深々と頷いているだけだった。

 大丈夫だ、まだ疑われてはいない。


「ミッシェ――じゃなくてリュドミール議長閣下に教えて貰ったことがあるので」

「ああ、なるほどね。詳しいわけだ」


 マルメラは俺の返答に納得がいったのか、満足そうに頷くと、再び顔を体の正面に向けた。

 俺としては正直、自分が何者であるか隠すつもりなど無いのだが、俺がこの姿になった当初のいざこざも含め、ミッシェルが口を酸っぱくして、俺が正体を明かす事を禁止するよう言うので、俺はできる限り隠すように勤めている。

 どうやら今回は上手く誤魔化せたようだ。


「そう言えば、なぜそんなことを私に? 」


 質問に対しては答えたがそれに何の意味があったかをまだ聞いていない。


「ああ、そうだった――レディにこれを渡して置けって言われててね」


 マルメラは一瞬忘れていたのか、忘れていたことに少々の恥じらいの笑いをこぼしつつ、俺に長方形の板を渡してきた。


「これは? 」

「艦内掌握用のあれ、仕掛けただろう。あれの操作用端末さ」

「あれって私が操作するんですかッ?! 」


 仕掛けて後は、他の奴がやってくれると思っていたばっかりに、俺は驚きを隠せなかった。


「そりゃそうだよ。そういう状況になりそうになったら使う物だし、それが分かるのはレディだけだろう」

「いや、そうなんですけど……」


 いきなり渡されても困る。

 俺は渡された端末をじっと見つめる。

 操作、できるのか?


「大丈夫さ、ルーが言うには中にマニュアルがあるって言ってたから」

「まさかの投げやりですかッ! 」

「まあ、レディなら上手く使えるって」

「そこに変な信頼感を寄せないで下さいッ! 」


 というかそれこそ事前講習とかするべきだろ、なんてガバガバな危機感なんだ。

 いや、これも一種の俺を鍛え上げるための訓練なのか?

 失敗には結構な代償がありそうなので失敗はできなさそうだが……いや、そもそも使う機会さえ来なければいいだけの話か。


「じゃあ、使うか使わないか、その使い道事態は現場判断って事でいいんですね? 」

「まあ、そういうことになるね」

「では一応、お預かりしておきます。できれば使いたくはないですけれど」

「ああ、俺達もアレを使うような事が起きないように願うばかりだよ」


 マルメラの言葉に俺は相づちを打った後、端末を、持ってきていたベルトポーチの中に丁寧にしまった。

 その後はストラフェルの話を、俺もマルメラも黙って聞くことにした。



 その数時間後、俺達は、海賊エレフセリアの本拠地があるという暗黒礁宙域に向け、惑星ブラーウェンから飛び立った、百隻を越える艦艇と共に。


 アニメ銀河英雄伝説を一気に最後まで見ていたのが原因だったりするのは内緒(笑)

 すごく面白かったです(小並感)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ