Episode 31 : 絡み合う思惑
『お前はこの船から一時的に離れなければいけない可能性が出てくる』
ランドから作戦参加の許可が下りる少し前にそう言われていた。
始めは忙しくなるから、そういう意味で言われているのだと思った。
しかし事は思ったよりも複雑なようだ。
俺の隣にいる何時もはジョークを飛ばす老兵――ランドの顔は眉間に皺をよせ、長テーブルを挟んだ向こう側を睨んでいた。
「なぁあんた等、俺達を評価してくれるのはありがたいんだけどよォ。だからってそういうのはよくないんじゃねェの?」
「そんな事はありませんよ。我々はあなた方と素早い連携をとれることを望んでいる。そしてこの形こそが理想だと判断させてもらった、それだけです」
会議室によくある長テーブルを挟んだ向こう側、皺のない白を基調とした制服を着た集団、その中心にいる男はランド達とは対照的に冷静な口調で淡々と話を続けていた。
首の中程まで伸びた栗毛。細長い顎のライン。切れ長の双眸には知性の色が濃く、海賊討伐派の士官が集まる集団の中で一番若いと思われる男が集団の中心に座っていることは、彼が唯の感情に身を任せ行動するような輩でないことを暗に物語っていた。
そして彼が来ている軍服――紺色を基調とした背広の袖には3本の金線と一つの星が入っている―――は皺ひとつない、しかしそんな衣装を纏う彼には服に着られているという印象は全くない。
きっとあれが彼のもともと在るべくしてある姿なのだろう。
「――ラーウェン・ストラフェル中佐、5年前にヒューゴスティア国士官学校を主席で卒業、今はネブラスカ駐屯軍、第3方面部隊の指揮官だ。それと海賊討伐派の現リーダーで艦隊戦じゃかなり強いらしい、噂じゃ模擬艦隊戦で上官を負かしてから、基地の中じゃあまりいい顔はされてないって話だ」
ランドとは反対方向、俺の隣に座るアルヴィン・ハイドフェルド――通称ハイド――がこっそりと俺に耳打ちしてくれた。
なるほど、あんな立場に居ても冷静でいられるのはそういう立派な経歴があるから故か。
そんな事を教えてもらっている中、ストラフェルは話を続けていた。
「貴方がたの中から二人、我々の艦から二人、それぞれ互いの艦に乗せる。何がダメなのでしょうか?」
「そら、そんなのあんた等しか得がねェだろ。フェアじゃねぇって言ってるんだ」
「ほう、フェアじゃない……ランド殿はそう感じられるのですね」
ストラフェルは大げさに手を振り罵る様にランドに返した。
「ああ、そうだ」
それに対しランドは込み上げる怒りを抑えつつ、ゆっくりと頷き肯定していた。
確かにフェアじゃない、俺らは彼らの情報を知っている、現状これ以上知る必要のないくらいには。
それに対し相手は何も知らない。
相手のクルーが俺達の艦に乗り、俺達が彼らの艦に乗るこの話は明らかに相手が一方的に得するだけだ。
何が面白かったのかは分からなかったが、ランドの言葉に、ストラフェルは少し顔に笑みを浮かべていた。
そして直ぐに締まった顔に戻ると話しを続ける。
「ちなみに、どこがフェアじゃないのでしょう。貴方たちにとって酒場で貴方がたを襲った我々は信用ならないはず。ですから我々は貴方がたの中から監視役を、そして我々はあなた方に人質を。さらには艦隊戦もあると思いますゆえ、円滑に会話を進めるための伝達役として互いのクルーを交換する。これのどこがいけないのでしょうか? できれば詳しくお聞かせくださいませんかランド殿」
「…………」
余りに露骨だった。
彼らの言葉は一見、両者ともに利益を発生さえ、尚且つ俺達の方が得が多いように感じさせる言い方だった。
しかし相手は軍の人間、一方俺達は素性もわからない流れ者、この場でどちらが優位なのかは一目瞭然。
それなのに俺達にだけ得がある様な提案をするはずがない。
言わばこの提案は彼らが俺達に監視という鎖をつける為の要求と言った方が正しいだろう。
俺達は一度彼らを追い詰めた事がある。
彼らとしては万が一の時のために俺達の中から人質を持って置きたいのだ。
相手も二人出すと言っているが、そんなものは保険にすらならない。
元々いらない奴なら失っても痛くないはずだ。
それに俺達の船の内部の情報を彼らに渡すわけにはいかない。
口を閉ざすランド。
ふと隣を見るとランドは小さく唇を噛み、顔には後悔の念が薄くにじんでいた。
幾ら相手の目的が透けて見えていたとしても、言ってないことに対し言及するのは憚られる、そう思ったのだろう。
こんな事があるのか……。
歴戦の勇士で数々の修羅場を乗り切ってきた――そう言わんばかりの実力、そして言動や行動をするランド。
そんなランドが見せた今までになく厳しい表情に、俺は驚きが隠せなかった。
「何かやましい事でも?」
ストラフェルはまるで仮面を張り付けたような顔でランドを見つめた。
仕方がなかった。俺達はまだ信用されていないのだ。
それに相手としては俺達は少々使いづらい集団、ここで従わなければ今後も従わない可能性があると思ってるはずだ。
ここで俺達が無下に拒否すれば彼らは俺達を仲間とみなすことは無いだろう。
更にそこで“やましいことはない”と主張すれば彼らは<ヌアザ>に無理やりにでも乗り込んでくるはずだ。
それじゃ2人どころの話じゃ済まない、もしそれで自己転移用機関が見つかれば話は最悪な状況に転がるだろう。
言えば終わる。
どうするんだ。
そう思い隣を見上げれば、今度は先ほどとは打って変わり何時もの様な気の抜けた顔をしたランドを見つけた。
そして机の下の拳は小さく動き“問題ない心配させたな”とでも言いたげに動いていた。
「いや、それはない。ただ俺達はあんた等と違って流浪の民、何時何処で誰が俺達の敵になるかわからない世界で生きている。そんな俺らにとって船は家であり国でありそして命を守る術だ。それを初対面の人間に易々見せるわけにはいかねェな」
「ほう……つまりそれは我々を信用できないと、なら猶更――」
「いや、そう言訳じゃないさ。ただ俺達も仕事は一つじゃないんでね」
ランドの言葉に今度はストラフェル――海賊討伐派一同――が動きを止め口を閉ざした。
そしてストラフェルは先ほどとは少し変わり目を細めランドをみつめる。
「ほう、すると海賊にでも雇われているのですか? 中には海賊がたんまりと積んであるとか?」
「いやいや、それはねェよ。海賊は雇ったりしない、脅して従わせてくるんだ」
「お詳しいのですね」
「マグズってのはそういうことも知ってなきゃ生きてけねぇ厳しい世界なんでね」
「なるほど――」
深く頷いて見せるストラフェル、その視線が一瞬俺に向いた。
ストラフェルの表情が曇っている。
「ところでランド殿、先ほどから気になっていたのですがそちらの御嬢さんは?」
じろりと突き刺さるような視線が、今、彼の言葉で俺に向けられた。
最近、注目を集めることが多いな……。
いや、まあ仕方のないことだとは理解しているつもりだったのだが、それでも慣れない緊張感に俺は、机の上を見ることに集中していた。
「こいつもうちのクルーの一人だ」
「そうですか、お若い方の様だ」
「ああ少しばかしな」
視線が改めて俺に集まる。
何処を見ても誰かしらと目が合あった。
恥ずかしいな、こういうのって。
下に俯き自分の手を見た。
細く伸びた白い手、見慣れてはきたのだが改めてランドやハイドの手を見ると自分の手の小ささに驚いてしまうことがある。
「そういえば一つ、マグズの方々と言えば宇宙で生きていく人々の事だが。それなりの技術と経験が居るのでは?」
顔を上げればストラフェルが眉を顰め尖った口調でそんな事を言っていた。
「まあ、そうだな。マグズってのある意味サバイバル生活みたいなもんだから船に乗る奴らは基本的に、専門分野を持つことになるな」
そうなのか。
元々軍人出の俺には知らない情報だ。
初めての事を聞いて俺は少し感心してしまった。
それは如何やら相手も同じようでストラフェルも興味深そうにランドを見つめている。
「ほう、興味深い。では船に乗っている方々はさぞ優秀な方々なのでしょうな」
「ああ、優秀だ」
「やはりそうなのですね。初めは驚かされましたよ。まさかうちの精鋭がいとも簡単にやられてしまうなんて、とね」
「いやいやあんた等の精鋭もすごかったぜ。最初は気づかなかったしな。ただあんた等が負けた理由があるとするなら、それは俺達が強すぎたってことだ」
そんなランドの言葉にストラフェル以外の海賊討伐派の士官たちが顔を顰める。
ただストラフェルはは大きく首を縦に振り満足げな顔をして見せた。
「それは素晴らしい。ともに戦ってくれるというなら貴方がた以上に頼りになる方々もいないだろう」
そしてそれから今度は目を細めて俺の方を向いた。
「しかし一つ解せんのは、そちらの御嬢さん。彼女の様なお若い女性がこの場にいることです。先程あなた方のクルーと仰っていましたが彼女は何をしておられるのでしょう?」
「ああ、保安要員だよ」
ランドの言葉に、ストラフェル、海賊討伐派一同が固まった。
やっぱり、信じられないだろうな……。
今の俺と言えば、少し豪華な服――軍服ではなくストレンたちに買ってもらった服――を着ているのだから、それが保安要員と言われても誰も信じられないだろう。
相手の方を見ていると明らかに動揺しているのがわかった。
そしてその中の一人――ストラフェルの横――恰幅の良い中年の男が顔を真っ赤にして叫び声を上げた。
「我々をからかっているのかッ!」
「いや、本当だ」
ランドは何時にもなく冷静に言葉を返す。
しかし男はさらに腹が立ったようで更に言葉をつづけた。
「第一にだ。貴様らの乗ってる船ッ。あれは何だ!」
「ブランスト大尉――誰が話していいと言いましたか?」
叫んでいた男をストラフェルが静止させる。
すると顔を真っ赤にした中年男は肩を震わせながらも、ストラフェルに敬礼したのち席に座った。
「いや、同胞が失礼を」
ストラフェルは俺達の方を向くと小さく頭を下げる。
それに対しランドが「問題ない」と言った。
それからストラフェルは大げさに“そうだった”と言わんばかりの身振りをする。
「ですが彼の意見、私たちも思うところがあります。御嬢さんが保安要員というのも信じられない。それもあるのですが、やはり気になるのはあなた方の船、あれは連邦のデーターベースにはない船ということです。どこで手に入れられたのですか?」
まずい。話が船の方に――
俺が不安になりランドの方を向くとランドと目があった。
ん、やけに落ち着いてる?
「すまないがそれは言えない」
ランドは数度、俺の方に振り返ってからそう答えた。
「なぜでしょうか?」
「あの船は少し借り物でね。俺達は喋ったらいけない契約なんだ」
「ああ、そういえばそのような事を言っておられましたね。ですが我々としてはこれから一緒にともに戦う同志の船、スペックくらいは知りたいところです」
「済まないな、それも契約で言えないことになっているんだ」
「そうですか……マグズの方も中々のご苦労をされてるようで」
「お気遣いどうも、まあ何と言われようが言えないってことだ」
ランドは頑なに話そうとはしない、そして相手の中には苛立ちを少し見せる者が見始める。
ストラフェルも少し悩んでいるようだった。
それから暫くすると今度はストラフェルの表情が少しばかり暗い物へと変わった。
「そうですか。それはとても残念だ」
「すまないな」
「では今回の件、我々としては惜しいところだが、なかったことにすべきやもしれません」
ストラフェルは重く陰鬱げにそう言った。
海賊掃討がなくなる?
それってまずいんじゃ――
「……そうだな、それはいい提案だ」
ランドは少しばかり残念そうな顔を作ってみせると勢い良く立ち上がる。
えっ?
なんで、それじゃ俺達の任務が。
しかしランドの様子を見ている限りこれも想定内の様だ。
「俺達みたいな素性が解らない奴に自分の背中を預けたりはしたくないという考え方、実に賢明だと思うぜ。だが俺達も一度殺されかけた身の上、あんたらを信用はできない。だったらこの件をなしにするって言う話。いい提案だと思うぜ」
他のクラウソラスメンバーもその言葉に立ち上がる。
俺も立ち上がっていた。
そんな様子にストラフェルはひどく動揺しているようだった。
今までの彼とは対照的に机の上に手を付き立ち上がっている。
「本当にやめるのですか? あなた方は資金に困っていると聞きましたが……」
「……ああ、今の条件は到底受け入れがたい」
ランドは俺を数度俺の方に視線を向けストラフェルにそう言い放った。
「…………」
ストラフェルは口を閉ざし俺とランド、そしてクラウソラスのメンバーたちを交互に見ている。
その直後、後方の席に座っていたクラウソラスメンバーが退場を始めた。
そしてランドが出口の方を向いた時だった。
回れ右をした一団――俺達――にストラフェルが抑えた声で叫んだ。
「待ってください……」
その言葉にランドが立ち止まる。
「考えが変わったのか?」
「ええ、少しは」
ランドの問いに歯切れ悪くもこたえるストラフェル。
やはり彼らとしては俺達に帰られるのは不味いようだ。
ランドが立ったままストラフェルの方へと向いた。
それを確認するとストラフェルは話を始める。
「結局のところ、我々も、そして貴方がたも、海賊が邪魔なのは変わりないはずです」
「それがどうした」
ランドがつまらなさそうに答えるのを見ると、ストラフェルは言葉を続ける。
「やはり我々は協力すべきです」
「ああ、だがその条件が見合わない」
「ええ、ですから、もう一度改めてご提案させていただきたい」
ゆっくりと席に座ると、ストラフェルはそう言った。
隣を見るとランドが小さくため息を吐いていた。
なんだかんだ言っても、俺達だってここで帰るのは不味かったのだ。
ランドは――しぶしぶ――と言った感じを体全体から、わざと、わかる様に滲ませながら席に着いた。
「そうか――なら、改めて聞こうか。ただしこれが最後だ」
ランドは相手に余裕を持たせないために一言念押しする。
ストラフェルはそれに頷くとゆっくりとその口を開いた。
「ええ、では提案をさせていただく前に一つだけ確認させていただきたい。あなた方は一体何者なのですか?」
「なあ中佐、そういうのはマグズと契約するとき聞いちゃいけねえ暗黙の了解のはずだぜ」
「ええ、分かってはいます。ですが、あなた方の船を確認できない以上、貴方方の素性だけでもお教えいただきたい」
「いやだね」
ストラフェルの言葉をあっさりとはねのけるランド。
しかしストラフェルは喰いついてくる。
そしてその雰囲気が変わっていた。
狩りをする者の顔の様に――――
「では聞き方を変えましょう。軍の精鋭に引けを劣らない戦闘能力を有した集団。そしてその船は連邦のデータベースにはなく、そしてそれは借り物。調べさせたところあの船にはいくつか特徴があった、そしてそれは【グリードリヒ・グラフェル社】の艦船に見られる特徴と一致していたのです。そしてそんな船に乗る貴方がたは、頑なにこの船への他者の介入を拒んでいる」
何時の間に調べたのだろうか。
ストラフェルは得意げにそう言い放つとジロリと俺達を見た。
「もしわたしが、あなた方の船に不審があると宇宙港の保安局に連絡を入れれば、瞬く間にあなた方の船に保安局員がなだれ込むでしょう。それにです、貴方がたはたしかに戦闘能力はありますが、保安局員を返り討ちにでもしてみてください。立派な犯罪者となりますよ」
「何が言いたい」
ストラフェルの言葉にランドは明らかに不機嫌な色を滲ませ尋ねる。
するとストラフェルは――待っていたと言いたげな表情をすると――話を進める。
「貴方方の船には我々のクルーを送らない。ただし、代わりにそこのお嬢さんを我々の船に預けていただきたいのです」
そう言うとストラフェルは視線をランドから俺に移した。
何か勘違いされているのじゃないだろうか。
俺はあわててランドの方へと顔を向ける。
するとランドは俺にだけ見える様な位置に顔を持ってくると、凄く企んでいる笑顔を見せた。
なんというか、物凄い寒気を感じる。
それから暫くしてランドは正面を向いた。
「一応だが言っておく、こいつは唯の保安要員だぞ」
「ええ承知の上ですよ」
「なら他の奴に……」
「いえいえ、彼女がいいのです。それに、彼女なら欠けても貴方方の船の保安に支障はさほどないでしょう?」
その言葉に俺はムッとする。
女だからって舐めているのかコイツは、それに俺は男だ、中身はだけど、無性に腹が立つ奴だ。
そして隣にいるランドは凄くわざとらしい焦り方をしていた。
ただ、わざとらしいと言っても、常日頃からランドを知っている人間にはそう見えるってだけの話ではあるが……。
「いや、彼女が欠けると保安に支障をきたす。お前らが思ってるよりもコイツは手練れだからな居なくなってもらうと困るんだよ」
「手練れですか、なら猶更打ってつけではないですか。彼女になら我々の監視役、とてもピッタリだと思いますが」
俺を行かせたくない――風に装ってる――ランドに対し、ストラフェルはそれを阻止する言葉を挟んでいく。
ストラフェルは話にさらに勢いをつけていく。
「それにです、我々は十分譲歩しました。貴方方の艦に我々は誰も乗せないと約束しましょう。それにです。別に彼女に我々は何かしようとは思っていません」
そこで言葉を切ると、ただ黙って、ストラフェルはランドを眺めた。
程無くして、ランドは力なく肩を落とした。
するとストラフェルは、もう一度確認するかのように尋ねる。
「どうでしょう。これでも納得はしていただけないでしょうか?」
× × ×
「お見事です中佐殿」
そう言われ隣を見ると――恰幅の良い中年の男――わたしの艦隊の3番艦の艦長を務めているグラハム・ブランスト大尉が機嫌良さそうにわたしに声をかけていた。
「いえ、大尉。大尉の先見の感が今回の結果を生んだのです」
最終的には此方の意見を飲んでもらう事で話は終結した。
まあ、正直危なかった。
途中までわたしは相手の話に乗せられていたのだから。
今回、結果として此方が有利になる様に出来たのは、この隣にいるこの男が彼らの情報を調べていたお蔭だ。
にしても――
「それにしてもまさか彼らが【グリードリヒ・グラフェル社】の令嬢の警護をしている途中とは」
ブランストが、わたしが言う前に、私の言いたいことを言った。
「ええ、全くです。今でも信じられませんが、あの様子だと間違いはないでしょう」
彼らの乗っている船、あれは間違いなく【グリードリヒ・グラフェル社】の設計理念に基ずいた設計がされている。
データベースに乗せていないとなると、それはつまり――公にできない使用目的で――かの船が使用されているという事なのだろう。
【グリードリヒ・グラフェル社】から貸し与えられた船。
そして余りにも過剰戦力ともいえる戦闘員。
その中で一人だけ浮いて見えるラインの細い少女。
なによりランドと名乗る男はわたしたちと会話をしている最中にずっと隣の少女の事を気にかけていた。
そしてそんな少女があの場で代表者の隣に座る、それが意味する理由はあまり多くはないはずだ。
彼女を交渉に引き出した途端、ランドと名乗る男は明らかな動揺を見せていた。
間違いないだろう。
令嬢はあくまでこちらの予想だが、間違いなくあの少女は彼らにとって失うと困る存在のはずだ。
「でも不思議ですね。警護中に海賊討伐など、明らかに危険な行為」
ブランストの疑問に俺はそっと答えてやる。
「――ああそれはきっとこのネブラスカ宙域の海賊被害が多いからこそだと思いますよ」
「と言うと?」
「軍と一緒に行動した方が自分たちの被害を抑えられるってね。まあ、あくまで予想ではありますがたぶん間違いないでしょう」
彼らは間違いなく強い、だから海賊の一つや二つなら凌げるだろう。
だがここネブラスカの海賊は群をなしてくる、戦闘艦一つではどうにもならないはずだ。
だからこそ彼らは軍を利用しようと考えていたはずだ。
「しかし彼らを追い詰める一歩手前の一言には流石に肝を冷やしましたぞ」
「ああ、保安局に――という話ですね」
「ええ、そうです。軍と保安局は仲が悪い。特にここフェスタリオはそれが顕著な星です。保安局に行ったところで……」
「まあ彼らは大勢で行ったりはしないでしょうね。行って一人や二人でしょう。それに、もしも彼らを頼ればますます我々の軍での立場は弱くなっていたに違いない。しかしまあ、幸い、彼らがリスクを避けることを選択をしてくれたので助かりましたが」
「中佐殿、無茶はあまりせんといてください」
「すみません。ですが仕方が無かった、相手も覚悟を決めていたのです。我々も覚悟を決めなければいけなかったのですよ」
そういうとわたしは軽く笑って見せる。
ブランストは真面目な奴なので一緒に笑ったりはしないがそれでも満足はしているようだった。
それからわたしは話題を変えた。
「ところでブランスト、例の件だが」
「ええ、存じております。次のアタックは、一四三○○、ドメニスチェ、137,34,です」
「なるほど理解した」
それからわたしは自分のデスクへと進路を変えた。
すると後ろから、
「我々に勝利を」
と、ブランストの声が聞こえる。
それは我々の合言葉の様なもので、今回の作戦の成功を願って言うものである。
もちろん成功させるつもりだ。
ただそのためには彼らに協力してもらわねばならない。
ただそれも大して考えなくても大丈夫だろう。
私は振り向くと、彼の言葉に答えた。
「我々に勝利を」
ご一読ありがとうございました!
更新頻度がどんどん遅くなっている気がします申し訳ないです。
休みなんてなかったんだ……。




