Episode 19 : 弘法筆を選ばず
完全に書き溜めのストックが底をつきました。
明日から暫くの間、更新が不定期になりそうです。
眼前――MCS、ヘルメット内部に内蔵されたモニターは無数のウィンドウを表示させていく。
仮想訓練ケース427――クラウソラス訓練専用コース。
1000m級艦船の内部制圧を想定したものである。
ロランド・ファラレーエフ――『ランド』と仲間から呼ばれる男はモニターに浮かんでくるウィンドウ内の情報を素早く読み取っていく。
開始20分、制圧率45%、敵の脅威度67、部隊疲労度3。
右腕部、7,62mmガトリング砲残弾率92%、左腕部、5,56mm機関銃残弾率72%。
内蔵粒子ナイフ使用可能、跳躍機構使用可能、各種モニター機能Allgreen、装甲損耗率0,02%。
速度、外部温度、内部温度、エネルギー供給率、心拍数――その他数十項目。
それらを素早く確認し終えると、眼球を動かす。
すると先ほどまで表示されていたウィンドウは小さく画面一番下に縮小され、代わりに部隊配置ウィンドウが現れた。
現在ランドがいるのは艦内前方火器管制区画。
付近にはマルメラ、ハイド、ルー、スィリー、そして三個分隊。
そして後方に三個分隊、上部には三個分隊が展開している。
通信回線の音声入力をオンラインに切り替えた。
「第一分隊から第三分隊、機関室及び周辺区画に潜む敵兵の炙りだし。第四分隊から第八分隊は第九分隊に合流し艦橋区の制圧にかかれ」
そう言い終わると素早く眼球を動かし、モニターに映るウィンドウの操作に映る。
通信回線の規模を部隊から分隊規模に切り替え通信。
「ルー、遊びすぎだ、直ぐにハイドと合流、マルメラの援護に回れ、四十五番デッキだ。スィリー、戻って俺と合流しろ」
言い終わると音声入力をオフラインに切り替える。
左手を開いて首が潰れた敵兵士を地面に落とし、右足で押さえつけていた敵兵士の息の根をしっかりと止める。
続いて右手、中指の下にある小さなスイッチを動かし、背中に収納されていたガトリング砲を右腕に装着させる。
今度は右手薬指下の小さなボタンを軽く押し込む。
すると ガシャッ ガシャッ っと金属特有の擦過音がしてガトリング砲に弾倉が装着されていく。
弾の射出が可能になっていることをモニターで確認、移動を開始する。
横長の長方形上の廊下は艦船の中でもかなり珍しい、そして時々通路は十字に別れていて、そこからふっと敵兵士が飛び出てくる。
そして飛び出してきた敵兵をガトリング砲の砲身で薙ぎ払い、銃撃、絶命させる。
『隊長、敵の増援が来たんだけど戻っていいのか?』
「潰せ」
『わかった』
スィリーからの通信に応答し終えると再び音声入力をオフラインに戻す。
オンラインとオフライン、一々切り替えるのは面倒だがこうしなければ敵にこちらの位置をモニターされてしまう可能性があるので仕方がない。
ランドがそんな事を考えているとモニターに映るミニマップ上に複数の斑点が現れ、中央の点――ランドに近づいてくる。
ヘルメットにより聴力が拡張された耳元からも複数の足音が聞こえてきていた。
ガトリングを構える。
左脚部を体の下に畳み込み、右脚部を正面に立てしゃがみ込む。
そして右手親指のスイッチを押し込みガトリング砲を着脱。
それを左手で受け取ると右手でガトリング砲に着いた複数のレバーのうちの一本を倒す。
ガトリング砲の三脚ユニットが展開。
前方、正面に設置。
「視認、数20、全員が通常戦闘服の一般兵」
小さく呟き、ガトリング砲の後方に着いたハンドルを握る。
そして両手親指を伸ばしハンドル中央、トリガーボタンを押しこむ。
ガトリング砲のバレルが回転。
コンマ一秒後にはその回転数がMAXになり ブブブッ と羽虫の音を巨大にしたような炸裂音が通路に響き渡る。
毎分4000発の速度で発射されていく弾丸は通常の戦闘服を身に着けた敵兵士達を次々となぎ倒していった。
「スィリー早く来い、縮まってたタイムがいつも通りに戻ってきたぞ」
『おう! 今倒し終わった。直ぐ行くぜ』
敵の最後の一人が倒れたことを確認すると三脚を収納、続いて右腕部に再び装着、立ち上がる。
『小隊長、後方の制圧を完了しました』
「では周辺を警戒しつつ退路の確保に移れ」
『イェッサー』
後方の制圧が完了したことにより制圧率が70%に変わっていた。
× × ×
画面に映っていたMCSは旧型で三世代前のモデルで初めて見るものだった。
紺色をメインに黒とのツートンカラーの装甲。
全高は2m30cm程で横幅は80㎝程。
見るからに装甲が分厚く、そして動きがトロそうだった。
しかしそのMCSは最近の物と引けを取らないどころか、装着者の練度が高いのか、倍は早く動いているように見える。
「あれがランドだぜ」
無骨なデザインのMCSが移る画面を指差し、なぜだかクラウソラスとは関係のない監督官が自慢げに鼻を鳴らして此方を見てきた。
「なぜ三世代も前の物を使っているんです」
ランドのMCSは三世代前の旧型らしい。
「ランドが言うには最近のモデルは小奇麗に纏り過ぎてて逆に使いにくいんだとよ」
「そういうもんなんですか?」
「うーん……確かに三世代前のモデルは、出力や装甲厚は今の倍近くあったり、カスタマイズ性が広いっちゃ広いな」
それだけを聞けば圧倒的に三世代前の物の方が優れているように聞こえる。
だが最新型が出力やカスタマイズ性を捨てたのにはそれなりの理由があるのだ。
「でも旧型と言えばカスタマイズ性がある代わりに本体内蔵のレールガンモジュールがなかったり、出力増強による事故があったと聞いています」
「ああ確かに出力が高すぎるが故に転倒時に装着者に逆にダメージがきたり、一々武器の交換を行わないといけなかったりとかはある」
「それに他にも運動性能が今の三分の一だったとか」
「ああ、出力を上げてる理由はあの巨体を動かすためで、運動性能は今のMCSのがいい」
やはり世間一般的に言えば今のMCSのが確実に性能や安全性は高いと言える。
確かにランドが言うと通り「纏り過ぎ」という意見も一部にあるようだが、確実に性能のスペックアップはされている。
旧型は装甲こそあれどレールガンモジュールの攻撃には耐えられない。
そう考えるとカスタマイズ性を捨ててでもいまのMCSに乗り換えた方がいい気がしてくる。
「他にも理由があったりするんですか?」
そう監督官に尋ねると首をかしげて「わからない」と答えられた。
「まあそんなに気になるなら後で聞いてみたらいいんじゃないか?」
そう言った監督官に俺は「そうします」と頷き再び画面を眺める。
ランドのMCSは途中でスィリーのMCSと合流していた。
そして、よく見ると二人のMCSは背格好が似ている。
「三世代前のMCS、ミョルニルのMCS、似てる」
俺は画面に映った二人を見比べつつ呟いた。
そんな呟きに反応した監督官がこちらに振り向き、
「そうだ、三世代前をベースに改良していったのがミョルニルの近接特化型だ。ある意味でランドの乗ってるMCSは、スィリーの乗ってるMCSの爺さんみたいなもんだ」
と話してくれた。
祖父と孫……。
中の人物的にもピッタリだな。
俺はそう言われて再び画面を見つめると、なんとも言えない微笑ましさに包まれ、少し微笑んだ。
「じゃあランドの乗っているのも近接に強いんですか?」
「ああ強いぜ」
なら先程からガトリングの砲身を使って敵を薙倒しているのもある意味、普通の使い方なのか。
でも、方針が若干壊れそうな気がするなあ。
「ちなみにガトリングで殴りつけるのは?」
「ま、まあ普通なのか? 俺も流石に三世代前のMCSの戦いはランドでしか見たことがねェし」
「そうなんですか」
「三世代前って言えば40年も前の機体なんだから、もう殆どで使われてねェよ」
監督官の言葉には、若干の悔しさがにじみ出ていた。
そういえば先ほどからMCSの話をすると熱く語ってくれるなこの人。
「MCSが好きなんですか?」と思わず尋ねてみたところ。
「あ、やっぱりわかるか」となんだか嬉しそうに返してくれた。
「おっと、それよりも見てみろもう終わったみたいだぜ」
監督官が画面を見ろと指をさす。
画面には“Mission complete"と表示されていた。
クリアタイムは40分。
「早い」
「今のところ最高記録だな」
「あっそうなんですか」
「ああ、前回は41分だ」
「それでも……早いですね」
「そうだなこの艦にいる部隊の中でもトップレベルだな」
監督官が誇らしげに他にも、クラウソラスの素晴らしいところトップ10を語ってくれた。
勿論だがその半分以上を俺は聞き流した。
彼らが凄いということはこの戦闘で十分理解したからだ。
思わずため息が出る。
ため息を吐いたところ、監督官が立ち上がり、俺の肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫だ、お前も十分強いさ」
その言葉に少しホッとする反面、今の俺じゃやっぱり力不足なのではないかと思ってしまう。
昔の自分ならいざ知らず、今の俺の体は未成熟な少女の体――本当にやっていけるのだろうか。
心の中の不安が一層膨らんでいく感じがする。
ダメだ……前向きにならなければ。
そうさ、努力を続けていけばきっと問題はないはず。
小さく息を吸い込み拳に力を込めた。
× × ×
ミーティングルームに戻り他のメンバーの帰りを待っていると扉が開いた。
俺はソファから立ち上がり、扉の方を向く。
「お疲れ様でした」
すると色白の金髪金色の瞳が特徴的な美青年が嬉しそうに、
「レディありがとう僕の勇士はちゃんと見てくれたかい」
と素晴らしい笑顔と供に寄ってくる。
うわぁ……言う相手間違えた。
後ろに若干後ずさりをしつつ、
「い、いえ、マルメランさんは余りにもお早かったので……」
苦笑い、引きつる顔を無理やり笑顔に変えて答える。
そうするとまたもや優しげなスマイルが返ってきて、
「レディはお世辞もうまいんだね。いいよ今度近くでお披露目しようじゃないか」
と言ってミーティングルーム奥の部屋に消えていった。
なんともポジティブな野郎だ。
できればそのベクトル違う方向に変えてほしい。
俺はため息交じりにソファに座りなおす。
その後ハイドとスィリーが戻ってきたので二人とも軽い言葉を交わした。
そして二人も奥の扉に入っていく。
ちなみに奥には武器庫や射撃訓練場が小さいながらにある、他にも休憩スペースがあるので全員そっちに向かったのだろう。
そして再び扉が開いた。
「おつか―――」
知らない男と目があった。
その男の第一印象は不健康。
男の小さい瞳と目が合う。
すると男が素早く目をそらしてきた。
「あ、あの」
多分彼が『ルー』と呼ばれる男なのだろう。
まだ会ったことが無いので本当にそうなのかは知らないが。
目を逸らされてしまったが挨拶をしっかりとしておかねば……。
俺は男に近づき、意を決してしゃべりかける。
「初めまして、先日クラウソラスに配属されたクレア・ハーミットです。よろしくお願いします」
俺は小さく礼をしてから顔を上げ男を見つめる。
男が小さくこちらに振り返ると、
「あ、ああ俺はルーファス・リッチだ。あんたがレディなのか」
「よろしくお願いします」
「ああ」
男はぶっきらぼうに答える遠くの方に歩き出。
そういえばこの人があのドロイドを操作していた人か……。
「ルーさん、さっきのあれ、ドロイド凄かったです」
そういうとルーがこちらを振り返り戻ってきた。
そして俺の肩を掴んで鼻息荒く口を開いた。
「ふふっ、そうだろう……俺は俺のドロイドは最強なんだ、レディお前は分かってる、俺の仲間に認めてやる、じゃあ後でな」
肩をがっしり掴まれ何を言われるのかと思えば、そんな事を言って奥の部屋に入っていった。
なんだ……あれ。
「おらぁ~、集まれぃ」それから暫くしてランドが何時も通りの腑抜け声で入ってくる。
「お疲れ様でしたランドさん」
「あ、レディか。ところで他の奴はどこだ?」
「奥です」
「そうか、んじゃそこで座ってろ命令が下った」
「命令ですか?」
「ああ」
ランドが奥の部屋に入り先ほど入っていったメンバーと供に戻ってきた。
そして俺の隣にマルメラとハイド、正面にルーとスィリーが座り、一人ランドが横で立っている。
そして静かになったのを確認しランドが口を開く。
「上から命令が下った。海賊討伐だ」
「ローン公国ですか?」
俺はランドに質問した。
するとランドに集まっていた注目が俺に集まった。
「知っているのか?」
「ここに来る前、宇宙港でマグズと会った際に最近海賊被害が増えていると教えてもらいました」
「そうかレディ他に知ってることはあるか?」
ランドが腕を組み俺の目を見る。
「最近は貨物船だけでなく遊覧船も襲っているようです」
そういうとランドが大きく笑う。
「そうか、でもそれだけなら地方軍に任せりゃいい」
「確かにそうですね、海賊の被害が拡大しているのはわかりますがそれなら地方軍だけでもいいはずです」
「えっとりあえず狩りゃいいんだろ?」
「それだけで俺達が行くのがおかしいって話だスィリー」
周りがざわざわと騒がしくなる。
「つまりどういうことですか?」
「俺も詳しくは知らん、ただノルデンシェルドは俺達にやってもらいたいらしい。伝えられたのは俺達は地方軍と接触し、そして協力してこれの討伐にあたれという事だけだ」
そしてランドは再び大きく口を開く。
「いいか、出発は明日、それまでに全員装備を整え<ヌアザ>に集合しろ」
「「「うぇーい」」」
ランドは返事を適当に聞き流すと俺の方を向く。
「それとレディ、お前はまだピカピカの新参だが特別扱いはしない、頼りにしてるぞ」
「はい」
「あ、あと装備も確り受け取ってこいよ」
「了解です」
ご一読ありがとうございました!
次回から新チャプターです!




